ペダル付き原動機付自転車(モペット)との事故について弁護士が解説します

交通事故は、いつ誰の身に降りかかるか予測できない不測の事態ですが、その中でも原動機付自転車(原付)が関わる事故も多いです。その手軽さゆえに、原付は、通勤、通学、買い物といった日常生活の「足」として非常に身近な乗り物ですが、自動車と比較して軽微であるという認識が、事故発生時の深刻な結果や、その後の法的な責任の重さを見誤らせる原因となりがちです。
最近では、モペットと呼ばれる、自転車のような原付が登場しました。そして、道路交通法の一部が改正され、ペダル等を備えている原動機付自転車(モペット)をペダル等を用いて走行させることは、原動機付自転車等の運転に該当することが明確化されました。

本稿では、弁護士の視点から、国土交通省の提供する情報を基に、特にペダル付き原動機付自転車(モペット)の自賠責保険の重要性、その義務を怠った場合の厳罰、そして補償の限界について詳細に解説していきます。

1.原動機付自転車の分類と自賠責保険の絶対的義務

1.原動機付自転車の分類と自賠責保険の絶対的義務

原動機付自転車と一口に言っても、道路交通法や車両法においてはいくつかの区分が存在します。一般に「原付」と呼ばれるのは主に排気量50cc以下の第一種原動機付自転車ですが、これに加えて排気量50cc超125cc以下の第二種原動機付自転車、さらには近年登場した特定小型原動機付自転車(電動キックボード等)といった区分も加わり、それぞれ運転免許や交通ルールが異なります。しかし、これらの区分に関わらず、日本の公道を走るすべての原動機付自転車は、自賠責保険への加入が必要です。

自賠責保険は、自動車損害賠償保障法に基づき、被害者の最低限の救済を目的として国が定めた強制保険です。モペットを含むすべての車両の保有者に対して、加入と保険標章の表示が義務付けられています。これは任意に加入するかどうかを選択できる「任意保険」とは異なり、文字通り「責任保険」として、公道を走行する上での最低限の社会的責任を果たすための制度です。

2.ペダル付き原動機付自転車(モペット)とは?

2.ペダル付き原動機付自転車(モペット)とは?

ペダルを漕がずにモーターの動力のみで走行可能な、フル電動自転車/ペダル付き電動バイク/ペダル付き原動機付自転車です。
公道を走行するには保安基準に適合しなければなりません。

すなわち、

前方/運転席周りの装置

  • バックミラー:後方の視界を確保するための鏡です。
  • ヘッドライト:前方を照らすための前照灯です。
  • ウインカー:右左折や進路変更の合図を送るための方向指示器です。
  • クラクション:危険を知らせるための警音器です。
  • ブレーキ:車両を減速・停止させるための装置で、図では前輪部分に示されています。

後方/車体部の装置

  • テールランプ:夜間に後方へ車両の存在を示すための尾灯です。
  • リフレクター:光源の反射により、後方からの視認性を高める反射材です。
  • ナンバープレート:車両識別のため、市町村が交付する標識です。
  • ブレーキ:後輪を減速・停止させるための装置です。

これらを備える必要があります。

3.自賠責保険・共済とは?

3.自賠責保険・共済とは?

自賠責保険・共済の正式名称は、「自動車損害賠償責任保険及び自動車損害賠償責任共済」と言います。

自賠責保険・共済は、交通事故を起こした人(加害者)から被害者への損害賠償の補填をはじめ、寝たきりや車椅子利用など、日常生活動作において介護が必要な方の介護料の支援や、重度の後遺障害の方々の治療を専門とする病院の運営など、さまざまな形で被害者を救済している保険・共済制度です。

自賠責保険・共済は必ず加入の必要がある強制保険・共済です。自賠責保険・共済に未加入・未更新で運転した場合、以下の処分がなされます。

  • 1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金
  • 違反点数6点(免許停止処分)

自賠責保険に加入せずに原付を運転すること、あるいは有効期限切れの状態で運転することは、単なるルール違反では済まされない重大な法律違反行為です。

自賠責保険・共済による補償

自賠責保険・共済による補償

自賠責保険は強制保険として最低限の救済を果たすものですが、その補償には明確な上限(支払限度額)が設けられています。傷害による損害では最大120万円、後遺障害による損害では最大4,000万円(重度の場合)、死亡による損害では最大3,000万円という枠組みが基本です。

死亡による損害
:最高3,000万円

後遺障害による損害
:最高4,000〜75万円(後遺障害等級による)※

傷害による損害
:最高120万円

※神経系統・精神・胸腹部臓器に著しい障害を残して介護が必要な場合
常時介護:4,000万円(第1級)、随時介護:3,000万円(第2級)

※上記以外の後遺障害
3,000万円(第1級)〜75万円(第14級)

※1つの事故で複数の被害者がいる場合でも、被害者1人ごとに上記の支払限度額が設定されます。

一見すると十分な金額に思えるかもしれませんが、死亡事故や将来にわたっての介護が必要となる重度の後遺障害が残った場合、実際の損害額はこれらの上限額を遥かに超えることがほとんどです。特に、高額所得者に対する逸失利益の算定や、将来的な介護費用を合算した場合、数千万円~数億円の賠償が命じられるケースも存在します。自賠責保険の限度額を超過した部分については、加害者自身が支払う義務を負うことになります。

さらに注意すべきは、自賠責保険が補償するのは人身事故の損害のみであり、物損事故(車両やガードレール、家屋などの修理費用)は一切補償されないという点です。原付の事故でも、相手の高級車を破損させたり、店舗の設備を壊したりすれば、数百万単位の物損賠償が発生することは十分に考えられます。

したがって、原付であっても、自賠責保険だけでは「最低限」の義務を果たしたに過ぎず、加害者自身の身を守るためには、必ず任意保険に加入することが強く推奨されます。

任意保険は、自賠責保険の上限を超過する賠償額や、物損事故の賠償をカバーするために存在しており、原付特有のリスク(車体の小ささからくる事故の危険性、被害者の重傷化の可能性)を考慮すれば、その加入は必須と言えるでしょう。

後遺障害で請求できる損害賠償(慰謝料など)

後遺障害で請求できる損害賠償(慰謝料など)

ここからは、交通事故で後遺障害が残った場合について解説してきます。

例えば、モペットの事故で手首を骨折した場合、加害者(側の保険会社)に対して請求できる損害賠償項目は多岐にわたります。

  • 治療関係費: 治療費、入院費、通院交通費、装具代(サポーターなど)の実費です。
  • 休業損害: お怪我で仕事を休んだことによる収入減です。 利き手の手首骨折の場合、デスクワーク、手作業、運転など、多くの仕事に支障が出るため、休業損害は重要な項目となります。主婦(主夫)の家事労働も休業損害として認められます。
  • 入通院慰謝料(傷害慰謝料):
    • 入院や通院を強いられたことによる精神的苦痛に対する補償です。 この金額は、「全治何ヶ月」すなわち治療にかかった期間(入院期間・通院期間)を基礎として計算されます。慰謝料の計算には「自賠責基準」「任意保険基準」「弁護士基準(裁判基準)」という3つの基準があります。 保険会社が提示してくるのは低い基準ですが、弁護士が交渉する際は、最も高額な「弁護士基準」で請求します。
    • 骨折のような重傷の場合は、むちうち等より高額な慰謝料基準(赤い本・別表I)が適用されます。

●表の見方

  • 入院のみの方は、「入院」欄の月に対応する金額(単位:万円)となります。
  • 通院のみの方は、「通院」欄の月に対応する金額となります。
  • 両方に該当する方は、「入院」欄にある入院期間と「通院」欄にある通院期間が交差する欄の金額となります。

【等級別】後遺障害慰謝料の相場(弁護士基準)

参考までに、手首の骨折で認定されうる等級の後遺障害慰謝料(弁護士基準)の相場をご紹介します。

※下記はあくまで目安です。任意保険会社の提示額は、これよりも大幅に低いことがほとんどです。

後遺障害等級 裁判基準 労働能力喪失率
第1級 2,800万円 100/100
第2級 2,370万円 100/100
第3級 1,990万円 100/100
第4級 1,670万円 92/100
第5級 1,400万円 79/100
第6級 1,180万円 67/100
第7級 1,000万円 56/100
第8級 830万円 45/100
第9級 690万円 35/100
第10級 550万円 27/100
第11級 420万円 20/100
第12級 290万円 14/100
第13級 180万円 9/100
第14級 110万円 5/100

逸失利益 – 将来の収入減に対する補償

将来得られるはずだったが、後遺障害のために得られなくなってしまった収入のことを「後遺障害逸失利益」といいます。専門用語で「得べかりし利益(うべかりし利益)」とも言います。

逸失利益は、基本的には1年あたりの基礎収入に、後遺障害によって労働能力を失ってしまうことになってしまうであろう期間(労働能力喪失期間。)と、労働能力喪失率(後遺障害によって労働能力が減った分)を乗じて算定することになります。

ただし、将来もらえる金額を、一括してもらう事になるので、「中間利息」というものを控除する事になります。

中間利息の控除は、一般的にはライプニッツ式という方式で計算されます。

まとめると、後遺障害事故における逸失利益は以下の計算式によって算定されます。

1年あたりの基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数
  • 基礎収入⇒ 事故にあった方の事故時の収入です。
  • 労働能力喪失率⇒ 後遺障害によりどの程度労働ができなくなるかの率です。表により大体定型化されています。先ほどの表に載っています。
  • 労働能力喪失期間⇒ 症状固定の日から67歳までとされています。
  • ライプニッツ係数⇒ 定型化されています。こちらのページで解説しています。

弁護士特約とは?弁護士費用がかからない?

弁護士特約とは?弁護士費用がかからない?

【弁護士費用特約】とは、ご自身が加入している、自動車保険、火災保険、個人賠償責任保険等に付帯している特約です。

弁護士費用特約が付いている場合は、交通事故についての保険会社との交渉や損害賠償のために弁護士を依頼する費用が、加入している保険会社から支払われるものです。

被害に遭われた方は、一度、ご自身が加入している各種保険を確認してみてください。わからない場合は、保険証券等にかかれている窓口に電話で聞いてみてください。

弁護士特約の費用は、通常300万円までです。多くのケースでは300万円の範囲内で、自己負担一切なしでおさまります。

骨折や重傷の場合は、一部超えることもありますが、弁護士費用特約の上限(通常は300万円)を超える報酬額となった場合は、越えた分を保険金からいただくということになります。

なお、弁護士費用特約を利用して弁護士に依頼する場合、どの弁護士を選ぶかは、被害に遭われた方の自由です。

※ 保険会社によっては、保険会社の承認が必要な場合があります。

弁護士費用特約を使っても、等級は下がりません。弁護士費用特約を利用しても、等級が下がり、保険料が上がると言うことはありません。

弁護士特約はご自身に過失があっても使えます。また、過失割合10:0の時でも使えます。なお、被害者に過失があっても利用できます。

まずは、ご自身やご家族の入られている保険に、「弁護士特約」がついているか確認してください。火災保険に付いている事もあります。

まとめ:モペットの被害事故は、弁護士への早期相談が重要です

まとめ:モペットの被害事故は、弁護士への早期相談が重要です

モペットに追突され、骨折をしたという方の相談を受けました。

「いつまで経っても痛みが取れない」「保険会社に『もう治っているはずだ』と言われた」などのお悩みを聞いて、この記事が、モペット事故の被害者に届けば良いと思い、執筆に至りました。

交通事故でお悩みの方は、ぜひ一度、交通事故に精通した弁護士にご相談ください。

ご自身の保険に弁護士費用特約が付いていれば、費用の心配なくご依頼いただくことが可能です。当事務所では、交通事故の専門チームが、皆様一人ひとりのお悩みに寄り添い、正当な賠償金を得るためのお手伝いをさせていただきます。

ご相談 ご質問

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大きなケガの事故では、相手保険会社の提示額が、弁護士基準よりも大幅に低い「任意保険基準」で計算されているケースが少なくありません。

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年以上の実績があり、多数の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。

交通事故においても、専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。

交通事故でお悩みの方に適切なアドバイスができるかと存じますので、まずは、一度お気軽にご相談ください。

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グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。

■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 申 景秀
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