フリーランス保護法といわれる新法が2023年に成立しました。2024年中には施行される予定ですので、フリーランスに業務委託をしている事業者は知っておく必要があります。この記事では、法の概要について、下請法と比較しながら解説いたします。

1 はじめに

従来、いわゆるフリーランスと呼ばれるような個人事業主については、下請法の適用がある場合にはその保護を受けることもありましたが、一般的に立場が弱く、その取引状況や就業実態については問題となることが多々ありました。

そこで、新設されたのが「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)」です。俗にフリーランス保護法などと呼ばれています(※この記事では便宜的に「フリーランス保護法」といいます)。

この法律は、令和5年5月12日にすでに公布されており、1年6か月を超えない期間に施行日が定められることになっています。つまり、令和6年の秋頃には施行される予定です。

詳しい法律の情報や広報資料、最新の情報などは、厚生労働省HP公正取引委員会HPで公開されています。

下記でも述べる通り、細かい部分について未だ定まっていないところもありますので、興味がある方はぜひ最新情報をご確認ください。

以下、このフリーランス保護法について、下請法と比較しながら、その特徴を見ていきたいと思います。

2 フリーランス保護法、その目的は?

フリーランス保護法の目的は、法1条に記載があります。

1条をざっくりとまとめると、個人の事業者(=フリーランス)が受託した業務に安定的に従事できる環境をつくるため、「取引の適正化」と「就業環境を整備する」ための義務などを定める法律です、というようなことが書いてあります。

取引の適正化というと、下請法の第1条にも同じようなことが目的として書いてあります。

取引を適正なもの・公正なものにするという点では、両法律はかなり似通った目的を持っていることになります。

参考:下請法第1条
…親事業者の下請事業者に対する取引を公正ならしめるとともに、下請事業者の利益を保護し…

一方で、フリーランス保護法の特徴は、個人の事業者の「就業環境」にも注目していることにあります。

この法律で想定しているフリーランスとは、企業や個人から業務委託という形で業務を受注している事業者であり、会社に勤めているような従業員、すなわち労働者とは異なる働き方ということになります。

労働者に関しては、労働法規による様々な保護が及んでいます。

しかし、フリーランスの方は労働者ではありませんから、こういった法律による保護が及ばず、取引先との力関係などの問題もあって、その就業実態が過酷なものになっていることも多いとされています。

そこで、一定の場合に取引先の事業者に義務を課すことによって、相対的に弱い立場に置かれることの多いフリーランスの就業環境を改善していこうと、このような制度を定めたということです。

上記の通り、「取引の適正化」と「就業環境の整備」という2点を目的に各条文が整備されていますから、フリーランス保護法の所轄官庁も、公正取引委員会・中小企業庁と厚生労働省の2方面になっています。

3 適用の対象は?

⑴ フリーランス側

まず、フリーランス保護法で守られる対象者は、「特定受託事業者」とされています。特定受託事業者とは、下記のいずれかである事業者です。

①業務委託を受けている個人 かつ 従業員がいない場合

②業務委託を受けている法人 かつ 代表者以外に他の役員がなく、従業員もいない場合

ポイントは、「(事業者から)業務委託を受けている」ことと「従業員がいないこと」の2点です。

例えば、一般の消費者(お客様)からイラスト作成を頼まれたイラストレーターは、企業などから業務委託を受けている訳ではありませんので、特定受託事業者には当たらないことになります。

(※以下、特定受託事業者を単に「フリーランス」とも表記します。)

⑵ 委託者側(発注元側)

次に、対象となる相手方事業者についてです。

フリーランス保護法では、委託者(発注元)である事業者は「業務委託事業者」と呼ばれています。この業務委託事業者を、状況によって3つに分類して、それぞれに応じた義務を課しています。

①従業員がいない業務委託事業者

 …業務委託契約の内容の書面等での明示(第3条)

②従業員がいる事業者・2人以上の役員がいる事業者(特定業務委託事業者)

 …①に加え、

報酬支払期日の設定・期日内の支払い(第4条)

フリーランス募集広告の的確な表示(第12条)

ハラスメントに関する相談対応などの体制整備(第14条)

③上記の特定業務委託事業者で、かつ一定期間以上の業務委託を依頼している場合

 …①②に加え、

  受領拒否・報酬減額等の禁止(第5条)

  育児・介護と業務の両立に対する配慮(第13条)

  中途での解除や不更新についての事前予告・理由開示(第16条)

課される義務については、以下で詳しく見ていきます。

業務委託事業者の内、従業員がいる企業・法人などが当てはまる「特定業務委託事業者」について多くの義務が課されている理由は、従業員がいる法人等の組織力によって、相対的に個人であるフリーランスの立場が弱くなりがちであるから、というところにあるようです。

こういった「組織vs個人」という力関係の不均衡による不公平を是正するために、フリーランス保護法は定められたということになります。

⑶ 適用される当事者は下請法と異なる

上記の通り、フリーランス側・委託者側ともに、従業員の有無などで適用対象となるかどうかや義務の内容が変わってきますが、下請法で検討されるような資本金要件はありません。

すなわち、フリーランス保護法の場合、資本金が1000万円以下の法人やそれこそフリーランス(個人の事業者)が、フリーランスに業務委託する場合でも対象となり得ることになりますので、注意が必要です。

⑷ 適用される取引は下請法と似ている

上記の通り適用される当事者には異なる定めが置かれていますが、フリーランス保護法には下請法と似たような内容が定められている部分もあります。

それは対象となる「取引の内容」です。

フリーランス保護法では、適用対象となる業務委託については下記の3つとしています。(第2条3項)

●物品の製造(加工を含む)の委託

●情報成果物の作成の委託

●役務の提供の委託

一方、下請法の適用対象となる取引は、「製造委託(加工を含む)」「情報成果物作成委託」「役務提供委託」「修理委託」の4つです。

ちなみに、Q&A(https://www.mhlw.go.jp/content/001179815.pdf。問2-3)によれば、下請法で定めのある「修理委託」は、フリーランス保護法では「役務提供委託」に含まれ、対象となるということです。

そうすると、フリーランス保護法と下請法が対象としている取引の内容については、かなり似ていると言えます。

※ただし、フリーランス保護法は「その事業のために上記業務を委託すること」を適用対象の取引としている一方で、下請法は「業として請け負う製造等を委託すること」などを対象の取引としていますので、解釈上全く同じとは言えない可能性があります。

4 委託者側に課せられる義務

それでは、委託者側に課せられる義務をひとつずつ見ていきましょう。

⑴ 業務委託契約の内容の書面等での明示

フリーランス保護法第3条では、

●給付の内容

●報酬の額

●支払期日、その他の事項

などの取引条件について、業務委託後ただちに、書面またはメール等で受託者側に明示する必要があるとされています(明示するべき内容は、今後、公正取引委員会規則で細かく定められる予定です。)。

この規定ぶりは下請法3条の、いわゆる3条書面によく似ていますが、特徴的な違いがあります。

それは、取引条件の明示の方法について、「書面又は電磁的方法」(メール・SNS等)を委託者側が選べるとされていることです。これは委託者側・フリーランス側両者の便宜を図ったためとされています。

一方、下請法では、取引内容は原則として書面で(紙ベースで)交付することとされています。電磁的方法(メール等)で交付する場合には、事前に合意をする必要があります。

下請法対象の場合、発注者側が一方的に選択することはできませんので注意が必要です。

この契約内容の明示の義務に関しては、委託者側の従業員の有無は関係ありません。

特定受託事業者に当たるフリーランスに業務委託をする全ての委託事業者が、この義務を負うことになります。

⑵ 報酬支払期日の設定・期日内の支払い

委託者側は、フリーランスから給付を受領した日から60日以内の報酬支払期日を設定しなければならないとされています。また、定めた期日内に報酬を支払わなければならないとされています。

「60日」という期間は、下請法の支払い期日のルールと同一です。

また、条文上、60日以内「かつ、できる限り短い期間内に」支払期日を設定するようにとされていることも同様になります。

また、業務委託の内容が、元委託者(元請に当たります。)からの委託業務の一部または全部委託である場合(いわゆる再委託の場合)には、元委託契約の報酬支払期日から30日以内の報酬支払期日を設定することができます。

これは下請法には無い考え方です。

なお、30日の計算の起算日は報酬支払いの約束の期日であり、実際に支払われた日ではないことに注意が必要です。

⑶ 特定業務委託事業者が継続的業務委託をする場合の禁止事項

従業員がいる場合など、委託者が特定業務委託事業者に当たり、かつ業務委託が一定期間以上である場合(継続的に業務委託する場合)には、当該委託者は下記の行為をしてはいけないということになっています。

なお、「一定期間」がどれくらいの期間を指すのかについては、今後政令で定められることになっています。

●受領拒否

 フリーランス側に責任が無いにもかかわらず、納品を拒否したり、発注自体を取り消したり、納期を一方的に延期したりすることは禁止となります。

●業務委託報酬の減額

 フリーランス側に責任が無いにもかかわらず、契約で定められた報酬を、発注後に減額することは禁止となります。

 下請法にも同様の禁止行為が定められていますが、下請法違反の事例としては、協賛金・リベート・歩引きなどの名目での減額や金銭の徴収なども、代金減額に当たるとされています。

●返品

 フリーランス側に責任が無いにもかかわらず(不良品などの理由が無いにも関わらず)、納品された物品等を返品することは禁止となります。

●買いたたき

通常支払われる対価に比べて著しく低い報酬の額を不当に定めることは禁止となります。同種の取引を市場で想定した場合と比べて、理由なく著しく低い報酬金額か否かなどが検討されます。

●購入・利用強制

 品質維持などの正当な理由なく、委託者側が指定する物の購入や役務の利用を強制することは禁止されています。

●不当な経済上の利益の提供要請

 委託者側のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させ、フリーランスの利益を不当に害することは禁止されています。提供行為が、フリーランス側の直接の利益とならない場合や、フリーランス側の利益との関係性を明確にしないで提供させる場合には、この禁止事項に当たります。

●不当な給付内容の変更・やり直し

 フリーランス側に責任が無いにもかかわらず、給付させる内容を変更したり、やり直しをさせたりすることは禁止されています。作業にかかった費用などの負担を補填せずに一方的に発注を取り消した場合も、この禁止事項に当たります。

これらの禁止事項の内容自体は、下請法による禁止事項(第4条)とよく似ています。

しかし、フリーランス保護法では、特定業務委託事業者が「継続的に」業務委託をする場合に限り、これらの禁止事項が定められている点に特徴があります(下請法では、継続的・反復的な契約である必要はなく、単発の下請契約だとしても禁止事項が適用されます。)。

これは、契約期間が長くなればなるほど、フリーランス側の、当該契約や委託者に対する依存度が増す傾向にあることから、その依存度を背景にした不利益な取り扱いを排除しフリーランスを保護したいという趣旨によるもののようです。

この禁止事項が適用される一定の「期間」がどの程度と定められるのか、今後の発表を注視する必要があります。

⑷ フリーランスの就業環境に関する義務について

フリーランス保護法では、上記のような義務の他にも、フリーランスの就業環境を整備するために下記のような義務が定められています。

●特定業務委託事業者の場合

・フリーランス募集広告の的確な表示(第12条)

・ハラスメントに関する相談対応などの体制整備(第14条)

●特定業務委託事業者で、かつ継続的に業務委託をする場合

 ・育児・介護と業務の両立に対する配慮(第13条)

 ・中途での解除や不更新についての事前予告・理由開示(第16条)

これらはフリーランスの「就業環境」に着目した規制であり、「取引の公正」を目指した下請法には無い規制ということになります。

フリーランスの方は、労働者ではないために、労働法等の保護を受けることができません。労働者にはできない多様な働き方を尊重しつつも、個人の事業者が相対的に弱い立場に置かれがちなことを考慮して、フリーランスの働き方の改善のためにこのような規定が置かれています。

なお、例えば育児や介護に関してどのような「配慮」をすれば良いのかなどの具体的な部分については、厚生労働省が指針を明らかにする予定となっていますので、今後の動向を注視する必要があります。

5 まとめ

上記の通り、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)」、いわゆるフリーランス保護法は、下請法とよく似ている部分もありますが、その趣旨から独自の規定も置いています。

法的には全く別の2法となりますので、下請法の要件に当たる場合には下請法の適用があり、フリーランス保護法の要件に当たる場合にはフリーランス保護法の適用があることになります。場合によっては重複して適用されることもあり得ます。

フリーランスと取引のある事業者は、それぞれの法律の趣旨・目的と、細かい規制の内容をしっかりと理解して、日々の取引の適正化を目指していく必要があります。

もし下請法・フリーランス保護法についてお困りごとがある場合には、ぜひ弊所の顧問弁護士サービスをご検討ください。

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 木村 綾菜

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