
ゴミ収集車を使用してのゴミ収集業務やゴミ処理施設上での業務では、業務中にケガを負うことは珍しくありません。
そのような場合、適切に労災申請や損害賠償請求を行い、被った損害をしっかりと支払ってもらうことが大切です。
このコラムでは、労災に会った場合の注意点などを解説します。
1 はじめに~廃棄物処理業の現場で多発する労災事故~

「ゴミ収集車での事故」「処理施設での巻き込まれ」など、具体的なリスクに触れる。「自分のケガは労災にあたるのか?」という読者の疑問を提示。
廃棄物処理業、特にゴミ収集の仕事は、社会にとって必要不可欠なものであり、私たちの生活にとっても身近なものです。
しかし、ゴミ収集の仕事には様々な危険が潜んでおり、ゴミ収集に従事する労働者の方が負傷したり、命を落としたりする労災事故は残念ながら後を絶ちません。
特に多いのは、ゴミ収集車に巻き込まれる事故、ゴミ(廃棄物)処理施設で機械に巻き込まれる事故などです。
どんなに注意していても、これらの事故に遭ってしまうことはあります。
以下では、ゴミ処理に伴って起こり得る労災事故について、個別に見ていきます。
2 どのような事故(怪我)が労働災害に当たるのか?

(1) 廃棄物処理業で多い労災事故の型
廃棄物処理業では、以下の類型の労災事故が多く発生しています。
ア 墜落・転落
ゴミ収集車からの乗り降り、処理施設の足場などから落下することで生じます。
イ 転倒
路上作業中に路面が濡れていたり凍結・したりしていて転倒することがあります。また、施設の床面が濡れていることで滑って転倒してしまうこともあります。
ウ はさまれ・巻き込まれ
施設内のプレス装置、コンベア、破砕機などに身体を挟まれたり巻き込まれたりする事故が代表的です。
エ 交通事故
作業中の対車両・対人事故、自損事故なども業務中の事故であれば、労災にあたります。
(2)労災事故の背景・原因
廃棄物処理業における労災は様々な原因により発生します。
処理する廃棄物に予期せぬ危険物が含まれている場合や機械の操作を誤ってしまった場合など様々です。
どのような状況でも労災は起こり得るので、労災発生に備えた準備をしておくことは非常に重要です。
3. 廃棄物処理業で想定される労災事故のケース紹介

(1)ケース1:ゴミ収集車後退時に同僚をはさんでしまった
ゴミ収集作業では、作業員がゴミを回収し、ゴミ収集車に入れていきます。
この作業では当然、作業員がゴミ収集車の周りを移動することが想定され、特にゴミ収集車の後部やその周辺を移動することは必要不可欠です。
そのため、ゴミ収集車を運転する作業員は、車を後退させるときには、後退する先に作業員がいないかどうかよく確認する必要があります。
さらに、会社としては、労働者に対して、このようなリスクやそれを避けるために後方確認を十分に行うよう教育や指導を行う必要があります。
(2)ケース2:処理施設でコンベアに腕を巻き込まれ後遺障害が残ったケース
ゴミ処理施設において、コンベアなどの機械に腕などの体の一部を巻き込まれるケースは珍しくありません。
このようなケースには、作業中に誤って体の一部を機械の中に入れてしまう場合や機械のメンテナンス中に誤ってスイッチを入れて体が巻き込まれてしまう場合などがあります。
4 労災事故に遭ったらどうすべきか?

(1)事故直後の対応
労災事故に遭った場合、すぐに、それ以上の被害が起きないように安全確保をし、負傷者の救護を行いましょう。
労災事故で負傷した場合は、すぐに病院に受診しましょう。その際、必ず「労災の可能性がある」と病院に伝えましょう。
また、会社にもできるだけ速やかに労災事故が発生したことを報告しましょう。
(2)労災申請の手続き:提出先・必要書類・流れなど
労災事故が発生した場合、会社から、労災を利用せず、健康保険を利用するように言われることがあります。
しかし、このような要求には応じないようにしてください。
健康保険を利用してしまうと労災を利用しづらくなりますし、そもそも労災申請は会社の義務ですので、このような要求に応じる必要はないのです。
また、労災事故に遭った場合、できるだけ早く弁護士に相談することをお勧めします。
労災の手続は非常に複雑で専門的知識が必要ですし、後遺障害申請(障害補償給付の申請)をする場合にも専門的な知識が必要ですので、弁護士には早めに相談するのが良いです。
5. 会社に損害賠償責任が発生するのはどんなとき?

(1)安全配慮義務違反があるか
労災事故が発生した場合、会社に安全配慮義務違反があれば、会社が損害賠償責任を負うことがあります。
安全配慮義務違反とは、会社が労働者の生命・身体を守るために果たすべき義務を果たしていないことをいいます。
以下では、安全配慮義務違反の具体例を紹介します。
(2)安全配慮義務違反の具体例
安全配慮義務違反は、具体的な作業内容によって以下のように異なります。
ア 保護具の未支給
身体に対して危険のある作業を行う場合、会社は労働者に対して労働者の身を守る保護具を支給する必要があります。
手袋やヘルメットなどが代表的ですが、作業によっては目を保護するためのゴーグルなども必要です。
イ 安全対策の不備
高所作業を行う場合、会社には、安全帯や足場の設置などが求められることがあります。
ウ 教育・指導不足
労災事故全般にいえることですが、会社は労働者に対して、労働者の生命・身体の安全のために教育・指導を行うことが求められます。
どのような教育や指導を行うべきかは、作業内容によって異なります。
一般的には、マニュアルを作成してそれに基づいて指導を行ったりすることが求められます。
6. 労災申請(認定)の流れについて

(1)労災申請の流れ
労災認定してもらうためには、まず、労災の申請書を労働基準監督署に提出します。
その後、労基署による調査・審査が行われ、労災給付の支給・不支給が決定されます。
もし、不支給となった場合には、審査請求・再審査請求、訴訟などの手段があります。
(2)弁護士がサポートできる場面
労災申請の場面でも、弁護士はお力になることができます。
労災申請の初期段階から弁護士が介入することができます。
労災申請のための資料作成、労基署との面談の準備、審査請求など、様々な場面で弁護士がサポートすることができます。
そのため、労災事故に遭われた場合は、できるだけは早めに弁護士に相談することをお勧めします。
7 労災保険だけでは十分な補償が得られない理由

(1)精神的苦痛に対する慰謝料が含まれない
労災事故でケガをした場合、精神的苦痛に対する損害として慰謝料を請求することができます。
ただし、労災給付では慰謝料は支給されませんので、慰謝料については、会社に対して請求する必要があります。
慰謝料には、傷害慰謝料と後遺障害慰謝料という2つがあります。
傷害慰謝料は、ケガをしたことに対する慰謝料であり、治療の期間が長いほど金額が大きくなります。
後遺障害慰謝料は、後遺障害が残ったことに対する慰謝料であり、後遺障害の等級が高いほど金額は大きくなります。
(2)休業補償が100%ではなく、生活に支障が生じるおそれがある
労災認定がされれば、仕事を休んだ分の補填である休業補償が支給されます。
ただ、休業した分すべてが支給される訳ではありません。
労災から支給されるのは、休業した分のお給料の8割です。
そのため、足りない分の休業補償については、会社に請求する必要があります。
(3)民事請求(損害賠償請求)によって不足分を補う必要性
以上見てきたように、労災によって生じた損害の中には、労災給付では賄え切れないものがあります。
そのため、これらの十分に補填してもらうためには、会社に対して損害賠償請求を行う必要があります。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。