夫婦である以上は、お互いに配偶者を扶養すべき義務を負っているのが原則です。しかし、配偶者の一方が主夫(主婦)であると、家庭の生活費は、他方配偶者の収入に頼らざるを得ない、ということがほとんどではないでしょうか。そのようなケースで、離婚を望んでおり、さらに生活費を支払ってくれない他方配偶者がいたとしたら、いわゆる兵糧攻めをされているという評価になるでしょう。今回は裁判例に基づき、兵糧攻めをしてくる他方配偶者の対応は、法的にどのように評価されるのか、説明したいと思います。

婚姻費用を支払わずに、いわゆる兵糧攻めをしてきた配偶者の離婚請求について

「婚姻費用」とは

婚姻費用を支払わずに、いわゆる兵糧攻めをしてきた配偶者の離婚請求について

婚姻から生ずる費用は、「婚姻費用」といって夫婦の衣食住の費用の外、子どもの監護に要する費用なども含んでいます。婚姻中の夫婦は、互いにこの婚姻費用を分担し合う義務を負っているというのが原則です。

いわゆる兵糧攻めをしてきた裁判例

いわゆる兵糧攻めをしてきた裁判例

婚姻費用は支払うべきものですが、残念ながら別居をしていて離婚をしていないという状態のまま、他方配偶者に婚姻費用の支払義務を怠るという、いわゆる兵糧攻めをして離婚を求める方もいるようです。

東京家庭裁判所令和4年4月28日の裁判例は、まさにそのようなケースについて扱った事例です。

事案の概要

夫Aは、妻Bに対し、性格・価値観等が合わないとして、4年以上にわたって別居していました。この別居をもって、夫婦間の婚姻関係は破綻している、などとして、AはBに対し民法770条1項5号所定の婚姻を継続し難い重大な事由がある旨を主張し、離婚を請求をしたのです。

これに対し、Bは婚姻関係が破綻しているという主張を争うとともに、仮に破たんしているのであれば、その主たる責任は、Bに対し婚姻費用を支払わずに兵糧攻めで原告との離婚に応じさせようとしているAにある、として離婚請求の棄却を求めました。BはAに対し婚姻費用の支払を求め、Aに婚姻費用を支払うよう定める審判が出されたのですが、Aは、その後も支払いをせず、離婚訴訟中も支払を一切しませんでした。

本件訴訟の争点

本訴訟では、まず夫婦間に婚姻の継続を困難とするほどの性格・価値観等の不一致があったとできるかという問題がありました。

また、仮にこのような不一致がなかったとしても、AとBが既に別居期間として4年以上の経過があったことから、これが婚姻関係の破綻を基礎付ける事情であるとして民法770条1項5号所定の婚姻を継続し難い重大な事由があるのかが争われました。

裁判所の判断

裁判所の判断

東京家庭裁判所は、AB間の夫婦関係は、婚姻関係の継続を困難とするほどの性格等の不一致はないとしつつも、婚姻期間として約10年を経過したのち、別居を開始して、さらに4年以上の別居状態に至っていることは、婚姻関係の破たんを基礎づける事情と認めました。

しかし、Bが主張したように、その婚姻関係が破綻するに至った原因は、一方的にBとの離婚を実現させようとしたAが、Bとの別居に踏み切るにとどまらず、Aに対して婚姻費用の支払をせず、兵糧攻めともいうべき身勝手な振る舞いを続け、婚姻関係の修復を困難なものにしたことにあった として、Aが有責配偶者に当たること、そしてAB間の子らの年齢(当時まだ未成熟子)等の本件事実関係に照らすとAからの離婚請求は信義誠実の原則に反するとして、これを棄却しました。

なおAはその後払っていなかった婚姻費用未払い分をまとめて支払い、定期的に婚姻費用を支払うようにもなりましたが、東京高等裁判所では控訴棄却の判決がされています。

この判決のポイント

この判決のポイント

別居期間がある程度長期にわたる場合には、婚姻関係が破綻していることが事実上推定される、と考えられています。そして、最近は「婚姻の破綻(民法770条1項5号の離婚原因)について、一定期間の別居の事実があればこれが認定される傾向が強まっている、とも評価されています。

本判決では、夫婦間の別居期間が4年を超えるもので、婚姻関係の破綻を基礎付ける事情であるとされましたが、夫の婚姻費用未払いをいわゆる「兵糧攻め」として、有責配偶者に当たるものとし、有責配偶者からの離婚請求を認めませんでした。

夫婦関係が破たんしているとしても、婚姻費用の支払義務がある以上は、それを履行しないことそのものが、離婚原因として支払われない側に有利に考慮されてしまう、ということです。

裁判所は誠実な当事者の味方、という評価もでき、現在別居や離婚を考えている夫婦も、まずは相手方に対し不誠実な言動を見せないことが重要と言えます。

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 相川 一ゑ

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