退職した従業員(ないし在籍中の従業員)から未払残業代を請求する旨の通知が届くということがあります。

法的に未払いの残業代があれば適切に対応する必要がありますが、必ずしも請求どおりの残業代を支払わなければならないということではありません。

今回は残業代請求がされた場合の対応について解説をしていきます。

残業代とは?

労働契約等において定められた労働時間を超えて従業員を働かせた場合に残業代が発生します。

残業代には割増しが発生する法外残業と割増しが発生しない法内残業に分かれますが今回は割増しが法外残業について扱います。

法外残業は労働基準法が定める1日8時間1週40時間の法定労働時間を超える残業のことをいいます。

残業代請求への対応

従業員から未払残業代請求の書面が届いた場合、結論としての請求金額に目が行きがちですが、どのような計算方法でその請求金額が導かれているかという点が重要です。

残業代は「(残業時間×時間単価×割増率)-既払分」という計算式で計算されますが、そのいずれかにおいて効果的に反論できる部分がないかを確認します。

残業時間

残業時間がなければ残業代は発生しませんので、残業代請求において残業時間の算定が最も重要な部分となります。

会社により労働時間管理の方法は様々ですが、タイムカードやネットワーク上の出退勤システムを用いて従業員の労働時間管理をしている場合にはその打刻時間が残業時間算定の基礎となります。

従業員側の残業時間の計算がタイムカード等の打刻時間に基づいて行われている場合、残業時間自体に争いはないということもあります。

残業時間について双方の言い分が異なるのは、打刻前後に仕事をしていた、定められた休憩時間がとれていなかった等の場合です。

残業時間の立証は従業員側で行うという仕組みになっていますが、従業員側からタイムカード等の打刻時間を超える残業時間があったという主張がされた場合には、打刻前後に行うべき業務はない、休憩時間は自由に時間を使っていた等の反論を行うことができるか事実関係を調査する必要があります。

時間単価

会社側の計算でも一定の残業時間が存在するとした場合、残業時間に対応する残業代を支払う必要があります。

時間単価は、月給制の従業員の場合、「残業代算定の基礎賃金÷月の平均所定労働時間」という計算式で計算されますが、この計算式に給与費目のいずれを入れ込むかについて争いになることが多くなっています。

従業員の月の給与は様々な給与費目の積み重ねにより構成されていることが一般的です。

労働基準法はそのうち従業員の労働時間とは関係なく支給される給与費目については残業代算定の基礎賃金から除外してもよいとしており、具体例として、家族手当、住宅手当、通勤手当等が挙げられていますが、それら手当が具体的な基準に基づかず一律で支給されているような場合には除外が認められないということがあります。

従業員側が家族手当や住宅手当といった本来残業代算定の基礎賃金から除外されるべき給与費目をそこに含めて時間単価を計算している場合、除外しないことが法的に正しいかどうかについて当該給与費目の支給基準などを賃金規程の内容等に照らし判断する必要があります。

固定残業代制度を導入している会社の場合、固定残業代は残業代として支払っているものであるため、固定残業代は残業代算定の基礎賃金には含めませんが、従業員側は固定残業代制度が無効であるとして固定残業代についても残業代算定の基礎賃金に含めてくる場合があります。

固定残業代制度の有効性は、固定残業代が残業代の支払いとして外部的・客観的に認識できるか、残業代の支払いとして適切なものであるか等により判断されますので、給与明細等における固定残業代の表示形式、固定残業代に対応する残業時間数、固定残業代の計算方法等について賃金規程等の記載内容を確認する必要があります。

既払分

会社から既に残業代として従業員に支給しているものがあれば、それは既払分として未払残業代から控除することになります。

固定残業代制度が有効である場合、固定残業代を残業代算定の基礎賃金に含めないことに加え、固定残業代を既払分として扱いますので、固定残業代制度が有効か無効かは従業員からの残業代請求の結論に大きな影響を及ぼすことになります。

残業代請求権の時効

法律上の請求権はその発生原因に基づき行使可能な期間(時効期間)が定められており、行使可能な期間を経過した請求権は請求を受けた者が時効を主張することで行使することができなくなります。

現状、残業代請求権の時効期間は発生から「3年間」とされており、従業員が残業をした月の給料日の翌日から3年が経過すると当該月の残業代請求権は時効により消滅することになります。

従業員からの未払残業代請求に3年以上前に発生した残業代が含まれている場合、時効期間を経過している部分については時効を主張することで支払いの必要がなくなります。

他方で、時効期間が経過している部分について支払うことを前提とする回答をしてしまうと時効の主張ができなくなり、時効期間を経過している部分についても残業代を支払わなければならないということになりますので、時効期間が経過している部分が請求に含まれているか否かについては慎重に確認してください。

従業員との交渉

従業員側の残業代計算の仕組みを把握し、会社側の残業代計算に関する主張を整理した段階で交渉による解決が可能かを検討します。

会社側としては会社側の計算に従った残業代は支払うが、それ以上は支払わないという回答をすることが多いと思われます。

従業員の側は会社側の提案に応じるか否かを裁判所に事案を持ち込んだ場合の勝算や増額幅、裁判所に持ち込んだ場合の費用等を総合的に考慮した上で判断することになります。

なお、裁判所に事案を持ち込まれることになると会社側でもその対応が必要となり費用や手間が嵩むことや裁判沙汰になること自体を回避したいという考えもあり、中間案で妥決することを目指すという方向性もあり得ます。

交渉が妥結した場合には従業員との間で残業代請求に関する合意書を作成し、これ以上の請求をしないこと、第三者に口外しないこと等を確認して終結となりますが、交渉が決裂した場合には裁判所で引き続き争うということになります。

まとめ

今回は残業代請求がされた場合の対応について解説をしてきました。

従業員の側から未払残業代請求がされた場合には先方の理屈を解明しながらその綻びを見つける作業を行っていくことになります。

会社側の残業代制度が確立していない状態においては想定外の残業代の支払いを命じられることもありますが、それを教訓に制度を再構築することで残業代請求の余地のない制度に近づきます。

残業代は細かく見ると複雑な分野になりますので、残業代請求がなされたという場合には従業員に対する回答をする前に弁護士に相談することをお勧めいたします。

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 吉田 竜二

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