
仕事中に事故に遭って腕を骨折してしまった。
そんなとき、あなたはどのように補償を受けることができるのでしょうか?
労働中のケガは、労働者災害補償保険、いわゆる「労災保険」の対象になります。
しかし、それだけでは十分な補償が得られない場合もあります。
また、骨折が完治しても、関節の可動域制限やしびれなどの症状が残るケースでは「後遺障害等級認定」を受けることで、追加の補償を受けることが可能です。
さらに、会社に明らかな過失があった場合には、労災とは別に損害賠償請求が認められることもあります。
労災保険の基本から後遺障害認定の制度、さらには弁護士に依頼することで得られるメリットについて、詳しく解説します。
腕の骨折が起きる労災事例とは?

業務中に発生する腕の骨折事故は、さまざまな職場で発生しています。以下のような状況が典型的な事例です。
- 建設現場での作業中に転倒し、腕を強く打って骨折
- 工場でプレス機に巻き込まれて上腕を骨折
- 倉庫で重い荷物を運んでいる際に滑って転倒、前腕を骨折
- 配送業務中の自転車や自動車事故により肘を骨折
- 清掃中に床の水濡れで転倒し、手関節を骨折
これらの事故は、業務中に発生しているため、労災保険の適用対象になります。
会社が事故の発生に過失があったかどうかは問われず、「業務起因性」と「業務遂行性」が認められれば、原則として労災認定されます。
ここで確認しておきたいのは、会社に過失がなかったとしても、労災保険(国)から補填がなされるという事です。
労災事故では、多くの場合で「会社に迷惑を掛けたくないから労災申請をしないでおこう」という方がいらっしゃいますが、労災保険からの保険金などは、会社が負担するものではなく、国から支給されるものですので、会社の迷惑にはなりません。
キチンとした正当な補填を受ける権利が労働者にはあります。
腕の骨折で後遺障害が残るケースと等級例

骨折は完治すれば問題ないと考えられがちですが、実際には後遺症が残ることが少なくありません。例えば、骨がずれて癒合する「変形癒合」、神経の損傷によるしびれ、関節の可動域制限などが後遺症として残ることがあります。
これらの後遺症が残る場合、「後遺障害等級認定」を受けることにより、労災保険や民事損害賠償における追加補償が可能となります。
以下、具体的な症状を参考として後遺障害の等級を見ていきます。
機能障害
腕を骨折したことで動かしづらさが残る、腕が動かなくなったなどの症状があります。
こうした腕の動かしづらさは機能障害といわれ、後遺障害6級6号、8級6号、10級9号、12級6号に認定される可能性があります。
等級 | 症状 |
6級6号 | 1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの |
8級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの |
10級9号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
12級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の関節の機能に障害を残すもの |
変形障害
腕の骨折が正しく癒合しないことで、変形してしまうこともあります。
変形した結果、変形した、変な動きをしてしまうなど、本来と異なる動きをしてしまうという症状です。
腕の骨折による変形障害は、後遺障害7級9号、8級8号、12級8号認定を受けられる可能性があります。
等級 | 症状 |
7級9号 | 1上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの |
8級8号 | 1上肢に偽関節を残すもの |
12級8号 | 長管骨に変形を残すもの |
神経障害
腕の骨折箇所が癒合しても、痛みやしびれといった神経症状が残ってしまうことがあります。こうした神経症状は後遺障害12級13号または14級9号認定を受けられる可能性があります。
等級 | 症状 |
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残す |
14級9号 | 局部に神経症状を残す |
このような等級が認定されると、労災保険の障害補償給付(年金または一時金)や、加害者や会社への損害賠償請求時の逸失利益・慰謝料の算定に大きく影響します。
後遺障害等級認定とは?

後遺障害等級認定とは、労災や交通事故などで治療後も身体に残った障害について、その程度を等級で評価する制度です。等級は1級から14級まであり、数字が小さいほど重い障害を意味します。
腕の骨折においては、治療終了後(症状固定後)に後遺症が残っている場合、「障害等級認定請求」を行うことになります。この際には、医師の作成する後遺障害診断書や、レントゲン・MRIなどの画像資料、可動域測定記録などが重要な資料となります。
等級によって受けられる給付の金額が大きく変わるため、正確かつ適切な資料の提出が不可欠です。また、場合によっては認定結果に不満がある場合に異議申立てを行うこともできます。
弁護士が関与するメリット

後遺障害等級認定は、単に医師の診断書を提出すればスムーズに進むものではなく、医学的・法的観点から十分な裏付けが必要です。
たとえば、次のような点で等級が過小評価されてしまう可能性があります。
- 可動域の測定が不適切で、実態より広く記録されている
- 医師が労災や後遺障害申請の制度に不慣れで、記載が不足している
- 神経障害やしびれなどの自覚症状が、医師によって軽視される
こうした事案について、弁護士が介入して、以下のような具体的サポートを行うことで適切な後遺障害等級の認定がありえます。
- 医師とのコミュニケーションを代行し、必要な記載内容を明確化
- MRIやX線画像の収集と評価ポイントの整理
- 被害者の日常生活や仕事への影響を証明する陳述書の作成支援
- 労災保険への異議申立て(不服申立て)や再申請の対応
- 必要に応じて、専門医のセカンドオピニオンを活用
特に12級や14級のように、わずかな差で認定が分かれる等級では、弁護士の介入により“等級なし”を回避することも期待できます。
会社に対する損害賠償請求はできる?

ここまで、労災保険からの、治療費や休業補償、障害補償などの給付についてご案内いたしましたが、これらはあくまでも“最低限の補償”にすぎません。
精神的苦痛に対する慰謝料や、将来にわたる収入減少など、労災だけではカバーされない損害が多く存在します。
会社に対して損害賠償請求ができるのは、主に以下のような場合です:
- 作業環境に危険があり、会社がその対策を怠っていた
- 安全装置の設置や点検義務を果たしていなかった
- 業務命令や配置が不適切で、事故に直結していた
このような場合、民法上の不法行為(民法709条)あるいは雇用契約に基づく安全配慮義務違反(民法415条)に基づき、会社の法的責任を追及することが可能です。
このような損害賠償請求で認められる可能性がある損害には、次のようなものがあります。
- 治療費(労災で賄えなかった実費部分)
- 通院交通費
- 休業損害(労災給付との差額)
- 逸失利益(将来の収入減少分)
- 慰謝料(後遺障害が残ったことに対する精神的損害)
- 介護費用(重度後遺障害の場合)
特に慰謝料は、労災保険では支給されないため、会社に過失がある場合は民事上の請求によって補填する必要があります。
損害賠償を請求するには、事故状況を示す証拠、診断書や治療記録、労基署の調査記録、同僚の証言など、幅広い証拠の収集が必要です。弁護士がこれらを一括して管理・整理し、交渉または訴訟に臨むことで、被害者にとって最大限の補償を獲得する可能性が高まります。
まとめ

腕の骨折は、その後の生活に長く影響を与える重大なケガです。労災保険や損害賠償の手続きは複雑であり、正しい等級認定や適切な損害賠償請求を行うには、法律と医学の知識が必要です。
弁護士のサポートにより、納得のいく補償を受けるための道筋が見えてきます。
業務中に腕を骨折した方や、後遺症が残った方は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。