【弁護士コラム】飲食店での一酸化炭素中毒事故。労災認定と会社への損害賠償請求について

本記事は、さいたま市大宮区にある、埼玉県内でトップクラスの弁護士法人グリーンリーフ法律事務所の労災集中チームの弁護士が執筆しています。

飲食店での厨房作業は、一見すると建設現場や工場のような目に見える「危険」は少ないように思われがちです。しかし、そこには目に見えない猛毒である「一酸化炭素(CO)」による中毒のリスクが常に潜んでいます。

今回取り上げる事例は、ラーメン店での営業時間中に発生した一酸化炭素中毒災害です。 開店後、スープの仕込みや加熱調理を行っていた際、換気装置を稼働させていなかったこと、そしてガスコンロのサイズに対して不適切な大きな寸胴鍋を乗せて調理を行っていたことが原因で、不完全燃焼が発生しました。その結果、従業員2名が相次いで意識を失い倒れるという深刻な事態に至りました。

もし、あなたやあなたのご家族が、このような業務上の事故や不適切な作業環境によって一酸化炭素中毒などの被害に遭われた場合、それは紛れもない「労働災害(労災)」です。 本コラムでは、こうした事故における補償の考え方や、会社に対する損害賠償請求の重要性について、労災問題に精通した弁護士が詳しく解説します。

1.労災認定と「最低限の補償」

1.労災認定と「最低限の補償」

労働災害とは、業務上の事由や通勤によって、労働者が負傷したり、病気にかかったりすることを指します。今回のような厨房内でのガス使用に伴う中毒事故は、業務遂行中に起きたものであり、業務との因果関係も明確であるため「業務災害」として認められます。

労災認定を受けると、国(労災保険)から以下の給付が支給されます。

  • 療養(補償)給付: 治療費や入院費など。原則として自己負担はありません。
  • 休業(補償)給付: 療養のために働けない期間、給付基礎日額の約80%(特別支給金含む)が補償されます。
  • 障害(補償)給付: 後遺症が残った場合、その等級に応じて年金や一時金が支給されます。

しかし、ここで忘れてはならないのは、労災保険はあくまで「最低限の補償」であるという点です。 事故によってあなたが受けた精神的な苦痛に対する「慰謝料」や、将来にわたるすべての経済的損失(逸失利益の全額)を、労災保険はカバーしてくれません。

つまり、労災保険からは、入院や通院を強いられた精神的苦痛に対する「入通院慰謝料」や、後遺障害が残ったことに対する「後遺障害慰謝料」は一切支払われません。 また、将来得られたはずの収入を補償する「逸失利益」についても、労災保険の給付だけでは本来の損害額の全てをカバーできないことがほとんどです。

  • 後遺障害慰謝料
    症状固定後も、体に痛みや機能障害などの後遺障害が残ってしまったことによる、将来にわたる精神的苦痛に対する補償です。後遺障害の等級に応じて、金額の相場が決まっています。

具体的な後遺障害慰謝料の金額は、以下の表のとおりです。

後遺障害等級裁判基準労働能力喪失率
第1級2,800万円100/100
第2級2,370万円100/100
第3級1,990万円100/100
第4級1,670万円92/100
第5級1,400万円79/100
第6級1,180万円67/100
第7級1,000万円56/100
第8級830万円45/100
第9級690万円35/100
第10級550万円27/100
第11級420万円20/100
第12級290万円14/100
第13級180万円9/100
第14級110万円5/100

かなり大きな額になりますが、このような金額が労災保険のみでは、まるまる入ってこないということです。

2.会社に対する「損害賠償請求」

2.会社に対する「損害賠償請求」

労災保険で賄いきれない損害(慰謝料など)については、事故の原因を作った会社に対して、民事上の「損害賠償請求」を行う必要があります。

(1)問われる企業の「安全配慮義務違反」

特に今回のような事例では、会社側の安全管理体制に重大な過失がある可能性が高いと言えます。 事故の原因として挙げられた「ガスコンロの仕様に合わない寸胴鍋の使用」「換気装置の未稼働」「作業標準の未作成」といった事実は、事業主が果たすべき「安全配慮義務(労働契約法第5条)」を怠っていたことを強く示唆しています。

  • 設備の不備: コンロの吸気口を塞ぐような不適切なサイズの鍋を使用させれば、不完全燃焼が起きることは予見できたはずです。適切な設備を用意しなかった責任があります。
  • 管理の不備: 「換気扇を回す」という基本的なルールを作業員任せにし、換気設備と連動させるインターロック等の安全装置を設けていなかったり、一酸化炭素警報機を設置していなかったりした点も、管理上の過失となります。

(2)請求できる主な損害項目

会社に対しては、主に以下の損害について賠償を求めることができます。

損害項目内容労災保険との関係
傷害慰謝料入通院によって受けた精神的苦痛に対する賠償労災では支払われない
後遺障害慰謝料後遺障害が残ったことによる精神的苦痛に対する賠償労災では支払われない
逸失利益後遺障害により将来得られなくなった収入の補償労災給付で不足する部分を請求
休業損害休業期間中の収入減(労災の8割給付との差額2割+α)労災給付で不足する部分を請求
将来介護費等重い後遺障害で将来必要となる介護費用や住宅改修費労災給付で不足する部分を請求
弁護士費用賠償請求のために要した弁護士費用の一部労災では支払われない

損害賠償請求では、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、逸失利益などを請求できます。労災保険からすでに受け取った給付分は差し引かれますが、それを上回る多額の賠償金を受け取れる可能性があります。特に後遺障害が残った場合、将来にわたる減収分(逸失利益)の請求額は非常に大きくなり、請求額が1000万円を超えることも珍しくありません。

3.一酸化炭素中毒の特有のリスク「高次脳機能障害」

3.一酸化炭素中毒の特有のリスク「高次脳機能障害」

一酸化炭素中毒で特に恐ろしいのは、退院して一見回復したように見えても、後になってから「高次脳機能障害」などの深刻な後遺症が現れるケースがあることです。

  • 記憶力が低下した
  • 怒りっぽくなった、感情のコントロールができない
  • 集中力が続かない

こうした症状は、単なる「疲れ」や「性格の変化」と見過ごされがちですが、脳へのダメージによる後遺障害の可能性があります。 適切な後遺障害等級(例えば5級、7級、9級など)の認定を受けるためには、MRI画像だけでなく、専門的な神経心理学的検査や、ご家族による日常生活状況の報告などが不可欠です。弁護士は、こうした見落としがちな後遺症の立証もサポートします。

4.弁護士へ依頼するメリットとご相談時の持ち物

4.弁護士へ依頼するメリットとご相談時の持ち物

当事務所の労災集中チームは、事故状況を法的に分析し、会社側の安全管理体制の不備を具体的に指摘することで、被災者の方が受け取るべき正当な補償を獲得するためのバックアップを行います。

特に飲食店のような小規模な事業場では、会社側が労災保険料の値上がりなどを恐れて労災申請を嫌がる「労災隠し」のような対応を取ることもありますが、そのような場合でも労働者本人が直接申請を行うことが可能です。

弁護士への法律相談時にご持参いただくと良いもの

初回のご相談をよりスムーズに進め、的確なアドバイスをさせていただくために、お手元にあれば以下の資料をご持参ください(揃っていなくてもご相談は可能です)。

  1. 事故の状況がわかるメモ(いつ、どこで、どのような状況で事故が起きたか)
  2. 医師の診断書(傷病名がわかるもの)
  3. 給与明細書(事故前3ヶ月分程度。休業損害や逸失利益の計算に使用します)
  4. 労働基準監督署から届いた書類(支給決定通知書など、もしあれば)
  5. 会社就業規則・雇用契約書(お手元にあれば)

一人で悩まず、まずは専門家である弁護士にご相談ください。あなたの健康と生活を取り戻すために、私たちが全力でサポートいたします。

よくある質問(FAQ)

よくある質問(FAQ)

質問:店舗で換気扇を回し忘れたのは自分の責任だと言われました。それでも労災になりますか?

回答: はい、なります。 労災保険は、労働者にうっかりミス(過失)があっても、それが業務中に起きた事故であれば給付されます。 また、会社に対する損害賠償請求においても、会社は「人間はミスをするもの」という前提で安全対策(換気扇を回さないと火がつかない仕組みや警報機の設置など)を講じる義務があります。ご自身の過失によって賠償額が多少減額される(過失相殺)可能性はありますが、請求自体ができなくなるわけではありません。

質問:一酸化炭素中毒で入院しました。会社に請求できる「慰謝料」はどのくらいですか?

回答: 慰謝料は労災保険からは一切支給されません。 入院期間や通院期間の長さに応じて、過去の裁判例に基づいた「弁護士基準(裁判所基準)」で算出した適正な額を会社に請求することになります。例えば、1ヶ月入院・数ヶ月通院といったケースでは、百万円単位の慰謝料が発生することもあります。具体的な金額は個別の状況により異なりますので、詳細をお聞きして算定いたします。

質問:後遺症が残りそうなのですが、どのように申請すればよいですか?

回答: 症状がこれ以上改善しない「症状固定」の状態になった後、労働基準監督署に「障害補償給付支給請求書(様式第10号)」を提出します。 適切な「後遺障害等級」の認定を受けるためには、医師による正確な「後遺障害診断書」や検査結果が極めて重要です。特に一酸化炭素中毒による脳への影響は専門的な立証が必要になることが多いため、申請前の段階で弁護士にご相談いただくことを強くお勧めします。

質問:正社員ではなくアルバイトでも労災保険は使えますか?

回答: もちろんです。 労災保険は雇用形態に関係なく、正社員、パート、アルバイトを問わず、1人でも労働者を雇用している事業場であれば適用されます。

質問:弁護士に依頼すると会社と揉めて、今の店にいづらくなりませんか?

回答: 会社に対して権利を主張することに不安を感じる方は多いですが、適切な補償を受けることは労働者の正当な権利です。 また、労災による療養のために休業する期間およびその後30日間は、法律(労働基準法)で解雇が禁止されています。弁護士が窓口となって法的な根拠に基づいて冷静に交渉を進めることで、当事者同士の感情的な対立を避け、解決を図ることができます。

労災関連のご質問・ご相談

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グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。労災分野では労災事故と後遺障害に集中特化した弁護士チームが、ご相談から解決まで一貫してサポートいたします。

  • 初回相談無料:まずはお気軽にご状況をお聞かせください。
  • 後遺障害労災申請のサポート:複雑な手続きもお任せいただけます。
  • 全国対応・LINE相談も可能:お住まいの場所を問わずご相談いただけます。

労災事故で心身ともに大きな傷を負い、将来への不安を抱えていらっしゃるなら、決して一人で悩まないでください。お気軽にご相談ください。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 申 景秀
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