近年、顧問会社様から受ける相談で、「ネット上の書き込み(誹謗中傷)」について、相談を受けることが多くなっています。

特に、自社従業員が、会社や上司の悪口などを口コミサイトやSNSに書き込むという事案が増えています。

そこで、会社として、従業員からそのようなネット上の書き込みをされてしまった場合、どのような対応がとれるのかについて、以下解説していきたいと思います。

はじめに

近年のインターネット社会においては、時間や場所を問わず情報へのアクセスが容易になり、口コミサイトやSNSの発展によって、情報を受け取るだけでなく、自ら情報を発信することも容易になりました。

しかも、自ら情報を発信する場合、匿名で書き込むことが容易というのもインターネットならではの特徴です。

従業員が自ら勤務先会社の情報をネットに書きこむこと

どんな会社であっても、従業員が何らかの理由で、自ら勤務する会社や上司に対し不満を抱くという可能性は0ではないと思います。

そんなとき、インターネットは匿名性が高いため、当該従業員がそのような会社や上司への不満を書き込んで発信するということも容易に行うことができてしまいます。

インターネット上における従業員による企業価値を低下させる内容の発信は、不特定多数の人々に即座に伝わってしまうため、会社にとって予期しない被害が生じるリスクがあります。

そのため、速やかな対応が必要となります。

具体的な対応方法は以下のとおりです。

削除の方法

1 サイト上のフォームからの違反報告及び削除請求

これは、会社に関する特定の記事や投稿を削除するために、サイト上のウェブフォームを使って直接依頼する方法です。一部のWebサイトには、削除依頼用のフォームが予め用意されている場合もあります。

なお、この方法はあくまで記事や投稿の削除を求めるだけのものであり、発信した従業員が誰なのかという発信者情報の開示を依頼することまではできません。

メリット

この方法には、手軽さがあります。

削除したい会社自身がフォームに情報を記入するだけで、手軽に削除依頼を行えます。

また、この方法には費用がかからないため、経済的なメリットがあります。

一部のWebサイトには、数日以内に削除依頼に応じてくれるサービスもあるため、迅速な解決が期待できます。

デメリット

しかしながら、この方法にはデメリットもあります。

まず、依頼が正当であるかどうかをサイト側が判断する必要があるため、サイトによって対応が異なり、結果として要求が拒否されることも少なくありません。

また、削除対象となる記事や投稿がどのようなものであるか、また、権利侵害がどのようになされたかという点を自らきちんと説明する必要があります。ただ漠然と削除を求めても意味がありません。

ただし、この点は弁護士へ依頼することで、弁護士が当該投稿について、規定(ポリシー)のどこに違反し、どのような権利侵害が生じているか論理的かつ説得的に記載してくれるはずです。

2 法的手段による削除対応

少なくとも現時点では、削除や発信者情報開示に対してサイトやプロバイダ側が任意に(自発的に)対応することはあまりないです。

そこで、記事の削除や発信者情報の開示を強く求める場合には、裁判手続に基づいてそれらを実現する必要があります。

裁判所を利用する方法として、記事の削除を求めるための仮処分の申請があります。

また、当該記事の執筆者を特定するために、コンテンツプロバイダに対して発信者情報を開示させるための仮処分の申請や、経由プロバイダに対して発信者情報を開示させるための民事訴訟を提起する方法があります。

メリット

この手続を行うことによって、裁判所で記事削除や発信者情報開示の主張が認められると、プロバイダも自発的に対処することが多いです。

また、強制力のある決定や判決で判断がなされ、それでもプロバイダ側が応じない場合には、決定や判決に従った執行手続もあります。

弁護士に依頼すれば、必要な証拠の収集や主張を効率よく行うことができます。経験豊富な弁護士であれば、十分な対処を行うことができるはずです。

デメリット

弁護士に依頼をすると費用がかかります。

また、民事訴訟においては、慎重な手続きが行われるため、どうしても時間がかかってしまいます。

このような費用と時間が大きなデメリットとなっています。

3 逆SEO対策

集客などの効果を狙って検索エンジンの検索結果で特定のウェブサイト(例えば自社のサイト)を上位に表示させるように工夫することを「SEO対策」といいます。

「逆SEO対策」は、まさにその逆で、特定のサイトを検索エンジンの検索結果上の上位に表示させないようにする手段です。

ネガティブな情報が記載されているサイトがあったとしても、検索エンジンで上位に表示されなければ多くの人の目には触れない状態になりますので、インターネット上でネガティブ情報が発信された際の対処としては一定の効果があります。逆SEO対策を専門的に取り扱う企業も存在しているようです。

メリット

これにより、関連ワードや有害な情報を表示させないようにし、検索されにくくすることができます。

デメリット

逆SEO対策には、技術的な知識が必要であり、専門家に依頼することが推奨されます。

しかし、一度対応すればその後削除された情報が再出現することはないわけではありません。関連ワードが再度出現したり、悪意のあるサイトが再び表示されたりした場合には、再度対応が必要となります。そのため、費用もかかってしまいますし、根本的な解決にも至らないかもしれません。

弁護士に依頼して削除可能と考えられる書き込み

ネット上で漠然と会社や上司の悪口を書かれたというだけで、その投稿を削除できるというわけではありません。削除可能と考えられるのは、投稿内容が以下のような事項に該当している必要があります。

・サイト利用規約に違反している(ポリシー違反がある)こと

・第三者の権利を侵害していること

以下、解説していきます。

サイトの利用規約に違反している(ポリシー違反がある)こと

まずサイトの利用規約で禁止行為の内容を確認しましょう。

もし投稿がサイトの利用規約に違反しているのであれば、例えば、以下のように具体的に違反規定を指摘する必要があります。

<例>

〇〇の投稿は利用規約の**条で禁じられている×××に該当するため、削除をお願い致します。

第三者の権利を侵害していること

第三者の権利を侵害する内容の投稿は、サイトの利用規約で禁じられている場合がほとんどですが、これもきちんと明示する必要があります。

権利侵害の代表例は以下のとおりです。

名誉毀損

公然の場で具体的な事実を挙げた上で第三者の社会的評価を下げる行為(例:部長のAさんは社内で不倫をしている、課長のBさんは〇〇罪の前科がある等)

侮辱行為

公然の場で具体的事実を挙げないで第三者の社会的評価を下げる行為(例:C社の社長の●●は馬鹿、アホなど)

プライバシー侵害

電話番号や住所、マイナンバーや既往歴、犯罪歴などの個人情報を無断で公開することが典型例です。

その他の人格権侵害

以下のようなものが考えられます。

・脅迫行為

・肖像権侵害

・氏名権侵害

・電話番号等の公開による迷惑行為

・知的財産権侵害

・営業権侵害など

弁護士に依頼しても削除が難しい投稿の例

一方、弁護士に依頼しても、削除が難しい投稿があります。

例えば、以下のようなものです。

・被害者の特定がされていない

・公益性のある情報である

被害者の特定がされていない

ネット誹謗中傷による権利侵害は、基本的には被害会社が特定されていることが前提です。被害会社の特定がなければ、権利侵害の認定が困難です。

そのため、第三者が投稿を見ても誹謗中傷の対象(どこの会社の話か等)が分からない場合は、権利侵害があるとは認められないのが通常です。

もっとも、投稿の削除については、被害会社がどこか分からなくても、上記のとおり、利用規約違反を理由に削除ができるケースもあります。

公益性のある情報である

投稿内容が形式的には会社の権利を侵害する場合であっても、それが公益性のある事柄であれば、違法性が否定される可能性があります。

例えば、会社の不正行為などの情報は、第三者にも役立つ情報なので、公益性が認められる可能性が高いです。

弁護士へ依頼すべきケース

弁護士に対し、ネット上の投稿の削除依頼を依頼すべきケースは、上記のとおり、弁護士によって削除可能と思われるケースですが、特に以下2つの場合には、弁護士に依頼すべきかもしれません。

・削除依頼に対応してもらえない

・加害者特定・損害賠償請求や懲戒処分をしたい

削除依頼に対応してもらえない

規約違反など、削除すべき要件には該当しているものの、サイト管理者が削除に応じてくれない場合は、投稿の違反内容を適切に指摘・説明できていないことが原因であるケースが多いです。

特に権利侵害被害を指摘・説明するには法律の知識が必要になるため、個人での削除依頼だけだと、どうしても適切な指摘・説明が困難なケースも少なくありません。

弁護士であれば、「投稿がどのような理由でどのような違反・権利侵害に該当するか」を適切に指摘・説明できます。個人での投稿削除が難しい場合は、弁護士への相談をご検討ください。

加害者特定・損害賠償請求をしたい

投稿の削除だけでなく、加害者(従業員)の特定や損害賠償請求ひいては従業員に対する懲戒処分をするには、裁判が必要になるケースがほとんどです。

具体的には、投稿があったサイトと加害者である従業員が利用したプロバイダに対して、加害者の情報開示を求める法的手続が必要となります。そうして加害者を特定した後に、初めて加害者へ損害賠償等を請求することができます。

これらの手続きには、法律とITの専門知識が不可欠です。個人での対応は難しいため、弁護士への依頼を検討されることを強くおすすめします。

具体的な流れは以下のとおりです。

①当該情報の発信者を調べる → ②発信者等に対して損害賠償請求や懲戒処分を行う

① 当該情報の発信者を調べる

発信者の従業員に削除を求めたり、損害賠償請求や懲戒処分などをしたりするためには、そもそも発信者の従業員が誰か特定しなければなりません。そこで、発信者情報開示請求権がプロバイダ責任制限法により認められています。

元々この開示請求は、発信者(投稿者)の特定のために2回の裁判手続が必要で、特定した後の損害賠償請求などの裁判手続も含めると、被害者が、加害者に損害賠償請求するためには、合計で3度の裁判手続が必要とされていました。そのため、非常に手間と時間を要する手続きとなっていました。

しかし、近年改正がされ、令和4年10月から、発信者情報の開示手続を、簡易かつ迅速に行うことができるように、発信者情報の開示請求を1つの手続で行うことを可能とする、新たな裁判手続(非訟手続)が創設・施行されました。

流れとしては、以下のような形になりました。

1:裁判所に、コンテンツプロバイダに対する発信者情報開示命令の申立てを行う

2:提供命令の申立てを行い、コンテンツプロバイダが有するアクセスプロバイダの名称の提供を求める

3:2で得たアクセスプロバイダの情報を基に、アクセスプロバイダに対する発信者情報開示命令の申立てを行う(これをコンテンツプロバイダへも通知する)

4:開示命令の申立てが認められると、コンテンツプロバイダ・アクセスプロバイダから情報(IPアドレス、発信者の氏名・住所など)が開示される

その他同時に

1・3の開示命令の申立てにともない、消去禁止命令の申立ても行う

(これによって、コンテンツプロバイダ・アクセスプロバイダに対して発信者情報を消去することを禁止する命令を出してもらうことが可能になりました)

② 発信者等に対して損害賠償請求を行う

上記方法により得た加害者の情報をもとに、いよいよ直接損害賠償請求や懲戒処分を行っていくことになります。

具体的な方法としては、加害者に通知書を送って処分を通知したり、損害賠償請求を行う、それでも支払い等がされなければ訴訟を提起するという方法が考えられます。

(もちろん、いきなり訴訟提起でも問題はありません)

ただし、損害賠償を求める場合、当該従業員に資力が無いと、結果空振りに終わるというリスクもあります。また、請求が認められるとしても、最終的な解決に至るまでの期間が、1年~長期に及ぶケースがあります。時間や金銭面の負担を考慮して慎重に検討する必要はあります。

刑事告訴という選択

民事的な損害賠償請求のほか、刑事告訴という方法により、刑事罰を求めることも可能です。

誹謗中傷が個人の感想や評価にとどまらず、会社に危害を与えるような内容であったりする場合には、刑事告訴に踏み切ることも重要です。告訴を受けた警察は、捜査を行うことになります。

刑事事件の被疑者とされた者は、最終的には検察官の判断になりますが、何らかの刑事処分を受ける可能性があります。例えば、脅迫罪で立件された場合、起訴され裁判で有罪になると「2年以下の懲役又は30万円以下の罰金」の範囲で刑罰を受けることになります。

ネット上の誹謗中傷の再発防止という観点から、積極的に刑事事件化することもあり得ると思います。

会社に向けられた誹謗中傷が、警察に相談してよいものか迷ったときには、一度弁護士に相談して意見を聞くのもよいでしょう。もちろん、直接警察に相談し、立件可能かを相談することもできます。

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 小野塚 直毅

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