
労災の中でも締固め機械による労災は発生件数が多いです。
このような労災に遭った場合、適切な賠償を得るためには、会社にはどのような点で責任があるのか、どのような損害を請求できるのか知っておく必要があります。
このコラムでは、実務で重要な点を詳しく解説します。
1 締固め機械とは?

締固め機械とは、道路工事や土木工事、建築工事などで地面を固めるために使用される重機のことです。
用途や機能に応じて、次の4つのタイプに分類されます。
- 静荷重(重力)を利用するタイプ
- こね返しを利用するタイプ
- 振動(ゆすり)を利用するタイプ
- 衝撃を利用するタイプ
締固め機械は一つの種類が単体で使用されるだけでなく、現場の状況に応じて複数種類の重機を組み合わせることもあります。道路工事のほか、空港の滑走路、埋立地、港湾施設、鉄道工事、コンクリートダムの建設現場など、大規模な工事現場でも活躍します。その一方、狭い場所や構造物の周辺など、小規模な現場で使用する小型の締固め機械もあります。
2 締固め機械で多発する事故類型

(1)はさまれ・巻き込まれ事故
バック走行時に作業員を巻き込んで発生することが多いです。
運転者の不注意で発生します。
(2)転倒・転落事故
不安定な路面や傾斜地での作業中に発生することが多いです。
(3)振動障害や騒音による健康被害
即時に発生するものではなく、長期間の使用により発生します。
(4)整備不良による事故
ブレーキや安全装置に不具合があり発生することが多いです。
この中でも最も多いのが「はさまれ・巻き込まれ」です。特にバック走行時に誘導員や周囲の作業員を巻き込んでしまうケースが後を絶ちません。また、不安定な地盤や斜面で作業を行う際には、機械自体が転倒し、操作者が下敷きになる事故も発生しています。
さらに、長期的に見れば健康障害のリスクも存在します。振動を繰り返し受けることによる手腕振動障害、騒音による聴力低下などは、見えにくい労災として注意が必要です。
3 締固め機械で発生する労働災害の現状

厚生労働省の統計によれば、建設業における死傷災害のうち「はさまれ・巻き込まれ」は常に上位に位置しており、2023年には全体の約2割を占めています。
締固め用機械に特化した統計は限定的ですが、各地の労働基準監督署が発表する事例の中には、毎年のようにローラーやコンパクターに関連する事故が含まれています。
4 労働安全衛生法と使用者責任

(1)労働安全衛生法の定め
労働安全衛生法は、締固め機械を使う作業について、以下のように、使用者がとるべき措置を定めています。
ア 運転資格(特別教育の義務化)
労働安全衛生法およびその下位法令である労働安全衛生規則により、締固め機械の運転には特別な教育の修了が義務付けられています(労働安全衛生法59条3項、労働安全衛生規則36条10号)。
イ 作業時の具体的な安全対策
締固め機械は、転倒・転落や接触、巻き込まれなどの危険が伴うため、労働安全衛生規則の「建設機械等」に関する規定に基づき、事業者に以下の措置が義務付けられています。
ウ 転落・転倒の防止
路肩・法面付近の作業: 地盤の崩壊や機械の転落・転倒の危険がある場所では、誘導員を配置し、路肩から離れた安全な範囲で作業させること(安衛則 第157条)。
(2)使用者責任
会社の従業員のミス等で締固め機械による労災に遭った場合、会社に対して使用者責任を追及できる可能性があります。
使用者責任とは、労働者を使用している者(使用者、会社)が、労働者が他者に損害を発生させた場合に、その損害を米証する責任を負うことです。
会社としては、使用者責任を追及された場合、使用者は、労働者の選任及び監督について相当の注意をしたこと、または、相当の注意をしても損害が発生するものであったことを立証しなければ、責任を免れません。
5 労災保険給付と会社への損害賠償を並行して請求する方法

労災保険給付は国から受ける給付であり、会社への損害賠償請求は会社を相手方とする請求ですので、両者を並行して行うことは可能です。
もっとも、以下の点には注意が必要です。
(1) 二重取り(不当利得)はできない
労災保険で既に給付された分(例:治療費)は、損害賠償の金額から差し引かれる可能性があります。
ただし、慰謝料や逸失利益(将来の収入の補填)については差し引かれません。
(2)請求期限(時効)に注意
労災給付と会社への損害賠償請求には以下のように時効がありますので、これらを徒過しないように注意が必要です。
労災給付:原則として事故から2年以内
損害賠償:事故から5年以内(2020年4月以降の事故)
6 労災保険で受け取れる給付の種類

労災保険で受け取れる給付には、主に、以下のようなものがあります。
(1)療養(補償)給付
治療費の全額を補償するものです。
病院での診察、入院、手術、投薬、リハビリなどの費用が対象です。
労災指定病院で受診すれば自己負担は基本的にゼロです。
基本的に、治療が必要な限り、治療費等が支給されます。
(2)休業(補償)給付
仕事を休まざるを得なくなった場合の給料の補償に相当するものです。
支給額は、休業4日目以降、給付基礎日額の80%(60%+特別支給金20%)です。
給付基礎日額は、事故前3か月の平均日給です。
(3)障害(補償)給付
後遺障害が残った場合の補償です。
障害等級(1〜14級)に応じて「一時金」または「年金」が支給されます。
1級~7級は年金、8級~14級は一時金が支給されます。
この他に、特別支給金(国から上乗せ支給)も支給されることがあります。
7 会社への損害賠償請求

(1)どのような請求ができるか
労災が発生した場合、会社に対して損害賠償することが考えられます。
法律的には、使用者責任と安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求が考えられます。
(2)使用者責任
3(2)でご説明したとおり、会社の従業員の行為により、労災に遭った場合、会社に対して使用者責任を追及できる可能性があります。
(3)安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求
会社には安全配慮義務(労働者の生命・身体を守るべき義務)があります。
会社がこの義務に違反していた場合、会社は損害賠償責任を負う可能性があります。
この請求を行うためには、会社にどのような安全配慮義務があり、それにどのように違反したのかを証明する必要があります。
そのため、事実関係を十分に把握し、詳細な検討が必要となります。
8 弁護士に労災を依頼するメリット

(1)損害賠償請求が有利に進む
労災保険の給付とは別に、会社の安全配慮義務違反があれば民事上の損害賠償請求ができます。
弁護士に依頼すれば、慰謝料や逸失利益などの請求が可能です(労災保険ではカバーされないものです。)。
(2)会社や保険会社との交渉を代行してくれる
会社が非協力的・冷たい態度をとるケースでも、弁護士が交渉窓口になることで精神的負担が激減します。
また、弁護士に依頼することで、労災申請を渋る会社に対して、法的な対応を促すことも可能です。
(3)複雑な労災申請の手続きを代行・サポートしてくれる
各種申請書(障害補償給付など)の記入支援や提出代行が可能です。
弁護士が入ることで、労働基準監督署との対応もスムーズになります。
特に長期休業・後遺障害・死亡事故では手続きが煩雑になりやすく、そのような場合は、弁護に依頼する方が良いでしょう。
9 当事務所のサポート内容

当事務所では、会社に対する損害賠償請求や後遺障害申請のご依頼を受けています。
ご依頼を受けている内容や弁護士費用については、以下のページをご参照ください。
https://www.g-rosai.jp/
労災は手続きが複雑であり、会社に対する損害賠償請求にも専門的な知識が必要となりますので、労災に遭われた場合は、是非お早めにご相談ください。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。