刑事裁判において、検察官から懲役刑を求刑された際、被告人にとって最大の関心事は「直ちに刑務所へ収容されるのか(実刑)」、それとも「社会で生活しながら更生の機会を与えられるのか(執行猶予)」という点に集約されます。

執行猶予は決して「無罪」を意味するものではありませんが、日常生活を維持しながら更生を図れるという点で、被告人の人生に決定的な違いをもたらします。

本コラムでは、執行猶予を勝ち取るために必要な法的要件と、裁判官の心証を動かすための情状立証、特に情状証人の選定や再犯防止策の構築について、埼玉県大宮の弁護士が実務的な観点から詳しく解説します。

執行猶予が付されるための法的要件と制限

執行猶予が付されるためには、刑法第25条が定める厳格な要件を満たす必要があります。

第一の条件は、言い渡される刑が「3年以下の懲役もしくは禁錮、または50万円以下の罰金」であることです。したがって、法定刑が非常に重い重大犯罪や、複数の罪を犯して併合罪となり、刑期が3年を超えることが予想される事案では、論理的に執行猶予を付けることはできません。

第二の条件は、過去の犯罪歴です。原則として「前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者」が対象となります。ただし、以前に刑に処せられたことがあっても、刑の執行が終わった日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがなければ、執行猶予の可能性があります。

また、執行猶予期間中の再犯であっても、言い渡される刑が1年以下の懲役・禁錮であり、かつ「情状に特に斟酌すべきものがあるとき」には、極めて例外的に「再度の執行猶予」が付されることがありますが、そのハードルは非常に高く設定されています。

裁判官が執行猶予の可否を判断する際の視点

法的要件を満たしていることを前提として、実際に執行猶予を付すかどうかは裁判官の裁量に委ねられます。裁判官は、犯罪そのものの重さ(犯行の態様、被害の程度、動機)という「犯情」と、被告人の属性や環境(反省の程度、前科、家族のサポート、社会的地位)という「一般情状」を総合的に考慮します。

実務上、執行猶予の判断において最も重視されるのは「再犯の可能性」と「社会内での更生の相当性」です。単に「反省しています」と述べるだけでは不十分であり、なぜ犯行に至ったのかという原因を特定し、その原因が将来において取り除かれていることを客観的に立証しなければなりません。

社会の中で生活させることが、刑務所に収容することよりも本人の更生に資し、かつ社会防衛の観点からも許容されるという論理を構築することが、弁護活動の核心となります。

情状証人の選定――誰が証言台に立つべきか

執行猶予を求める立証活動において、最も重要な役割を果たすのが「情状証人」です。情状証人とは、被告人の性格や普段の素行、そして今後の監督体制について法廷で証言する人物を指します。

証人の選定は、事件の性質に合わせて戦略的に行われるべきです。一般的には配偶者や両親、兄弟などの同居家族が選ばれることが多いですが、それは家族が「24時間の監督」を約束できる立場にあるからです。

しかし、家族関係が希薄な場合や、家族が犯行を助長していたようなケースでは、職場の雇用主や、更生支援施設の職員、あるいは薬物事件であれば主治医などが証人となることが有効です。

裁判所が求めているのは、被告人を単に甘やかす存在ではなく、時には厳しく指摘し、再犯の兆候があれば直ちに当局や専門機関へ報告できる「実効性のある監督者」です。

再犯防止策の具体化――環境調整と具体的プランの提示

執行猶予を勝ち取るためには、抽象的な決意表明ではなく、目に見える「環境調整」の結果を提示する必要があります。

例えば、金銭困窮から窃盗を犯した者であれば、安定した就職先の確保や、親族による金銭管理の徹底、あるいは生活保護の受給決定などが具体的な再犯防止策となります。

薬物事件や性犯罪のように依存症が疑われる事案であれば、専門医療機関への通院実績や、カウンセリングの受講計画、自助グループへの入会などが不可欠な要素となります。

また、住環境が犯行の原因であった場合には、実家への転居や、特定の交友関係を完全に遮断するための連絡手段の廃棄(スマートフォンの解約等)も、有力な情状として評価されます。

これらの措置が「公判が始まる前から既に実施されている」という事実が、裁判官の信頼を勝ち取るポイントとなります。

被害回復の事実――示談の成否が持つ決定的な重み

執行猶予の判断において、被害者との示談が成立しているか否かは、言葉による反省よりもはるかに重く評価されます。

示談の成立は、民事的な責任を果たしたという事実だけでなく、被害者が加害者を許した(宥恕)、あるいは処罰を望まないという意思を表示したことを意味します。

被害者が存在する事件において、示談が成立していない状況で執行猶予を勝ち取るのは、実務上極めて困難です。たとえ全額の示談が難しくとも、可能な限りの被害弁償を行い、真摯な謝罪を継続している姿勢を客観的に立証しなければなりません。

示談金を用意するために、被告人が自ら所有物を処分したり、親族から借財してでも誠意を見せたりしたプロセスも、反省の深さを裏付ける事実として丹念に拾い上げ、法廷で提示します。

「反省」の客観化――謝罪文と更生ノートの活用

裁判官は、被告人の口から出る反省の言葉が本物であるか、それとも「刑を軽くするための演技」であるかを厳しく見極めています。そのため、反省の情を客観化するための工夫が必要となります。

具体的には、被害者への謝罪文(たとえ受け取りを拒否されていても、作成して弁護人が預かっている事実が重要です)や、逮捕から現在に至るまでの内省を綴った「更生ノート」、あるいは二度と事件を起こさないための決意をまとめた「誓約書」などが有効です。

また、自身の犯行がいかに社会に悪影響を与えたかを学ぶため、関連する書籍を読み、その読書感想文を提出することもあります。これらの積み重ねが、被告人が自身の罪と真正面から向き合っているという証拠になります。

贖罪寄付――被害者が不在、または示談拒絶の場合の措置

薬物事件や公然わいせつ罪のように、特定の被害者が存在しない事件、あるいは被害者が示談を一切拒否している事件では、「贖罪寄付(しょくざいきふ)」という手段が検討されます。これは、弁護士会や社会福祉団体などに寄付を行い、その領収書を証拠提出することで、加害者が自己の経済的利益を削って社会に貢献したという事実を記録に残すものです。

贖罪寄付は、単に金を払えば許されるという性質のものではありません。しかし、加害者が自身の経済的基盤にダメージを与えてでも償いたいという意思を示したことは、何もしない場合に比べて、はるかに有利な情状として考慮されます。金額については、事案の重さと本人の資力を考慮して、弁護士と相談の上で決定されます。

公判での被告人質問の重要性――自分の言葉で語ること

裁判のクライマックスは、被告人自身が質問に答える「被告人質問」です。ここで被告人が、弁護人や検察官、そして裁判官からの質問に対して、どのように受け答えをするかが、最終的な判決を左右します。

あらかじめ用意された原稿を読み上げるような回答は、裁判官の心に響きません。なぜ事件を起こしてしまったのかという自己分析を深め、自分の言葉で、時には詰まりながらでも真摯に語る姿勢が求められます。

弁護士は事前の打ち合わせで、被告人が自身の考えを整理できるようサポートしますが、最終的には被告人本人が法廷という場を「更生への出発点」として捉え、真実を語ることが執行猶予への道を切り拓きます。

執行猶予期間中の注意点と「保護観察」の意義

無事に執行猶予付きの判決を得たとしても、それは「執行を猶予されている」に過ぎず、期間内に再び犯罪を犯せば、猶予は取り消され、前刑と合算された期間、刑務所に収容されることになります。

裁判官が「被告人一人の力では再犯防止が難しいが、社会的な支えがあれば更生できる」と判断した場合、執行猶予に「保護観察」を付すことがあります。

保護観察付執行猶予となれば、保護司による定期的な面談や指導を受けることになります。これは一見すると自由が制限されるようですが、実務上は「公的なサポートがある」という評価に繋がり、実刑を回避するためのプラス材料として働くことが多いものです。

判決後にどのような支援体制が継続されるかを立証することも、弁護士の重要な職責です。

執行猶予は「結果」ではなく「更生の始まり」

執行猶予を勝ち取るための弁護活動を淡々と概観するならば、それは「過去の過ちを精査し、未来の再犯リスクを一つずつ消去していく作業」です。

裁判官という専門家に対して、被告人が社会の中で生きていくことが、本人にとっても社会にとっても最善であるという確信を与えることが目的となります。

執行猶予はゴールではありません。司法が与えてくれた貴重な更生のチャンスであり、そこから本当の意味での償いと社会復帰が始まります。

当事務所は、単に判決の結果を追い求めるだけでなく、被告人が二度と法廷に立つことのないよう、家族や専門機関と連携した強固な支援体制を構築し、論理的かつ情熱的な情状立証を展開いたします。被告人が再び日常を取り戻し、社会の一員として再スタートを切るために、私たちは法的専門性を駆使して、あらゆる可能性を追求します。

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 遠藤 吏恭

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