工場での機械への巻き込まれ・はさまれ事故|慰謝料請求と会社の安全配慮義務について弁護士が解説

製造業、とりわけ工場の生産ラインや加工現場では、機械への「巻き込まれ・はさまれ」事故が後を絶ちません。厚生労働省の統計を見ても、製造業で発生する労働災害の多くが、この類型の事故によって占められています。

プレス機や撹拌機、ニーダー(混練機)、ローラー機、切断機など、強大な動力で稼働する機械は、わずかな判断の遅れや不注意、機械の不具合によって、労働者の手指や腕を一瞬で巻き込んでしまいます。その結果、指の切断(欠損障害)や関節が動かなくなる機能障害など、一生涯にわたって残る重篤な後遺障害を負うケースが少なくありません。

本記事では、工場の機械事故における適正な補償のあり方や、会社に対して慰謝料・逸失利益といった損害賠償を請求するためのポイントについて、労災問題に精通した埼玉県大宮の弁護士が詳しく解説します。

労災給付だけでなく会社への損害賠償請求を検討すべき理由

労災給付だけでなく会社への損害賠償請求を検討すべき理由

工場での作業中に機械へ巻き込まれた場合、それが業務中の事故であれば、労働基準監督署において労働災害(業務災害)として認定され、国が運営する労災保険から各種の給付が行われます。

労災保険で受け取れる給付の限界

労災保険からは、治療費を全額カバーする療養補償給付や、休業期間中の賃金の約8割(特別支給金を含む)を補填する休業補償給付、後遺障害が残った場合の障害補償給付(年金または一時金)などが支給されます。

これらは労働者の生活を支える重要な制度ですが、決定的な欠落があります。それは、被災者が負った精神的・肉体的な苦痛に対する「慰謝料」が一切含まれていないという点です。

会社に対する損害賠償請求(民事賠償)の重要性

指を切断したことによる精神的なショックや痛み、そしてこれからの人生で背負い続ける不便さに対する後遺障害慰謝料や入通院慰謝料は、労災保険からは一切支払われません。

また、後遺障害によって労働能力が低下し、将来得られるはずだった収入が減ってしまうことに対する逸失利益についても、労災保険の障害補償給付だけでは、裁判で認められる水準には遠く及ばないのが実情です。

これらの「労災保険では足りない損害」を補填するためには、事故の原因をつくった会社(雇用主)に対して、直接損害賠償を請求する必要があります。

たとえば、指を複数切断して第7級程度の重い後遺障害が認定された場合、裁判基準で計算すると後遺障害慰謝料だけで1,000万円程度が目安となり、これに多額の逸失利益が加わることで、総額が数千万円規模に達することも珍しくありません。会社の説明のまま「労災保険が下りたから終わり」としてしまうことは、被災者にとって大きな損失となりかねません。

製造業の機械事故における「安全配慮義務違反」のポイント

製造業の機械事故における「安全配慮義務違反」のポイント

会社に対して損害賠償を請求するためには、「仕事中にケガをした」という事実だけでは足りず、会社側に安全配慮義務違反、すなわち労働者が安全に働けるよう配慮する義務を怠った過失があったことを示す必要があります。製造業の機械事故では、労働安全衛生法やその関連規則が定める基準を満たしていたかどうかが、会社の過失を問ううえで大きなポイントとなります。

ポイント① 機械の防護措置(安全装置・カバー)の不備

危険な機械には、労働者の身体が危険な部分に触れないようにするための防護措置が、法的に義務付けられています。

動力プレス機やシャー(切断機)では、手指が金型などの危険限界に入らないようにする安全囲いや、危険限界に手が入った場合に直ちに機械を停止させる光線式安全装置・両手操作式安全装置などの設置が求められます。

食品工場や化学工場で多用される撹拌機やニーダー(混練機)でも、ケースや壁面との間に生じる「噛み込み点」が存在するため、蓋を開けると回転羽根が自動的に停止するインターロック機構などの安全装置が極めて重要です。

事故が起きた際に、こうした安全装置がそもそも設置されていなかった、あるいはカバーが外されたまま稼働していたという事実は、会社の重大な安全配慮義務違反と評価されます。

ポイント② 生産効率を優先した「安全装置の無効化」

機械に安全装置が備わっていても、作業の手間を省いたり生産スピードを上げたりするために、会社や現場責任者が意図的にインターロックなどの機能を無効化(解除)している現場が見受けられます。

「機械を止めずに原料を継ぎ足す」「カバーを開けたまま異物を取り除く」といった作業が常態化した結果、作業着の袖や軍手が回転体に巻き込まれる事故が繰り返し発生しています。安全よりも効率を優先したこのような運用を会社が指示・黙認していた場合、悪質な安全配慮義務違反として、より重い責任が問われることになります。

ポイント③ 安全衛生教育・作業手順の不備

労働安全衛生法は、雇い入れ時や作業内容の変更時、さらには動力プレスの金型調整など特定の危険業務に就かせる際に、事業者が特別な教育を行うことを義務付けています。

正しい操作手順を教えていなかった、清掃やメンテナンスの際には必ず主電源や油圧を切るという基本的なルールが徹底されていなかった、といった教育・指導の欠如も、事故を招く根本的な原因であり、会社の過失と評価されます。

賠償金請求に向けた「証拠集め」のポイント

賠償金請求に向けた「証拠集め」のポイント

会社の安全配慮義務違反を追及するうえでは、客観的な証拠がすべてといっても過言ではありません。しかし、会社が自らの非を認める証拠をすすんで開示することは稀であり、被災者側で計画的に証拠を集めておく必要があります。

事故状況・機械の欠陥に関する証拠

事故直後の機械の状態や、安全カバーが外されていたこと、安全装置が機能していなかったことを示す写真・動画は、決定的な証拠になり得ます。

あわせて、本来どのように操作すべき機械なのか、メーカーがどのような安全対策を求めているのかを確認できる取扱説明書やマニュアル、機械のメンテナンス状況や過去の不具合の有無がわかる保守点検記録・修理記録なども重要です。

安全管理・教育体制に関する証拠

会社がどのような手順で作業を指示していたかがわかる作業手順書や社内ルール、職場で機械の危険性が指摘されながら放置されていなかったかを確認できる安全衛生委員会の議事録やKY(危険予知)活動の記録、そして被災者が適切な安全教育を受けていたかを示す実施記録などが、会社の責任を裏付ける手がかりとなります。

証拠が失われる前に動くことの重要性

残念なことに、労働基準監督署の調査が入る前に、会社が慌てて安全カバーを取り付けたり、インターロックの配線を元に戻したりして、事故の痕跡を整えてしまうケースも存在します。

だからこそ、事故後できるだけ早い段階で現場の状況を記録し、必要に応じて弁護士を通じて裁判所に証拠保全手続きを申し立てるなど、迅速な初動が結果を大きく左右します。

工場の労災・損害賠償請求を弁護士に依頼すべき理由

工場の労災・損害賠償請求を弁護士に依頼すべき理由

工場の機械事故において、被災者が自ら会社や保険会社と交渉し、適正な賠償を勝ち取ることは容易ではありません。弁護士の介入が不可欠となる理由を説明します。

会社側の「過失相殺」の主張に対抗できる

会社側は、賠償額を抑えたり免れたりするために、「事故は労働者本人の不注意が原因だ」として、被災者の過失を強く主張してくることが少なくありません。これを過失相殺といいます。

しかし、機械設備の危険から労働者を守る一次的な責任は、本来会社にあります。弁護士が介入すれば、「人がミスをしても大けがをしない設備(フェールセーフ)を整えることこそ法の要請である」という労働安全衛生法の理念や過去の裁判例に基づき、不当な過失相殺の主張を抑え込み、被災者の正当な権利を守ります。

「任意基準」ではなく「裁判基準」で賠償額を算定できる

会社が加入する保険会社から示談金が提示される場合、その金額は保険会社独自の低い計算式(任意基準)によるもので、最低限の水準にとどまることが大半です。

弁護士が代理人となれば、過去の裁判例に基づく最も高い水準である裁判基準(いわゆる赤本基準)を用いて賠償額を算定し、交渉します。将来の昇給や退職金の損失まで見据えた逸失利益の精緻な計算などにより、当初の提示額から数倍、数千万円単位での増額につながるケースも珍しくありません。

適正な「後遺障害等級」の獲得をサポートできる

賠償額の総額を大きく左右するのが、後遺障害等級です。巻き込まれ事故で指を失ったり関節が動かなくなったりした場合、欠損部位の判定や関節可動域の測定がわずかに異なるだけで等級が変わり、賠償額に一生にかかわる差が生じます。

弁護士は、主治医が作成する後遺障害診断書の記載内容を事前に確認し、労災の認定基準に合致した正確な記述がなされるよう、医学的な知見をもってサポートします。万が一不当に低い等級に認定された場合でも、審査請求(異議申立て)を行い、正しい等級の獲得を目指します。

おわりに

おわりに

製造業の現場で機械に巻き込まれ、重いケガを負われた被災者の方は、肉体的な苦痛だけでなく、「会社と揉めたくない」「自分にも落ち度があったのではないか」という思いや、将来への不安によって、精神的にも深く傷ついておられます。

しかし、安全な労働環境を整えられなかった会社の責任は法的に問われるべきであり、適正な賠償を受け取ることは、被災者の当然の権利です。

示談書にサインしてしまう前に、提示された金額が妥当かどうか、一度専門家の目を通すことをおすすめします。私たちは、被災者の方が治療と生活の再建に専念できるよう、正当な賠償の獲得に向けて全力でサポートいたします。

ご相談

グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、専門チームの弁護士は、各担当分野について知識・経験とも豊富で、大きな強みを持っています。まずは、一度お気軽にご相談ください。

この記事を書いた弁護士:弁護士 遠藤吏恭

労働災害(労災)

弁護士登録後、労災認定申請から損害賠償請求まで幅広く対応。法テラス民事法律扶助審査委員として経済的に困難な被災労働者の支援にも積極的に携わる。不当要求防止責任者講習の講師経験を活かした毅然とした交渉力で、使用者側との厳しい交渉にも臆せず対応。中央大学法科大学院・埼玉工業大学講師も務める。