
ご自身が相続の当事者となるとき、どのようなことに注意や配慮をすればよいか分からないというお悩みもあるかと思われます。この記事では、会社の経営者(株式保有者)の方が突然亡くなったケースを想定して、考え方や解決策のひとつを解説していきます。
ケース紹介

Xさんから下記のようなご相談があったとします。
【Xさんの相談内容】
夫が亡くなりました。
ほんとうに突然のことでした。
夫(Aさん)は、いわゆるワンマン社長で、朝から晩まで働き続け、仕事のあとは飲み歩き、家にはほとんど帰ってこないような多忙な日々を過ごしていました。
忙しさと病院嫌いがあいまって、がんと診断されたときには、すでに手遅れの状態でした。
亡くなることの準備が何もできないまま、夫は旅立ってしまいました。
遺言もありません。
夫の遺産は、自宅や車、預貯金といったものもありますが、問題なのは株式です。
夫は、夫が起業した甲社の株を100株(発行株式の100%)持っています。
その他にも、夫の父親が経営していた乙社の株も100株(発行株式の100%)持っているようですが、これは夫の父親が10年前に亡くなった際に相続したものだそうです。
乙社が現在どのような状況なのかは分かりません。
私と夫の間には子どもがいません。
そうすると、夫の母親(Bさん)が相続人になると聞きました。
でも、夫の母親は高齢で、会社の経営にかかわることはできないと思います。
私も、会社のことはよく知りませんから、実際に経営することは難しいでしょう。
甲社には、夫の弟のYさんが副社長として入っていますから、できれば甲社はYさんに任せたいです。
【Aさんの遺産内訳】
・預貯金 …500万円
・自宅不動産(土地建物) …4000万円
・車 …300万円
・甲社株式 …100株
・乙者株式 …100株
問題が山積み!会社経営者の相続問題

一般のサラリーマンの方が亡くなって相続が生じるときと異なり、会社経営者の方が亡くなった場合には、2つの特徴的な問題が存在します。
ひとつめが、経営していた会社の「株式」または「持分」の問題。
ふたつめが、「保証人」や「借入」の問題です。
以下順に考えてみましょう。
⑴ 経営していた会社の「株式」または「持分」の問題
今回のケースのようにワンマン社長が亡くなってしまうと、事実上、会社の舵取りがいなくなって困ってしまうということはあるかと思います。
しかしながら、いわゆる肩書としての「社長」というのは、相続の対象とはなりません。
そのため、例えば今回のケースで相談者のXさんが「社長」を継いで、甲社の舵取りをしなくてはならないというわけではありません。
一方で、会社の「株式」というのは相続の対象となります。
株と聞くと、昨今では投資対象というイメージの方が大きいかもしれませんが、そもそも株(株式)というのはいわば分割された「会社の経営権」のことです。
例えば、会社には取締役という人がいます。会社の業務執行についての意思決定をする人ですね。イメージとしては会社の「頭」「脳」という感じでしょうか。
会社の取締役は、株主総会において多数決で決まります。
過半数以上の株式を持つ人は、株主総会で自分が推薦する人物を取締役にできますから、事実上、会社の経営を左右できる立場にあるということになります。
今回のケースでいくと、Xさんは甲社の次期社長をYさんにしたいということですから、例えばXさんが甲社の株式を全て相続して、株主総会においてYさんを取締役に指名し、Yさんに(代表)取締役兼社長をやってもらうということも可能というわけです。
ちなみに、経営していた会社が「株式会社」ではなく「持分会社」である場合には少し話が違ってきます。
持分会社とは、合名会社、合資会社、合同会社の総称ですが、持分会社の「持分」(株式会社の「株式」に相当します。)は原則として相続されません。
「持分」を持っていた人(法律上「社員」と呼びます。)が亡くなると、その社員は退社となり、相続人は持分に応じた金銭の払戻請求権を相続するのみとなります。
したがって、「持分会社」の場合には、経営権の相続という問題は生じないのが原則です。
現代では、株式会社の設立条件が緩和されたこともあり、圧倒的に株式会社の方が数が多い状況です。
したがって、今回のケースのように、株式会社の「株式」を持っているワンマン社長、という方は比較的多いのではないかと思います。
この「株式」を誰が相続するのか、あるいは最終的に誰が取得するのか、その評価額をいくらとするのか、などという点を、相続の場面で考えていかなければならないということになります。
⑵ 「保証人」や「借入」の問題

ふたつめの「保証人」「借入」の問題は、かなりシビアな話になります。
「社長」や「会社経営者」と聞くと、きらびやかな(有体に言えば「お金持ちな」)イメージがあるかと思いますが、実態はケースにより千差万別です。
というのも、簡単に言えば、会社が大きな借金を負っており自身がその保証人になっている場合、あるいは会社の運転資金のために自身の名で借入を行っている場合などが多く存在するからです。
会社が運転資金等を金融機関から借入する際に、社長などの経営者個人が連帯保証人になるように求められることはごく一般的かと思われます。
この連帯保証人の地位(つまり保証人としての負担)は、相続により相続人に引き継がれます。
もし会社がすでに火の車で、早晩倒産するしかないような状態だとすれば、その保証人としての地位を相続した場合、会社の借金を代わりに支払わなくてはならなくなり、結果として自身も破産をする必要が出てくるかもしれません。
また、保証人ではなく、単純に自身の名で(個人として)借り入れた金員を、会社の運転資金に投入してしまったということもあり得ます。
この場合の借金も、マイナスの財産として相続の対象となります。
こういった事情から、実は相続せずに相続放棄するべき事案というのも一定数存在します。
社長が亡くなったという場合には、相続について即断せず、「相続放棄」の可能性をなくさないような初動を心掛ける必要が高いと言えるでしょう。
具体的には、
①相続の「承認」をせず
②「熟慮期間の伸長の申立て」の手続きを行う
ことが重要です。
簡単にだけ説明すると、①については、預貯金を解約したり引き出したり、不動産や車などの遺産の名義変更や処分をしたり、株式の議決権を行使したりといった行為を「しない」ことが重要です。
②については、おそらく遺産の全容の調査や会社の経営状況の調査などに時間がかかり、相続放棄の判断をするための期間が「3ヶ月」では足りないと思われますので、必要な期間延ばして頂くよう家庭裁判所に申立てをするということです。
これをせずに、(原則として)被相続人が亡くなってから3ヶ月が経過してしまうと、相続放棄はできなくなってしまいます。
株式の最終取得者や二次相続を考える

さて、今回のケースでは、幸いなことに亡くなったAさん名義の借入はありませんでした。
甲社の方も経営は順調で、運転資金の借入が1000万円ほどあり、Aさんはこれの連帯保証人となっていましたが、この支払いにも当面は問題無さそうだということが分かりました。
そのため、Xさんとしては、相続を承認する方向で考えていきます。
そこで問題となる甲社の株式について検討すると、まず、上記のとおりXさんが株式を取得して、Yさんに社長(取締役)を任せるということも考えられます。
一方で、Xさんとしては、今後定期的もしくは何かある度に、株主総会に出席しなくてはならないのは重荷と感じますし、今まで会社の経営に携わってこなかったため適切な判断ができないとも感じています。
そのため、Xさんとしては、そもそも甲社の株式全部を、今後甲社をかじ取りしていくYさんに取得してもらいたいと考えています。
現時点での相続人は、Xさんだけでなく、Aさんの母親であるBさんもいます。
しかし、Yさんは相続人ではありません。
したがって、Yさんに甲社の株式を取得してもらうためには、XさんまたはBさんがこれを相続して、そのあと、Yさんに適正価格で買い取ってもらうという二段構えの方法が必要となります。
また、本件でもうひとつ考えなくてはならないのは、Bさんの二次相続の問題です。
これは、簡単に言えば、BさんがAさんの遺産を取得したあと亡くなったとしたときに生じる不都合です。
例えば、XさんはBさんの相続人ではありませんから、Bさんが相続してしまったものについては、もともとAさんの遺産であったものでも、Bさんが亡くなった際に引き継ぐことはできません。
Aさんの遺産も含むBさん名義の遺産は、本ケースでいくとBさんの子であるYさんに受け継がれることになります。
そうすると、今度はYさんから見ると、Aさんの遺産を受け継ぐのに2回相続を経由するということになり、大雑把に言えば「二度手間」ということにもなりかねません。
Bさんの遺産総額によっては、納める相続税の総額が高くなるということも考えられます。
Bさんも高齢ということもあり、相続や会社に関わる様々な手続きを行う自信がありませんでした。
そこで、今回のケースでは、Bさんは相続放棄をすることにしました。
Bさんが相続放棄すると、相続権は第3順位である兄弟姉妹、すなわち本ケースだとYさんに移ることになります。
これにより、Yさんは相続人として、甲社の株式を相続することができるようになりました。
非上場株式の評価額の問題

そこで、XさんとYさんとが相続人として、遺産分割協議をすることになりました。
今のところ、Xさんが生活に必要な自宅や車を、Yさんが甲社の株式を取得する方針が決まっています。
一方で、遺産の分け方の(ある意味での)目安として、法定相続分や遺留分というものがあります。
こういったものを考えるに当たっては、遺産における株式が、一体いくらと評価されるのかが問題となります。
同じ株式でも上場して市場価格がついている株式については、その価格をそのまま評価額として用いることができます。
一方、経営者の多くが保有している会社の株式は、非上場のものと思われます。
非上場の株式の評価額を決める方法は、実はひとつに定まっていません。
弁護士実務や裁判所の判断でも、DCF法、収益還元法、配当還元法、純資産法、あるいはそれらの折衷法など、事案に応じて様々な評価方法が採られています。
そのため、もし厳密に非上場株式の価値を算定しようとする場合には、公認会計士等の専門家に鑑定して頂くことになってしまいます。
ただ、今回のケースのように話し合いで評価額の合意ができるような場合には、必ずしも鑑定は必要ありません。
たとえば相続税申告書に記載された相続税評価額を用いるというようなこともあり得ます。
XさんとYさんは、話し合いの結果、甲社の株式の評価額を、相続税評価額と同様の1株40万円としました。
一方で、乙社の株式について検討するに際し、乙社の現状について調査しました。
すると、乙社の行っていた事業は、事実上甲社が全て引き継いでおり、乙社は開店休業状態で、ここ10年以上特に何ら取引を行っていないまま放置されているということが分かりました。
その財務状況も、乙社固有の財産はすでになく、帳簿上はAさんの親族からの借入金があることになっており、数字上は赤字という状態でした。
そこで、XさんとYさんは、乙社の株式の評価額は0円とすることにしました。
遺留分や代償金の問題

さて、上記の評価額を踏まえると、現時点での遺産分割状況は下記のようになります。
X…合計4300万円(自宅、車)
Y…合計4000万円(甲社株式)
未分割…預貯金500万円、乙社株式100株
ここで、遺留分について少し触れます。
遺留分とは、遺言などによっても侵害できない法定相続人に最低限保証された相続割合のことです。
今回のケースだと、遺留分を有しているのは配偶者であるXさんだけで、きょうだい(第3順位の相続人)であるYさんは遺留分を有しません。
Xさんの遺留分は、遺産の2分の1です。
もし遺言などがあって、Xさんの取り分が遺産の2分の1に満たなかった場合は、足りない分を受遺者などに請求することができます。
しかしながら、今回のケースでは遺言は無く、遺産分割協議により遺産の配分を決めようとしています。
遺産分割協議で不公平な割合での遺産配分となったとしても、遺留分侵害額請求をすることはできません。遺留分侵害額請求を行うことができる対象は、遺贈や贈与など、限定されているからです。
したがって、遺留分は問題となりません。
一方で、遺産分割協議により遺産の配分を決める場合には、法定相続分を意識する必要があります。
本ケースの法定相続分は、Xさんが4分の3、Yさんが4分の1です。
金額で表すと、遺産総額が8800万円ですから、Xさんが6600万円、Yさんが2200万円です。
そうすると、未分割の預貯金をXさんが相続するとしても、1800万円足りないということになります。
このように、法定相続分に足りない遺産しか相続できない場合、取り過ぎとなる相続人から代償金を支払ってもらうことで解決するという方法があります。
本ケースでいうと、YさんからXさんに、Yさんの個人資産から1800万円を支払ってもらうことで、不公平を解消しようという方法です。
一方で、代償金の支払いは必須ではありません。
不公平を甘受し、代償金の支払い無しに、遺産分割を合意するという方法もあります。
Xさんとしては、生活に必要な自宅や車があれば、自身にも収入があるためある程度安泰であること、Yさんに甲社を任せてしまって申し訳ないという気持ちがあることもあり、甲社と関係する乙社の株式もYさんが引き取って、乙社を適切に処置をしてくれるのであれば、不公平があっても構わないと考えました。
そのことを率直にYさんと話し合った結果、Yさんとしても代償金の支払いは厳しいという事情もあり、乙社の株式はYさんが引き取ることで合意できました。
一方で、相続税の支払い原資の問題があるため、預貯金については、Xさんが100万円、Yさんが400万円を取得するということになりました。
最終的な遺産分割案

上記を踏まえ、X・Y間では下記のとおり遺産分割協議が整いました。
Xさん→自宅不動産(4000万円)、車(300万円)、預貯金100万円
Yさん→甲社株式(4000万円)、乙社株式(0円)、預貯金400万円
また、XさんとYさんは銀行も交えて話し合い、甲社の借入についての連帯保証人の地位を、次の社長となるYさんに変更する手続を行いました。
これにより、Xさんは甲社の経営とは全くの無関係となり、Yさんはその才覚を存分に発揮して、甲社を盛り立てていくことになりました。
ちなみに、乙社については、帳簿上の債権者となっている親族に協力してもらい、清算手続きを行ってきちんと消滅させる方針であるとのことです。
まとめ

いかがだったでしょうか。
今回は、会社の経営者が突然亡くなってしまい、経営権の行く末について少し悩ましい問題が生じたという設定で検討してみました。
今回のケースでは、X・B・Yのいずれもが話し合いに応じて納得できる解決策を模索することができましたが、実際のケースでは、相続人同士や親族同士に意見の相違があって経営権を巡って骨肉の争いに発展する…ということも無いではありません。
そのため、会社経営者の方にはぜひ、どんなに若く屈強な方であったとしても、遺言を作成するなどして、自身が亡くなったときに経営権の問題が生じて会社運営が空転するということがないように努めて頂きたいと思います。
ご相談 ご質問
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、17名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。





