
日本は2007年に超高齢社会(65歳以上の高齢者の割合が、人口の21%を超えた社会のこと)を迎えました。親御さんの財産を、お子様方が管理するということは、もはや珍しいものではありません。そのような中で、お子様方がきょうだい間で親御さんの財産管理につき意見が対立してしまう、ということも残念ながら散見されます。親御さんの意思がはっきりしていれば、特にこのような意見対立があってもご本人の意思に委ねることができますが、認知症や事故等により、ご本人が判断能力を失ってしまった場合は、どうすればよいのでしょうか。今回はそのような認知症等で親御さん自身が自分の財産を管理できない場合の対処法について解説します。
親が判断能力を失い、自分で財産管理をできなくなってしまったら?

病気により脳に障害が生じ、判断能力を失ったAさんのケース
Aさんは、まだ60代の男性でしたが、あるとき病気により脳に障害が生じ、その後自らの意思で話したり、動いたりすることができなくなってしまいましたので、施設に入所することになりました。
Aさんは、既に妻Bを失っていたところ、長男C、長女D、二女Eの3人のお子さんがいらっしゃり、そのうち長女Dの方が元々Aさんと同居をしていましたので、Aさんがこの病気により施設に入ってからも、長女DがAさんの財産を事実上管理していました。
ところが、長男Cは、長女Dに対し強い不信感を抱いており、また二女Eも長男Cとは別の立場から、「長女Dだけが父であるAさんの財産を管理するのはおかしい」と主張していました。Aさんの入所する施設の費用以外にも、妻Bの遺産相続などでAさんには自分の財産を処分・管理するための対応が必要となったため、長女Dは弁護士に相談することにしました。
判断能力がない方の財産管理について~成年後見~

民法7条は、「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。」として、成年後見制度について規定しています。
「事理を弁識する能力を欠く常況」とは、すなわち常に金銭等の価値が理解できず買物なども自分ですることができない状態である場合や、遷延性意識障害(いわゆる植物状態)の状態にある場合などをいいます。
Aさんもこの「事理弁識能力を常に欠く状況」であるので、民法7条に定める成年後見の制度を利用することが考えられました。そこで長女Dは、四親等内の親族の立場で、相談した弁護士に依頼し、家庭裁判所に父であるAさんの成年後見人選任の審判を申し立てることにしました。
成年後見人選任に当たって…誰が成年後見人になるべき?
成年後見人とは、成年後見人等は、事理弁識能力を失ったご本人(被後見人)の財産を管理したり、生活・医療・介護・福祉などのために代わりに契約を締結し、身上監護を行うという役割を担います。
長女Dは、これまでの経緯から、「自分こそがAさんの成年後見人にふさわしい」と考えていましたが、長男Cや二女Eはこれに同意せず、また妻Bを被相続人とする遺産分割では、長女Dの立場は同じく相続人であるAさんと相いれない立場にもありましたので、裁判所は成年後見には親族後見人として長女Dも、長男Cも二女Eも選ばず、専門職後見人として弁護士を選任することにしました。
専門職後見人が選任されるメリット
長女Dは、これまで自分が管理していたAさんの財産を、専門職後見人である弁護士に任せることになり、また同様に長男Cや二女Eも財産管理に関与はできないことになります。
しかし、このような成年後見制度は関係者全員にとって、公平・公正な制度であるといえます。
それは、専門職の成年後見人が就けば、その後見人によって、
- 法に定められた正確な財産管理がなされる
- 適切な収支管理(被後見人の有する財産内でのもので、原則として選任後に新たな投資等の運用は認められない。)がなされる
- 定期的な家庭裁判所への報告義務がある
- 特別な後見事務について特別に家庭裁判所に報告したり許可を得たりする必要がある
ということから、ご本人であるAさんの財産を不当に流出することが防げるからです。これは、被後見人の財産を適切に使用・管理すべきと考えているはずの全ての親族にとって、メリットと言えるはずです。
被後見人が亡くなってしまったら~相続財産管理人の選任~

Aさんは、施設で認知機能以外特に持病もなく暮らしていましたが、その後成年後見制度の利用が続いたまま、高齢のため亡くなりました。
そうすると、成年後見人から相続人である長男C、長女D及び二女EにAさんの遺産が引き継がれることになります。
しかし、長男C、長女D、二女Eはここでもその不仲からいずれもが「特定の相続人に財産の引き継がれること」を良しとしませんでした。そうすると、成年後見人から相続人に対し財産の引継ぎができない状態に陥ります。
このような場合は、従前成年後見人であった者から、家庭裁判所に相続人間の紛争状態を報告し、対応につき相続人らの遺産分割協議が終了するまで、「相続財産の保存に必要な処分」をするための相続財産管理人選任(民法897の2)をすべきということもあります。
家庭裁判所が相続人らに引き継ぎができず、相続財産の管理を第三者に任せるべきと判断すれば、成年後見人から引き続き相続財産管理人に選任されることになります。この場合の相続財産管理人には、成年後見人を務めていた者が引き続きなる可能性が高いといえます。
相続人間の紛争が解決するまでの財産管理
長男C、長女D、二女Dに対しては、相続財産管理人(元成年後見人)から、Aさんの遺産の引継ぎには遺産分割協議が必要であることを説明し、遺産分割協議を調えてもらいます。
この間、相続財産管理人は成年後見の際に行っていたのと同じように、相続財産からその管理を担い、収支を家庭裁判所に報告します。
無事遺産分割協議が調えば、その協議に基づき、相続財産管理人は各相続人らに決められた遺産を引き継ぎ、相続財産管理人としての業務を終えることになります。
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