頚髄の損傷について~後遺障害と損害賠償~【弁護士が解説】

業務中の事故で頚髄を損傷すると、四肢麻痺、排尿・排便障害、呼吸機能障害など、日常生活や労働への重大な影響が生じます。
頚髄は脳と全身をつなぐ神経の要であり、ここを損傷すると首から下の麻痺や重大な機能障害が残ります。
損傷部位によっては、手足の自由が完全に奪われたり、食事や排泄といった基本的な生活動作すらできなくなることもあります。
本稿では、このように人体に重大な影響をあたえる「頚髄」に損傷があった場合について、特に焦点を当てて解説をいたします。

労災事故で発生する頚髄損傷の典型ケース

労災事故で発生する頚髄損傷の典型ケース

頚髄損傷が労災として認められる場面は多岐にわたります。

足を踏み外す・足場が崩壊するケース

たとえば、建設現場や工場において高所作業中に足を踏み外して転落した場合、あるいは足場が崩壊して落下した際には、強い衝撃が頚部に加わり、脊髄が損傷されることがあります。

転落事故は高所作業に伴う重大な危険の一つであり、保護措置が不十分だった場合には、使用者側の責任が問われることになります。

足元の段差で転倒するケース

また、作業中に足元の段差に気づかずに転倒し、その勢いで首を強打することによって頚髄を損傷する事故も多く報告されています。

転倒事故は一見軽微に見えても、頚髄の損傷という重大な後遺症をもたらすことがあるため、軽視することはできません。さらに、営業活動中や物品運搬中の交通事故においては、追突などにより首が激しく前後に振られ、いわゆる「むちうち」症状にとどまらず、頚髄に深刻なダメージを受けるケースも見受けられます。

重量物を取り扱っているときに怪我をするケース

重量物の取り扱い中の事故も、頚髄損傷の典型的な原因となります。

たとえば、大型の資材や製品を運搬している最中にバランスを崩し、倒れ込んできた物体が首を直撃した場合には、外力の大きさによっては頚髄が損傷されることがあります。こうしたケースでは、作業環境の安全性や監督体制の不備が問題となることが多く、会社側の過失が問われることになります。

機械や動力機器の接触で怪我をするケース

さらに、ベルトコンベアやプレス機械など、動力機器との接触によって発生する巻き込まれ事故や挟まれ事故も、頚髄損傷の重大な原因です。

作業者が不用意に機械の可動部分に近づいた際、あるいは緊急停止装置が正常に作動しなかった場合などに、首が機械に挟まれ、深刻な損傷を負うことがあります。飛来・落下物の衝突も同様に危険であり、頭上からの資材落下によって首が圧迫され、頚髄が損傷する事例も存在します。

該当可能な後遺障害等級について

該当可能な後遺障害等級について

頚髄損傷によって生じる障害の程度はさまざまであり、それに応じて後遺障害等級が認定されます。
等級の認定は、損害賠償や保険給付の金額に直結する極めて重要な判断要素であり、具体的には、神経症状、運動障害、感覚麻痺、排泄障害、呼吸障害など、多岐にわたる症状が評価対象となります。

たとえば、軽度なしびれや違和感といった症状にとどまる場合には、「局部に神経症状を残すもの」として第14級が適用される可能性があります。

一方で、神経根や脊髄自体が圧迫・損傷され、日常生活に支障が出るような痛みや可動域制限などの「頑固な神経症状」が見られる場合には、第12級が認定されることがあります。

さらに重度のケースでは、第1級から第9級までの等級が適用されることもあります。

四肢麻痺により常に他人の介助が必要となるような場合には、第1級に該当し、これは最高位の後遺障害等級です。
このような等級が認定されると、損害賠償額は非常に高額となります。

また、随時介護が必要であるものの、一部の動作は自力で可能な状態にある場合には第2級、労働能力を完全に喪失したが介護までは不要な場合には第3級が認定されます。

運動麻痺の範囲が限定的である場合でも、第5級、第7級、第9級などの等級が認定されうるため、詳細な医学的検査とそれに基づく正確な診断が極めて重要です。

また、頚髄損傷に起因して脊柱自体に変形や運動障害が残ることもあります。
このような場合、「脊柱に著しい変形又は運動障害を残すもの」として第6級や第8級が認定されることがあります。

軽度の変形が確認されるのみで機能に一定の支障が残る場合には、第11級が適用されることもあります。

等級認定は、単に診断書を提出すれば自動的に決定されるわけではありません。症状や障害の内容を裏付ける医学的証拠や生活状況の説明資料を十分に準備することが、適正な等級を獲得する鍵となります。

後遺障害等級認定の流れ

後遺障害等級認定の流れ

後遺障害等級の認定には、明確な手続きの流れがあります。最初のステップは、症状固定の判断です。

これは、医学的な意味での「治癒」ではなく、症状がこれ以上大きく改善する見込みがないと医師が判断した時点を指します。
症状固定の時期を誤ると、正しい等級評価を得る機会を失う可能性があるため、注意が必要です。

症状固定後には、後遺障害診断書を主治医に作成してもらいます。この診断書は、等級認定において最も重要な書類のひとつです。

記載内容には、可動域制限の測定値や、神経学的検査(腱反射、知覚異常、筋力検査など)の結果、MRIやCTなどの画像所見などが含まれます。
特に頚髄損傷においては、画像で明らかな異常がない場合でも、神経学的所見の積み重ねが評価されるため、漏れのない記載が求められます。

作成された診断書や関連資料は、自賠責保険の調査事務所(交通事故の場合)または労働基準監督署(労災事故の場合)に提出されます。
これらの機関が審査を行い、後遺障害等級を決定します。審査には通常数週間から数か月を要することが多く、その間に追加資料の提出を求められることもあります。

認定結果に納得がいかない場合には、異議申立てを行うことが可能です。
たとえば、自賠責保険においては、「損害保険料率算出機構」に対して再審査請求を申し立てることができます。
異議申立てには、前回と異なる新たな医学的資料や検査結果などが必要となるため、慎重な準備が必要です。

弁護士の介入が重要な理由

弁護士の介入が重要な理由

頚髄損傷のように重大な後遺障害が残るケースでは、後遺障害等級の認定や損害賠償の請求を被害者自身やその家族が単独で行うのは、極めて困難です。

事故直後は身体的苦痛や精神的ショック、将来への不安などで冷静な判断ができない状況であるにもかかわらず、複雑な法的手続きを進めなければならないのが現実です。

弁護士が介入することで、まず症状固定のタイミングの見極め、後遺障害診断書の記載内容の確認、必要な検査の追加依頼など、等級認定の基盤を整えることができます。
特に、MRIやCTに明確な異常が映らないケースでは、神経学的検査や日常生活動作への支障などを正確に拾い上げて診断書に反映させる必要があります。

また、被害者請求における書類の作成・提出代行、損害賠償請求書類の作成、会社や保険会社との交渉の代行など、弁護士による総合的なサポートは、適正な補償の実現に大きく寄与します。法的知識と交渉力を有する弁護士が介入することで、被害者に不利な和解を防ぐことができます。

さらに、等級認定や損害賠償が不当に低く評価された場合には、異議申立てなどの手続を通じて、再評価や賠償金の増額を目指すことも可能です。
これらの手続を一貫して担うことができるのは、法律の専門家である弁護士ならではの強みです。

会社(加害者)への損害賠償請求

会社(加害者)への損害賠償請求

頚髄損傷が業務中の事故によって発生した場合には、労災保険の給付に加え、勤務先の使用者に対して民事上の損害賠償請求を行うことが可能となります。
これは、会社に安全配慮義務違反や不法行為責任が認められる場合に成立します。

このような損害賠償には、医療機関での診療費、入院費、通院にかかる交通費などの「治療関係費」、事故によって仕事を休まざるを得なくなったことによる「休業損害」、頚髄損傷により将来にわたり働く能力が失われたことに対する「逸失利益」など、経済的損失の補填が含まれます。

また、精神的な苦痛に対する「後遺障害慰謝料」や、治療・通院の負担に対する「入通院慰謝料」も重要な賠償項目です。

さらに、事故後に常時または随時の介護が必要となった場合には、「将来介護費」や、バリアフリー化に向けた「住宅改修費」、車椅子や特殊ベッドなどの「装具・器具購入費」も損害として請求することができます。
これらはすべて、事故と因果関係があると認められれば、賠償対象となり得るのです。

加えて、弁護士に依頼して得られた結果に基づいて、実際の弁護士費用の一部も相手方に請求できる可能性があります。これは、判例上も認められている範囲で、被害者の負担軽減に資する制度です。

判例・解決事例による視点

判例・解決事例による視点

頚髄損傷に関する訴訟では、裁判所が重視するのは、後遺障害の客観的な裏付けと生活への影響の具体性です。

たとえば、ある建設現場での高所作業中の墜落事故で、第1級の後遺障害が認定され、被害者に対して非常に高額な損害賠償が命じられた事例があります。
この中には、将来介護費や住宅改修費、逸失利益、慰謝料などが含まれていました。

このように、適正な等級認定を得ること、そして適正な損害賠償を確保することは、被害者にとって決して机上の理論ではなく、実生活に直結する極めて重要な課題なのです。

まとめ

まとめ

頚髄損傷は、被害者本人の人生だけでなく、家族の生活にも多大な影響を及ぼす重大な障害です。
適正な後遺障害等級の獲得と、十分な損害賠償の確保を実現するためには、専門的な知識と経験をもった弁護士の支援が不可欠です。

当事務所では、労災事故や交通事故に関する豊富な実績を有する弁護士が、等級認定手続や会社への損害賠償請求をトータルにサポートいたします。

後遺障害の程度や賠償の見通しについて不安のある方、会社との交渉が進まずお困りの方は、ぜひ一度、当事務所の無料相談をご利用ください。

電話やメールでのご相談も承っておりますし、必要に応じて医師との連携、鑑定医の紹介なども可能です。頚髄損傷という困難な状況に直面している皆様が、安心して次の一歩を踏み出せるよう、私たちが全力で支援いたします。

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グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。

■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 遠藤 吏恭

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