【弁護士コラム】一人親方労災の「落とし穴」にご注意!~保険料の安さだけで選んでいませんか?~

本記事は、さいたま市大宮区にある、埼玉県内でトップクラスの弁護士法人グリーンリーフ法律事務所の労災集中チームの弁護士が執筆しています。

建設業界などで働く「一人親方」の方に見ていただきたい記事です。元請け会社から「労災に入っていないと現場に入れないよ」と言われたことはありませんか? 「とりあえず一番安い保険料のプランで一人親方労災保険に入っておけばいいや」 もしそう考えているなら、それは少し危険かもしれません。

今回は、独立したてのクロス職人・田中さん(仮名・30代)からのご相談を例に、意外と知られていない「一人親方労災」の仕組みと、弁護士だからこそ伝えたい「選び方のポイント」について解説します。

「一人親方労災」って何ですか?

「一人親方労災」って何ですか?

申弁護士(以下、申): 田中さん、こんにちは。今日はどうされましたか?

田中さん(以下、田中): 先生、こんにちは。実は先月から独立して「一人親方」としてクロス張りの仕事を始めたんですが、元請けの社長から「一人親方労災に入ってないと現場に入れられない」って言われてしまって…。 これって、会社員の時に入ってた労災とは別の保険なんですか? 民間の保険に入ればいいってことですか?

申: なるほど、よくあるご相談ですね。 まず誤解を解いておくと、「一人親方労災」という名前の民間の保険商品があるわけではないんです。 本来、国の「労災保険」というのは「労働者(雇われている人)」を守るための制度ですが、一人親方のような自営業者でも、業務の実態が労働者に近い場合、「特別に加入させてあげましょう」という国の制度(特別加入制度)があるんです。現場ではこれを「一人親方労災」と呼んでいるんですね。

労災保険は、本来、労働者の業務または通勤による災害に対して保険給付を行う制度ですが、労働者以外でも、その業務の実情、災害の発生状況などからみて、特に労働者に準じて保護することが適当であると認められる一定の方には特別に任意加入を認めています。これが、特別加入制度です。

田中: へえ、中身は国の制度なんですね。じゃあ、補償内容は会社員の時と同じですか?

申: 基本的には通常の労災と同じです。 仕事中や通勤中のケガであれば、治療費は全額無料(自己負担ゼロ)ですし、休業補償や、万が一後遺症が残ったり亡くなったりした時の補償もしっかり用意されています。

田中: 治療費がタダなのは助かりますね! じゃあ、とりあえずどこかで手続きすればいいんですか? 労働基準監督署に行けばいいとか?

申: いえ、そこが会社員とは違う点の一つです。 一人親方は労働基準監督署で直接手続きすることはできません。必ず、国の承認を受けた「一人親方団体(組合)」を通じて申し込む必要があります。

一人親方等の特別加入については、一人親方等の団体(特別加入団体)を事業主、一人親方等を労働者とみなして労災保険の適用を行います。特別加入の手続きは、都道府県労働局長の承認を受けた特別加入団体が行うことになっています。

田中: 組合を通さないといけないんですね。ネットで検索したらいっぱい出てきましたけど、どこも「月額〇〇円~」って書いてあって値段が違うんです。これ、やっぱり一番安いところが得なんですか?

一番怖い「給付基礎日額」の罠

一番怖い「給付基礎日額」の罠

申: そこが今日一番お伝えしたいポイントです。 田中さん、「保険料が安い」ということは、万が一の時に「もらえるお金も安い」可能性があるということにお気づきですか?

田中: えっ? だって労災って、休んだら給料の8割くらい出るんですよね?

申: 会社員の場合はそうですね。「実際の給料」をベースに計算されます。 しかし、一人親方労災の場合は、「給付基礎日額」を自分で選んで決めるんです。

この「給付基礎日額」は、3,500円から25,000円までの範囲で選べます。 日額を安く設定すれば、毎月の保険料は安く済みます。でも、いざケガをして休んだ時にもらえる「休業補償」も、その設定した日額をベース(給付基礎日額の80%)に計算されるんです。

田中: 自分で決めるんですか…。じゃあ、もし一番安い「日額3,500円」のプランにしたらどうなりますか?

申: 日額3,500円の場合、休業補償として給付されるのは1日あたり2,800円です。 もし大怪我をして1ヶ月(30日)休んだとしても、もらえるのは8万4,000円だけです。

田中: ええっ! 8万じゃ家賃も払えないですよ! 会社員の時はもっと貰えてたのに…。

申: そうなんです。会社員なら「稼いでいる額」が自動的に基準になりますが、一人親方は「自分で設定したランク」までしか保証されないのです。 「現場に入るためのパスポート」だと思って安易に最低ランクを選ぶと、いざという時に生活が破綻してしまうリスクがあるんですよ。

給付基礎日額とは、保険料や、休業(補償)等給付などの給付額を算定する基礎となるもので、申請に基づいて、労働局長が決定します。給付基礎日額が低い場合は、保険料が安くなりますが、その分、休業(補償)等給付などの給付額も少なくなりますので、十分ご留意の上、適正な額を申請してください。

給付基礎日額を変更したい場合は、事前(3月2日~3月31日)に「給付基礎日額変更申請書」を監督署長を経由して労働局長あて提出することによって、翌年度より変更することができます。 また、労働保険の年度更新期間中にも「給付基礎日額変更申請書」により当年度に適用される給付基礎日額の変更が可能です。
ただし、災害発生前に申請することが前提になります。

給付基礎日額変更申請書を提出する前に災害が発生している場合は、当年度の給付基礎日額変更は認められませんので、給付基礎日額の変更を検討されている方は、事前の手続きをお勧めします。

一生を左右する「後遺症」の補償額

一生を左右する「後遺症」の補償額

田中: 生活費が足りなくなるのは怖いですね…。少し高めに設定しようかな。

申: ぜひそうしてください。 さらに弁護士として怖い話をしておくと、この設定金額は、単なる休業補償だけでなく、「障害補償(後遺症が残った時のお金)」「遺族補償(亡くなった時のお金)」の金額にも直結するんです。

田中: えっ、一生に関わるような大きなお金も、その設定で変わっちゃうんですか?

申: はい、劇的に変わります。 法律用語で「逸失利益(将来稼げたはずのお金)」という考え方がありますが、労災保険の年金給付は、この「給付基礎日額」をもとに計算されます。

極端な例ですが、もし事故で両目が失明するなどして働けなくなった(障害等級1級)としましょう。この場合、亡くなるまで毎年年金がもらえますが、その額を比べてみましょう。

  • パターンA:保険料を「日額3,500円」にしていた場合 もらえる年金は、年間 約110万円(月額 約9万円)です。
  • パターンB:実態に合わせて「日額20,000円」にしていた場合 もらえる年金は、年間 約626万円(月額 約52万円)です。

田中: 月9万と月50万…全然違いますね!

申: もし30代で被災して、その後50年生きたとしたら、生涯でもらえる総額は数億円の差になります。 日額を低く設定するということは、「自分にもしものことがあっても、家族や自分の将来の補償は最低ランクでいいです」と自分で宣言しているのと同じことになってしまうんです。

田中: うわあ、それは恐ろしいですね。「自分は大丈夫」なんて思っちゃダメですね。

元請けに対する損害賠償請求

元請けに対する損害賠償請求

田中: なるほど…。単に入ればいいってものじゃないんですね。 先生、もし適正なプランに入っていたとしても、元請けの足場が悪くて落ちた、みたいな事故だったら、元請けに文句言えないんですか?

申: 良い質問ですね。 労災保険はあくまで「国からの最低限の補償」です。もし事故の原因が元請け会社の安全管理ミス(安全配慮義務違反)にある場合は、労災保険とは別に、元請け会社に対して損害賠償請求ができる可能性があります。

法律用語では「安全配慮義務違反(あんぜんはいりょぎむいはん)」「不法行為責任(ふほうこういせきにん)」と言います。 例えば、次のようなケースです。

  • 元請けが設置した足場や手すりが壊れていた。
  • 「安全帯を使うな」など、危険な指示をされた。
  • 落下防止ネットを張るべき場所に張っていなかった。

このように、「元請けがやるべき安全対策を怠ったせいで事故が起きた」という事実がある場合に初めて、会社に対して責任を追及できます。

この場合は、労災保険の設定金額に関わらず、田中さんの「実際の稼ぎ(確定申告書など)」をベースに損害額を計算して請求します。 ただし、裁判や交渉には時間がかかりますし、相手に支払い能力がない場合もあります。 やはり、「確実に、すぐに国から支払われる」労災保険の部分をしっかり設定しておくことが、自衛策になりますよ。

「特別な社会的接触の関係」とは、法律上の契約(雇用契約など)が直接なくても、ある人が他人の組織に組み込まれ、その指示や管理の下で活動する場合に認められる「実質的な信頼関係」を指します。

通常、安全配慮義務(相手の生命や身体を守る義務)は「雇用契約」を結んでいる当事者間で発生します。しかし、建設現場の一人親方のように、形式上は「請負契約」や「外注」であっても、実態として元請けの管理下で作業を行う場合、雇用契約がないことを理由に一切の責任を否定するのは不公平です。 そのため、最高裁判所の判例に基づき、以下の考え方が確立されました。

・信義則上の義務
ある人が特定の事業者の組織に組み込まれ、その管理下で労務を提供する場合、両者の間には「特別な社会的接触の関係」が生じているとみなされます。この関係に基づき、事業者は信義則上、その人の安全に配慮する義務(安全配慮義務)を負うことになります。

・実質的な支配・管理が鍵
契約の形式がどうあれ、元請けが現場の安全を統括し、一人親方に対して具体的な指示を出しているような「実質的な支配・管理関係」があれば、この理論によって元請けに対する損害賠償請求が可能になる場合があります。 この概念があるおかげで、一人親方であっても「社員ではないから自己責任だ」と切り捨てられることなく、元請けの安全管理ミスを追及する道が開かれています。

まとめ:自分の身は自分で守ろう

まとめ:自分の身は自分で守ろう

田中: 先生、よく分かりました。 「保険料がもったいない」なんて言わずに、自分の稼ぎに見合った日額で加入します。何かあった時に家族を泣かせたくないですからね。

申: それが賢明な判断です、田中さん。 一人親方は体が資本です。ご自身の身を守るためにも、ぜひ内容をよく理解して加入してくださいね。

【今回のポイント】

  1. 一人親方労災は「国の制度」。 治療費無料などの強力なメリットがある。
  2. 給付基礎日額は慎重に選ぶ。 安易に最低額にすると、休業時や後遺症が残った時に生活できなくなるリスクがある。
  3. 万が一の時は弁護士へ。 労災申請の手続きや、元請けへの損害賠償請求など、トラブルの際は早めにご相談ください。

当事務所では、労災事故に遭われた方からのご相談を数多くお受けしています。 「労災が下りるか不安」「会社への請求を考えたい」といったお悩みがあれば、ぜひ一度、弁護士法人グリーンリーフ法律事務所までご相談ください。親身になってサポートさせていただきます。

弁護士に相談・依頼するメリット

弁護士に相談・依頼するメリット

労災に遭ってしまった場合なぜ弁護士が必要なのでしょうか。それは、慰謝料は労災からは支給されませんし、後遺障害を負った場合の逸失利益の補償も不十分であるからです。

また、労災が認められたとしても、されに請求をするためには、元請け相手に損害賠償請求を行う必要があります。

元請けに過失が認められるかどうかは、労災発生時の状況や指導体制などの多くの要素を考慮して判断する必要がありますので、一般の方にとっては難しいことが現実です。

弁護士にご相談いただければ、過失の見込みについてもある程度の判断はできますし、ご依頼いただければそれなりの金額の支払いを受けることもできます。

また、一般的に、後遺障害は認定されにくいものですが、弁護士にご依頼いただければ、後遺障害認定に向けたアドバイス(通院の仕方や後遺障害診断書の作り方など)を差し上げることもできます。

そのため、労災でお悩みの方は、まずは弁護士にご相談いただくことをおすすめいたします。労働災害については、そもそも労災の申請を漏れなく行うことや、場合によっては会社と裁判をする必要もあります。

労災にあってしまった場合、きちんともれなく対応を行うことで初めて適切な補償を受けることができますので、ぜひ一度弁護士にご相談いただけますと幸いです。

労災関連のご質問・ご相談

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グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。

また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。労災分野では労災事故と後遺障害に集中特化した弁護士チームが、ご相談から解決まで一貫してサポートいたします。

初回相談無料:まずはお気軽にご状況をお聞かせください。

後遺障害労災申請のサポート:複雑な手続きもお任せいただけます。

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労災事故で心身ともに大きな傷を負い、将来への不安を抱えていらっしゃるなら、決して一人で悩まないでください。お気軽にご相談ください。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 申 景秀
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