肺線維症はアスベストが原因かもしれません|石綿肺との関係・労災認定・給付金について弁護士が解説

「肺線維症」「間質性肺炎」「特発性肺線維症」——呼吸器内科でこうした診断名を告げられ、「原因は分からない」「加齢によるもの」と説明された方はいらっしゃいませんか。

息切れが年々ひどくなり、階段を上るのもつらい。乾いた咳が何か月も止まらない。それでも「原因不明の病気だから仕方がない」と受け止め、補償を受けられる可能性があることを知らないまま過ごしている方が、数多くいらっしゃいます。

しかし、肺線維症の中には、過去にアスベスト(石綿)を吸い込んだことが原因で発症する「石綿肺」というものがあります。石綿肺は、労災保険、建設アスベスト給付金、石綿健康被害救済制度といった公的な補償の対象であり、さらに当時の勤務先や建材メーカーに対する損害賠償請求の対象にもなり得ます。

本記事では、肺線維症とアスベストの関係、ご自身の病気が石綿肺かどうかを見極めるための手がかり、そして受けられる補償と請求の方法について、埼玉県大宮の弁護士が解説します。

肺線維症とはどのような病気か

肺線維症とはどのような病気か

まず、肺線維症という病気そのものについて、基本的なところから整理します。

肺が硬くなり、酸素を取り込めなくなる病気

私たちの肺の中には、肺胞と呼ばれる小さな袋が無数にあり、その壁を通じて酸素を血液に取り込んでいます。肺線維症は、この肺胞の壁(間質)に炎症が起こり、修復の過程で組織が硬く厚くなっていく(線維化する)病気です。

線維化が進むと、肺は膨らみにくくなり、酸素を取り込む力が落ちていきます。その結果、はじめは階段や坂道で息が切れる程度だったものが、やがて平地を歩くだけで苦しくなり、最終的には安静にしていても呼吸困難を感じるようになります。

線維化した組織は、元に戻ることがありません。そのため、肺線維症は進行性の病気として扱われ、治療の中心は進行を遅らせることに置かれます。

「特発性」と「原因のある肺線維症」

肺線維症は、原因によって大きく二つに分けられます。

一つは、検査をしても原因を特定できないもので、「特発性肺線維症(IPF)」と呼ばれます。「特発性」とは、医学用語で「原因不明」を意味します。

もう一つは、原因がはっきりしているもので、膠原病に伴うもの、薬剤によるもの、放射線によるもの、カビや鳥の羽毛などに対するアレルギー反応によるもの(過敏性肺炎)、そして粉じんの吸入によるもの(じん肺)があります。

アスベストによって起こる肺線維症は、このうち「じん肺」に分類され、石綿肺(せきめんはい)と呼ばれています。

主な症状と進行の経過

初期の症状は、労作時の息切れと乾いた咳です。「年のせいだろう」「運動不足だろう」と思って見過ごされることが多く、健康診断の胸部レントゲンで偶然に影を指摘されて発見されることも少なくありません。

進行すると、指先が太く丸くなる「ばち指」が見られたり、聴診で「パチパチ」という捻髪音(ねんぱつおん)が聞こえたりするようになります。さらに進めば、在宅酸素療法が必要になり、肺がんや気胸、呼吸器感染症などを合併するリスクも高まります。

肺線維症と診断されたら、まず「アスベストばく露歴」を疑ってください

肺線維症と診断されたら、まず「アスベストばく露歴」を疑ってください

ここからが、本記事で最もお伝えしたい点です。

石綿肺は「アスベストが原因の肺線維症」です

石綿肺は、アスベストの繊維を長期間にわたって大量に吸い込んだことにより、肺の組織が線維化する病気です。病態としては肺線維症そのものであり、画像上も症状の面でも、他の原因による肺線維症とよく似ています。

一般には、おおむね10年以上のアスベストばく露があった方に発症し、ばく露を始めてから10年から20年ほど経過して所見が現れるとされています。そしてアスベストの繊維は体内で分解されずに残り続けるため、仕事を辞めてから何十年経っても、線維化は進行し続けます。

「特発性」という診断名の落とし穴

問題は、石綿肺が「特発性肺線維症」や「間質性肺炎」と診断されてしまうケースが、決して珍しくないという点です。

医師が「特発性」と診断するのは、原因を特定できなかったときです。しかし、患者さんご自身が「若い頃に建設現場で働いていた」「工場で断熱材を扱っていた」という経歴を医師に伝えていなければ、医師はアスベストばく露の可能性を検討することができません。

呼吸器内科の診察は限られた時間で行われ、40年前、50年前の職歴まで詳しく聞き取られることは多くありません。その結果、本来であれば石綿肺と診断されるべき方が、「原因不明の肺線維症」として扱われ、どの補償制度にもつながらないまま治療を続けている——こうした「隠れ石綿肺」の問題が、実際に起きています。

石綿肺を見分ける三つの手がかり

ご自身の肺線維症が石綿肺である可能性を考えるうえで、特に重要な手がかりが三つあります。

①胸膜プラークの有無

胸膜プラークとは、肺を包む胸膜に生じる板状の肥厚で、アスベストを吸い込んだことを示す「指紋」のような所見です。アスベスト以外の原因でできることはほとんどなく、CT画像で確認できます。

肺線維症の患者さんに胸膜プラークが見つかった場合、その肺線維症は石綿肺である可能性が非常に高いと考えられます。過去の画像検査で「胸膜の肥厚」「石灰化」を指摘されたことがある方は、特に注意が必要です。

②職業歴・ばく露歴

アスベストは平成18年に原則として製造・使用が禁止されるまで、建材、断熱材、保温材、ブレーキ材など、あらゆる製品に使われていました。

建設業(大工、左官、内装工、配管工、電気工、解体工など)、造船業、石綿製品の製造工場、自動車整備、ボイラー・配管の保温作業、製鉄所や発電所の設備保全などに従事していた方は、職業上のばく露があった可能性があります。

また、ご本人が直接扱っていなくても、同じ現場で他の職種の作業者が発生させた粉じんを吸い込んでいたケースや、作業着に付着した粉じんをご家族が家庭内で吸い込んでいたケースもあります。

③画像所見と石綿小体

石綿肺では、肺の下の方(下肺野)を中心に、不整形の線状・網状の影が現れるという特徴があります。また、手術や検査で肺の組織を採取した場合には、アスベスト繊維の周りにたんぱく質が付着した「石綿小体」が検出されることがあります。

これらの所見の評価は専門的な判断を要しますので、画像データや病理検査の結果を、アスベスト関連疾患に精通した医師に改めて見てもらうことが有効です。

石綿肺と認められるための「じん肺管理区分」とは

石綿肺と認められるための「じん肺管理区分」とは

石綿肺について補償を受けるためには、医師の診断に加えて、じん肺法にもとづく「じん肺管理区分」の決定を受ける必要があります。これは他のアスベスト関連疾患にはない、石綿肺特有の手続です。

管理1から管理4までの区分

じん肺管理区分は、胸部レントゲン写真の所見と肺機能検査の結果にもとづき、都道府県労働局長が決定します。

管理1はじん肺の所見がないもの、管理2と管理3は所見があり進行の程度に応じて分けられるもの、そして管理4は著しい肺機能障害があるなど最も重いものです。数字が大きいほど、病状が進んでいることを意味します。

管理区分の決定を受けるための手続

管理区分の決定は、じん肺健康診断を受け、その結果を添えて都道府県労働局に申請することによって行われます。

じん肺健康診断では、職歴の調査、胸部レントゲン撮影、肺機能検査などが行われます。一般の病院で行われる検査とは項目が異なりますので、じん肺健康診断に対応している医療機関で受ける必要があります。

退職後、何十年経っていても申請できます

じん肺管理区分の申請は、現在働いている方だけでなく、すでに退職された方も行うことができます。アスベストを扱う仕事を辞めてから何十年も経っていても、問題ありません。

「もう会社を辞めて長いから」「会社がなくなってしまったから」という理由で諦める必要はありません。

石綿肺で受けられる補償と給付金

石綿肺で受けられる補償と給付金

石綿肺と認められた場合に利用できる制度は、一つではありません。ご本人の就労形態や病状によって、複数の制度を組み合わせて利用することになります。

①労災保険

雇用されて働いていた期間のばく露が原因である場合、労災保険の対象となります。労災保険上、石綿肺で療養の対象となるのは、管理4の石綿肺と、管理2から管理4の石綿肺に肺結核、続発性気管支炎、続発性気管支拡張症、続発性気胸などの合併症を伴う場合です。

認定されれば、治療費は全額給付され、休業補償給付、傷病補償年金、障害補償給付、亡くなられた場合の遺族補償給付と葬祭料が支給されます。

②建設アスベスト給付金

建設現場でのばく露が原因である場合には、国が支給する建設アスベスト給付金を請求できます。石綿肺については、管理2で550万円(合併症がある場合は700万円)、管理3で800万円(同950万円)、管理4で1,150万円が基準額とされ、亡くなられた場合には最大1,300万円が支給されます。

労災保険よりも軽い管理2の段階から対象になる点が、この制度の大きな特徴です。雇用されていた方だけでなく、一人親方や中小事業主の方も対象になります。

③石綿健康被害救済制度

労災保険の対象とならない方(特別加入していない一人親方、ご家族、近隣住民など)については、環境省が所管する石綿健康被害救済制度があります。石綿肺については、著しい呼吸機能障害を伴うものが対象とされています。

④当時の勤務先・建材メーカーへの損害賠償

これらの公的な制度からは、精神的苦痛に対する慰謝料は一切支払われません。慰謝料や逸失利益を求めるには、安全配慮義務を怠った当時の勤務先や、警告表示を怠った建材メーカーに対して、損害賠償を請求する必要があります。

各制度の詳細については、アスベストによる被害を受けた場合どのような補償が受けられる?弁護士がわかりやすく解説もあわせてご覧ください。

肺線維症・石綿肺の請求で注意すべきポイント

肺線維症・石綿肺の請求で注意すべきポイント

診断名にかかわらず、ばく露歴を必ず医師に伝える

「肺線維症」「間質性肺炎」と診断されている方は、過去の職歴を、できるだけ具体的に主治医に伝えてください。どの業種で、どのような作業を、何年間行っていたのか。この情報一つで、診断の方向性が変わることがあります。

主治医に「アスベストは関係ない」と言われた場合でも、アスベスト関連疾患を専門とする医療機関でセカンドオピニオンを受ける価値は十分にあります。

合併症の有無が補償内容を左右する

管理2や管理3の段階では、合併症の有無によって労災保険の対象になるかどうかが分かれ、建設アスベスト給付金の額も変わります。

繰り返す気管支炎や痰の増加、気胸、結核性の病変などは、石綿肺の合併症として評価される可能性があります。こうした症状がある方は、それが合併症に当たるかどうかを、じん肺健康診断の際に確認してもらってください。

肺がんへの移行に注意する

石綿肺のある方は、肺がんを発症するリスクが高いことが知られています。石綿肺の所見がある方に原発性肺がんが生じた場合、肺がんとして別途、労災や給付金の対象となります。定期的な画像検査を欠かさないでください。

時効と請求期限

労災保険の給付には請求権の時効があり、建設アスベスト給付金には診断日等から20年という請求期限があります。また、会社やメーカーへの損害賠償請求権にも消滅時効があります。

石綿肺は進行が緩やかであるため、「まだ大丈夫」と考えて手続を先延ばしにしがちですが、その間にも期限は進行しています。管理区分の決定日や診断日がいつであったかを、早めに確認しておくことが大切です。

当事務所のサポート内容

当事務所のアスベスト・労災チームでは、肺線維症と診断された方について、次のような形でご支援しています。

①職歴・ばく露歴の調査と整理

年金記録、雇用保険の記録、建設国保の記録などを取り寄せ、いつ、どの事業所で、どのような作業に従事していたのかを再構成し、ばく露の事実を裏づけます。

②専門医療機関との連携

じん肺健康診断を受けられる医療機関や、アスベスト関連疾患に精通した専門医をご紹介し、管理区分の申請に必要な医学的資料の準備をお手伝いします。

③利用できる制度の選別と請求手続

労災保険、建設アスベスト給付金、石綿健康被害救済制度のうち、どの制度を、どの順序で使うのが最も有利かを整理し、請求手続を代行します。

④会社・メーカーへの損害賠償請求

当時の勤務先や建材メーカーの責任を調査し、交渉および訴訟によって慰謝料・逸失利益の獲得を目指します。会社が廃業している場合の対応も行います。

⑤不支給となった場合の不服申し立て

労災や給付金が不支給となった場合には、審査請求などの不服申し立てにより、決定の見直しを求めます。

おわりに

おわりに

肺線維症は、「原因不明」と言われることの多い病気です。しかしその中には、かつて働いた現場で吸い込んだアスベストが、何十年もの時を経て引き起こしたものが、確かに含まれています。

原因がアスベストであると分かれば、それは「仕方のない病気」ではなく、「補償を受けるべき被害」になります。ご本人の治療費や生活費の支えになるだけでなく、ご家族の将来を守ることにもつながります。

肺線維症や間質性肺炎と診断され、過去にアスベストを扱う仕事をしていたかもしれないと思い当たる方は、どうか一度ご相談ください。ご本人が亡くなられた後、ご遺族からのご相談にも対応しています。

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この記事を書いた弁護士:弁護士 遠藤吏恭

労働問題

弁護士登録後、グリーンリーフ法律事務所にて残業代未払い・不当解雇など多数の労働問題を取り扱う。法テラス民事法律扶助審査委員として幅広い労働者支援にも従事。中央大学法科大学院・埼玉工業大学の講師を務め、不当要求防止責任者講習の講師経験を活かした毅然とした交渉力で、依頼人の権利を守る。