下請法は「下請代金の減額」を禁止しています。「減額」とは下請代金の単価を下げることのみならず、歩引き等の何らかの名目で下請代金を減額することも含まれます。どのような行為が「減額」に当たるのか、最新の勧告事例も交えて解説します。

下請代金の減額の禁止とは

下請法は、親事業者に対して11の行為を禁止しています。その中でも代表的な禁止行為が「下請代金の減額の禁止」です。

下請代金の減額の禁止とは、一度決めた下請代金の額を、下請事業者の責に帰すべき理由がないのに減額することです(下請法4条1項3号)。

下請代金の減額の禁止が定められたのは、一般的に親事業者に対する下請事業者の立場が弱く、親事業者の都合で下請代金の減額を要請されると、下請事業者がこれを認めざるを得ないことが多いからです。

 過去の勧告例を見ても、力関係を背景に、様々な名目での減額が行われています。中には、特定の親事業者に対する取引依存度が高いために泣き寝入りしていたというようなケースも見受けられます。

下請代金の「減額」に当たる名目・仕組みは意外と多い

 令和4年度における実体規定違反(禁止行為違反のことです)の件数は7098件とのことでした。

参照:公正取引委員会HP「令和4年度における下請法の運用状況及び中小事業者等の取引公正化に向けた取組」

 そのうち、約18%に当たる1273件が下請代金の減額に当たる事例とのことです。

 公正取引委員会が認知しただけでも未だに年間1000件を超える違反事例があるというのは驚くべきことですが、なぜ、こんなにも下請代金の減額事例は減らないのでしょうか。

 これはあくまで私見ですが、様々な要因があるなかのひとつには、おそらく当事者(親事業者だけでなく、場合によっては下請事業者も)が下請法で禁止されている「下請代金の減額」という状況に当てはまると思っていないということがあるのではないかと感じています。

 例えば、

①単価を100円と決めて製造委託した部品について、後から単価を80円に直して計算し、下請代金を支払った。

というような、素直な「下請代金の減額」のケースについては、多くの人が「下請代金の減額だ」と考えるのではないかと思います(残念ながら、このようなストレートな下請代金の減額も無いではありませんが。)。

 それでは、以下のような事例はどうでしょうか。

②部品の製造を委託している取引先に対して、「歩引」の名目で、決められた単価で算出された下請代金の額から5%を減じていた。

③衣料品の製造を委託している取引先に対して、「販売協力金」の名目で、決められた下請代金の額から7%を減じていた。

このような、単価を直接減額するだけではなく、歩引、リベート、協賛金、協力金、決算、コストダウン、協力費などの名目で、実質的に下請代金を減額することも、下請代金の減額に含まれます。

これらは直接下請代金の単価そのものを下げているわけではありませんが、やっていることは結局、払うべき下請代金の一部を支払わないということですので、下請代金の減額の禁止に当たるのです。ここがひとつ、誤解の多いポイントなのではないかと思っています。

そして、上記のような歩引などの名目で代金を減じることが、慣行的に業界内で行われ続けてきたケースが少なくありません。このような場合、親事業者側が疑問を持つことなく(ある意味で「さも当然」のように)下請代金の減額を行っていることがあります。

しかし、慣行的に行われてきていたとしても、下請事業者に責が無い場合には、減額には合理的な理由が無いのですから、やはり許されないということになると考えられています。

 なお、「下請代金の減額」に当たるその他のケースについては、下記の記事もご参照ください。

合意があっても違反になり得る

 「下請代金の減額の禁止」は、いかなる場合でも下請代金を減額してはならないということではありません。

「下請事業者の責に帰すべき理由」があるときは、親事業者は下請代金を減額することができす。

 例えば、納品された製品に瑕疵があって親事業者が受領拒否をした場合には、その受領拒否をした分の下請代金は減額して良いことになっています。

 しかし、これは裏を返せば、「下請事業者の責に帰すべき理由」が無ければ下請代金の減額は認められないということです。

 それは、例え親事業者と下請事業者との間で下請代金の減額について合意があった場合でも、禁止行為に反するということになります。

例えば、親事業者と下請事業者との間で、予め、「歩引き」として下請代金の総額の5%を割り引くことについて契約書で合意していたとしても、実際に5%を割り引くことは下請法違反ということです。

下請法が禁止行為を定めた理由は親事業者と下請事業者の力関係に差があることが理由ですから、親事業者が合意を迫れば下請事業者は断れないという構図があり得るとして、合意の有無には左右されないということになっているのだと思われます。

具体的な事例1――日産自動車㈱に対する勧告

 それでは、具体的な事例を紹介しましょう。

 令和6年3月7日、公正取引委員会は、日産自動車株式会社(以下「日産」とします。)に対して、日産が「下請代金の減額の禁止」に違反したとして、勧告を行いました。

参照:公正取引委員会HP「日産自動車株式会社に対する勧告について」

 日産は誰もが知る自動車の製造・販売を行う会社です。

 数年前には業績が落ち込んでいましたが、直近では上向いていたようです。

 しかしその裏で、日産は、自動車の部品等の製造を委託した下請事業者36名に対して、下請代金の減額を行っていたとのことでした。

 具体的には、令和3年1月から令和5年4月までの間、「割戻金」という名目で、下請代金の金額を減じていたということです。名目の如何を問わず、実質的に下請代金の額を減じることが禁止されるというのは、上記で解説した通りです。

 確かに、ここ数年、感染症の流行や物価・エネルギー価格の高騰、地政学的リスク等の理由から、新車の販売台数の落ち込みやコスト増などがあり、経営が苦しいということもあったのだと思います。日産がこのような下請代金の減額を行ったのも、自社の原価低減が目的だったそうです。

 しかし、それによって減じられた下請代金の総額は30億2367万6843円。公正取引委員会によって認定された減額総額としては過去最高額とのことでした。

 この減じられた30億円は、本来下請事業者が受け取るべきであった、正当な対価です(なお、日産は、令和6年1月31日、減じた分の下請代金を各下請事業者に支払ったとのことです。)。

 この対価がもらえなかったことにより、下請事業者には、従業員の賃金があげられなかったり、設備投資ができなかったり、資金繰りに窮したというようなマイナスの影響があったかもしれません。

 現在、政府や経済界、労働組合等が賃金上昇に向けて様々な施策やキャンペーンを展開していますが、公正取引委員会としては、適正価格での下請取引を通じてこれらに寄与することをひとつの方針としているように思います。

 下請代金の減額の禁止も含め、禁止行為に対する公正取引委員会と世間の目は、年々厳しくなっているのではないでしょうか。

参考:公正取引委員会HP「独占禁止法上の「優越的地位の濫用」に係るコスト上昇分の価格転嫁円滑化に関する調査の結果を踏まえた事業者名の公表について」

具体的な事例2――コストコに対する勧告

 もうひとつ、下請代金の減額禁止にかかわる事例を紹介しましょう。

 令和6年3月12日、公正取引委員会は、コストコホールセールジャパン株式会社(以下「コストコ」とします。)に対して、コストコが「下請代金の減額の禁止」「返品の禁止」に違反したとして、勧告を行いました(この記事では「返品の禁止」部分は省略します。)。

参照:公正取引委員会HP「コストコホールセールジャパン株式会社に対する勧告について」

 コストコは、会員制倉庫型店であり、コストコの会員になることで食品や生活用品などを卸値で買うことができます。利用したことがある方は、その店舗の大きさと、商品自体の大きさ・量に驚かれたのではないでしょうか。

 コストコと言えば、美味しいお惣菜やパン、ケーキなどのスイーツも有名です。

 コストコは、消費者に販売するそういった食料品やその原材料について、下請事業者に製造委託をしていたということです。

 コストコが行っていた下請代金の減額は以下の2点です。

① 商品販売時に値引き販売をするために、その値引き分の一部を「クーポンサポート」という名目で下請代金から減額し、下請事業者に負担させていた。

② 新規出店時に値引き販売や試食を行うために、その値引き分や試食を展開するための費用の一部について「オープニングサポート」という名目で下請代金から減額し、下請事業者に負担させていた。

 お客さんの視点からすれば値引きやセールはただ嬉しいものですが、値引かれた分の負担は、必ず誰かが負っています。そして、そのリスクやコストを負うべきなのは、リターンを得る販売側であって、下請事業者ではないということでしょう。

 今回、公正取引委員会によって認定された下請代金の減額の総額は約3350万円ですが、コストコは本件調査を受けるまで、このような減額が下請法違反であることの認識を持っていなかったということですから、今回認定された期間(令和3年11月から令和5年10月まで)より以前にも、同様の減額がなされていた可能性があります。

 また、こういった値引き・期間限定セールの際に、下請事業者にも値引き分の一部を負担させるというようなことは、その他の事業者や業種でもあり得るケースだと思われます。

 こういった減額は「下請代金の減額の禁止」に当たるということが改めて示されましたので、同種の減額事案が無くなっていくことが期待されます。

まとめ

 以上、最新の勧告事例を交えて「下請代金の減額の禁止」について検討しました。

下請代金の「減額」というと、下請代金の単価を下げることという風にとらえられがちですが、実際には、「歩引き」「協力金」「リベート」等の何らかの名目で下請代金の何パーセントかを減じる方法で減額が行われていることが多々あります。

 また、こういった行為は、例え契約書で事前に同意を得ていたり、下請事業者の合意があったりしたとしても、下請法違反となり得ます。

下請代金の額は契約時に明確にすること、一度決めた下請代金は名目の如何を問わず減額せずに支払うことを意識して、親事業者も下請事業者も下請取引の適正化に取り組んでいきましょう。


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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 木村 綾菜

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