残業代請求にあたってのタイムカードの役割

残業代請求を行うにあたって、勤務時間を根拠付ける証拠資料としてタイムカードが非常に重要になります。しかし、会社側がタイムカードを開示しない場合や、タイムカードがあってもその内容がいい加減な場合があります。そこでタイムカードについて考えていきます。

タイムカードの保管義務

タイムカードの保管義務

労働基準法上の義務

労働基準法上、「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」と定められています(労基法24条1項)。また、使用者に対する時間外労働や休日労働についての厳格な規制が採られています。そして、労働基準法上、使用者は賃金台帳を作製することが義務付けられており、その一内容として、労働時間数が挙げられています(労基法108条、労基法施行規則54条1項)。

そのため、会社は、タイムカード等の保管義務が労働基準法上定められていることになります。これに違反すると、30万円以下の罰金刑に処せられるおそれがあります(労基法120条第1号)。

もっとも、上記の法律の文言からすると、労働時間数を把握すれば良いため、「タイムカード」それ自体でなくても、業務日報等による方法でも、労働時間の把握方法としては認められることになってしまいます。

労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン

労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン

労働基準法においては、労働時間、休日、深夜業等について規定を設けていることから、使用者は、労働時間を適正に把握するなど労働時間を適切に管理する責務を有しています。しかし、現状をみると、労働時間の把握に係る自己申告制(労働者が自己の労働時間を自主的に申告することにより労働時間を把握するもの。以下同じ。)の不適正な運用等に伴い、同法に違反する過重な長時間労働や割増賃金の未払いといった問題が生じているなど、使用者が労働時間を適切に管理していない状況もみられるところです。そこで、労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置を具体的に明らかにするべく、労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドラインが厚生労働省から公表されました。

この中で、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置 」として、下記のとおり、タイムカード等の客観的にデータによる管理が定められました。

⑴ 始業・終業時刻の確認及び記録

使用者は、労働時間を適正に把握するため、労働者の労働日ごとの始業・ 終業時刻を確認し、これを記録すること。

⑵ 始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法

  使用者が始業・終業時刻を確認し、記録する方法としては、原則として次のいずれかの方法によること。

  ア 使用者が、自ら現認することにより確認し、適正に記録すること。

  イ タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること。

⑶ 自己申告制により始業・終業時刻の確認及び記録を行う場合の措置 上記⑵の方法によることなく、自己申告制によりこれを行わざるを得ない場合、使用者は次の措置を講ずること。

(以下省略)

労働安全衛生法上の義務

労働安全衛生法上の義務

労働安全衛生法においては、労働者の安全と健康確保を主眼として、各規定が設けられています。そして、労働安全衛生法においては、長時間労働によるの労働時間把握義務は、労働者の安全と健康確保に資する形で行うよう定められます。

労働安全衛生法第66条の8の3

事業者は、第66条の8第1項又は前条第1項の規定による面接指導を実施するため、厚生労働省令で定める方法により、労働者(・・・)の労働時間の状況を把握しなければならない。

労働安全衛生法施行規則第52条の7の3

法第66条の8の3の厚生労働省令で定める方法は、タイムカードによる記録、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録等の客観的な方法その他の適切な方法とする。

2 事業者は、前項に規定する方法により把握した労働時間の状況の記録を作成し、3年間保存するための必要な措置を講じなければならない。

労働基準法においては、労働者の始業・終業時刻の確認及び記録の方法として、使用者自らの現認・記録、タイムカードICカード等の客観的な記録を基礎とする確認・記録、を原則とし、例外的に労働者の自己申告制を認めていました。これに対し、労働安全衛生法においては、「客観的な方法その他の適切な方法」と定められている点に注意が必要です。

タイムカードの開示請求

タイムカードの開示請求

労働者が会社に対して残業代請求をするにあたり、時間外労働時間数を主張・立証する責任は、請求する労働者側にあります。もっとも、会社がタイムカードを保管しているため、労働者がこれを入手することは一般的には困難です。また、労働者自身が請求しても、会社は開示には応じないケースもまま見受けられます。

弁護士にご依頼いただければ、弁護士からの開示請求にはやむなく応じる会社も多数出てきます。この点で、残業代請求を行うにあたっては、弁護士に依頼することが事実上得策といえます。

しかし、それでも会社が頑なにタイムカードの開示を拒むことはあります。その場合には、一定の時間外労働時間を何らかの方法でひとまず算出した上で未払残業代請求を内容とする訴訟を提起し、裁判手続きの中で、文書送付嘱託等の民事訴訟法上の手続を使って裁判所から会社に提出を求めるという形で、会社からタイムカードを開示されることが期待できます。

タイムカードの内容を巡る問題

タイムカードが存在していても、会社が残業代を払わないよう、いったんタイムカードの打刻をさせてから残業をさせる場合もあります。また、労働者がタイムカードを打刻し忘れて手書きで記載している場合があります。

これらの場合には、タイムカードをもって、残業時間の把握を客観的に行うことが困難になります。

裁判の場でどのように扱われるか、その背景事情、裁判官の考え方等、様々な要素によるため、本コラムで書き尽くすことはとてもできません。

具体的な内容については、労働者一人一人の状況に応じたアドバイスをしたいところですので、ぜひとも弁護士に相談ください。

残業代計算を巡る諸問題

残業代計算を巡る諸問題

残業時間の計算~残業代は1分単位~

未払残業代の請求をする際、どのように計算するか、疑問に思う場面があるかと思います。「うちのお店では15分過ぎないと残業代がつかない決まりになっている」「30分単位でしか残業代が払われないことになっている」「毎日13分くらい残業していたけれど、これは請求できないのかな」と悩まれることがあるかもしれません。

労働基準法第24条では、賃金全額払いの原則が定められており、残業代(割増賃金)の計算においては、労働時間の切捨てをすることなく、1分単位まで足し合わせて請求することができます。

しかし、条文上、分単位なのか、時間単位なのか、明文の定めはありません。ここでヒントになるのが、当時の労働省から発出された通達です。通達では、1か月のおける時間外労働、休日労働及び深夜業の各々の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合に、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げる処理が、労働基準法第24条、第37条違反としては取り扱わないとされています8昭和63年3月14日基発150号)。

この通達を見ると、「1時間未満の端数がある場合」と記載されていることから、前提として、計算上、分単位の数値が算出されることが前提とされていることが分かります。現実的ではありませんが、秒単位でも足し合わせることも可能でしょう。

消滅時効

残業代の請求にあたっては、給与支払月から3年(法改正により2年から延長)で消滅時効となり、会社側が時効消滅している旨反論してきた場合には、3年を超えた部分の請求は認められません。そのため、残業代請求をしたいと考えたら、早急に動く必要があります。

なお、消滅時効は「給与支払月」に着目します。会社によっては、月末締・翌々月払いという給与支払い制度としている会社もあります。その場合、必要となるタイムカードは、請求から3年前の月の、前々月までのタイムカードの開示を求めて言うことになります。弁護士でもこの点を落とす方がいらっしゃいますため、注意が必要になります。

具体的請求方法

残業代請求をするにあたり、労働組合に相談したり、労働基準監督署に相談に行ったりすることが考えられます。しかし、労働組合による団体交渉での請求にあたっては、労働組合やユニオンへの加入が必要になります。また、労働基準監督署は、労働基準法等に関する監督行政機関であるため、具体的な残業代請求まではしてもらうことはできません。

そこで、まずは弁護士に相談に行くことを強くおすすめします。

残業代請求にあたっては、非常に専門的な知識を要する場面も少なくなく、法律の専門家に依頼することが最善です。また、交渉にせよ、労働審判や訴訟等の裁判所の手続を利用するにせよ、事前の準備が必要です。この事前の準備にも注意してもらいたいことが多数あります。さらに、上述の時効の問題があるため、早期に相談してもらいたいところです。

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 平栗 丈嗣

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