
ご相談内容
数年前から物忘れが徐々にひどくなり少し前から施設暮らしをしていた母が亡くなりました。
母の葬儀等を終えた後、兄から母は遺言を公正証書で遺しているとの連絡があり、その内容を確認したところ、母の財産はすべて兄に譲るとの内容が記載されていました。
早くに父を亡くし日頃から兄弟は仲良くしてほしいと言っていた母なのでその遺言の内容が母の真意に基づくものなのか疑問を感じています。
どのように対応したらよいでしょうか。
被相続人の死後に思いもよらない内容の遺言の存在が明らかになるということはままあります。
その時点で被相続人は既に亡くなっているため、それが被相続人の真意に基づくものかどうかを本人に問うことはできませんが、どうにも納得できないという場合には遺言について法的に争うことを検討することになります。
今回は、被相続人の死後に自身に不利な遺言が発見された場合の対応について解説をしていきます。
遺言

遺言は、死後に自身の財産をどのように処分するかに関する被相続人の最終の意思表示であり、最大限尊重されるべきものとされています。
遺言は自ら作成する自筆証書遺言と公証人が作成する公正証書遺言とに分かれ、それぞれ法律上の有効性要件は異なりますが、要件を満たす場合、いずれも遺言としての効力に違いはありません。
遺言と異なる遺産分割

遺言は最大限尊重されるべきとしましたが、遺言内容をそのまま実現した場合の事実上の不都合性や相続人の意向により、相続人の全員が合意する場合には遺言内容と異なる遺産分割を行うことも可能であるとされています。
ただ、遺言により多くの利益を受ける相続人がそれと異なる遺産分割を受け入れることは稀であるため、今回のケースにおいても兄弟が拒絶する場合にはこの方法をとることはできません。
遺言無効
遺言の有効性要件の1つに遺言能力というものがあります。
遺言能力とは、自身が遺そうとする遺言の内容を理解し、遺言により自身は死亡した後にどのようなことが起きるかを認識することができる能力のことを指します。
被相続人に遺言能力がない状態で遺言書が作成されたと考えられる場合には遺言無効の手続をとることが考えられます。
遺言作成時に被相続人に遺言能力が存在したかどうかは、当時の被相続人の年齢、認知症の程度、日常生活の様子等から事後的に判断されることになります。
なお、今回のケースではお母様は公正証書遺言を作成しているため、遺言の作成には公証人が関与していることになります。
公証人は公正証書遺言作成時に被相続人の遺言能力に問題があるかどうかを自ら判断した上で公正証書遺言の作成を行うため、遺言能力については一定の担保がなされていると言われることもありますが、公証人は医学の専門家ではなく被相続人のその場の様子しか確認しないため、被相続人の遺言能力について完璧な判断ができるわけではありません。
お母様は数年前から物忘れがひどくなり最近では施設暮らしの状態であったということですので、当時の認知症に関する診断内容や日常生活における介護の状況などから遺言能力について客観的な疑問が存在するという場合には遺言無効の手続をとることを検討することになります。
遺留分

被相続人が遺言を残した場合でも相続人には遺留分が認められています。
遺留分は相続人に最低限保証された相続割合のことをいい(相続人が兄弟姉妹だけの場合は除きます)、被相続人の子だけが相続人となる場合の遺留分はそれぞれの相続分の2分の1です。
今回のケースで相続人は兄弟2人であるため、ご相談者様の遺留分は自身の本来の相続分に2分の1の割合を乗じた4分の1ということになります。
遺言と異なる遺産分割を行うことや遺言無効の手続をとることが難しいという場合には遺言によりお母様の遺産のすべてを取得することになるお兄様に対して自身の遺留分に相当する金銭の支払いを請求することを検討することになります。
まとめ

相続人の一方に不利な遺言が作成される背景には生前の被相続人とそれぞれの相続人の関わり方が影響していることが多いという印象です。
同居の有無や介護の負担状況により被相続人により近しい相続人が被相続人に対して自身に有利な遺言を作成してほしいと働きかけ、被相続人も他の相続人に負い目を感じながらも現在の生活状況を維持するためそれに応じるという構図は少なくありません。
その場合、遺言作成に実質的に関与した相続人には自身が被相続人を支えてきたという言い分がある一方、他の相続人には生前も被相続人の財産から利益を得てきたのではないかという言い分があり、両者の対立は感情的な部分も含め激しいものとなります。
日頃から被相続人を含む家族と十分なコミュニケーションをとることで被相続人の死後にトラブルが発生する可能性を減少させることは可能ですが、すべてを予防することは難しいと思われますので、被相続人の死後に今回のような問題が発生した場合には弁護士とともに対応を検討することをお勧めいたします。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。