介護施設で勤務されている方には、利用者の介助が原因となりぎっくり腰などのケガを負ったり、利用者から暴行を受けるなどでケガを負うことがあります。

特に、近年、職員が利用者から暴力を受けるという事件は数多く発生しております。

そこで、こうした場合に労災を使うことができるかについて解説いたします。

労災が下りる条件

労災が下りる条件

労災は、業務中や通勤中に傷病が発生した際に適用されるものです。

具体的には、「業務災害」や「通勤災害」があった際に適用されます。

このうち、介護施設で勤務しているときに発生する傷病は、「業務災害」にあたります。

「業務災害」に当たるには、「業務遂行性」「業務起因性」が必要です。

つまり、業務中の出来事であり、業務の関連施設や設備などを原因として発生した災害の場合、労災が認定されることとなります。

もっとも、「業務起因性」があるとして判断されるためには、怪我等が業務を原因とするものと判断できる状態を指しますから、業務とケガとの間に経験則上、相当な因果関係が認められる必要があります。

そこで、介護施設でのケガがこうした条件を満たし、労災が適用されるかについて以下、解説いたします。

労災の適用の有無

ケース① 利用者を介助している際にケガをした

ケース① 利用者を介助している際にケガをした

介護施設で介助をする際には、利用者の入浴を介助したり、排泄を介助したりするために、利用者の身体を持ち上げたり、支えたりするなど、職員の方の身体には大きな負荷がかかります。

こうした負荷により、ぎっくり腰になったり、腰痛を患ったりということがあります。

厚生労働省の通達では、腰痛を「災害性の原因による腰痛」と「災害性の原因によらない腰痛」の2つに分類しています。

「災害性の原因による腰痛」とは、業務を進める中で明確な理由があって腰痛になった場合を言います。たとえば、利用者を車イスから抱きかかえるときに、その重みでぎっくり腰になったりした場合です。

これは、業務中での明確な原因があることから、業務と痛みの因果関係が明確であるため、「業務遂行性」「業務起因性」が認められ、労災認定がなされることが基本です。

一方、「災害性の原因によらない腰痛」とは、業務中の明確な原因があるわけではなく、日々の業務による腰への負荷が積み重なって発症するというような場合をいいます。

具体的には、筋肉等の疲労を原因とした腰痛と骨の変化を原因とする腰痛に分けられています。

「災害性の原因によらない腰痛」は、明確な原因があるわけではないので、労災の要件を満たしているかどうかの判断が難しいです。

  • 腰部に過度の負担がかかる業務に比較的短期間(約3か月以上)従事したことによる筋肉等の疲労を原因として発症した腰痛・重量物を取り扱う業務または腰部に過度の負担のかかる作業態様の業務に相当長期間(おおむね10年以上)にわたって継続して従事する労働者に発症した慢性的な腰痛   

そこで、以下の2つの場合には労災認定が認められるとして、労災認定がされるケースについて限定的な扱いがされています。

利用者を介助している際にケガをした場合、「災害性の原因による腰痛」にあたります。

そのため、基本的には労災認定がされることが多いです。

ケース② 利用者から暴力を振るわれた

ケース② 利用者から暴力を振るわれた

近年、事件として増加傾向にあるのが、介護施設での利用者から職員に対する暴力です。

利用者の方は、思うように体が動かないことなどでイライラして、このような暴行を行ってしまうのかもしれません。

こうした暴力行為に対して、「仕方ない」と済ませるのは得策ではありません。

労災が認定されるのは、「業務遂行性」「業務起因性」がある場合です。

そうすると、介護施設での従事にあたって、利用者から暴行された場合には、業務中の出来事、かつ、業務が原因ですから、労災認定がされる可能性が高いです。

もっとも、労災認定がされる場合には、業務との相当因果関係が必要です。

利用者からの暴行でどれぐらいのケガを負ったのかというところと明確に因果関係が認められる必要があるので、この点には注意が必要です。

ケース③ 利用者から暴言をぶつけられた

ケース③ 利用者から暴言をぶつけられた

暴行事件にまで発展しなくとも、利用者から暴言をぶつけられるということは、頻繁に起こっていることと思います。

労災は身体的なものに限られません。精神的なものであっても認定されることがあります。

ですが、精神障害は様々な要因で発病しますし、その負担の割合が数字で表せたりなどできず、必ずしも明確に判断することができません。

  • 認定基準の対象となる精神障害を発病していること
  • 認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
  • 業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと

そこで、精神疾患で労災が認定されるためには、以下の基準を満たす必要があります。

①認定基準の対象となる精神障害を発病していること

認定基準の対象となる精神障害かどうかについては、ガイドラインに基づいて、診断書や診療内容、関係者への聞き取り内容などから判断がされます。

精神疾患のうち職場で起きやすい、うつ病や統合失調症、急性ストレス障害などは認定基準の対象となる精神障害に含まれます。

②認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること

業務による心理的な負荷を「強」「中」「弱」の3段階に分類し、このうち「強」と認められる場合に、労災として認定がなされます。

この判断は、「心理的負荷評価表」を用いてなされますが、たとえば利用者から人格否定をされるような暴言が執拗に行われていたなどのケースでは、「強」と判断される可能性が高いです。

③業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと

仮に業務以外での心理的負荷が原因であったり、個体側要因(個人のパーソナリティ)により発病したと認められる場合には、労災認定はされません。

業務以外の要因については、「業務以外の心理負荷評価表」を用いて判断がされます。

もっとも業務中に利用者による暴言が行われた場合には、業務以外の心理的負荷であると判断される可能性は低いと考えられます。

まとめ

まとめ

ここまで、介護施設でのトラブルについて、ケースごとにわけて労災認定がされるかについて解説しました。

労災の認定がされるかについては、専門的な判断を要することもあります。

また、仕方ないと思って流していたケガやご自身への負担が、労災にあたることもあります。

労災にあたるかも?と少しでも思った場合には、一度弁護士にご相談いただけますと幸いです。

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 遠藤 吏恭

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