
本記事は、さいたま市大宮区にある、埼玉県内でトップクラスの弁護士法人グリーンリーフ法律事務所の交通事故集中チームの弁護士が執筆しています。
近年、自転車の利用者が急増しています。通勤・通学での利用はもちろん、デリバリーサービスの拡大や健康志向の高まりを背景に、街中を走る自転車の数は以前と比べものにならないほど多くなりました。それに伴い、自転車同士の衝突事故も増加傾向にあり、重傷を負うケースも決して少なくありません。
このような社会情勢を受け、民事交通事件の過失相殺率(過失割合)を定めるうえで実務の基準書として広く用いられてきた「別冊判例タイムズ」が、令和8年3月、約11年ぶりに全訂されました(第39号・全訂6版)。今回の改訂における最大のトピックのひとつが、新たに「第6章 自転車同士の事故」が設けられたことです。
これまで自転車同士の事故については、四輪車同士の基準を準用したり、個別の裁判例を参照したりするしかなく、過失割合の判断が不安定になりがちでした。しかし、東京地裁民事第27部の統計によれば、自転車同士の事故の新受件数は「歩行者と自転車の事故」を超えるまでに増加しており、当該事例における過失判断もある程度固まってきたと判断されたこと、さらに自転車運転者に道路交通法規の遵守を求める法改正がなされたことを踏まえ、この新たな章が設けられることとなりました。
本記事(前編)では、信号機のある交差点における自転車同士の過失割合の基準(VI-1〜VI-3)を解説します。後編では、信号機のない交差点での基準や修正要素、損害賠償の請求方法についてさらに詳しく解説します。
自転車同士の事故とは|基本的な位置づけと特性

自転車は道路交通法上「軽車両」に分類されており、自動車と同様に車両の一種です。したがって、自転車同士の事故は「車両同士の事故」として扱われます。
四輪車との違い:自転車特有の物理的特性
自転車は一般的に四輪車よりも軽量かつ低速であり、構造が簡易であるため運転操作は容易で停車しやすいという特徴があります。一方で、走行・停止時に不安定になりやすく、直線的に進行しないことも多く、若干ふらつきながら進行するという物理的特性があります。
判例タイムズ39号では、これらの特性を考慮し、自転車が道路上を「時速15km程度(普通の速度)またはそれ以下の低速」で走行していることを前提として基準を設けています。歩道上ではさらにゆっくりとした速度での走行が前提です。
「自転車」として扱われないケース
以下の人物は「歩行者」として扱われるため、本章(第6章)の基準ではなく「歩行者と自転車との事故」の基準(第2章)が適用されます。
・小児用の乗り物(三輪車等)を通行させている者
・自転車を押して歩いている者
被害者保護の観点:児童・高齢者への配慮
自転車の運転者が児童(おおむね6歳以上13歳未満)や高齢者(おおむね65歳以上)である場合、被害者保護の観点から過失割合の修正が行われることがあります。赤信号で進行してはいけないというルールは児童・高齢者も遵守すべきですが、認知・反応能力の面での配慮として、修正の程度は他の事故類型よりも低く設定されています。
四輪車事故との主な違い:保険と賠償の問題
自転車事故が四輪車事故と大きく異なる点のひとつは「自賠責保険」が存在しないことです。自動車・バイクには自賠責保険への加入が法律で義務付けられており、被害者への最低限の補償が確保されていますが、自転車にはそのような制度がありません。
そのため、相手が自転車保険(個人賠償責任保険等)に未加入であった場合、損害賠償を受けるためには相手個人に直接請求するほかなく、相手方の資力によっては現実的な回収が困難になるリスクがあります。また、埼玉県内でも自転車保険の加入義務化が進んでいますが、実際の加入率はいまだ十分ではありません。
自転車事故で認定される後遺障害等級

自転車同士の衝突では、時速15km程度の速度差でも頭部・頸部・四肢に大きな衝撃が加わることがあり、後遺障害が残るケースは少なくありません。後遺障害等級は第1級〜第14級まで設定されており、等級に応じた後遺障害慰謝料と逸失利益を請求できます。
頭部・脳への外傷に関連する等級
自転車事故では転倒によりヘルメット未着用の状態で頭部を強打するケースが多く、脳挫傷・外傷性くも膜下出血・高次脳機能障害などが生じることがあります。
- 第1〜3級:植物状態、常時介護が必要な高次脳機能障害
- 第5〜7級:著しい記憶障害・人格変化・注意障害等を伴う高次脳機能障害
- 第9級10号:神経系統の機能または精神の障害(労働が著しく制限される程度)
頸部・脊椎の後遺障害
衝突の衝撃で頸椎・腰椎を損傷し、しびれや痛みが残存するケースも見られます。
- 第12級13号:局部に頑固な神経症状が残るもの(MRI等の画像所見による裏付けがある場合)
- 第14級9号:局部に神経症状が残るもの(画像所見はないが、受傷時の状況と整合性のある自覚症状)
四肢骨折・関節の機能障害
転倒による上肢(鎖骨・手首・肘)・下肢(膝・足首)の骨折後、関節の機能障害が残ることがあります。
- 第10〜12級:上下肢の関節の機能が著しく障害されるもの〜機能障害が残るもの
- 第12〜14級:骨折後の変形癒合・疼痛残存(骨の変形が明らかなものは12級、痛みのみは14級が多い)
後遺障害認定の注意点
自転車事故の場合、相手方が任意保険未加入であるケースが多く、事前認定(相手保険会社への一括申請)が利用できないことがあります。その場合は被害者請求(自賠責保険への直接申請)の手続きが取れないため、損害賠償請求訴訟の中で後遺障害の程度を立証する必要が生じる場合もあります。弁護士への早期相談が重要です。
信号機のある交差点での直進車同士の事故(出合い頭)

信号機による交通整理が行われている交差点(信号交差点)において、自転車同士が出合い頭に衝突した場合の過失割合を説明します。ここでいう「交差点」とは十字路交差点を想定しており、渋滞停車中の車両への追突などは対象外です。
青信号車(Ⓐ)対 赤信号車(Ⓑ)【VI-1】

信号に従っている自転車(青)と赤信号を無視した自転車(赤)の衝突です。
| 事故態様 | Ⓐ過失 | Ⓑ過失 | 備考 |
| 基本 | 0 | 100 | 信号遵守車Ⓐ:責任なし |
| Ⓐに何らかの過失あり① | +10 | −10 | 前方不注視等 |
| Ⓐが児童等・高齢者② | −10 | +10 | 被害者保護 |
| Ⓐの著しい過失・重過失 | +10〜20 | −10〜20 | スマホ運転等 |
| Ⓑが児童等・高齢者② | +5 | −5 | 加害者側の保護 |
| Ⓑの高速度進入③ | −10 | +10 | 時速15km超等 |
| Ⓑの著しい過失・重過失④ | −5〜20 | +5〜20 | 酒気帯び等 |
① 信号に従っている車両であっても、通常の前方(交差点内ないしそれに近接する場所)に対する安全確認を怠った場合や、赤信号車を発見できたのに回避措置を取らなかった場合は過失が加算されます。例えば、信号待ち後に青信号で発進する際、軽度の注意で赤信号車が発見できるのに信号のみ確認して発進した場合等がこれに当たります。
② 児童等・高齢者の意味・内容については用語集2(2)参照。児童等・高齢者が受傷者である場合に修正要素とします。赤信号で進行してはいけないという規制は児童等・高齢者も遵守すべきですが、赤信号車の場合は修正の程度を低くしています。
③ 高速度進入とは、自転車の普通の速度(時速15km程度)を大幅に超える速度で交差点に進入することを指します。
④ 著しい過失・重過失の意味・内容については用語集6(1)(2)参照。本基準の事故態様では、赤信号車(Ⓑ)については信号違反それ自体が重大な過失であることから、その余の過失はさほど重視されないこととなります。
黄信号車(Ⓐ)対 赤信号車(Ⓑ)【VI-2】

黄信号は原則として停止位置を越えて進行してはなりません(道路交通法7条・道路交通法施行令2条1項)。ただし、黄信号が表示された時点で当該停止位置に近接しているため安全に停止できない場合は例外的に進行が認められます。
| 事故態様 | Ⓐ過失 | Ⓑ過失 | 備考 |
| 基本① | 20 | 80 | 信号無視の危険性の差 |
| Ⓐが交差点直前で赤信号に変化② | +10 | −10 | 実質赤信号進入 |
| Ⓐが児童等・高齢者③ | −10 | +10 | |
| Ⓐの高速度進入④ | +10 | −10 | |
| Ⓐの著しい過失・重過失 | +10〜15 | −10〜15 | |
| 衝突時Ⓑの信号が青⑤ | +20 | −20 | Ⓑ有利 |
| Ⓑが児童等・高齢者③ | +5 | −5 | |
| Ⓑの高速度進入④ | −10 | +10 | |
| Ⓑの著しい過失・重過失⑥ | −5〜10 | +5〜10 |
① 車両は黄信号の場合には原則として停止位置を越えて進行してはならないのであり、例外として、黄信号が表示された時において当該停止位置に近接しているため安全に停止することができないときに、交差点への進入が許されるにすぎません。信号無視という点では赤信号を無視した車両と同質ですが、行為の危険性の大小において赤信号車(Ⓑ)と黄信号車(Ⓐ)とでは顕著な差があります。
② 黄信号車(Ⓐ)が交差点に進入した直後に信号が赤信号に変わった場合です。この場合は10%加算修正します。
③【VI-1】の注②を参照。
④ 高速度進入の意味・内容については用語集4⑳を参照。
⑤ 自転車は四輪車と比較して低速であり、交差点の通過に時間を要することもあるため、本修正要素が適用される事故態様がまれとまではいえないことから、修正要素として設けることとしました。
⑥【VI-1】の注④を参照。
赤信号車同士の事故(双方赤信号)【VI-3】

| 事故態様 | Ⓐ過失 | Ⓑ過失 | 備考 |
| 基本① | 50 | 50 | 双方とも重大な信号違反 |
| Ⓐの児童等・高齢者② | −5 | +5 | |
| Ⓐの高速度進入③ | +10 | −10 | |
| Ⓐの著しい過失・重過失 | +5〜10 | −5〜10 | |
| Ⓑの児童等・高齢者② | +5 | −5 | |
| Ⓑの高速度進入③ | −10 | +10 | |
| Ⓑの著しい過失・重過失④ | −5〜10 | +5〜10 |
① 赤信号車同士の事故の場合には、両車とも赤信号違反という重大な過失があり、しかも一般的には行為の危険性の点でも有意な差はないと考えられることから、基本の過失相殺率を50%としています。
② 児童等・高齢者の意味・内容については用語集2(2)参照。児童等・高齢者が受傷者である場合に修正要素とします。赤信号で進行してはいけないという規制は児童等・高齢者も遵守して当然であることから、赤信号車以外の場合と比較して修正の程度を低くしています。
③ 高速度進入の意味・内容については用語集4⑳を参照。
④【VI-1】の注④を参照。
信号交差点の事故における実務上のポイント
信号あり交差点の出合い頭事故では、「信号の色」が過失割合の最大の決め手となります。ドライブレコーダーや防犯カメラの映像、目撃者の証言、警察の実況見分調書によって当時の信号の状況を立証することが極めて重要です。
また、スマートフォン操作中や酒気帯び状態での走行は「著しい過失・重過失」として過失割合に大きく影響します。これらの事情は事故後に相手方が否定することも多いため、警察への正確な申告と証拠の保全が必要です。
過失割合を左右する主な修正要素

基本となる過失割合は、個別の事情によって調整(修正)されます。以下に主な修正要素を解説します。
著しい過失・重過失
通常の不注意を超える著しい過失や、故意に準じた重過失がある場合に過失割合が大幅に加算されます。自転車における具体例として以下が挙げられます。
- スマートフォンを操作しながらの運転(ながら運転)
- 酒気帯び運転・酒酔い運転
- 夜間の無灯火走行
- 二人乗り(法律上認められた場合を除く)
- 傘を差しながらの運転
- イヤホンを装着して外部の音が聞こえない状態での走行
これらは自転車に特有の違反態様であり、修正幅は事故の類型や状況に応じて通常10〜20ポイントとされています。著しい過失と重過失は区別され、重過失の場合はより大きな修正がなされます。
高速度進入
自転車が時速15km程度(普通の速度)を大幅に超える速度で交差点に進入した場合、高速度進入として過失割合が加算されます。電動アシスト自転車やスポーツタイプの自転車に多い要素です。
右側通行(逆走)・左方からの進入
自転車は軽車両として道路の左側を通行しなければなりません(法17条4項・法63条の3等)。右側通行いわゆる「逆走」をしていた場合、交差点への進入方向が「左方から進入」となり、本来であれば左方優先によって有利な立場になるはずのところ、逆に過失が加算されることがあります。ただし、自転車横断帯を通行している場合など特定の条件下では修正が行われない場合もあります。
児童・高齢者の取り扱い
被害者(損害賠償請求権の権利者)が児童・高齢者である場合、被害者保護の観点から過失割合が軽減されます。ただし、加害者側が児童・高齢者である場合は、逆に過失が若干加重または軽減される場合があります(事故類型による)。赤信号で進行してはいけないという規制は児童・高齢者も遵守すべきですが、認知・反応能力の面での配慮として、修正の程度は事故類型によって細かく設定されています。
「見とおしがきく交差点」の取り扱い
本基準は見とおしがきかない交差点での事故を前提としています。見とおしがきく交差点(左右の安全確認が容易にできる開けた交差点)では、相手方を発見して事故を回避できた可能性が高いため、基本的に被害者(規制のない側)にとって不利な修正要素となります。
弁護士費用特約の活用|多くの場合、費用は保険会社が負担

【弁護士費用特約】とは、ご自身が加入している自動車保険・火災保険・個人賠償責任保険等に付帯している特約です。
弁護士費用特約が付いている場合は、交通事故について保険会社との交渉や損害賠償のために弁護士を依頼する費用が、加入している保険会社から支払われます。
被害に遭われた方は、ご自身が加入している各種保険を一度確認してみてください。わからない場合は、保険証券等に記載されている窓口にお電話で確認してください。
弁護士費用特約の補償額は、通常300万円までです。多くのケースでは300万円の範囲内で、自己負担一切なしでおさまります。
なお、弁護士費用特約を利用して弁護士に依頼する場合、どの弁護士を選ぶかは、被害に遭われた方の自由です。
※ 保険会社によっては、保険会社の承認が必要な場合があります。
弁護士費用特約を使っても、等級は下がりません。弁護士費用特約を利用することで保険料が上がることは基本的にありません。
まとめ|後編では信号なし交差点の基準を解説します

自転車同士の事故の過失割合は、令和8年3月に改訂された別冊判例タイムズ第39号によって初めて体系的な基準が設けられました。前編では信号機のある交差点における基準(VI-1〜VI-3)を解説しました。
後編では、信号機のない交差点での基準や修正要素、損害賠償の請求方法についてさらに詳しく解説しています。
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所は、さいたま市大宮区にあり、設立以来35年以上の実績があり、多数の弁護士が所属する埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
交通事故においても専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は専門チームの弁護士が担当します。自転車事故でお悩みの方に適切なアドバイスができるかと存じますので、まずは一度お気軽にご相談ください。ラインや電話での無料相談も可能です。
⇒ 後編(信号なし交差点の過失割合・修正要素・損害賠償請求)はこちら
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。













