
短時間・有期雇用労働法により、パートタイム労働者や有期雇用労働者と正社員の間には、不合理な待遇差を設けてはならないことになっています。今回はこの法律について解説をいたします。
不合理な待遇差を設けてはならないという定め

短時間・有期雇用労働者法は、事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与、その他待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、不合理と認められる相違を設けてはならないと規定しています。
そして、短時間・有期雇用労働者法は、
- 当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務内容
- 当該業務に伴う責任の程度
- 当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情
のうち、当該待遇の性質および当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならないと、定めています。
具体的な事例

不合理と認められる相違を設けてはならないという規定に違反するかを判断するために参考となる裁判例があります。
ハマキョウレックス事件

一つは、ハマキョウレックス事件というもので、無期雇用の運転手と有期雇用の運転手の待遇の格差が問題となりました。無期雇用の運転手は、全国規模の会社における転勤・出向が想定されており、有期雇用の運転手は就業場所の変更がないという労働条件でした。
定期昇給・賞与・退職金については、第1審や第2審において、無期雇用労働者と有期雇用労働者とでは中核人材として育成活用されるかの違いがあるとして、相違は不合理ではないと判断される一方で、第2審においては、有期雇用の運転手に対する通勤手当、無事故手当、作業手当、給食手当の不支給が不合理と認められる相違であると判断されました。
さらに、最高裁において、皆勤手当(1万円)の不支給についても不合理と判断されました。なお、第2審では、住宅手当の不支給は不合理ではないと判断されており、最高裁でも判断は変わっていません。
こうした判決の内容を見ますと、通勤や食事にかかる費用は、無期雇用労働者と有期雇用労働者との間で差異がないため、手当の支給について差異を設けるべきでなく、また、無事故手当・作業手当・皆勤手当など同じ作業をすることに対する報酬についても差異を設けるべきではないと判断されたものと考えられます。
長澤運輸事件

定年後再雇用された有期雇用従業員と無期雇用従業員の待遇の格差が問題となりました。定年後再雇用の従業員については、会社が労働組合との交渉により改善を重ねて、再雇用者の賃金の減額は定年退職前と比較して、年間の総額で21%程度に縮小してきたという事情がありました。
無期雇用従業員は基本給(在席給と年齢給)、能率給及び職務給が支給されるのに対して、嘱託再雇用者は基本賃金及び歩合給が支給されるという相違がありました。
最高裁は、これらの相違について、無期雇用労働者と有期雇用労働者3名の給与との差が、それぞれ10%、12%、2%にとどまること、有期雇用労働者は一定の要件を充たせば老齢厚生年金が支給され、支給開始までの間は団体交渉により2万円の調整給が支給されることになったため、不合理とは言えないと判断しました。
また、無期雇用労働者のみに対する住宅手当及び家族手当の支給に関しては、幅広い世代がいる無期雇用労働者に対して住宅費及び家族を扶養するための生活費を補助することには相応の理由があるということで、不合理な相違があるとは認めませんでした。
他方、精勤手当の不支給及び同手当の時間外手当の基礎への不算入は、運転手に対する精皆勤の奨励という手当の趣旨に照らして不合理な相違に当たる、と判断しました。
職務内容や配置の変更の範囲によって賃金に関する労働条件は一義的に定まるものではなく、使用者は雇用及び人事の観点から様々な事情を考慮して賃金に関する労働条件を検討し、また、こうした労働条件は団体交渉などによる労使の自治に委ねられる部分が大きいということを、最高裁は上記の判断の理由に挙げています。
まとめ

上記でご紹介しました通り、パートタイム・有期雇用労働者と無期雇用労働者の間には、労働条件について不合理な相違を設けてはならないという法律がありますので、労働者の方は職場に対して不合理な待遇の格差を設けないように求めることができます。
そして、双方の労働者において通勤や食事には同じ費用が掛かるために通勤手当や給食手当に格差を設けるべきではないとか、同じ仕事をしたことに対する報酬であるところの皆勤手当等に格差を設けるべきではないという主張をすることについて、検討をして頂く余地があります。
他方、労働組合が会社との間で交渉をして、無期雇用労働者とパートタイム・有期雇用労働者との間で待遇の相違を設けることになったという経緯がある場合は、不合理な相違があると主張しづらくなる可能性がありますので、注意が必要です。
以上にご紹介した内容を参考にして頂き、ご自身の職場での待遇について疑問があれば、検討をして頂けますと幸いです。また、ご自身では判断に困るという場合は、弁護士にご相談を頂けますと、疑問点に対してご回答を差し上げることができますので、必要な場合は法律相談をぜひご利用ください。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。