建設業は多くの契約関係(下請関係)によって成り立っている側面がありますが、「下請」という言葉を使っているからといって、必ずしも下請法が適用されるという訳ではありません。
この記事では、下請法が適用されない建設業の「建設工事」とはどういうものか、建設業の行う取引・契約で下請法が適用されるものにはどんなものがあるか、下請法と建設業法の共通点・相違点などを詳しく解説していきます。

建設業と下請法、建設業法の関係

1 建設業に下請法は適用される?されない?

結論から言うと、建設業を行う会社が他社に何らかの業務を委託した場合には、下請法の適用がある場合とない場合があります。

下請法2条4項には下記のような定めがあります。

下請法第2条4項
この法律で「役務提供委託」とは、事業者が業として行う提供の目的たる役務の提供の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること(建設業(建設業法(昭和二十四年法律第百号)第二条第二項に規定する建設業をいう。以下この項において同じ。)を営む者が業として請け負う建設工事(同条第一項に規定する建設工事をいう。)の全部又は一部を他の建設業を営む者に請け負わせることを除く。)をいう。
引用をお使いください。
引用元:
e-Gov「下請代金支払遅延等防止法」
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=331AC0000000120

少し分かりづらいですが、建設業を営む者が、業として請け負った「建設工事」を、他の建設業を営む者に請け負わせる場合には、下請法の適用は無いとされています。
なお、この「建設工事」を委託する場合には、別の法律である「建設業法」が適用されます。

一方、「建設工事」ではないその他の取引(詳しくは後述します。)については、たとえ建設業を営む者が他の建設業を営む者に委託をしたとしても、建設業法の適用はありません。
別途下請法の適用の対象となるかどうか、資本金要件や取引内容などを判断する必要があります。

したがって、「建設業だから下請法の適用がない/ある」といった判断はできず、その取引の中身によって変わってくるということになります。

2 そもそも「建設業法」とは

建設業法は、「建設業を営む者の資質の向上、建設工事の請負契約の適正化等を図ることによって、建設工事の適正な施工を確保し、発注者を保護するとともに、建設業の健全な発達を促進し、もって公共の福祉の増進に寄与することを目的」とする法律です(建設業法第1条)。
つまり、建設工事の請負契約の適正化を通して、建設業界や建設業そのものを良くしていこうというイメージですね。
この点、下請法は親事業者と下請事業者との取引の適正化を目指す法律ですから、方向性はとても似ているということになりますし、実際に似ている内容もあるところです(後で詳しく述べます。)。

3 「建設工事」とは

建設業法が適用される取引は、上記で述べた通り「建設工事」に限られます。
それでは、「建設工事」とはどのようなものでしょうか。
建設業法には、次の通りの定めがあります。

建設業法第2条1項
この法律において「建設工事」とは、土木建築に関する工事で別表第一の上欄に掲げるものをいう。
引用元:e-Gov「建設業法」
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=324AC0000000100

すなわち、建設業法の「別表第一」というリストに挙げられた土木建築工事が、建設業法のいう「建設工事」に当たるということになります。
ちなみに、別表第一のリストに挙がっている工事には次のようなものがあります。

土木一式工事、建築一式工事、大工工事、左官工事、とび・土工・コンクリート工事、石工事、屋根工事、電気工事、管工事、タイル・れんが・ブロック工事、鋼構造物工事、鉄筋工事、舗装工事、しゅんせつ工事、板金工事、ガラス工事、塗装工事、防水工事、内装仕上工事、機械器具設置工事、熱絶縁工事、電気通信工事、造園工事、さく井工事、建具工事、水道施設工事、消防施設工事、清掃施設工事、解体工事

全部で29種類あります。様々な工事がありますね。
これらの工事の具体例については国土交通省がHPで「建設業許可事務ガイドライン」を公開していますので、そちらをご参照ください。
参照(令和3年12月9日改正版):https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/001445004.pdf

4 「建設工事」に当たらない取引の例

それでは、逆に「建設工事」に当たらない(下請法の対象となるかもしれない)契約・取引の具体例としてはどんなものがあるでしょうか。

製造委託(下請法第2条1項)の例
・建設業者が建設資材の販売も手掛けており、その建設資材の製造を下請事業者に委託する場合
・建設業者が、自身が建設工事などに使用する建設資材(自家使用する建設資材)を自身で製造していた場合に、その製造を下請事業者に委託する場合

⇒いずれも建設事業関係の契約・取引ではありますが、資材の製造は「建設工事」には当たりませんので、建設業法の適用はないということになります。一方、下請法の「製造委託」の類型には当たるため、そのほかに資本金要件を満たせば、下請法の適用があることになります。

情報成果物作成委託(下請法第2条3項)の例
・建設業者が、設計や図面・構造計算書などの作成を請け負った場合に、その設計等を下請事業者に委託する場合

⇒設計などはまさに建設に関わる行為ですが、それだけでは「建設工事」には当たらないため、建設業法の適用はないということになります。一方で、下請法の「情報成果物作成委託」の類型には当てはまるため、そのほかに資本金要件を満たせば、下請法の適用があるということになります。

その他にも、建築確認の申請の代行、測量、工事現場での交通整理、建設機器類の保守点検など、建設工事に関連する仕事というのは多くの種類があります。
しかし、上記の「建設工事」に当たらない業務について他社に委託する場合には、建設業法の適用はなく、下請法の適用が問題となり得ますので、注意が必要ということになります。

5 下請法と建設業法は似ている?

下請法と建設業法は、その方向性がとても似ています。そのため、その制度内容・規制内容や条文にも似ているところがあります。
例えば、下記のような内容は良く似ている部分であると考えられますが、細かい違いがある場合もありますので、適用される法律について十分に注意しましょう。

①契約内容を書面化する義務
下請法→第3条 ※親事業者の義務とされています。
建設業法→第19条1項 ※請負契約の当事者双方の義務とされています。

②受領拒否の禁止(受領義務)
下請法→第4条1項1号 ※受領義務のみが定められており、検査の義務は定められていません。
建設業法→第24条の4 ※元請負人について、検査と受領の義務を定めています。

③支払遅延の禁止
下請法→第4条1項2号 ※支払期日までに下請代金を支払う必要があります。
建設業法→第24の3第1項 ※元請負人が請負代金の支払いを受けてから1か月以内に、その支払の対象となった建設工事を施工した下請負人に支払う義務があります。

④買いたたきの禁止(不当に低い請負代金の禁止)
下請法→第4条1項5号 ※「通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額」を下請代金とすることを禁止しています。
建設業法→第19条の3 ※「通常必要と認められる原価に満たない金額」を請負代金とすることを禁止しています。

⑤正当な理由のない購入・利用強制の禁止(不当な資材等の購入強制の禁止)
下請法→第4条1項6号 ※時期の限定はなく、発注の前後を問いません。
建設業法→第19条の4 ※時期が「請負契約の締結後」に限定されています。

また、建設工事の請負契約においては「赤伝処理」と呼ばれる処理がされることがあります。赤伝処理とは、建設工事に関する諸費用について、下請代金から差し引く(相殺する)処理のことです。
この「赤伝処理」について、建設業法において直接的に規制する条文はありません。
しかしながら、建設業法第19条(契約内容の書面化)、第19条の3(不当に低い請負代金の禁止)などに該当する場合には、それぞれ規制を受けることになります。
一方、下請法においては、事後的な下請代金の減額(何かの名目の金額を差し引く処理も含みます。)は、下請事業者の責めに帰すべき理由がない限り、禁止されています(下請法第4条1項3号)。
この下請代金の減額の禁止は、減額の名目を問いませんし、例え親事業者と下請事業者の間に合意があったとしても禁止となりますから、建設業法よりも「赤伝処理」に対する規制は厳しいと言えるでしょう。

このように、下請法と建設業法には似ているところもありますが、それぞれの法律の対象としている範囲の特性に合わせて、細かい違いも多々あります。違いがあることを意識して、適用される法律について十分に注意しましょう。

6 まとめ

この記事では、下請法が適用されない建設業の「建設工事」とはどういうものか、建設業の行う取引・契約で下請法が適用されるものにはどんなものがあるか、下請法と建設業法の共通点・相違点などを詳しく解説してきました。
建設業は多くの契約関係(下請関係)によって成り立っている側面があり、それらについて、どの法律のどのような規制が及ぶのか、とても複雑な状況があります。
また、建設業を営む事業者の規模も、大規模な大手企業から、まさに1人だけで事業を行っている一人親方まで様々です。そうすると、全ての事業者が関連する法律等に精通しているとも限りません。
ご自身の関わっている取引・契約が、どのような法律のどのような規制を受けるのか等、ご不安な点がある場合には、ぜひ弊所の顧問契約サービスをご検討ください。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 木村 綾菜
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