交通事故の重傷後遺障害と成年後見費用——見落とされがちな損害項目を弁護士が解説

本記事は、さいたま市大宮区にある、埼玉県内でトップクラスの弁護士法人グリーンリーフ法律事務所の交通事故集中チームの弁護士が執筆しています。

交通事故で脳や脊髄に重大な損傷を負うと、身体機能だけでなく「判断能力」も失われることがあります。遷延性意識障害・高次脳機能障害・重度の認知障害——これらの後遺障害を抱えた被害者は、日常生活を送るだけでなく、自分自身の財産を管理することも困難になります。

そのような状態になったとき、法律上は「成年後見制度」を利用して、後見人が被害者に代わって財産管理・契約・各種手続きを行うことになります。

ところが、この「後見人に支払う費用(後見等関係費用)」が加害者への損害賠償請求の対象になることを、多くの被害者・遺族の方はご存知ではありません。後見費用は、示談交渉や訴訟で明示的に請求しなければ認めてもらえない項目であり、弁護士が介入しない場合にはまるまる見落とされてしまうことが多い損害項目です。

本記事では、重篤な後遺障害を負った場合に請求できる損害項目の全体像を整理した上で、成年後見制度の仕組み・費用の実態、そして「後見等関係費用」が損害賠償として認められた裁判例を解説します。

重傷事故が引き起こす後遺障害と「判断能力の喪失」

交通事故による重篤な後遺障害の代表例として、次のものが挙げられます。

  • 遷延性意識障害(いわゆる植物状態):自発的な意思表示がほぼできない最重篤の状態
  • 高次脳機能障害:記憶障害・注意障害・遂行機能障害・感情コントロール困難等
  • 重度の認知障害・失語症:意思疎通や契約行為が困難な状態
  • 四肢麻痺・脊髄損傷:身体的には意思がなくても、財産管理等が困難になるケースも

これらの状態では、被害者本人が銀行手続き・不動産売買・保険金請求・示談交渉といった「法律行為」を自ら行うことができなくなります。そこで必要になるのが、「成年後見人」の選任です。

重要なのは、成年後見人への報酬は被害者の財産から支払われるという点です。事故がなければ発生しなかった費用であり、これは明らかに交通事故と因果関係のある損害です。裁判例でも「必要かつ相当な範囲で」損害として認められています。

重篤な後遺障害で請求できる損害項目の全体像

重篤な後遺障害で請求できる損害項目の全体像

後遺障害が重篤である場合、賠償総額は非常に大きくなります。以下の項目を漏れなく請求することが不可欠です。

【重篤後遺障害(1〜2級)で請求できる主な損害項目】  

<積極損害>
・治療費(入院・手術・リハビリ等)
・入院付添費(近親者・職業付添人)
・将来介護費(職業付添人=実費全額、近親者=1日8,000円が基本)
・将来の治療費・リハビリ費用
・福祉用具・住宅改造費
・後見等関係費用(★本記事のテーマ)
・その他雑費(おむつ代・訪問看護費等)  

<消極損害>
・休業損害(症状固定まで)
・逸失利益(将来の収入喪失)  

<慰謝料>
・入通院慰謝料
・後遺障害慰謝料(1級:2,800万円、2級:2,370万円が弁護士基準の目安)  

<その他>
・弁護士費用(提訴時に損害額の10%程度)
・遅延損害金(事故日から年3%)

このうち「後見等関係費用」は、被害者が重篤な状態になって初めて必要になる項目です。後見費用だけで数百万円〜数千万円になることがあり、請求しなければ確実に見落とされます。

成年後見制度とは

成年後見制度とは

成年後見制度は、認知症・知的障害・精神障害・事故による脳損傷等により「判断能力が不十分な方」を保護・支援するための法律上の制度です(民法7条以下)。家庭裁判所が選任した「成年後見人」が、本人の代わりに財産管理や法律行為を行います。

法定後見制度の3類型

【後見・保佐・補助の違い】

後見(こうけん):判断能力が全くない状態。後見人が財産管理・法律行為を全面的に代理する。
保佐(ほさ):判断能力が著しく不十分な状態。重要な法律行為について保佐人の同意が必要。
補助(ほじょ):判断能力が不十分な状態。特定の行為について補助人が支援する。  

交通事故の重篤後遺障害では「後見」が利用されるケースが多い。

後見開始の申立て費用

家庭裁判所への申立てに際し、以下の費用がかかります(参考:裁判所ウェブサイト)。

  • 申立手数料:収入印紙800円
  • 後見登記手数料:収入印紙2,600円
  • 郵便切手代:裁判所ごとに異なる(3,000〜5,000円程度)
  • 医師の診断書作成費:3,000〜5,000円程度
  • 鑑定費用:5〜10万円程度(家庭裁判所が必要と判断した場合のみ。実施率は約10件に1件程度)
  • 申立代理を弁護士・司法書士に依頼した場合:10〜30万円程度

申立費用の合計は、鑑定なしの場合で概ね1〜2万円程度、鑑定が行われた場合は10万円超となります。交通事故による後遺障害が原因で後見が必要になった場合、これらの費用は加害者への損害賠償として請求できます。

後見人の報酬

成年後見人への報酬は、家庭裁判所が年1回の報酬付与申立てを審判して決定します。報酬は被後見人の財産から支払われます。

【東京家庭裁判所の報酬目安(2023年時点)】
管理財産額1,000万円以下:月額2万円程度
管理財産額1,000万円〜5,000万円:月額3〜4万円程度
管理財産額5,000万円超:月額5〜6万円程度  

付加報酬:特別な事情(不動産売却・遺産分割協議・保険金請求等)がある場合、      
基本報酬の50%以内で追加される。  

成年後見監督人が選任された場合(財産が多い場合等):      
月額1〜3万円程度が追加でかかる。  

出典:裁判所ウェブサイト「報酬の付与(成年後見制度)」等

仮に月額2万円の報酬が平均余命の30年間続く場合、合計720万円になります。月額3万円であれば1,080万円です。

後見制度の特徴と注意点

・後見開始後は原則として本人が死亡するまで続く(一生涯の制度)
・親族が後見人になった場合は無報酬のことも多いが、専門職後見人(弁護士・司法書士等)が選任された場合は報酬が発生する
・交通事故の賠償金・保険金が入ると管理財産額が増え、報酬も上がる可能性がある
・後見監督人が選任されると費用がさらに増える

後見等関係費用は損害賠償として請求できる

後見等関係費用は損害賠償として請求できる

赤い本(民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準2026年版)では、後見等関係費用について次のように明記されています。

「成年後見開始の審判手続費用、後見人報酬など、必要かつ相当な範囲で認める」  
参照:本誌2012年版下巻5頁「交通事故の被害者に成年後見人が選任された場合に伴う諸問題」

「必要かつ相当な範囲で」というのが実務上のポイントです。後見が必要になった直接の原因が交通事故による後遺障害であること、後見人の報酬額が相当であること——これらを立証する必要があります。

後見等関係費用が認められた裁判例

後見等関係費用が認められた裁判例

以下、赤い本2026年版に掲載された後見等関係費用に関する裁判例を紹介します。

(1)後見等開始申立費用の裁判例

【裁判例①】
高次脳機能障害(5級2号)・脊柱変形(11級7号)・下肢短縮(13級9号、併合4級)の主婦(固定時62歳)
後見開始申立費用として鑑定料10万円・登記印紙代4,000円・申立手数料800円、
合計10万円余を認めた。
(大阪高判平21.9.11 自保ジ1801・2)
【裁判例②】
高次脳機能障害(別表第1の2級)のワイシャツの注文仕立て業(男・固定時68歳)
成年後見申立費用として申立手数料800円・送達送付費用(郵券)3,160円・鑑定費用5万円・ 後見登記手数料(登記印紙代)4,000円・申立書に添付すべき成年後見用診断書作成料4,470円の 合計6万円余を認めた。
(水戸地下妻支判平21.12.17 自保ジ1820・35)
【裁判例③】
遷延性意識障害・体幹運動麻痺(別表第1の1級1号)の会社員(男・固定時32歳)
成年後見申立に要した実費1万8,000円余の外、弁護士費用として、 事故発生の約2か月後に子が産まれた配偶者の状況や損害賠償請求のために必要で、 迅速性が要求される状況にあり、一般的な成年後見申立よりも複雑困難な処理を要したとして 25万円を認めた。
(名古屋地令5.1.27 交民56・1・110)

(2)将来分を含めた後見人報酬等の裁判例

後見人報酬は長期にわたって発生するため、将来分を一括で損害として認める裁判例が多数あります。

【裁判例①】
遷延性の植物状態(別表第1の1級1号)の清掃作業員(男・固定時67歳) 成年後見人(司法書士)の選任を余儀なくされ、症状固定後の1年間は年間35万円の報酬及び 事務費を要し、その後平均余命までは少なくとも年間51万円の報酬及び事務費を要すると 推認されるとして、いずれも中間利息を控除して合計559万円余を弁護士費用とは別に認めた。
(大阪地判平26.6.27 交民47・3・795)
【裁判例②】
遷延性意識障害障害(別表第1の1級1号)の警備員(男・固定時34歳) 後見人が損害賠償請求訴訟を提起し勝訴判決を得て管理財産を増額させた場合には 増額の8%ないし15%程度の後見人報酬が付加されることがあること等から 後見人報酬1,000万円を認めた。
(広島高岡山支判平27.4.23 自保ジ1952・1)
【裁判例③】
高次脳機能障害(5級2号)の運送業務従事者(男・固定時35歳) に親族後見人が選任された事案につき、後見人報酬として月額2万円、 固定時から平均余命まで44年間、合計423万円余を認めた。
(名古屋地判平27.12.15 自保ジ1967・47)
【裁判例④】
高次脳機能障害(別表第1の2級1号)の主婦(固定時66歳) 弁護士成年後見人が選任された事案につき、後見人報酬は月額4万円を下回らないとして、 後見開始の審判確定時点の平均余命22年分について事故日現在の同報酬に相当する損害額を計算し、 合計601万円余を認めた。
(神戸地判平28.1.28 交民49・1・94)
【裁判例⑤】
被害者(女・固定時38歳)、既存障害14級9号、に親族成年後見人と弁護士成年後見監督人が選任された事案 親族成年後見人の報酬は、将来介護費用とは別の損害であり、後遺障害慰謝料の中で評価されているとも いえないとし、既に決定した209万円余のほか平均余命まで月額2万円で算定した356万円余を、 成年後見監督人報酬については既に決定した157万円を認めた。
(東京地判平28.9.6 交民49・5・1088)
【裁判例⑥】
失見当識等・高次脳機能障害及び四肢麻痺(別表第1の1級1号)の専業主婦(固定時76歳) 親族後見人と弁護士成年後見監督人が選任された事案につき、監督人選任後8.5か月分の報酬を 12万2,040円とする審判がなされていること等から、後見監督人報酬として、 選任後5年間、月額1万5,000円として中間利息を控除した77万円余を認めた。
(大阪地判平31.1.24 交民52・1・98)
【裁判例⑦】
四肢麻痺等(別表第1の1級1号)のため生命維持に必要な身のまわり処理の動作について他人の介護が必要な被害者(男・事故時42歳) 後見人報酬として月額2万円・平均余命まで36年間、合計397万円余を認めた。
(東京地判令4・9・29 交民55・5・1337)
【裁判例⑧】
意識障害・高次脳機能障害及び四肢麻痺(別表第1の1級1号)の家事従事者(女・固定時57歳) 後見人報酬として月額3万円として平均余命に至るまで534万円余を認めた。
(大阪地判令5.2.15 交民56・1・205)
【裁判例⑨】
認知障害・四肢機能障害(別表第1の1級1号)の会社役員(男・固定時63歳)に成年後見人が選任された事案 後見人報酬として既払分103万円余のほか、将来分として平均余命まで年額51万円で算定した 642万円余を弁護士費用とは別に認めた。
(横浜地判令6.2.29 交民57・1・273)
【裁判例⑩】
遷延性意識障害等(別表第1の1級1号)の家事従事者(女・固定時82歳) 事案の難易、認容額その他の訴訟の事情を考慮のうえ、成年後見人の訴訟業務に関する 報酬相当額として損害額の1割に相当する511万円余を認めた。
(東京地判令6.3.18 交民57・2・414)

実務上の注意点

実務上の注意点

① 後見費用は示談交渉段階で見落とされやすい

保険会社との示談交渉では、治療費・慰謝料・逸失利益といった「わかりやすい項目」に議論が集中しがちです。後見費用は被害者側が積極的に主張・立証しなければ、示談書に盛り込まれないまま終わってしまうことがあります。

② 後見人が選任された時点で請求する

後見費用の損害賠償請求は、後見人が選任されてから行うのが実務上の流れです。後見開始前に示談してしまうと、その後に発生する後見費用を後から請求することが困難になる場合があります。重篤な後遺障害が残る可能性がある場合は、症状固定・後遺障害等級確定・後見人選任まで待ってから示談することが重要です。

③ 将来分の報酬を一括で請求できる

上記裁判例のとおり、将来にわたって発生する後見人報酬も、中間利息を控除した上で一括して損害賠償として請求できます。平均余命が長いほど請求額は大きくなります。

④ 監督人報酬も別途請求できる可能性がある

後見監督人が選任された場合(管理財産が多額の場合等)、その報酬も別途損害として請求できます。交通事故の賠償金・保険金が大きいと後見監督人が選任されやすいため、この点も見落とさないようにする必要があります。

弁護士に相談すべき理由

弁護士に相談すべき理由

損害項目の漏れを防ぐ

重篤な後遺障害の事案では、将来介護費・後見費用・逸失利益・慰謝料・雑費等、多岐にわたる損害項目が発生します。これらをすべて漏れなく請求するためには、交通事故に精通した弁護士の関与が不可欠です。後見費用だけで数百万〜1,000万円以上の差が生じることがあります。

後見人自身が弁護士に依頼することの意義

後見人として選任された親族が、被害者に代わって損害賠償請求を行う場面では、後見人自身が弁護士に依頼することで適切な交渉・訴訟追行が可能になります。

示談のタイミングの見極め

重篤な後遺障害事案では、症状固定・後遺障害等級確定・後見人選任が確定してから示談交渉に臨むことが原則です。早期の示談提案に応じてしまうと、将来費用を取りこぼすリスクがあります。

弁護士費用特約を活用してください

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まとめ

まとめ

本記事のポイントをまとめます。

  • 重篤な交通事故後遺障害では、判断能力が失われると「成年後見制度」の利用が必要になる
  • 後見開始申立費用・後見人報酬・後見監督人報酬は、加害者への損害賠償として請求できる
  • 後見人報酬は将来分も含め一括請求でき、平均余命が長いほど認容額も大きくなる
  • 後見費用は示談交渉段階で見落とされやすい——弁護士が介入することで確実に請求できる
  • 症状固定・後見人選任が確定してから示談交渉に臨むことが重要

大切なご家族が重篤な後遺障害を負われた場合は、早めに弁護士にご相談ください。

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所について

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弁護士法人グリーンリーフ法律事務所は、さいたま市大宮区に拠点を置く、設立35年以上の歴史を持つ法律事務所です。埼玉県内トップクラスの実績を誇り、交通事故専門チームを擁して多くの被害者・遺族の方をサポートしてきました。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 申 景秀
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