【弁護士が解説】男性(主夫)でも休業損害はもらえる?「男性平均賃金」で請求できるか徹底解説

さいたま市大宮区にある、埼玉県内でトップクラスの弁護士法人グリーンリーフ法律事務所の交通事故集中チームの弁護士が執筆しています。

近年、共働き世帯の増加やライフスタイルの変化に伴い、夫が家事の主たる担い手となる「主夫(専業主夫・兼業主夫)」のケースが増えています。 しかし、いざ交通事故に遭った際、保険会社から「男性は仕事をしていないなら無職扱い」「家事手伝い程度では休業損害は払えない」といった冷たい対応をされ、ご相談に来られる男性被害者の方が少なくありません。

「男性だから家事労働の価値は認められないのか?」 「前の仕事では稼いでいたのに、低い基準で計算されるのか?」

このような疑問をお持ちの方へ。 今回は、実務上の重要論点である「男性家事従事者(主夫)の休業損害」について、その認められる要件、計算の基礎となる賃金(男性平均か女性平均か)、そして実際の裁判例を交えて、交通事故チームの弁護士が詳しく解説します。

1. はじめに:家事労働には「経済的価値」がある

1. はじめに:家事労働には「経済的価値」がある

まず大前提として、交通事故における「休業損害」は、会社員や自営業者など、現実に収入を得ている人だけの権利ではありません。 家事従事者(いわゆる主婦・主夫)であっても、休業損害を請求することができます。

かつては、「家事労働は愛情に基づくものであり、金銭的なやり取りがない以上、損害とは言えない」という考え方も存在しました。 しかし、最高裁判所昭和49年7月19日判決において、「家事労働に属する多くの労働は、労働社会において金銭的に評価されうるものであり、これを他人に依頼すれば当然相当の対価を支払わなければならない」と判断されました。

これ以降、法律実務においては、「家事従事者にも当然に休業損害や逸失利益が発生する」という前提で処理されることが定着しています。 つまり、性別に関わらず、家事労働は「お金に換算できる立派な仕事」なのです。

2. 「主夫(男性家事従事者)」の定義とは?

2. 「主夫(男性家事従事者)」の定義とは?

では、どのような場合に「主夫」として認められるのでしょうか。 交通事故の損害賠償における「家事従事者」とは、実務上、以下のように定義されています。

「性別・年齢を問わず、現に家族のために家事労働に従事する者」

重要なのは「性別を問わず」という点です。 したがって、以下の条件を満たしていれば、男性であっても家事従事者(主夫)として休業損害を請求することが可能です。

  1. 家族のために家事を行っていること 一人暮らしの家事は「自分のため」であるため、家事従事者としては扱われません。同居の家族(妻や子供、親など)のために行っている必要があります。
  2. 「主として」家事に従事していること 単なる「手伝い」や「ゴミ出し担当」程度では認められません。料理、洗濯、掃除、買い物などの家事全般を、日常的に、主たる担い手として行っている必要があります。

例えば、妻がフルタイムで働き、夫が失業中あるいは退職して家事と育児を一手に引き受けているようなケースは、典型的な「専業主夫」として認められます。

3.主夫の休業損害は「男性の平均賃金」で計算できるか?

3.主夫の休業損害は「男性の平均賃金」で計算できるか?

ここからが本記事の核心部分です。 会社員の休業損害は「実際の給料」をベースに計算しますが、家事従事者の場合は「賃金センサス(平均賃金)」という統計データを使います。

ここで一つの大きな疑問が生まれます。

「男性の主夫の場合、使うのは『男性の平均賃金』なのか、『女性の平均賃金』なのか?」

例えば、以下のようなケースを考えてみましょう。

【事例】 勤務先を解雇された後、妻に代わって家事労働に従事していた専業主夫のXさん(男性)。 ある日、歩行中に車にはねられ大ケガを負い、1年間の通院を余儀なくされました。 Xさんは、「解雇前は同年代の男性平均賃金以上の収入があったのだから、休業損害も『男性の平均賃金』をベースに計算すべきだ」と主張しています。

男性の平均賃金は、女性の平均賃金よりも高額であるケースが多いため、どちらを使うかで賠償額に数百万円の差が出ることがあります。 Xさんの主張は認められるのでしょうか?

結論:原則として「女性の平均賃金」が使われます

残念ながら、実務上の通例としては、男性家事従事者であっても「女性の学歴計・全年齢平均賃金」をベースに認定する方法が採用されています。

なぜ「男性」なのに「女性」の賃金を使うのでしょうか? その理由は以下の通りです。

  1. 家事労働の性質 家事労働の価値は、誰が行っても(男性が行っても女性が行っても)基本的に変わらないと考えられています。
  2. 合理的な根拠の欠如 実質的に見ても、男性のする家事労働に限って、その金銭的評価を「女性平均賃金」から「男性平均賃金」に引き上げるべき根拠に乏しいとされています。

つまり、「男性がやっているから」という理由だけで、家事の値段(評価額)を高くすることは公平ではない、というのが裁判所の基本的な考え方です。 したがって、上記の事例のXさんの場合でも、基本的には「女性の平均賃金(全年齢平均)」を基礎収入として休業損害を計算することになります。

※「女性の平均賃金」というと低く聞こえるかもしれませんが、令和の賃金センサスでは年収約390万円〜400万円程度とされており、無職者として扱われる(ゼロ円)よりは遥かに高額な補償となります。

4. 実際の裁判例に見る「主夫」の認定

4. 実際の裁判例に見る「主夫」の認定

では、実際にどのようなケースで男性の家事労働が認められ、どのような基準で計算されたのでしょうか。参考となる裁判例をご紹介します。

妻の介護を行っていた夫の事例(東京地判平成14年7月22日) パーキンソン病で寝たきり状態となっていた妻の介護を行っていた被害者男性について、妻の介護が家事労働に該当すると認めました。 その上で、女性平均賃金(賃金センサス)をベースに基礎収入額を認定し、休業損害を算定しました。

フルタイムの妻に代わって家事をしていた夫の事例(名古屋地判平成20年5月21日) フルタイム労働者の妻および次女と同居していた被害者男性について、日常的に家事労働に従事していたと認めました。 このケースでも、女性平均賃金(賃金センサス)をベースに基礎収入額を認定しています。

専業主夫として家事全般を行っていた夫の事例(横浜地判平成24年7月30日) 妻が正社員として働き、専業主夫として洗濯、掃除、料理等の家事労働を行っていた被害者男性について、女性平均賃金(賃金センサス)をベースに基礎収入額を認定し、休業損害を算定しました。

これらの判例からも分かるように、男性であっても家事の実態があれば休業損害は認められますが、その単価は「全年齢平均の女性賃金」を用いるのが司法のスタンダードとなっています。

5. 保険会社との交渉の壁「あなたは無職ですよね?」

5. 保険会社との交渉の壁「あなたは無職ですよね?」

法的には上記のように整理されていますが、実際の示談交渉の現場では、そう簡単にはいきません。 加害者側の保険会社は、男性の被害者に対して、以下のような主張をして支払いを拒むことが非常に多いです。

  • 「男性なので家事従事者には該当しない」
  • 「失業中(無職)なのだから、損害は発生していない」
  • 「奥様もいるのだから、家事は奥様がやっているはずだ」

これらはあくまで保険会社の「主張」に過ぎません。 しかし、これに反論して主夫としての休業損害を認めさせるには、「主として家事に従事していたこと」を客観的に証明する必要があります。

【証明に有効な証拠の例】

  • 住民票(世帯全員分):家族構成を証明するため。
  • 妻の源泉徴収票や在職証明書:妻がフルタイムで働いており、家事をする時間が限られていることを証明するため。
  • 陳述書:1日のスケジュール(何時に起きて、朝食を作り、掃除をし…といったルーティン)を詳細に記したもの。

6. 計算方法のシミュレーション

6. 計算方法のシミュレーション

主夫の休業損害が認められた場合、具体的にいくらくらいになるのでしょうか。 令和6年の賃金センサス(女性・全年齢平均)を参考に計算してみましょう(※数値は変動します)。

  • 基礎収入(年収):約419万4,400円
  • 1日あたりの基礎収入:約11,491円

【計算式】 休業損害 = 11,491円 × 休業日数
もし、事故による怪我(骨折など)で、家事が十分にできない状態が続き、トータルで「90日分」の休業が認められたとすると:

11,491円 × 90日 = 1,034,190円

約100万円もの休業損害になります。 これを「無職だから0円」と言われて諦めてしまうのは、あまりにも大きな損失です。

【休業日数の数え方】
休業日数は、「入院日数+実通院日数」とする場合や、治療期間全体に対して「徐々に家事ができるようになっていった」として、段階的に割合を減らしていく方法(逓減方式)がとられることがあります。 (例:事故直後1ヶ月は100%、その後2ヶ月は50%など)

7. 弁護士に依頼するメリット

7. 弁護士に依頼するメリット

主夫の休業損害請求は、会社員や専業主婦の場合に比べて、立証のハードルが高いのが現実です。 保険会社は「男性の家事」を厳しく評価する傾向にあり、そもそも「認定しない(0円提示)」か、認めるとしても「自賠責基準(1日6,100円)」などの低い金額を提示してくることがほとんどです。

弁護士にご依頼いただくことで、以下のメリットがあります。

  1. 「主夫」としての認定を勝ち取る
    家事の実態を丁寧にヒアリングし、陳述書や証拠資料を作成して、裁判所基準(弁護士基準)での主夫認定を強く主張します。
  2. 賠償額の増額
    保険会社提示の低い日額ではなく、賃金センサスに基づいた適正な日額(約11,500円程度)での計算を求めます。
  3. 慰謝料の増額
    休業損害だけでなく、入通院慰謝料や後遺障害慰謝料についても、最も高額な「弁護士基準」での交渉が可能になります。

8. 弁護士特約を活用しましょう

8. 弁護士特約を活用しましょう

「弁護士に頼むと費用が高額になるのでは…」と心配される方もいらっしゃるでしょう。 そこで確認していただきたいのが、ご自身やご家族が加入している自動車保険や火災保険に付帯している【弁護士費用特約】です。

弁護士費用特約のメリット

  • 費用負担なし:通常300万円まで弁護士費用が保険から支払われます。多くのケースでは、自己負担ゼロで依頼が可能です。
  • 家族の保険も使える:被害者ご本人が保険に入っていなくても、同居のご家族や、別居の未婚のお子様などが加入している保険の特約を使える場合があります。
  • 等級は下がらない:特約を使っても、翌年の保険料が上がることはありません。

主夫として家事を頑張っていたにも関わらず、事故に遭い、さらに「無職扱い」をされて悔しい思いをされている方は、ぜひ一度、弁護士特約を使ってご相談ください。 当事務所では、主夫の方の正当な権利を守るため、全力でサポートいたします。

9. ご相談・ご質問

9. ご相談・ご質問

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年以上の実績があり、多数の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 交通事故においても、専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 申 景秀
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