取締役必見!弁護士が法的側面から解説する取締役の法的責任ついて、分かりやすく解説します
取締役は会社法に基づき、会社に対する経営責任や第三者に対する損害賠償責任を負うことがあります。このページでは、埼玉県で30年以上、企業法務を扱ってきた法律事務所の弁護士が、会社法の定める取締役の法的責任についてポイントを絞って分かりやすく解説します。

はじめに

取締役として就任されている方、取締役になるかどうか迷っている方は必読です。
このページでは、埼玉県で30年以上、企業法務を扱ってきた法律事務所の弁護士が、会社法の定める取締役の法的責任についてポイントを絞って分かりやすく解説します。

取締役の法的責任について

取締役は、会社経営を委ねられている責任者を指します。
そのような重要な責任のある取締役に対して、会社法は、任務を怠ったことによる責任として損害賠償義務を定めております。

もちろん、経営に絶対はありませんから、経営判断の結果、上手くいかなかったあらゆる場面で結果責任のみを負うとすれば、経営判断が畏縮(いしゅく)してしまい、誰も経営の担い手にならなくなってしまいますから、実務上、損害賠償責任を負うケースは限定的ではあります。

最近は、会社役員損害賠償責任保険に加入することで、責任追及に備えることも少なくありません。

取締役の会社に対する責任と第三者に対する責任について

大きく分けて、取締役が責任を負うのは、会社に対する責任と第三者に対する責任とに分けられます。それぞれ、解説して参ります。

取締役の会社に対する責任

取締役は、会社に対し、その任務を怠ったことにより生じた損害を賠償する責任を負います(会社法423条1項)。
損害賠償を請求するのは、取締役が経営している「会社」です。

そもそも、会社=取締役ではありません。
会社の所有者(オーナー)は、株主であり、取締役ではないからです(閉鎖型の会社では、株主=取締役であるケースもよく見受けられます)。
取締役と会社の関係は、「委任関係」にあります。
そのため、取締役が任務懈怠した場合には、会社に対する善良な管理者の注意をもって経営に当たる義務や忠実義務に違反し、会社に対して、損害を賠償する責任を負うのです。

具体例を見て参りましょう。

法令違反がある場合

取締役は、法令を遵守して職務を行わなければなりません(会社法355条)。
会社法に定める手続に違反した場合はもちろんですが、独占禁止法や下請法、刑法など幅広く法令が存在しますが、あらゆる法令に対する違反は、任務を懈怠したものとして、その責任を追及されるおそれがあります。

経営判断の誤りがある場合

取締役は、善管注意義務違反の業務執行をしてはいけません。

しかし、善管注意義務に違反したかどうかの判断は、経営の特殊性、つまり、将来どうなるか不確実な状況下において時機を逸せずに決断し、会社経営をしなければならないということから、結果論として評価するのではなく、②行為当時の状況に照らし、①合理的な情報収集や調査や検討が行われたかどうか、その状況と取締役に要求される能力水準に照らし不合理な判断をしていないかどうか、を基準とすることになります。

不作為(なにもしない)ことによる任務懈怠がある場合

取締役が、積極的に決断をした結果、責任を負うような場合とは異なり、取締役が何もしなかった場合、つまり不作為についても、任務懈怠責任を負う場合があります。

特に、取締役が複数いる場合に、他の取締役を監督しなければならない、という特徴があります。

実際に存在する裁判例においても、一定以上の規模の会社の代表取締役に対し、会社の損害を防止する内部統制システムを整備する義務があるとしたものがあります(大阪地判平成12年9月20日)。

取締役と会社との利益相反取引がある場合

過去のコラム参照「取締役が会社に対して負う善管注意義務、競業避止義務、利益相反取引の制限」https://www.saitama-bengoshi.com/good/20230522-13/

利益相反取引により会社に損害が生じたときは、要注意です。

・直接取引の相手方である取締役
・第三者のために会社と取引をした取締役
・会社を代表し当該取引をすることを決定した取締役
・当該取引に関する取締役会の承認決議に賛成した取締役
これらの者は、任務懈怠が推定されてしまいます。

その他の場合

以上のほか、
・株主権の行使に関する利益供与(会社法120条4項)がある場合
・剰余金の配当について分配可能額(会社に置いておかなければならない金額)を超えて欠損を生じさせた場合(会社法462条)
があります。

取締役の第三者に対する責任

取締役は、その職務を行うについて、悪意又は重過失があったときは、第三者に生じた損害を賠償する責任を負います(会社法429条1項、430条)。

第三者が被害を被る場面としては、直接的に損害を被る場合(直接損害)と、会社が損害を被った結果第三者も被害を受けるという具合で間接的に損害を被る場合(間接損害)とが想定されます。

いずれの場合であっても、取締役の悪意又は重過失により会社に対する任務を懈怠し、第三者に損害を被らせたときは、当該任務懈怠と第三者の損害との間に因果関係がある限り、取締役の責任となります。

直接損害とは

直接損害とは、取締役の悪意又は重過失により、会社に損害はないが、第三者が直接損害を被った場合を指します。

具体的には、例えば、会社が倒産寸前で返せる見込みもないのに取締役が金銭を借り入れる場合や代金を支払えないのに商品を購入するような場合をイメージしてください。

間接損害とは

間接損害とは、取締役の悪意又は重過失による任務懈怠から会社がまず損害を被り、その結果、第三者が損害を被った場合をいいます。

具体的には、例えば、取締役の放漫(ほうまん)経営や利益相反取引により会社が破産した場合に、会社の債権者が損害を被る(債権が回収できない)場合をイメージしてください。

なお、第三者には、「株主」が含まれる場合もあります。最高裁判決平成9年9月9日によれば、取締役による会社の利益侵害行為から株主が被る損害についても認め得る場合があることを示しております。

取締役が責任追及を受けないための次善の策はありますか?

さいごに、損害賠償責任を追及されないための次善の策を3つほどご紹介します。

① 弁護士と顧問契約を締結し、必要に応じて法的アドバイスを受ける

経営において、「法律を知りませんでした」は一切通用しません。
そのため、法的アドバイスを受けること、契約書面等のリーガルチェックを、専門家である弁護士に相談しておくことは、とても重要です。

実際に、取締役がどの程度の情報収集や調査をすればよいかを考える際に、弁護士等の専門家の知見を信頼した場合には、当該専門家の能力を超えると疑われるような事情があった場合を除き、善管注意義務違反とならない、とする解説がなされています(畠田公明「コーポレート・ガバナンスにおける取締役の責任制度40ページ)。

② 責任限定契約を締結する(社外取締役の場合)

社外取締役に限定されますが、あらかじめ定款に定めがあれば、会社と社外取締役との契約により、責任の限度額をあらかじめ設定することができます(会社法427条1項)。

社外取締役という人材を確保するためと言われております。

③ 賠償責任保険に加入する

保険の活用という方法もあります。
会社役員賠償責任保険としては、
・東京海上日動火災保険
・あいおいニッセイ同和損保
・三井住友海上火災保険
・損害保険ジャパン
・AIG損保
・日新火災
・共栄火災
・明治安田損保
などが、D&Oマネジメントパッケージなどの保険商品を販売しております。

以上のうち、特に、顧問弁護士の活用と保険加入については、複合的に活用されると安心です。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 時田 剛志
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