会社で残業を行ったにもかかわらず、しっかりと残業代が支払われない場合があります。このような場合、どのような流れを踏めば、残業代を会社から支払ってもらえるのか、支払ってもらうためにするべきことなどについてご案内致します。

残業代を請求する方法

残業代を請求すると漠然と言っても、請求するためにはいくつかの方法、ステップがあります。単に会社に対して、残業代を支払ってくださいと告げても、しっかりと支払われるという解決には至らないこともあります。
そこで、残業代を請求するいくつかの方法についてご案内致します。

会社との示談交渉

残業代を請求するにあたって、まず考えられる方法は、会社との間で示談交渉をすることです。後述する労働審判や訴訟を提起する前に、まずは任意の話し合いで解決できるように会社に対して直接交渉して、和解を求めるという方法です。

交渉では、残業代の計算の根拠や、事実関係についての確認をするなどして、会社と合意のもと和解条項を作成します。任意の話合いをして和解を成立させることで、迅速かつ円満な解決を期待することができます。

また、和解条項はお互いが任意で合意することで作成するものですから、必ずしも訴訟では決められないことを取り決めることもできます。
例えば、残業代を請求したことを会社内の人など当事者以外の他人に口外しないというような条項を盛り込むことで、プライバシーを守ることもできます。

会社に対して残業代を請求する場合には、まず示談交渉をすることが一般的と言えます。
もっとも、示談交渉は、結局は当事者双方が任意で合意して初めて解決を図ることができるものですから、会社側が強硬な態度を示して、合意しない場合には解決しないというデメリットもあります。

労働審判

示談交渉で会社とうまく合意ができない場合には、当事者だけでの話し合いでは解決が望めませんから、裁判所を介した解決を図ります。労働審判は、裁判所で行われますが、内容については非公開であり、お互いが合意をする調停や、裁判所が判断を下す審判によって、解決を図る手続きです。手続きには、当事者と労働審判官(裁判官)1名と労働審判員(労働関係の専門家)で構成される労働審判委員会が参加します。

労働審判は、原則として3回以内の期日で審理が終了します。第1回期日は、申立てから原則として40日以内に設定され、その後の期日はおおむね1か月に1回の間隔で行われますので、おおよそ2か月から4か月程度で審判が終了します。

第1回期日では、双方当事者が事実に関する主張、証拠の提出を行い、労働審判委員会から法律的な観点に基づく心証を告げられます。第1回期日でほとんどの主張反論が終了することとなります。

続く第2回期日では、調停に関するやり取りが中心となります。第1回期日までで基本的には事実関係に関する主張反論が終わっていますから、ここでは、労働審判委員会の心証を受けて、当事者がこのような内容であれば合意し、和解できる、ということを話し合います。

あくまで調停に関するやり取りは当事者双方の任意の合意ですが、裁判所を介している点で、前述の示談交渉とはまた違った効果が期待できます。労働審判委員会が心証を伝えるため、ある程度の説得が期待できますし、当事者としても今後の予想される判断を考えると示談して早期解決を図ろうという考えになることが多いです。
そのため、多くの場合では第2回期日までに調停が成立します。

第2回期日までに合意が行われなかった場合、第3回期日にて審判が下されます。これは、労働審判委員会が双方当事者から主張された内容や証拠を踏まえて、実情に即した審判を下すというものです。

このように労働審判では、比較的迅速な解決が望めますし、裁判所を介する点で双方が納得して合意に至るということも考えられます。

会社に対する訴訟

労働審判を行っても調停がまとまらなかったり、労働審判委員会の判断に納得がいかないというような場合には、訴訟をすることになります。
訴訟は、裁判を起こすという方法であり、双方当事者が主張や証拠を提出しあい、最終的には裁判官が判決を下すという手続きです。

訴訟手続きは、確かに裁判官が最終的な判決を下すという意味で解決には結びつきやすい手続きです。しかしながら、訴訟は解決までに1年以上の時間がかかることもありますし、他の手続きと比較して厳格に証拠調べをするため、手間や費用がかかります。

また、訴訟は労働審判と同じで裁判所が関与するものですが、訴訟には労働審判員が関わらないという点、審理が公開される点、労働審判ではかならずしも結論がでるとは限らないという点などで差異があります。

訴訟をすることのメリット・デメリットを比較検討して、訴訟を提起するか吟味する必要があると言えます。

労基署への相談

残業代を請求するにあたって、ここまでご案内した手段ではなく、労基署に相談に行くことで解決を図れないかということも考えられます。結論として、労基署に残業代の未払いについて相談しても、必ずしも個々の解決に結びつくとは言えません。

労基署は労働問題に関するあらゆる分野について幅広く相談を受け付けております。
しかし、労基署が行うことはあくまで事実関係の聞き取りを行い、一連の調査の結果、会社に違法な状態が認められた場合に初めて、会社に対して是正勧告を行うなどの措置をとることです。

つまり、あくまで労基署は会社に対しての指導を行うのみであり、個人の残業代について和解を締結させたり、ましては訴訟を提起するわけではありません。そのため、必ずしも残業代の回収という解決には至るわけではありません。

残業代を請求するにあたっての準備

必要な資料の収集

残業代を請求する方法についてご案内しましたが、いずれの手続きにおいても、事実関係に基づいた解決がなされます。
ですから、これらの手段を使って残業代を請求するにあたっては、事実関係を示す資料を用意する必要があります。

残業代を請求するにあたって、残業代がいくらとなるか計算する必要があります。そのための資料として、就業規則や賃金規定などの始業時間・終業時間・給与額が分かる資料が必要となります。また、給与明細等の実際に支給された金額やその内訳が分かる資料も必要となります。さらに、会社との関係を示す資料として雇用契約書もあるとよいです。

そして、残業代を請求するにあたってもっとも重要な証拠資料が、労働時間を記録したものとなります。そこで、タイムカードのコピーや労働時間が記載されている業務日報、会社の入退館記録などの用意が必要となります。
そのほか、残業時間中に送ったメールやパソコンの起動時間、手書きのメモ、会社同僚とのやり取りなど、とにかく残業時間中に仕事を行っていたことを示すてがかりとなるものは全て残しておく必要があります。場合によっては、残業時間中の会議の録音データなどの保管も考えられます。

このように残業代を請求するにあたっては、残業時間中に仕事を行っていたことを示すてがかりとなるものを収集しておくことが大切です。

消滅時効への対策

残業代を請求するにあたって注意しておく必要があるのは、残業代を請求できる期間には期限があるということです。残業代の請求は過去3年分までしかすることができません(2020年4月の法改正により2年の時効期間が3年に延長されました)。
これを消滅時効といい、基本的に3年が経過すると、そのときから3年前の月の残業代が消滅してしまうのです。

何もしないまま3年が経過してしまうと、本来なら請求できたはずの残業代を請求することができなくなってしまいます。そこで、消滅時効を止める必要があります。

消滅時効を止める方法としては、内容証明郵便により請求書を送るという方法が一番最初に考えられます。内容証明郵便とは、郵便局がこのような内容の手紙を送ったということを証明してくれるサービスのことで、残業代を請求したことを郵便局が証明してくれるのです。

しかし、内容証明郵便を送っても、完全に消滅時効の恐れがなくなるわけではありません。内容証明郵便を送ることは、民法上は「催告」を行ったものと評価されますが、これは催告から6か月の期間時効を停止させるというものであり、あくまで暫定的なものです。

完全に時効を止めるためには、裁判を起こすか、会社が確かに残業代を支払いますと承認することが必要です。
もっとも、裁判を起こすのを待っていたのでは時効が完成してしまうというような場合には、内容証明郵便による「催告」を行うことで、裁判までの準備を整えることができます。

まとめ

ここまで、会社に対して残業代を求める方法とその流れ、必要なことについてご案内しました。残業代を支払ってくれなかった会社に対して、実際にご自身で支払うよう請求することは精神的にも大きな負担がかかります。

また、本コラムでは残業代の計算方法などについて触れておりませんが、実際に残業代を請求するとなると残業代を計算し、事実関係についてまとめるなど、ご自身にかかる負担は大きいものとなります。

ですが、きちんと働いていた以上、ご自身が働いた分について会社に対して賃金の支払いを求めることは当然のことです。
残業代が支払われず悩んでいらっしゃる方は、まずは一度弁護士に相談していただけますと幸いです。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 遠藤 吏恭
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