賃貸借契約の「保証人」とは?

アパートやマンションを借りる場合、大抵のケースでは、賃貸人から保証人をつけるよう求められます。
最近では、親族や友人などの個人ではなく、専門の保証会社を入れるように求められることも増えてきましたが、そもそも、賃貸借契約の保証人とはどのような立場にあるのでしょうか。

保証人とは、主債務者(アパートやマンションを借りる本人のことです)が賃貸借契約において支払いが義務づけられた支払いをしなかった場合に、主債務者に代わってその支払いをする旨を約束した人のことです。

「私が保証します」という口約束だけでは保証契約は成立せず、必ず書面によってしなければ効力を生じません。
このため、賃貸借契約書には、必ずと言っていいほど、賃貸人・賃借人の署名・押印欄の他に保証人の署名・押印欄もあって、書面で保証契約がなされることになっています。
しかし、厳密に言いますと、保証契約はあくまで賃貸人と保証人との間で締結されるもので、賃貸借契約そのものとは別個の契約です。

 

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「連帯保証人」と「保証人」の違い

賃貸借契約をする際に求められるのは、「保証人」ではなく、圧倒的に「連帯保証人」であることが多いのが実情です。
「保証人」と「連帯保証人」―――似たような名称ですが、この二者にはどのような違いがあるのでしょうか。

主債務者(賃借人)が家賃を滞納した場合、賃貸人は、保証人に対して、主債務者(賃借人)の代わりに滞納家賃を支払うよう請求します。
この時、その人が、単なる「保証人」か、「連帯保証人」かによって、次のような違いが出てきます。

保証人には催告の抗弁権と検索の抗弁権がある

保証人は、催告の抗弁権と検索の抗弁権という権利を有しています。
どちらもあまり聞きなれない用語だと思いますので、以下説明します。

【催告の抗弁権】

催告の抗弁権とは、家賃滞納が発生した場合、まず先に主債務者である賃借人本人本人に請求を求めるよう要求できる権利のことです。

家賃滞納が発生した場合、賃貸人は通常、賃借人本人に滞納家賃を支払うよう請求していると思いますが、それをせずに、保証人に対して滞納家賃を支払うよう請求してきた場合、「保証人」であれば、この抗弁権を使って、「私ではなく、まずは賃借人本人に請求して下さい」と言えるということです。

ただし、賃借人が破産していたり、賃借人が行方不明になってしまっている場合は、催告の抗弁権は使えません。
この場合は、最初から保証人が請求を受けてもやむを得ず、保証人は賃借人に代わって滞納家賃を支払うべきことになります。

【検索の抗弁権】

賃貸人が、まずは賃借人本人に滞納家賃を支払うよう請求したものの、やはり賃借人本人が支払いをしないため、保証人に対して滞納家賃を支払うよう請求してくる、ということもよくあるでしょう。

この時、「保証人」は催告の抗弁権は使えませんが、賃借人本人に滞納家賃を支払う資力があり、かつ執行が容易であることを証明すれば、「まずは賃借人本人の財産から回収して下さい」と主張することができ、これが検索の抗弁権と呼ばれるものです。

要するに、「保証人」であれば、賃貸人から滞納家賃を支払うよう請求されたとしても、賃借人本人に支払能力があることを証明できれば、自分が支払うことを拒否できるということです。

ただし、検索の抗弁権が使えるのは、上記のとおり、賃借人本人に滞納家賃を支払う資力があり、かつ執行が容易であることを「保証人」が証明できた時に限られます。
すでに家賃滞納が発生している状況において、「保証人」がこの証明をするのは現実的にはなかなか難しい面もありますので、必ずしも全てのケースで有効に機能する抗弁権とはいえないかもしれませんが、法律上「保証人」にだけ認められた権利です。

「連帯保証人」には催告の抗弁権も検索の抗弁権もない

これに対して、賃貸借契約で圧倒的に多い「連帯保証人」には、「保証人」に認められている催告の抗弁権も検索の抗弁権もありません。
「連帯保証人」とは、文字通り、主債務者と連帯して債務を負担することを約束した保証人だからです。

つまり、「連帯保証人」は、家賃滞納が発生した場合、
■賃貸人が、賃借人本人に滞納家賃を支払うよう請求せず、最初に「連帯保証人」が支払うよう請求を受けたとしても、それを拒むことができない
(=催告の抗弁権がない)
■賃借人本人に滞納家賃を支払うだけの財産があったとしても、賃借人から請求を受けた場合にはそれを拒むことができない
(=検索の抗弁権がない)

ということです。

このように、「連帯保証人」の責任は単なる「保証人」の責任よりも重いものといえ、だからこそ、賃貸借契約を結ぶ際、賃貸人の側では、「保証人」ではなく、「連帯保証人」をつけるように求める意味があるのです。

家賃滞納が発生した場合の連帯保証人の責任範囲は?

家賃滞納が発生した場合、賃貸人は、連帯保証人に対して滞納家賃を支払うよう請求することができ、連帯保証人は賃借人本人に代わって滞納家賃を支払わなくてはなりません。
賃貸人がまず賃借人本人に請求していなくても、また、賃借人本人に滞納家賃を支払えるだけの財産があったとしても、関係ありません。

滞納家賃だけでなく、共益費や管理費についても、賃貸人は連帯保証人に対して支払うよう請求することができます。

それだけではありません。
連帯保証人は、賃貸借契約に基づいて賃借人本人が支払うべき一切の債務について責任を負っています。

そのため、連帯保証人は、賃料相当損害金(契約が解除されたにもかかわらず、賃借人が物件を明け渡さない場合、契約解除日の翌日から賃借人が実際に物件を明け渡す日まで、賃料額相当の損害金が発生します)についても、支払義務を負うことになります。
この賃料相当損害金は、賃貸借契約書の条項で「月額賃料の2倍相当額」と定められていることもあり、この場合、賃貸人は、連帯保証人に対して、月額賃料の2倍に相当する損害金を請求することができます。

さらに、賃借人が物件を明け渡した後に発生する原状回復費用についても、予め差し入れられた敷金で賄い切れない部分があれば、賃貸人はその部分についても連帯保証人に請求することができます。

個人の連帯保証人に請求できるのは「極度額」まで

2020年4月1日から施行された改正民法では、「一定の範囲で生じる不特定の債務の個人保証」(=個人根保証)に対する保護を、それまでの貸金債務の保証から、個人根保証一般にまで拡大しました。
個人根保証では、書面等で「極度額」を定めていなければ、保証契約自体が無効となります。

極度額とは、保証人になろうとする個人が負担しなければならなくなる、債務の上限金額のことです。

賃貸借契約の連帯保証に個人がなる場合も、賃貸人と賃借人との間の賃貸借契約という一定の範囲から生じる債務で、将来発生する家賃や賃料相当損害金など、不特定の債務を個人で保証することになるので、個人根保証のひとつです。

そのため、賃貸借契約書などで「極度額」(例えば、「200万円」とか「契約時の家賃の24か月分」など)を定めておかないと、連帯保証契約自体が無効となってしまい、賃貸人は、家賃滞納が発生した場合であっても、連帯保証人に対して滞納家賃を請求することはできなくなります。

ちなみに、この極度額は、クレジットカードの利用限度枠のように枠が復活するものではありません。
例えば、極度額を「200万円」と定めて契約し、賃借人が度々家賃滞納を繰り返して、その都度、連帯保証人が支払い、滞納を解消してきたとします。
連帯保証人がこれまでに支払った総額が180万円に達している時、賃借人がまたもや家賃を滞納して、その額が30万円であるという場合、賃貸人が連帯保証人に請求できるのは20万円までです。
「その都度支払ってもらって、200万円の枠が復活している。30万円は200万円の枠内なのだから、全額請求できる」ということにはなりませんので、誤解しないようにして下さい。

滞納家賃の分割払いが滞った時の情報提供義務

賃貸借契約では、滞納した家賃の今後の支払いにつき、賃貸人と賃借人との間で分割払いの合意をすることがあります。
その際、期限の利益喪失約款と呼ばれるものを定めることも多く見られます。

例えば、合計30万円の滞納家賃がある場合に、賃貸人と賃借人との間で、「これから6か月かけて、毎月5万円ずつ支払っていくことにする。ただし、1回でも分割払いを怠った時は、残額を一括して即時に払わないといけない」と合意することです。
この例の「ただし」以降が、いわゆる期限の利益喪失約款と呼ばれる部分です。

このような分割払いの合意がなされると、連帯保証人との間で交わした連帯保証契約の内容を特段変更しなくても、連帯保証人は賃借人同様、30万円を5万円ずつ分割払いで支払っていけばよいことになります。
賃借人本人の責任が分割払いに変わっているのに、連帯保証人の責任は従前どおり(一括払いしなければならない)、というわけではないのです。

さて、上記の例のような分割払いの合意が賃貸人・賃借人間でなされたとして、賃借人が2回分割払いをしたところで、3回目の5万円の支払いを怠ったとしましょう。
すると、賃貸人は、賃借人が期限の利益を喪失したので、残額の20万円を全額一括で支払うよう請求することができます。
さらに、この場合、賃貸人は、連帯保証人に対しても、残額の20万円を全額一括して支払うよう請求することができます。

このように、滞納家賃を分割払いする合意がなされた後、賃借人が合意どおりに分割払いを継続しているかどうかは、連帯保証人にとっては重大な関心事です。

そこで、改正民法では、全額払いの発生(=賃借人が合意どおりの分割払いを怠って、残額を一括して支払わなければならなくなったこと)があってから2か月以内に、賃貸人が、連帯保証人に対してその旨を連絡しなかった時は、実際に連絡した時までの遅延損害金を連帯保証人に請求することはできない、という新たなルールを定めました。
滞納家賃につき、賃借人との間で分割払いの合意をした賃貸人は、分割払いの滞りがあった際、その情報を連帯保証人に連絡することを忘れないよう注意が必要です。

なお、こうした情報提供義務は連帯保証人が個人である場合に適用され、保証会社など法人の保証人の場合には適用がありません。

 

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契約を更新している場合も連帯保証人に請求できるのか?

一般的なアパートなどの賃貸借契約では、当初の契約期間は2年間で、以降2年ごとに更新する、というように契約が更新されていくことが予定されています。
契約が更新された後に家賃滞納が発生した場合、賃貸人は、最初の賃貸借契約書に連帯保証人として署名・押印した連帯保証人に対して、滞納家賃を支払うよう請求できるのでしょうか。

まず、契約を更新する際の更新契約書に、連帯保証人も再び連帯保証人として署名・押印していれば、更新後の契約期間中の家賃滞納についても連帯保証人が責任を負うことは明らかです。

問題になるのは、連帯保証人が署名・押印したのは当初の賃貸借契約書のみであり、その後の契約更新については一切関与しておらず、更新契約書の連帯保証人欄にも署名・押印がない、というケースです。

この点について、最高裁判所(平成9年11月13日判決)は、要旨、

期間の定めのある建物賃貸借における賃借人のための保証人は、反対の趣旨をうかがわせるような特段の事情のない限り、更新後の賃貸借から生じる賃借人の債務についても保証の責めを負う趣旨で保証契約をしたものと解するのが当事者の通常の合理的意思に合致し、保証人は、賃貸人において保証債務の履行を請求することが信義則に反すると認められる場合を除き、保証債務を免れない

と判示しています。

つまり、更新契約書に連帯保証人の署名・押印がなくとも、原則として、賃貸人は、連帯保証人に対し、更新後の契約期間中の滞納家賃についても請求することができますが、「反対の趣旨をうかがわせるような特段の事情」がある場合には請求できない、ということです。

更新後の滞納家賃を請求できない場合

それでは、どのような場合に、上記の「反対の趣旨をうかがわせるような特段の事情」があるとされ、連帯保証人に更新後の契約期間中に生じた滞納家賃を請求することができなくなるのでしょうか。

この点は、ケースバイケースとしか言いようのないところではありますが、

①連帯保証人が反対の意思を表示していたかどうか
②契約を更新することが社会的に相当といえるかどうか
③更新時の状況はどうか

といった事柄が判断基準とされているようです。

①については、例えば、当初の賃貸借契約書に「連帯保証人は本契約期間中のみ責任を負うものとする」といった記載がある場合や、契約が更新されることを知った連帯保証人が、賃貸人に対して、「自分が面倒を見られるのはここまでで、更新以降のことについては責任を負えません」と記載した書面を送っている場合、などが挙げられます。

②については、更新前の賃借人の債務の履行状況や、更新後に賃借人が債務を履行する見込みなどから判断されます。
例えば、賃借人が長期間、多額の家賃を滞納しているにもかかわらず、漫然と契約を更新したような場合は、契約を更新することに社会的相当性がない(=そのような場合、通常は契約を更新しない)と言えるでしょう。

③については、更新時に更新契約書を作成していたかどうか、賃貸人から連帯保証人に対して契約を更新する旨をきちんと通知していたかどうか、などです。

要は、賃貸人と連帯保証人との間の利益衡量で、
「賃貸人として通常やるべきことをやっていない場合には、更新後の契約期間中の滞納家賃まで連帯保証人に責任を負わせるのは酷である」
ということです。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 田中 智美
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