【労災】工場の機械で大ケガ…労災保険だけでは不十分?会社に請求できる損害賠償を弁護士が徹底解説

「仕事中の事故だから、労災が下りればそれで終わりだと思っていた…」
「会社にこれ以上迷惑はかけられないから、請求なんて考えたこともなかった…」

仕事中の事故で大きなおケガを負われ、今、この文章を読んでくださっているあなたは、心身ともに大変辛い状況の中、様々な不安や疑問を抱えていらっしゃるのではないでしょうか。

2024年2月、埼玉県秩父市の工場で、60代の男性従業員の方が、鋳造機械に手を挟まれ重傷を負うという痛ましい労働災害が発生しました。報道によれば、この事故の原因は、鋳造機に設けられた戸が閉じなければ機械が作動しない構造が規定されているが、機械の安全装置が意図的に無効化されていたことにあると見られています。そして同年6月、非鉄加工業者の会社と取締役は労働安全衛生法違反の疑いで書類送検されました。 

このニュースは、決して他人事ではありません。この事故のように、会社の安全管理に不備があったために発生した労働災害では、被災された労働者の方は、労災保険からの給付を受けるだけでなく、会社に対して、労災保険ではカバーされない損害(特に慰謝料など)を別途請求できる可能性があるのです。

しかし、多くの方がその事実を知らなかったり、知っていても「会社と事を荒立てたくない」という思いから、本来受け取れるはずの正当な補償を諦めてしまっているのが実情です。

本稿では、ご自身のケガが会社の責任によるものではないかと疑問をお持ちのあなたのために、労働災害に遭われた際に利用できる「労災保険」と「会社への損害賠償請求」という2つの制度について、弁護士が解説します。

労災事故における会社の責任について

労災事故における会社の責任について

ニュースになった鋳造機事故の最大のポイントは、「安全装置が無効化されていた」という点です。

安全装置は、過去の数えきれないほどの悲惨な事故の教訓から、労働者の命を守るために法律で設置が義務付けられている「最後の砦」といっても過言ではありませんその砦が、生産効率や作業のしやすさといった理由で意図的に取り払われていたのだとすれば、それはもはや「不運な事故」ではありません。会社が安全よりも利益を優先した結果として発生した「起こるべくして起きた人災」と言えます。

まず、会社(使用者)は、法律によって、労働者が安全な環境で働けるように配慮する「安全配慮義務」(労働契約法第5条)を負っています。

あなたの職場で、以下のような状況はありませんでしたか?

  • 機械の安全装置が日常的に止められていた、あるいは故障したまま放置されていた。
  • 危険な作業にもかかわらず、十分な安全教育や指示がなかった。
  • 人手不足で、無理なスケジュールや危険な二人一組の作業を一人でやらされていた。
  • 床が油で滑りやすい、通路に物が散乱しているなど、整理整頓がされていなかった。
  • 会社が支給すべき安全帯や保護具が、支給されていなかったり、古くて機能しなかったりした。

もし一つでも思い当たることがあれば、あなたの事故は単なるご自身の不注意ではなく、会社が安全配慮義務を怠ったことに原因がある可能性が高いと言えます。そして、その場合、あなたは会社に対して損害賠償を請求ができる可能性があります。

労災被害者が補償のために取り得る方法について

労災被害者が補償のために取り得る方法について

労働災害に遭われた方が受けられる補償には、大きく分けて2つの柱があります。それが「労災保険からの給付」と「会社への損害賠償請求」です。この2つの関係を正しく理解することが、適正な補償を得るための第一歩となります。

労災保険は、仕事中や通勤中のケガ・病気に対して、国が補償を行う公的な保険制度です。会社に責任(過失)があるかどうかに関わらず、業務上の災害であると認定されれば、誰でも給付を受けることができます。

労災保険で受けられる主な給付には、以下のようなものがあります。

①療養(補償)等給付
→労災による傷病治癒されるまで無料で療養を受けられる制度

②休業(補償)等給付
→労災の傷病の療養のために休業し、賃金を受けられないことを理由に支給されるもの

③傷病(補償)等年金
→療養開始後1年6か月を経過しても治癒せず、一定の傷病等級(第1級から第3級)に該当するときに支給されるもの

④障害(補償)等給付
→傷病が治癒したときに身体に一定の障害が残った場合に支給されるもの

⑤遺族(補償)等給付
→労災により死亡した場合に支給されるもので、遺族等年金と遺族(補償)等一時金の2種類が存在する

⑥葬祭料等(葬祭給付)
→労災により死亡した場合で、かつ葬祭を行った者に対して支給されるもの

⑦介護(補償)等給付
→傷病(補償)等年金または障害(補償)等年金を受給し、かつ現に介護を受けている場合に、支給されるもの

⑧二次健康診断等給付
→労働安全衛生法に基づく定期健康診断等の結果、身体に一定の異常がみられた場合に、受けることができるもの

労災保険制度では、以上のような補償を受けることができますが、労災保険では、慰謝料が一切支払われません。

事故で大ケガを負い、激しい痛みに耐え、不自由な入院生活を送り、将来への不安に苛まれる…こうした精神的な苦痛に対する補償(慰謝料)は、労災保険の給付項目には含まれていません。

また、休業損害も約8割(2割は特別給付)しか補償されず、残りの2割や賞与の減額分は自己負担となります。さらに、後遺障害が残った場合に失われる将来の収入(逸失利益)も、労災保険の障害給付だけでは十分にカバーされないケースがほとんどです。

そこで重要になるのが、会社への損害賠償請求です。前述したように、事故の原因が会社の安全配慮義務違反にある場合、あなたは労災保険給付だけでは足りない損害部分を、会社に請求することができるのです。

つまり、労災保険の手続きと、会社への損害賠償請求は、全く別の手続きであり、両方を進めることで、初めてあなたが被った損害に見合う、正当な補償を受けることができるのです。

会社に請求できる損害賠償の内訳

会社に請求できる損害賠償の内訳

では、具体的に会社に対してどのような項目を、いくらくらい請求できるのでしょうか。

労災保険から治療費が支払われている場合は、基本的に会社に請求することはありません。しかし、労災が使えない自由診療を選択した場合の差額や、将来必要になる手術・治療費、通院のための交通費(特にタクシー代など)、車いすや義手・義足などの装具費などが対象となります。

労災保険の休業給付ではカバーされない、給料の残り約2割分や、事故がなければもらえたはずの賞与(ボーナス)の減額分などを請求できます。

また慰謝料も請求出来ます。慰謝料には、主に2つの種類があります。

  • 入通院慰謝料(傷害慰謝料)
    事故日から症状固定日までの間、入院や通院を余儀なくされたことによる精神的苦痛に対する補償です。入院期間や通院期間が長くなるほど、金額は高くなります。

  • 後遺障害慰謝料
    症状固定後も、体に痛みや機能障害などの後遺障害が残ってしまったことによる、将来にわたる精神的苦痛に対する補償です。後遺障害の等級に応じて、金額の相場が決まっています。

具体的な後遺障害慰謝料の金額は、以下の表のとおりです。

等級後遺障害慰謝料の金額
1級2800万円
2級2370万円
3級1990万円
4級1670万円
5級1400万円
6級1180万円
7級1000万円
8級830万円
9級690万円
10級550万円
11級420万円
12級290万円
13級180万円
14級110万円

逸失利益について

逸失利益について

後遺障害によって労働能力が低下し、将来にわたって得られたはずの収入が減少してしまうことに対する補償です。後遺障害の等級、事故前の収入、年齢などによって計算され、賠償項目の中で最も高額になる可能性があります。

【逸失利益の計算シミュレーション】

  • 前提条件
    • 事故時年齢:45歳
    • 事故前の年収:500万円
    • 後遺障害等級:第9級(労働能力喪失率 35%)
  • 計算式
    年収500万円 × 労働能力喪失率35% × 労働能力喪失期間(67歳までの22年)に対応するライプニッツ係数14.029
  • 逸失利益約2,455万円

このケースでは、逸失利益(約2,455万円)と後遺障害慰謝料(690万円)だけでも、合計3,000万円を超える請求が可能になります。労災保険からは、9級の場合、一時金として給付基礎日額の391日分(年収500万円なら約535万円)しか支給されません。その差がいかに大きいか、お分かりいただけると思います。

弁護士に相談・依頼するメリット

弁護士に相談・依頼するメリット

上でご説明したように、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益は、労災からは支給されません。

労災が認められたとしても、されに請求をするためには、自分が所属する会社を相手に損害賠償請求を行う必要があります。
ただ、この損害賠償請求は、会社に過失(安全配慮義務違反)がなければ認められません。

会社に過失が認められるかどうかは、労災発生時の状況や会社の指導体制などの多くの要素を考慮して判断する必要がありますので、一般の方にとっては難しいことが現実です。

弁護士にご相談いただければ、過失の見込みについてもある程度の判断はできますし、ご依頼いただければそれなりの金額の支払いを受けることもできます。

また、一般的に、後遺障害は認定されにくいものですが、弁護士にご依頼いただければ、後遺障害認定に向けたアドバイス(通院の仕方や後遺障害診断書の作り方など)を差し上げることもできます。

そのため、労災でお悩みの方は、お気軽に弁護士にご相談いただくことをおすすめいたします。

労働災害については、そもそも労災の申請を漏れなく行うことや、場合によっては会社に対する請求も問題となります。
労災にあってしまった場合、きちんともれなく対応を行うことで初めて適切な補償を受けることができますので、ぜひ一度弁護士にご相談いただけますと幸いです。

ご相談
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。

■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 申 景秀
弁護士のプロフィールはこちら