会社が従業員から訴えられるということがありますが、どのような場合に訴えられるのか、また、訴えられた場合にはどのように対応したらよいのかについて解説します。また、弁護士に裁判に関する依頼をした際の弁護士費用についても解説します。

訴えられるケースの具体例

会社が従業員から訴えられるケースとしては、
・従業員が、不当解雇を理由として、自身がいまだ会社の従業員であることの確認を求める請求(地位確認請求と言います)、及び、出勤できない間の賃金の支払いを求める請求をするケース
・従業員が、不当解雇を理由として、解雇されなければもらえたであろう賃金に相当する金額について、損害賠償を求める請求をするケース
・従業員が、残業をしていたことを理由に未払いの残業代を請求するケース
・会社が正当な理由なく降格と給与の減額を行ったという理由で、本来もらえたであろう給与との差額を請求するケース。
・会社の職員から受けたハラスメントを理由に、会社に対して損害賠償を請求するケース
等が考えられます。

交渉で解決せず、訴えられるに至るケースとは

事前の交渉なく、いきなり訴えられるというケースは少ないと思いますが、交渉が少ない回数で終わってしまい、従業員側が会社を訴えるというケースもあります。会社側の考えと従業員側の考えに隔たりが大きいケースでは、このようなことが多いです。

交渉が少ない段階では、従業員側も、会社側が持っている証拠や会社側の主張内容を十分に把握しておらず、紛争の実態をよく理解できていないまま訴えを起こすということがあり、このようなケースでは会社側が従業員側の請求を裁判で争う余地があります。

訴えられたらどうなるか

裁判を起こされるというのはそうそうあることではありませんので、実際に裁判を起こされてしまうと慌ててしまいます。特に、従業員側が不当な訴えを起こしたような場合は、会社としても訴えられる心当たりがないと思いますので、なおさらだと思います。

しかし、裁判所から訴えの書類が届いても、裁判は明日すぐ始まるというわけではありません。また、訴訟の場合は、1回目の裁判までに詳細な反論をしなくてもよく、2回目の裁判までに時間をかけて詳細な反論を行うということもできます。そのため、裁判所から訴えの書類が届いても、反論のためにしっかりと準備をすることは可能ですので、どのように対応をすべきかを解説いたします。

裁判所から届いた書類を確認する

訴えが起こされると、裁判所から書類が郵送されてきます。書類が届いたら、その内容を確認しましょう。訴状、証拠、証拠説明書が入っていますので、その中身を確認します。

これらの書類には、従業員の請求の内容、請求を求める理由、その裏付けとなる証拠の説明、証拠の内容が記載されています。

これらの書類の内容を確認し、
・相手が主張している事実は真実であるか
・真実でないことを証明するために会社側が提出できる証拠はないか
・会社側が認める事実を前提とすると、従業員側の請求が裁判所に認められる可能性はあるのか
・従業員側が証拠によって証明できそうな事実関係を前提とすると、従業員側の請求が裁判所に認められる可能性はあるのか
等を検討し、従業員側の請求を争うのか、また、争うとしてどの程度争うのかを決定します。

これらの検討は、裁判官が証拠に基づいてどのような事実認定を行うのか、また、証拠によって認められる事実を前提とすると従業員側の請求は法的にどの程度認められるのかという判断が必要になります。

こうした判断は、訴訟での事実認定がどのようにして行われるのかを経験し、また、法律上請求が認められるのはどのような場合かに精通している弁護士でなければ、判断が難しい面があります。そのため、裁判所から書類が届いた場合は、速やかに弁護士にご相談頂くことをお勧めします。

答弁書を作成する

従業員側の請求に対して反論するために答弁書という書類を作成します。
答弁書では、
・従業員側の主張する事実を認めるのか認めないのか
・認めない場合はその理由は何か
・従業員側の主張が真実でないことを示す証拠があれば、そのような証拠があることと、その内容を説明する
・以上のような会社側の反論を前提として、従業員側の請求を認めるのか認めないのか
・また、請求を認めない理由として、事実関係を理由とする以外に、法律上の理由も存在するという場合はその理由
を記載する必要があります。

こうした作業は、裁判での事実認定と法律の知識に精通した弁護士に任せることをお勧めしますので、答弁書の作成は弁護士に相談をして、弁護士に答弁書を作成することを依頼することをお勧めします。

なお、答弁書を提出せずに裁判を欠席しますと、従業員側の請求内容がそのまま認められてしまう可能性があります。そのため、従業員側の請求内容が不当なものであったとしても、答弁書を作成して提出することは必要です。

また、きちんとした答弁書を作成して提出した方が、裁判所も会社側の主張を認めてくれやすくなりますので、裁判所から書類が届いた場合は、速やかにと答弁書を作成することをお勧めします。

それでも、答弁書の作成をしないまま、答弁書の提出期限が近づいてしまったという場合は、「従業員側の請求を争う。その理由は追って主張する。」という内容の答弁書を提出すべきです。

このような答弁書を提出しておくと、第1回目の裁判で審理が終結してしまうという可能性は少なくなり、第2回目の裁判までに詳細な反論の書面を提出する機会が生まれます。

答弁書を提出する方法

提出する際は、裁判所へ持参するのではなく郵送で送っても構いません。また、裁判所から送られてきた書類にかかれている提出期限を過ぎたとしても、第1回目の裁判の前には裁判所に届いていれば、提出は有効となります。裁判の前までに届くのかが不安であるという場合は裁判所へ持参するか、郵送で送るということを裁判所に連絡しておくのがよろしいかと思います。

訴訟を弁護士に依頼すると訴訟に参加しなくて良い

訴訟は,平日の日中に開催されます。経営者の方は、日中忙しいことが多く、訴訟へ参加することが会社経営の負担になることがあります。この点、弁護士に依頼をすると、弁護士が代わりに訴訟へ参加して、従業員側の提出する書面や証拠に対する反論の検討を行い、会社側の主張を行うことができます。よって、弁護士に依頼をすることにより、経営への負担を減らすということが可能となります。

労働審判について

従業員が、訴訟ではなく労働審判という裁判を起こしてくることがあります。労働審判は、従業員側の申し立てから40日以内に第1回目の裁判が開かれるのが通常であり、3回以内の裁判で裁判所が審判を下します。訴訟であれば判決までに1年程度の時間を要するのですが、労働審判の場合は平均審理期間は2か月半です。

そのため、労働審判の場合は、第1回目の裁判までに「従業員側の請求を争う。理由は追って主張する。」という簡単な答弁書を提出して、第2回目の裁判までに詳細な反論を行うという方法をとることは難しく、第1回目の裁判に向けて反論の準備を急ぐ必要があります。

そして、第1回期日で解決の方向性が決まるため、第1回期日までに十分な準備をして臨むことが必要です。

また、従業員側の申立書が会社に届いてから答弁書の提出期限までは、3週間程度の短い期間しかないことが通常です。この短い期間の中で、できるかぎり説得的な答弁書を作成して提出することが、労働審判において会社側の主張を認めてもらうためには重要です。そのため、申立書が届いたら速やかに弁護士に答弁書作成を依頼することをお勧めします。

なお、審判期日には、労働審判を申し立てた従業員の上司や社長などの会社関係者も出席することが必要です。そのため、労働審判の第1回期日を確認し、出席予定者の当日の予定を確保しておく必要があります。なお、第1回期日に要する時間は通常は2時間程度です。

裁判でかかる弁護士費用

弁護士に依頼する場合は、以下のような費用がかかります。

着手金 訴訟に関する依頼をした時に支払う費用。
報酬金 依頼をした結果として得られた成果に対して支払う費用。
日当 裁判に出席した場合等、事務所外で行う業務に対する費用
実費  交通費、切手代、録音内容を業者に依頼して書面化する場合の費用等の実費
などが費用として発生します。
そして、これらの弁護士費用に関しては、裁判の内容によって大きく異なりますので、ご相談の際にお問い合わせ頂けますと幸いです。

弁護士費用はどのようにして決めるのか

弁護士に依頼した時にかかる弁護士費用のうち、特に大きいのが着手金と報酬金です。

損害賠償請求のような金銭的請求であれば、下記のような基準で着手金・報酬金を決めることが多いと思います。かつてあった日本弁護士連合会のガイドラインに記された報酬等基準に従って設定しています。

着手金は以下のような計算をします。なお、当事務所の着手金の最低額は20万円(税別)となっています。

訴訟によって得られる利益 弁護士の着手金
300万円以下 利益の8%
300万円~3,000万円 利益の5%+9万円
3,000万円~3億円 利益の3%+69万円
3億円~ 利益の2%+369万円

また、報酬金に関しては以下のように計算します。

訴訟によって得られる利益 弁護士の報酬金
300万円以下 利益の16%
300万円~3,000万円 利益の10%+18万円
3,000万円~3億円 利益の6%+138万円
3億円~ 利益の4%+738万円

報酬金は、基本的に着手金の2倍となっています。

他方、地位確認請求や残業代請求に関しては、上記の基準ではなく、当事務所の所定の報酬基準に従い、弁護士費用をご請求させて頂くことがありますので、ご相談時にお問い合わせを頂けますと幸いです。

また、労働審判に関しては、当事務所の場合、以下のような基準で着手金・報酬金を決定しています。
着手金 30万円から50万円(税別)の範囲で決定します。
報酬金
例えば、従業員が不当解雇を理由とする地位確認請求と出勤できない間の賃金の支払請求を行う場合ですが、
労働契約の終了が認めてもらえたことに対する報酬金は、
20万円から50万円(税別)の間の金額、または、労働者のボーナスも含めた1年分の賃金に所定の料率を掛けた金額を、報酬金としています。
また、賃金の支払請求に関する報酬金は、
従業員側が請求した金額と支払うことになった金額との差額に一定の料率を掛けた金額を報酬金とします。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 村本 拓哉
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