著作物の引用が許される条件

他人の文章などを無断で使えば著作権の侵害になりますが、著作権法には「引用」であれば許されるという規定があります。どのような場合に「引用」として許されるのかを述べるとともに、国などの資料の転載が許される場合についても述べてみました。

1 著作物とは

1 著作物とは

著作物とは「思想または感情を創作的に表現したもので、文芸、学術、美術、音楽の範囲に属するもの」を言うとされています。

このうち、「創作性」の有無がポイントになることが多いと思いますが、創作性があるとは、作品に作者の個性、独自性があることを言い、その個性、独自性が高度なものかどうかは問わないとされています。

新聞記事、インターネット上の文章、イラストレーターの作ったロゴなどは著作物になります。

そして、著作物を創作した人が著作権者です。記事や文章を書いた人、ロゴを製作したイラストレーターが著作権者になります。

※ なお、お金を払ってロゴを作ってもらった場合、ロゴの著作権はお金を払った会社にあるのではなく、イラストレーターにあります。お金を払ったことによって、会社は、イラストレーターとの契約で決められた範囲内でロゴを使うことができますが、ロゴの著作権を取得するわけではなく、決められた範囲を超えてロゴを使えば、イラストレーターの著作権を侵害したことになります。

ロゴの著作権を取得したければ、イラストレーターから著作権の譲渡を受けなければなりません。

2 著作物の引用

2 著作物の引用

ところで、自社のホームページに、他人の文章やイラストを著作権者の許可を得ずに載せれば著作権の侵害になります。

それでは、自分で作成した文章の中で、他人の文章を引用したり、その文章の中にあるイラストを引用することは許されるのでしょうか。著作権法32条では、どのような場合に、引用が許されるかを定めています。どこから引用してきたのかその出典さえ明示すればよい、ということではありませんので注意が必要です。

3 引用が認められる条件

⑴ 著作権法の規定

⑴ 著作権法の規定

著作権法32条では、「公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の目的上正当な範囲で行われなければならない」と定めています。

この条文によると、引用が正当化されるためには、

① 公表された著作物であること
② 公正な慣行に合致すること
③ 正当な範囲で引用されていること

の条件が必要になります。

以下それぞれの条件に述べていきます。

⑵ 公表された著作物であること

⑵ 公表された著作物であること

公表されていない著作物を引用することはできません。公表されていない著作物を引用すれば、他の条件を満たしていても著作権侵害になります。

⑶ 公正な慣行に合致すること

⑶ 公正な慣行に合致すること

公正な慣行は、各業界、著作物によっても異なるとされており、慣行がない場合は条理で判断すべきで、また、厳格に解釈すべきではないとされています。

⑷ 正当な範囲で引用されていること

⑷ 正当な範囲で引用されていること

最高裁判所昭和55年3月28日判決は、「引用とは、紹介、参照、論評その他の目的で自己の著作物中に他人の著作物の原則として一部を採録することをいうと解するのが相当であるから、右引用にあたるというためには、引用を含む著作物の表現形式上、引用して利用する側の著作物と、引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができ、かつ、右両著作物の間に前者が主、後者が従の関係があると認められる場合でなければならない」と述べました。

つまり、引用する側の著作物と引用される側の著作物を明瞭に区別することができる、2つの著作物の間に主従の関係がある、という2つの条件が必要としたものです。

ア 明瞭に区別することができる。

他の文章を引用する場合は、自分の文章と他の文章を明瞭に区別できるようにすることが必要です。どこが自分の著作物でどこが他人の著作物なのか分からないような混然一体となった状態では、引用とは言えません。

イ 主従の関係がある。

主従の関係があるかどうかを判断するためには、「引用されるものと引用するものとの分量の比較だけで決定できるものではなく、引用しあるいは引用される著作物の性質、引用の目的・態様などの様々な要素を考慮する必要があり」「例えば、報道目的の引用の場合には、分量的には引用される著作物の方が多くとも正当な引用と判断されることあり得る」(中山信弘・著作権法419頁)とされています。

このように、単に分量だけで決めることができるものではないのですが、他人の文章の多くを引用し、それに対して、コメントを付けたというような場合は、主従の関係にはなく著作権を侵害しているとされる場合が多いと考えられます。

ウ 引用する必要性がある。

他人の著作物を引用する場合、自分の著作物の中で引用する必要性がなければならず、必要もないのに引用している場合は、単に他人の著作物を無断で使っているだけとして著作権侵害になってしまいます。

⑸ その他

⑸ その他

以上のほかにも、出典を明記することはもちろん必要ですし(著作物法48条)、また、引用する著作物の内容を勝手に変更すると著作者人格権を害することにもなりますから、変更修正をしないことも必要です。

⑹ 引用が認められる条件のまとめ

⑹ 引用が認められる条件のまとめ

以上から、引用が許される条件をまとめてみると、次のようになると考えられます。

A 著作物が公表されたものである。

B 公正な慣行に合致している。

C 引用される著作権は何かを明瞭に区別することができる。

D 引用する著作物と引用される著作物の間に主従の関係がある。

E 引用する必要性がある。

F 出典が明記されている。

G 引用する著作物を変更していない。

通常の場合は、とくにDに注意するとよいと思います。

4 国などの周知目的資料の転載

4 国などの周知目的資料の転載

著作権32条2項によれば、「国などの周知目的資料は、説明の資料として新聞紙、雑誌、その他の刊行物に転載することができる。ただし、これを禁止する旨の表示がある場合は、この限りではない」となっているので、禁止する旨の表示がある場合以外は、刊行物に転載することができます。国、地方公共団体、独立業法人、地方独立行政法人などの周知目的資料は周知されることに意味があるためです。

転載とは、著作権の全部を掲載することも含み、引用とは異なります。

なお、ここでは「刊行物」となっていますが、現在では、インターネット上のウェブサイトに転載することが一般化しており、ウェブサイトへの転載も、この32条2項のいう刊行物にあたるとすることが妥当であると言われています。

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
代表・弁護士 森田 茂夫

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