マンションは、管理組合や管理会社、区分所有者など多くの人々がその管理維持に関与しています。これらの関係者内、あるいはこれらの関係者と第三者とが法的紛争関係になってしまうケースも多く、解決策に頭を悩ませているというマンションもあるかもしれません。そこで今回は、そのような法的紛争になったもののうち、管理規約に基づいて専有部分の水道料金を区分所有者に対し請求した事案について、実際にどのような内容で、どのような判決が出されたのかを、「その2」として解説していきます。

マンションの管理に関する近時の裁判例 その2

マンションの管理組合が、区分所有者に対し、管理規約に基づき、水道料立替金の支払を求めた事案(請求認容)
(静岡地方裁判所令和4年9月8日 控訴審判決)

事案の概要

当事者

 被控訴人(原審原告)は浜松市所在の本件マンションの管理組合であり、控訴人(原審被告)は不動産の賃貸等を目的とする会社の代表取締役であり平成22年2月8日以降本件マンションの複数の建物を購入して区分所有者となっていました。

 本件マンション管理規約(以下「本件規約」といいます。)には、

 (管理費等)

 第24条 区分所有者は、敷地及び共用部分等の管理に要する経費に充てるため、次の費用(以下「管理費等」という。)を管理組合に納入しなければならない。

  一 管理費

  二 修繕積立金及び修繕積立基金

  三 水道料立替金

という定めがありました。

この管理規約24条1項3号の水道料立替金納入条項は、控訴人が区分所有者になって以降、具体的には平成24年6月26日に開催された本件マンションの平成23年度通常総会において議決され、以前の管理規約が改定されて盛り込まれたものでした。

控訴人が購入したマンションの一室は購入当時から既に賃借人がいる状態でしたが、当初はその賃借人が水道料立替金を支払っていました。しかし、平成29年1月から水道料立替金が未納となり、平成30年10月に同賃借人が死亡したところ、被控訴人には、同人の法定相続人が特定できなかったため、区分所有者である控訴人に対し、管理規約に基づき、水道料立替金合計約5万円を請求したのですが、控訴人はこの請求に応じず、水道料立替金を支払いませんでした。

本件の争点

本件の争点は3つあるとされましたが、今回の記事では、そのうち「水道料立替金は規約事項であるか」という点について触れます。

判決要旨

 上記の争点に対し、裁判所は以下のとおりの判断をしました。

裁判所は、

「本件マンションでは、当初から親メーターで計量して受水槽により給水を受ける貯水槽水道設置方式で建築され、浜松市上下水道部との間では、親メーターの計量による一括検針一括徴収方式を採用してきた。そのため、被控訴人は、浜松市上下水道部が定める水道料金算定表に従い、奇数月中旬に親メーターで検針された2か月分の上下水道使用量に対して、翌月中旬に水道料金を一括で立替払をしてきた。その後、被控訴人は、被控訴人が定める算定基準に従い、奇数月中旬に各戸の子メーターで検針された上下水道使用量に応じた水道料立替金を各戸の区分所有者に請求し、翌月末日までに管理費とともに回収してきた」

というこれまでの事実経過を認定した上で、管理規約の改定手続にも不備はなかったとしました。

さらに、

「平成16年から・・・浜松市上下水道部による個別検針個別徴収方式の利用が可能とな」り、「被控訴人としても、・・・水道料につき各戸と浜松市上下水道部との直接契約、直接支払の方式に変更されることが望ましいと考え、平成27年6月8日付けの平成26年度通常総会開催通知により」、「水道料の支払方法を浜松市上下水道部による個別検針個別徴収方式に変更することを議題に上げ」たが、「強い反対があり、・・・反対多数で否決され」「浜松市上下水道部による個別検針個別徴収方式による制度を利用するための適用要件を満たすことができなかった。」

としました。

 以上のとおり前提事実を認定した上で、

「区分所有法30条1項は『建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる』と規定しているところ、「建物」については、文理上、共用部分に限定するものとは解されないから、共用部分だけでなく、専有部分についても、その管理や使用が区分所有者全体に影響を及ぼすような事項については規約で定めることができる」とし、

さらに、

「水道水が専有部分である各戸で使用されることから専有部分の使用に関する事項という面があるとしても、・・・水道水が共用部分である給水施設を経て各戸に供給され、水道水の供給の方式が浜松市上下水道部と管理組合である被控訴人の契約内容により決定されている以上、各戸の水道水の使用は必然的にこれらの施設管理及び契約内容による制約を受けるのであるから、管理組合である被控訴人が区分所有建物全体の使用料を立て替えて支払った上で、各区分所有者にその使用量に応じた支払を請求することを規約で定めることは、建物又はその附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項を定めるものとして、規約で定めることができ、このような内容の規約は有効である」

としました。

控訴人は、「専有部分の水道料金は、特段の事情のない限り、区分所有法30条1項の建物又は附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項には該当せず、上記特段の事情とは、個別検針個別徴収方式への変更が法令や水道局の規定上できないことをいうものと解され」、本件では、「かかる特段の事情は認められない」として規約の有効性を争っていましたが、裁判所は、「本件マンションにおいては、水道水が共用部分である給水施設を経て各戸に供給されていることや、水道水の供給の方式が浜松市上下水道部と管理組合である被控訴人との契約内容により定められてきたことなどからすると、被控訴人において、区分所有建物全体の水道料金を一括立替払した上で、各区分所有者に対し使用量に応じた水道料立替金の支払を求めることについて、『建物又はその附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項』として管理規約に有効に定めることができる、と結論付けました。

本裁判例のポイント

 以上、この裁判例の要点をまとめると、以下のようになるかと思います。

☑区分所有法上、共用部分だけでなく、専有部分についても、その管理や使用が区分所有者全体に影響を及ぼすような事項については規約で定めることができる
水道水の供給方法によっては、専有部分の水道料立替金についても、建物又はその附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項として、規約で定めることができる場合がある


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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 相川 一ゑ

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