
「解雇を伝えられたが納得がいかない」「会社は残業代を支払ってくれない」「会社は給料を未払いのままである」、「上司からパワハラを受けた」といった問題をお抱えの方に向けて、これらの問題を解決するために利用されることのある、「あっせん」という手続をご紹介いたします。
これらについて聞きなれない方にもわかりやすいように書いてありますので、よろしければ、ぜひご一読ください。
あっせんとは

あっせんとは、「斡旋」とも表記されるもので、二つの間に入って双方をうまく取り持つという意味の言葉です。また、労働問題に関する「あっせん」という手続を指す言葉でもあります。今回は労働問題に関する「あっせん」という手続をご紹介します。
「あっせん」とは、労働関係に関する事項について個々の労働者と事業主との間のトラブル(個別労働紛争)について、当事者の間に学識経験者である第三者機関(あっせん委員)が入り、当事者間の話し合いを促進することにより、紛争の解決を援助する制度のことです(https://www.mhlw.go.jp/general/seido/chihou/kaiketu/index.html)。
他にも、以下のような特徴があります。
- あっせんの手続は非公開である
- あっせんの申し込みは電子申請の方法で可能
どのような手続か

あっせんは、一言でいえば、「第三者を関わらせた話し合い」です。
労働者又は使用者から申し立てがあると、都道府県労働局ごとに設置され、弁護士、大学教授等の労働問題の専門家である学識経験者により組織された紛争調整委員会が両者の間を取り持ちます。この紛争調整委員会の委員のうちから指名されるあっせん委員が、公正中立の立場で話し合いの場を設け、紛争解決のためにあっせんを実施します。
このあっせんの場において当事者間が合意をした場合には、和解契約が成立したものと認められます。すると、両当事者は和解契約の履行義務を負うことになるので、労使の問題が解決します。
一方で、当事者間の意見の隔たりが大きい等、あっせんによっては解決の見込みがないとあっせん委員が認めた場合あっせん手続を打ち切ることとなります。
どのような機能があるか

申し立て側
・メリット
あっせん手続は、当事者の話し合いによる解決を目指す制度ですので、合意さえ取り付けることができれば、裁判をはじめとする法的手続(民事保全・訴え提起・審理・強制執行)を行う必要がありません。それゆえに、法的手続よりも早期に解決することが見込まれます。
また、あっせん手続の利用には費用が掛かりません。
さらに、当事者間を取り持つあっせん委員は、労働に関する法的知識を持った人物で構成されます。具体的には、弁護士、大学教授、社会保険労務士などの労働問題の専門家である紛争調整委員が担当します。
・デメリット
あっせん手続には出頭義務がありません。したがって、あっせんの申立をしたと相手方があっせん手続の当日に話し合いの場に来ないと、何も解決しないという実情があります。
申し立てられる側
・メリット
基本的には、申し立てる側と同様のメリット(安い、早い、専門家の関与)があります。
また、出頭義務がないということは、申し立てられる側にとっても、(あっせん手続内での)話し合いによる解決を望むか否かを選択できるというメリットがあります。話し合っても良いだろうと考えれば、あっせんに応じるべきですし、この手続で交渉をしたくないなら、対応しないことも選択できます。
・デメリット
あっせん手続に出頭したとしても、合意がまとまらなければ、申立人が他の法的手続をとってくることがあります。例えば、あっせん手続でだめならば、労働審判などの法的手続が新たに申し立てられてしまうことがあります。
他の手続との比較

裁判と比べると
裁判とあっせん手続は、費用の有無や手続にかかる時間が異なります。裁判には、訴訟費用が掛かります。また、慎重な審理の上で判決がされるために、解決までに長期間を見積もる必要があります。
そのため、あっせん手続の方が費用や早さの点で優れています。特に、当事者の双方が譲歩する余地があり、紛争を長引かせないで話し合いたいと考えている場合には、裁判を利用するよりも早く安く解決します。
一方で裁判の方が優れた点もあります。裁判により判決が出されれば、強制的に判決の内容を実現(強制執行の手続)することができます。その一方で、あっせん手続による解決は基本的に両当事者による和解しか想定されておらず、また、和解をすることができた場合にも和解契約は成立しますが、それだけでは強制執行ができません。したがって、あっせんに比べて、話し合いでは一切譲歩しない相手に対し、権利を実現する手段としては、裁判が最も実効性があるといえます。
また、裁判であれば、相手方が出頭しないと申立人(原告)の言い分を相手方が認めたものとみなされますので、相手方としては出頭しないわけにはいきません。
なお、そのほかにも、あっせんは労働局が主催するのに対し、裁判は裁判所が主催する点に違いがあります。
労働審判と比べると
労働審判とあっせんにも手続の費用や権利の実現方法等に違いがあります。
労働審判は、裁判所に申し立てる手続であるため、訴訟と同様に申立費用がかかりますが、あっせん手続には費用が掛かりません。
また、労働審判は、当事者間の話し合いを中心に手続をしながら、合意がまとまらなければ審判という判断をします。加えて、審判がされたとしてもこれに不服がある当事者は異議を申し立てることができ、この場合には申立人が訴訟を提起したとみなされて裁判になります。一方で、あっせん手続では話し合いがまとまるか否かしか検討されず、どちらの言い分が説得的か判断されることはありません。
*労働審判については
【 https://www.saitama-bengoshi.com/mimiyori/20250501-1/ 】
もご参照頂けますと幸いです。
さらに、労働審判は、原則として3回以内で終了するとされているのに対し、あっせん手続は原則として1回で終了するとされています。そこで、労働審判よりもあっせん手続の方が早い手続であるとされています。
示談交渉と比べると
示談交渉(あっせん委員の仲介のない話し合い)による場合、あっせん手続と異なり、あっせん委員が関与しません。そのため、労働問題について正確な知識を持つ第三者が関与しないために、話し合いがどうなるか予測がつきにくいです。ですが、示談交渉も弁護士が介入して行うことで、合意締結を期待することもできます。
まとめ

以上のとおり、基本的にあっせん手続が目立って優れている特徴は、「早い」こと、「安い」ことだということができます。一方で、裁判や労働審判とは、その実効性(実際に問題が解決する可能性が高いか)において劣ってしまうこともあります。
弁護士の視点から見ても、どの手続がもっとも優れているかについては、事件ごとに異なり、悩ましいこともあります。ときには、一見すると関係ないような事情を原因として、あっせん手続を使うべきでないこともあります。ましてや、労働問題についてお悩みの方の多くは、どうすれば良いかがよくわからないはずです。
そのようなときは、まず弁護士に相談してみるということをおすすめします。
弁護士は、法律に関する知識に加え、どのような事件ではどのような争い方をすることが適切であるかについて知見があります。お悩みを解決するためにも、ぜひ、弁護士に一度相談してはいかがでしょうか。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。
この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 小松原 柊
令和4年3月 中央大学法学部法律学科 卒業
令和6年3月 東北大学法科大学院 修了
令和7年4月 弁護士登録