給与の振込手数料は、従業員が負担すべき?~給与の振込手数料について解説

使用者が給与の振り込みを行う際に、振込手数料を差し引こうとすることがあります。このような従業員に負担をもとめることは許されるのでしょうか。今回は、この問題について解説をいたします。

給与の全額払いのルール

給与の全額払いのルール

労働基準法24条1項において、賃金はその全額を支払わなければならない、と定められています。ただし、「法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる」とも定められています。

給与の振り込みについて従業員に振込手数料の負担を求めると違法となることがある

給与の振り込みについて従業員に振込手数料の負担を求めると違法となることがある

給与の口座振込みにおいて振込手数料を給与の金額から差し引くことは、従業員の同意を得ていたとしても、上記の労働基準法24条1項の全額払いのルールに違反すると判断されることがあるようです。

東京高等裁判所平成30年2月7日判決労働判例1183号39頁という裁判例があり、この裁判例のケースでは、使用者側が日雇派遣及び日々職業紹介という不安定な雇用に置かれているものに対し、即給サービスという、稼働日の翌々日に給与の引き出しが可能であるというサービスの利便性を紹介して、即給サービスの利用について同意します・同意しませんの選択をさせて、即給サービスを利用する場合は振込手数料を給与から差し引いていました。裁判所は次のような理由で、振込手数料を給与から差し引くことを、労働基準法24条に違反すると判断しました。

・即給サービスを利用した場合には,即給サービスの振込手数料として,振込先口座が,C銀行の口座の場合には105円,他行の場合は305円が給与から天引きされる

・その利用については,登録社員に対し,その利便性を強調したというべき「「即給サービス」ご利用案内」と題する書面を交付した上,更に,即給システムを利用するか否かについての申告を求める「銀行口座振込依頼書(兼 即給サービス利用申込書)」を交付しており,「労働条件通知書」自体に即給サービスの利用が可能であるとし,その利便性を説明する文言が記載されており,現に約45パーセントに及ぶ就業者が即給サービスを利用していた。

・即給サービスの利用手数料の負担者については,「銀行口座振込依頼書(兼 即給サービス利用申込書)」によれば,利用者である労働者とされているが,被控訴人らが控訴人の賃金と即給サービスの利用手数料を相殺することができるためには,控訴人が相殺に同意していることだけでは足りず,当該同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足る合理的理由が客観的に存在しなければならない(最高裁判所第二小法廷平成2年11月26日判決・民集44巻8号1085頁参照)。

・本件の場合,被控訴人らは,控訴人ら就業者に対し,即給サービスの利用を誘導しているといわざるを得ないところ,これにより,被控訴人らは現金による賃金支払の事務の負担を免れることができる一方,控訴人ら就業者は,日雇派遣及び日々職業紹介という不安定な雇用に置かれている者であり,不本意ながら即給サービスを利用せざるを得ない立場にあるといえ,現に約45パーセントに及ぶ就業者が即給サービスを利用しているのである。

・そうすると、控訴人ら就業者の同意があるとしても,それが労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足る合理的理由が客観的に存在する場合には当たらず,控訴人の賃金から即給サービスの利用手数料を控除することは,労働基準法24条1項に違反するというべきである。

以上のような裁判例の判決理由を見ますと、使用者の方が、給与の振込みシステムの利便性をうたって勧誘し、従業員がシステムを利用し、その際に振込手数料を差し引くことについて同意をしたとしても、従業員が自由な意思に基づいて同意したと認定することに裁判所が慎重な姿勢を示すことがあるということが確認できます。

よって、使用者側が、給与の振込手数料を給与から差し引くことを提案してきた場合、以上のような裁判所の姿勢に照らして、使用者側の提案は労働基準法24条に違反している可能性があると検討する余地があると思います。

まとめ

まとめ

以上の通り、給与の振り込みにおいて使用者側が振込手数料を差し引くことは労働基準法24条に違反する可能性があることを解説しました。使用者側が振込手数料を差し引くことを提案してきた場合には、労働基準法24条に違反する可能性があると検討する余地があると考えます。

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 村本 拓哉

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