2021年7月 弁護士 権田 健一郎



【事案の概要】
X及びY1は亡AとY2との間の子であり、Y3は亡Aと前妻との間の子である。
亡Aが死亡し、相続が開始した。XがYらに対し亡Aの遺産分割を求めて申し立てた調停が不成立で終了し、審判手続きに移行して審理された事案である。X及びY1は、お互いに相手方の特別受益を多岐にわたって主張した。 
【争点】
 Xの大学院生活及び留学生活に対する費用負担が特別受益にあたるか否かが争われた。

【判示】
 学費、留学費用等の教育費については、被相続人の生前の資産状況、社会的地位に照らし、被相続人の子である相続人に高等教育を受けさせることが扶養の一部であると認められる場合には、特別受益には当たらないと解するのが相当である。そして、被相続人一家は教育水準が高く、その能力に応じて高度の教育を受けることが特別なことではなかったこと、原審申立人(X)が学者、通訳者又は翻訳者として成長するために相当な時間と費用を費やすことを被相続人が許容していたこと、原審申立人が(X)が自発的に被相続人に相当額を返還していると認められること、被相続人が、原審申立人に対し、援助した費用の清算や返済を求めるなどした形跡はないことは、原審判で認定・説示するとおりである。
 また、被相続人は、生前、経済的に余裕があり、抗告人(Y1)や抗告人の妻に対しても、高額な時計を譲り渡したり、宝飾品や金銭を贈与したりしていたこと、抗告人も一橋大学に進学し、在学期間中に短期留学していること、被相続人が支出した大学院の費用や留学費用の額、被相続人の遺産の規模等に照らせば、原審申立人の大学院の学費、留学費用は、原審申立人の特別受益に該当するものではない。

【検討】
 京都地判平成10年9月11日、大阪家審昭和50年3月26日、大阪高決平成22年8月26日等によれば、特定の相続人への援助が特別受益に該当するか否かの判断において、他の相続人が受けた利益との比較を重視している。
 本件では、原審申立人は大学・大学院に進学し、4つの海外の大学への留学も経験しているが、抗告人も大学に進学し、短期留学している。本件でも、他の相続人が受けた利益との比較が考慮されており、原審申立人への援助が均衡を失するものではなく、他の相続人との比較という観点からも、特別受益にあたらないという判断は妥当だと考えられる。