
プレス機が関連する労災では、ケガが重症になりやすく、身体に重い後遺障害が残ってしまうことも珍しくありません。
そのような場合、会社に対して適切な損害賠償を求めていくことが大切です。
このコラムでは、プレス機で発生する労災について詳しく解説します。
1 プレス機とは?

プレス機は、金属素材に強い圧力を加え、金型の形状を変形させる機械です。
主に、製造業や加工業などで使用されることが多いです。自動車やパソコンの部品作成の際にも使用され、昨今におけるプレス機の需要は高く、それだけ作業している方もたくさんいらっしゃいます。
2 プレス機で多発する事故類型

プレス機で発生する事故には、以下のようなものがあります。
(1)プレス機に身体を挟まれる事故
プレス機を使用した労災事故で最も典型的な例は、プレス機の金型に指を挟んでしまい、切断されてしまうといった事故です。仮に挟まれただけであっても、強力な圧力が加えられることから、骨折などによって後遺障害が残ってしまうケースはめずらしくはありません。
また、指ではなく、身体全体をプレス機に挟んでしまい、死亡するというケースも中にはあります。
(2)破損した金型や加工物が飛来して負傷する事故
プレス機での作業により、金型や加工物が破損して、労働者に向けて飛来し、負傷するというケースも珍しくありません。
3 労働安全衛生法と使用者責任

(1)労働安全衛生法の定め
労働安全衛生法は、プレス機を使う作業について、以下のように、使用者がとるべき措置を定めています。
ア プレス機の規格に関する定め( 労働安全衛生法 第42条)
危険な機械・装置(プレス機など)には、構造規格の遵守・厚生労働大臣の定める技術的基準に適合することが義務付けられています。
イ 安全装置の設置義務(労働安全衛生規則 第107条~第110条)
プレス機には、以下の安全装置を備えることが義務付けられています。
- 両手操作式起動装置
- 感知式安全装置(ライトカーテンなど)
- 安全囲い
- スライドロック装置(保守点検中の落下防止のため)
ウ 特定機械による作業主任者の選任(労働安全衛生規則 第14条、第36条の2)
金属加工用プレス機械を使用する作業では「プレス機械作業主任者」の選任が義務付けられています。
主任者の職務には以下が含まれます
- 作業手順の指導
- 安全装置の点検
- 労働者の安全教育 など
エ 検査・点検義務(労働安全衛生規則第131条の2〜第131条の4)
プレス機は定期的に自主検査を実施し、その記録を保存する義務があります。
義務となる点検には、毎月1回の点検(定期自主検査)と必要に応じた臨時点検があります。
記録の保存期間は3年間以上とされています。
オ 教育・訓練(労働安全衛生規則 第36条、第59条)
プレス作業に従事する者には、雇入れ時および作業変更時の教育を行うことが義務付けられています。
具体的には、以下のような教育・訓練が義務付けられています。
- 危険予知訓練(KY活動)
- 作業手順や安全装置の使用方法の習得
(2)使用者責任
会社の従業員のミス等でプレス機による労災に遭った場合、会社に対して使用者責任を追及できる可能性があります。
使用者責任とは、労働者を使用している者(使用者、会社)が、労働者が他者に損害を発生させた場合に、その損害を米証する責任を負うことです。
会社としては、使用者責任を追及された場合、使用者は、労働者の選任及び監督について相当の注意をしたこと、または、相当の注意をしても損害が発生するものであったことを立証しなければ、責任を免れません。
4 労災保険給付と会社への損害賠償を並行して請求する方法

労災保険給付は国から受ける給付であり、会社への損害賠償請求は会社を相手方とする請求ですので、両者を並行して行うことは可能です。
もっとも、以下の点には注意が必要です。
(1) 二重取り(不当利得)はできない
労災保険で既に給付された分(例:治療費)は、損害賠償の金額から差し引かれる可能性があります。
ただし、慰謝料や逸失利益(将来の収入の補填)については差し引かれません。
(2)請求期限(時効)に注意
労災給付と会社への損害賠償請求には以下のように時効がありますので、これらを徒過しないように注意が必要です。
労災給付:原則として事故から2年以内
損害賠償:事故から3年以内(2020年4月以降の事故)
5 労災保険で受け取れる給付の種類

労災保険で受け取れる給付には、主に、以下のようなものがあります。
(1)療養(補償)給付
治療費の全額を補償するものです。
病院での診察、入院、手術、投薬、リハビリなどの費用が対象です。
労災指定病院で受診すれば自己負担は基本的にゼロです。
基本的に、治療が必要な限り、治療費等が支給されます。
(2)休業(補償)給付
仕事を休まざるを得なくなった場合の給料の補償に相当するものです。
支給額は、休業4日目以降、給付基礎日額の80%(60%+特別支給金20%)です。
給付基礎日額は、事故前3か月の平均日給です。
(3)障害(補償)給付
後遺障害が残った場合の補償です。
障害等級(1〜14級)に応じて「一時金」または「年金」が支給されます。
1級~7級は年金、8級~14級は一時金が支給されます。
この他に、特別支給金(国から上乗せ支給)も支給されることがあります。
6 会社への損害賠償請求

(1)どのような請求ができるか
労災が発生した場合、会社に対して損害賠償することが考えられます。
法律的には、使用者責任と安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求が考えられます。
(2)使用者責任
3(2)でご説明したとおり、会社の従業員の行為により、労災に遭った場合、会社に対して使用者責任を追及できる可能性があります。
(3)安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求
会社には安全配慮義務(労働者の生命・身体を守るべき義務)があります。
会社がこの義務に違反していた場合、会社は損害賠償責任を負う可能性があります。
この請求を行うためには、会社にどのような安全配慮義務があり、それにどのように違反したのかを証明する必要があります。
そのため、事実関係を十分に把握し、詳細な検討が必要となります。
7 弁護士に労災を依頼するメリット

(1)損害賠償請求が有利に進む
労災保険の給付とは別に、会社の安全配慮義務違反があれば民事上の損害賠償請求ができます。
弁護士に依頼すれば、慰謝料や逸失利益などの請求が可能です(労災保険ではカバーされないものです。)。
(2)会社や保険会社との交渉を代行してくれる
会社が非協力的・冷たい態度をとるケースでも、弁護士が交渉窓口になることで精神的負担が激減します。
また、弁護士に依頼することで、労災申請を渋る会社に対して、法的な対応を促すことも可能です。
(3)複雑な労災申請の手続きを代行・サポートしてくれる
各種申請書(障害補償給付など)の記入支援や提出代行が可能です。
弁護士が入ることで、労働基準監督署との対応もスムーズになります。
特に長期休業・後遺障害・死亡事故では手続きが煩雑になりやすく、そのような場合は、弁護に依頼する方が良いでしょう。
8 当事務所のサポート内容

当事務所では、会社に対する損害賠償請求や後遺障害申請のご依頼を受けています。
ご依頼を受けている内容や弁護士費用については、以下のページをご参照ください。
https://www.g-rosai.jp/労災は手続きが複雑であり、会社に対する損害賠償請求にも専門的な知識が必要となりますので、労災に遭われた場合は、是非お早めにご相談ください。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。