
労災の中でもフライス盤による労災は発生件数が多いです。
このような労災に遭った場合、適切な賠償を得るためには、会社にはどのような点で責任があるのか、どのような損害を請求できるのか知っておく必要があります。
このコラムでは、実務で重要な点を詳しく解説します。
1 フライス盤とは?

(1)フライス盤とは何か
フライス盤(ミリング・マシン)は、フライスと呼ばれる切削工具(刃物)を高速で回転させ、工作物(加工したい材料)を固定したテーブルを動かすことによって、平面、溝、段差、歯車などの切削加工を行う工作機械です。
彫刻に似た作業で、目的の形通りに材料を削るために使用され、自動車部品、医療機器、金型など、幅広い「ものづくり」の分野で重要な役割を果たしています。
(2)フライス盤の種類
フライス盤は、主軸の向きや制御方法によって様々な種類に分類されます。
ア 主軸の方向による分類
立(たて)フライス盤:主軸が地面に対して垂直方向(立方向)に付いているもの。一般的にフライス盤の主流で、四角形状の加工など汎用性が高いのが特徴です。
横(よこ)フライス盤:主軸が地面に対して**水平方向(横方向)**に付いているもの。溝加工や切断加工、大型部品の多面加工に適しています。
イ 制御方法による分類
汎用フライス盤:手動で操作を行い、作業者のスキルやミスが精度に影響しやすいタイプ。コストが低く、少量の特注生産や試作に向いています。
NC(数値制御)/ CNCフライス盤:コンピュータとプログラムで一連の操作を制御し、自動で加工を行うタイプ。複雑な加工や高精度な加工が可能で、連続生産・大量生産に適しています。
マシニングセンタ:NCフライス盤の機能に加え、**自動工具交換装置(ATC)**を備えた工作機械。フライス加工だけでなく、穴あけやタッピングなどの作業を自動化でき、多工程を一台に集約して高生産性を実現します。
2 フライス盤で多発する事故類型

(1)巻き込まれ・挟まれ事故
軍手や作業服の巻き込まれ:切削作業中や、回転中の切削刃(刃物)に近づいた際に、軍手や袖口などの衣服が刃物に触れて巻き込まれ、重傷や死亡に至るケースが頻発しています。
原因:回転中の刃物に手を近づけたこと。特に、軍手を着用したまま作業を行い、切粉(切りくず)を手で払おうとした際に巻き込まれる事例が非常に多いです。
治具への挟まれ:ワーク(加工物)をセットする際などに、手動ボタンでクランプ(固定具)を下降させたとき、指が治具の間に挟まれて挫滅創を負うことがあります。
回転中のワークへの巻き込まれ:ワークの取り付けが不十分で、ワークがドリルやカッターと一緒に回転し、手が接触して負傷する事例もあります。
(2)切創・裂傷事故
切粉(切りくず)による怪我:切削によって生じた切りくずを素手で扱ったり、無意識に手で払おうとした際に、切りくずが手に絡みつき、回転中の刃物に引き込まれて切創や骨折を負うことがあります。
原因:回転が停止する前に切りくずを除去しようとしたこと。
(3)飛来物による事故
切削片(切りくず)の飛散:高速回転で加工中に飛び散った切りくずが目に入り、怪我をする。
原因:保護眼鏡を着用していなかったこと。
3 フライス盤で発生する労働災害の現状

具体的なフライス盤単体の全国的な発生件数の最新データは公表されていませんが、製造業全体の傾向から、その状況を把握できます。
(1) 製造業における労災発生状況の傾向
厚生労働省の統計によると、製造業における労災は以下の傾向を示しています(休業4日以上の死傷者数):
ア 事故の型別で最も多いのが「はさまれ・巻き込まれ」
製造業で発生する労働災害の事故の型別ランキングでは、「はさまれ・巻き込まれ」が最も多くなっています。
製造業の労災ランキング(令和5年)
はさまれ・巻き込まれ(6,377件)
転倒(5,823件)
動作の反動・無理な動作(3,191件)
この「はさまれ・巻き込まれ」は、フライス盤を含む機械による回転部分が主な原因であり、特に重大な事故につながりやすい型です。
イ 機械による「はさまれ・巻き込まれ」の全体数
製造業における機械による「はさまれ・巻き込まれ」の死傷者数全体は、令和6年で4,692人でした(前年比4.4%減)。
4 労働安全衛生法と使用者責任

(1)労働安全衛生法の定め
フライス盤に関する労働安全衛生法(安衛法)および関連する労働安全衛生規則(安衛則)は、主に回転部分への接触による危険の防止と飛来物からの保護、そして機械の構造的な安全基準について定めています。
以下に主なルールをまとめます。
ア 機械の構造と安全装置に関するルール
フライス盤などの工作機械の構造には、労働者に危険を及ぼさないための技術上の指針が定められています。
危険部分の覆い(ガード)の設置:
事業者は、機械の原動機、回転軸、歯車、プーリー、ベルトなど、労働者に危険を及ぼすおそれのある部分には、覆い、囲い、スリーブ、踏切橋などを設けなければなりません。
特に、工作機械の動力伝導部分や、運転中に加工物・部品等が飛来するおそれのある部分には、覆いを設ける必要があります。
止め金具等の埋頭化または覆い:
回転軸、歯車、プーリーなどに付属する止め具は、巻き込まれを防ぐため、埋頭型のものを使用するか、または覆いを設けなければなりません。
安全インターロック機能(望ましい要件):
開閉式の覆い(カバー)がある場合、その覆いが開いているときは機械が運転できないようにするインターロック機能を有することが望ましいとされています。
イ 作業方法に関するルール(特に危険防止)
回転する機械による労災が多いため、作業手順には厳しいルールがあります。
手袋(軍手)の使用禁止:
フライス盤のような回転する刃物を使用する機械の作業では、原則として軍手などの手袋を使用してはなりません(特に巻き込まれ防止のため)。
運転停止の徹底:
工作物や工具の取り付け、取り外し、寸法のチェック(測定)などは、必ず機械が完全に停止してから行う必要があります。
切りくずの除去(切粉払い)も、必ず主軸の回転を停止させてから行い、ピンセットや油筆など専用の用具を使用しなければなりません。
保護具の着用:
削り屑や粉塵が飛散する作業では、防護メガネや安全ゴーグルを必ず着用しなければなりません。
作業服の規制:
巻き込まれを防止するため、作業服は袖口や裾が閉じているものを着用し、手拭いなどを腰にぶら下げたまま作業をしないようにする必要があります。
ウ 作業主任者の選任(木材加工の場合)
フライス盤作業そのものに特化した「作業主任者」の選任義務はありませんが、木材加工用の機械(丸のこ盤、帯のこ盤、ルーターなど)を合計5台以上(自動送材車式帯のこ盤を含む場合は3台以上)設置している事業場では、木材加工用機械作業主任者の選任が義務付けられています。
選任された作業主任者は、以下の職務を行う必要があります。
- 木材加工用機械を取り扱う作業を直接指揮すること。
- 機械およびその安全装置を点検すること。
- 機械およびその安全装置に異常を認めたときは、直ちに必要な措置をとること。
(2)使用者責任
会社の従業員のミス等でフライス盤による労災に遭った場合、会社に対して使用者責任を追及できる可能性があります。
使用者責任とは、労働者を使用している者(使用者、会社)が、労働者が他者に損害を発生させた場合に、その損害を米証する責任を負うことです。
会社としては、使用者責任を追及された場合、使用者は、労働者の選任及び監督について相当の注意をしたこと、または、相当の注意をしても損害が発生するものであったことを立証しなければ、責任を免れません。
5 労災保険給付と会社への損害賠償を並行して請求する方法

労災保険給付は国から受ける給付であり、会社への損害賠償請求は会社を相手方とする請求ですので、両者を並行して行うことは可能です。
もっとも、以下の点には注意が必要です。
(1) 二重取り(不当利得)はできない
労災保険で既に給付された分(例:治療費)は、損害賠償の金額から差し引かれる可能性があります。
ただし、慰謝料や逸失利益(将来の収入の補填)については差し引かれません。
(2)請求期限(時効)に注意
労災給付と会社への損害賠償請求には以下のように時効がありますので、これらを徒過しないように注意が必要です。
労災給付:原則として事故から2年以内
損害賠償:事故から5年以内(2020年4月以降の事故)
6 労災保険で受け取れる給付の種類

労災保険で受け取れる給付には、主に、以下のようなものがあります。
(1)療養(補償)給付
治療費の全額を補償するものです。
病院での診察、入院、手術、投薬、リハビリなどの費用が対象です。
労災指定病院で受診すれば自己負担は基本的にゼロです。
基本的に、治療が必要な限り、治療費等が支給されます。
(2)休業(補償)給付
仕事を休まざるを得なくなった場合の給料の補償に相当するものです。
支給額は、休業4日目以降、給付基礎日額の80%(60%+特別支給金20%)です。
給付基礎日額は、事故前3か月の平均日給です。
(3)障害(補償)給付
後遺障害が残った場合の補償です。
障害等級(1〜14級)に応じて「一時金」または「年金」が支給されます。
1級~7級は年金、8級~14級は一時金が支給されます。
この他に、特別支給金(国から上乗せ支給)も支給されることがあります。
7 会社への損害賠償請求

(1)どのような請求ができるか
労災が発生した場合、会社に対して損害賠償することが考えられます。
法律的には、使用者責任と安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求が考えられます。
(2)使用者責任
3(2)でご説明したとおり、会社の従業員の行為により、労災に遭った場合、会社に対して使用者責任を追及できる可能性があります。
(3)安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求
会社には安全配慮義務(労働者の生命・身体を守るべき義務)があります。
会社がこの義務に違反していた場合、会社は損害賠償責任を負う可能性があります。
この請求を行うためには、会社にどのような安全配慮義務があり、それにどのように違反したのかを証明する必要があります。
そのため、事実関係を十分に把握し、詳細な検討が必要となります。
8 弁護士に労災を依頼するメリット

(1)損害賠償請求が有利に進む
労災保険の給付とは別に、会社の安全配慮義務違反があれば民事上の損害賠償請求ができます。
弁護士に依頼すれば、慰謝料や逸失利益などの請求が可能です(労災保険ではカバーされないものです。)。
(2)会社や保険会社との交渉を代行してくれる
会社が非協力的・冷たい態度をとるケースでも、弁護士が交渉窓口になることで精神的負担が激減します。
また、弁護士に依頼することで、労災申請を渋る会社に対して、法的な対応を促すことも可能です。
(3)複雑な労災申請の手続きを代行・サポートしてくれる
各種申請書(障害補償給付など)の記入支援や提出代行が可能です。
弁護士が入ることで、労働基準監督署との対応もスムーズになります。
特に長期休業・後遺障害・死亡事故では手続きが煩雑になりやすく、そのような場合は、弁護に依頼する方が良いでしょう。
9 当事務所のサポート内容

当事務所では、会社に対する損害賠償請求や後遺障害申請のご依頼を受けています。
ご依頼を受けている内容や弁護士費用については、以下のページをご参照ください。
労災は手続きが複雑であり、会社に対する損害賠償請求にも専門的な知識が必要となりますので、労災に遭われた場合は、是非お早めにご相談ください。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。





