令和3年8月  弁護士 平栗 丈嗣

本判例発表は、令和3年2月に判例事例研究会で発表した事案の、上告審決定である。原審と異なる判断がなされたため、改めて発表する。

【事案の概要】(再掲)
本件は、未成年者の祖母である相手方が、未成年者の母である抗告人A及び養父である抗告人Bを相手として、未成年者の監護者を相手方と定めることを求める事案である。
⑴ 母親Aと父親Iが結婚。母親Aが子を平成21年出産。母親Aは、子とともに、同年12月から母親Aの祖母方に戻る。平成22年2月母親Aと父親Iが離婚。子の親権者を母親Aとする。子の監護養育は、祖母と母親がほぼ同程度の割合で分担。
⑵ 母親Aは、平成22年頃から、B(後の未成年者の養父)と交際開始。母親Aは、子が小学校入学時頃から、祖母に子の監護養育の少なくとも7割程度の部分を委ねる状態になった。
⑶ 母親Aは、平成29年頃から、子を連れて、B方に連れて行くようになった。母親Aは、嫌がる子(女児)をBと一緒に入浴させたり、マッサージをさせたり、Bの子に対する不合理な発言等に追従。子の前で、祖母に対して大声で怒鳴り散らす。子は、精神的に不安定になり、心身症を発症し、小学校に通えなくなる。
⑷ 母親A及びBは婚姻。祖母に対し、子を引き渡すよう求めるも、祖母がこれを拒否。母親Aは、祖母・子に無断で、子を転出させて別の小学校への転校手続をし、子に代諾して養父と子を養子縁組させる。
⑸ 祖母は、平成30年2月,母親Aに対し、未成年者の監護者を祖母に指定することを求める調停を申し立てたが、同年9月に不成立となって審判手続に移行。また、祖母は、平成31年3月、B(養父)に対し、未成年者の監護者を祖母に指定することを求める審判を申し立てた。大阪家裁は,令和元年5月28日、これらの事件を併合した。

【争点】(再掲)
抗告人から、監護者の指定は「子の監護に関する処分」(家事事件手続法39条、別表第2の3項)の審判事項であるが、子の監護処分の根拠条文である民法766条は、離婚に際する子の監護処分を決めるものであって、同条の趣旨から、未成年者の祖母である申立人には本件の申立権が認められないから。本件申立ては不適法であるなどと主張がなされた。

第766条【離婚後の子の監護に関する事項の定め等】
① 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
 ② 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。

【原審の判断】
子の福祉を全うするためには、民法766条1項の法意に照らし、事実上の監護者である祖父母等も、家庭裁判所に対し、子の監護者指定の申立てをすることができるものと解するのが相当である。

【上告審の判断】
原審の上記判断は是認することができない。
1 民法766条1項前段は,父母が協議上の離婚をするときは,子の監護をすべき者その他の子の監護について必要な事項は,父母が協議をして定めるものとしている。
  そして,これを受けて同条2項が「前項の協議が調わないとき,又は協議をすることができないときは,家庭裁判所が,同項の事項を定める。」と規定していることからすれば,同条2項は,同条1項の協議の主体である父母の申立てにより,家庭裁判所が子の監護に関する事項を定めることを予定しているものと解される。
  他方,民法その他の法令において,事実上子を監護してきた第三者が,家庭裁判所に上記事項を定めるよう申し立てることができる旨を定めた規定はなく,上記の申立てについて,監護の事実をもって上記第三者を父母と同視することもできない。なお,子の利益は,子の監護に関する事項を定めるに当たって最も優先して考慮しなければならないものであるが(民法766条1項後段参照),このことは,上記第三者に上記の申立てを許容する根拠となるものではない。
  以上によれば,民法766条の適用又は類推適用により,上記第三者が上記の申立てをすることができると解することはできず,他にそのように解すべき法令上の根拠も存しない。
  したがって,父母以外の第三者は,事実上子を監護してきた者であっても,家庭裁判所に対し,子の監護に関する処分として子の監護をすべき者を定める審判を申し立てることはできないと解するのが相当である。
2 これを本件についてみると,相手方は,事実上本件子を監護してきた者であるが,本件子の父母ではないから,家庭裁判所に対し,子の監護に関する処分として本件子の監護をすべき者を定める審判を申し立てることはできない。したがって,相手方の本件申立ては,不適法というべきである。

【検討】
下級審裁判例では、民法766条、家事事件手続法別表第二3項の子の監護に関する処分事件につき、文理上は、協議離婚の際の規定であるにもかかわらず、別居中の父母間の面会交流に関する紛争、監護者指定、子の引渡し等でも、類推適用ないし準用して問題解決を図ることを肯定してきた。祖父母、叔父叔母等の第三者が子の監護者の指定を申し立てて、民法766条、家事事件手続法別表第二3項が類推適用されて、監護者に指定されたケースも多数あった。これらの内容については、注釈民法上も、第三者への監護者の指定の可否について、家裁実務の動向として、記載されているところである(二宮周平編『新注釈民法(17)親族(1)§§725~791』(有斐閣,2017))。
本最高裁決定により、上記実務の扱いが見直されるものと考えられる。法律の文言に忠実にしたがったもので、これまでの解釈は、あまりにも条文の文言からかけ離れたものであり、最高裁としては許容できなかったものと思われる。子の福祉に沿った弾力的かつ妥当な解釈運用を図る解決について、立法による解決を待たざるを得なくなってしまうため、早期の改正が求められる。

以上