この記事では、下請法の対象となる取引の内「製造委託」について、対象となる「製造」や目的物の解説、「製造委託」の4つの類型など、事業者が押さえておくべきポイントを詳しく解説いたします。

下請法の対象となる「製造委託」

下請法は、その適用の対象となる範囲を、「取引当事者の資本金の区分」と「取引の内容」の2つの条件によって定めています。
この内、取引の内容としては、「製造委託」「修理委託」「情報成果物作成委託」「役務提供委託」の4つの類型が定められています。
「製造委託」は、この4つの類型のなかでも多くの取引が当てはまる類型であり、下請契約の典型的なものだと考えられます。
この記事では、この「製造委託」について詳しく解説していきます。

「製造委託」とは?

下請法は、「製造委託」について下記のように定めています。

第2条1項
この法律で「製造委託」とは、事業者が業として行う販売若しくは業として請け負う製造(加工を含む。以下同じ。)の目的物たる物品若しくはその半製品、部品、附属品若しくは原材料若しくはこれらの製造に用いる金型又は業として行う物品の修理に必要な部品若しくは原材料の製造を他の事業者に委託すること及び事業者がその使用し又は消費する物品の製造を業として行う場合にその物品若しくはその半製品、部品、附属品若しくは原材料又はこれらの製造に用いる金型の製造を他の事業者に委託することをいう。

引用元:e-gov「下請代金支払遅延等防止法」

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=331AC0000000120

以下、順に解説していきます。

「業として」

「業として」とは、行為が反復継続して行われており、事業者の事業の遂行としてみることができる程度のものであるか否かで判断されます。
平たく言うと、事業者の「仕事」であるかどうかということなので、この部分が問題となることは実際には多くありません。
「製造委託」の場合、事業者が仕事として行う「販売」のための商品や、仕事として請け負って「製造」(後述します。)する製品などについて、下請法の適用があるということになります。

「製造」「加工」

ここでいう「製造」とは原材料に工作を加えて新しいモノを作り出すことであり、「加工」とは原材料に工作を加えて一定の価値を付け加えることとされています。両者は似ていますが、イメージとしては、金型に原材料を流し込んで固めて製品を作るとか、部品を組み立てて製品を作るといったものが「製造」で、板金をプレスして製品の形に仕上げることが「加工」というようなところでしょうか。
ただし、下請法上は「製造(加工を含む。…)」とされており、「製造」と「加工」を厳密に区分していませんので、実際上は問題となることは少ないでしょう。

対象となる目的物は?

下請法2条1項の条文は少しややこしいですが、事業者が販売または製造をするための「物品」や、その物品のための「半製品」「部品」「附属品」「原材料」、物品やこれらの製造に用いるための「金型」について、製造を他社に任せることなどが、下請法の対象となります(下記で4つの類型について解説しています。)。
なお、「附属品」とは、例えば、製品に貼るラベルや、製品に附属させる取扱説明書・保証書、製品と一体として販売される容器など、製品に附属され製品の効用を増加させる製造物のことを指します。

「委託」

「製造委託」における「委託」とは、仕様や内容を指定して、上記の「物品」などの製造・加工を他社に依頼することになります。
そのため、例えば製造会社が製造している規格品・標準品を、単に購入したり、数量を決めて発注するだけでは、この「委託」には当たらないことになります。
親事業者から、その「物品」などの、規格や性能、形状、デザインなどの仕様・内容を指定して発注することが「委託」に当たるということです。
このように仕様・内容を決めて製造・加工を発注することが「委託」に当たるとされているため、実際の契約が「請負」契約であるか「売買」契約であるかという点は考慮されません。
また、発注元(親事業者)自身は、製造会社でも、卸売業者や小売業者でも構いません。例えば、最近ですと、大規模小売業者が自社のプライベートブランド商品を販売していることがありますが、このPB商品について、仕様・内容を決定して、製造会社に発注しているという場合には、「委託」に当たるということになります。

製造委託の具体例(4つの類型)

⑴事業者が自分で販売するための物品等の製造を他社に委託すること

例えば、
・自動車メーカーが、自社から販売する自動車を作るために、その部品などを他社に発注する
・スーパーが、自社のプライベートブランド商品を販売するために、その商品の製造を他社に発注する
といったようなケースが当てはまります。

⑵事業者がその製造を請け負っている物品等の製造を他社に委託すること

例えば、
・精密機器メーカーが、他社から精密機器の製造を請け負っている場合に、その精密機器を作るための部品の製造を、別の他社に発注する
・パチンコ機器メーカーが、他社からパチンコ台の製造を請け負っている場合に、そのパチンコ台の一部を作るための金型の製造を、別の他社に発注する
といったようなケースが当てはまります。

⑶事業者が請け負っている修理に必要な部品等の製造を他社に委託すること

例えば、
・家電メーカーが、家電の修理を消費者から請け負っている場合に、その修理に使うための部品の製造を他社に発注する
といったようなケースが当てはまります。
なお、自社で使う物品を、業として自社で修理している場合に、その修理に使うための部品等を他社に発注するといったケースも、この類型⑶に当たるとされています。

⑷事業者が自分で使うための物品等を製造している場合に、その物品等の製造を他社に委託すること

例えば、
・精密機器メーカーが、作った精密機器製品を運送するための梱包材も製造している場合に、その梱包材の製造を他社に発注する
といったようなケースが当てはまります。

これも「製造委託」?

①規格品・標準品の購入と、社名印刷などのちょっとした加工

上記でも説明したように、「製造委託」における「委託」とは、仕様や内容を指定して、上記の「物品」などの製造・加工を他社に依頼することになります。
したがって、発注者側が仕様・内容等について何ら口出しせず、規格品・標準品などの「すでに出来上がっているもの」を単に購入するだけでは、ここでいう「委託」には当たりません。
部品メーカーから部品を購入する際に、すでに仕様が定まっている部品をカタログから選んで購入することは「委託」に当たらず、「こんな形で、この材料で作った部品が欲しい」と仕様を指定して発注することは「委託」に当たる、といったイメージです。
さて、規格品等の購入の際に、例えば社名や名前を刻印・印刷するとか、何らかのラベルを貼り付けるといった、ちょっとした「加工」を施すことがあると思います(例:ノベルティとして配るボールペンに社名をプリントする、等)。
この場合には、「加工」の仕様・内容を指定して発注しているということになりますから、「製造委託」に該当します(「加工」は「製造」に含まれるとされています。)。
部品なども、例えば自社の仕様に合わせて、幅や長さを指定して切断させるなどの作業を行わせた場合には、同様に「製造委託」に当たるとされています。
ポイントとしては、親事業者側から、その製品の仕様・内容について、何らかの指定をしているかどうか、というところになります。

②野菜・果物の生産と販売のための工夫

野菜・果物の生産や、畜産・水産物の捕獲・採取など、物品(野菜など)に対して何らの工作を加えない場合には、「製造」や「加工」を行っていないことになり、「製造委託」には当たらないことになります。
一方、野菜等の販売のためにカットサラダにしたりパッケージを作ったりということは、「製造」や「加工」に当たります。こういった工作を加えることを委託する場合には「製造委託」に該当すると考えられます。

③工場内の運送作業

下請法の対象となる取引内容のひとつに「役務提供委託」というものがあります。これは、モノではなくサービスの提供について、下請けに出した場合に該当するものです。
さて、ある工場の中で、仕掛品を次の生産ラインに移動させる必要があった場合に、その移動を他社に発注するという場面を考えてみましょう。
これは一見「移動」というサービス(=役務)を他社に任せているので、「役務提供委託」に当たるようにも思えます。しかしながら、下請法は、この移動は製造工程の一環であり、製造(工程)の一部を他社に任せるという点で、モノの製造・加工自体や部品等の製造を他社に任せたことと変わらないから、「製造委託」に分類されると考えています。

「役務提供委託」について、詳しくはこちらの記事をご参照下さい。

まとめ

この記事では、下請法の対象となる取引の内「製造委託」について、「製造」とは何か、目的物となるのはどんなモノか、「委託」の内容や「製造委託」4つの類型など、事業者が押さえておくべきポイントを詳しく解説しました。
「製造委託」は、下請法が適用される取引のなかでも多くの取引が当てはまる類型であり、下請契約の典型的なものだと考えられます。
一方で、「製造」委託という名前からは一見して含まれるとは思われない、出来上がっているものに工作を加えて付加価値を付ける「加工」といった行為も対象に含まれますし、上記でも解説したように移動・運送といった行為も対象に含まれる場合があります。
下請法の適用がある場合には各種規制が及びますので、ご自身が関わっている取引が「製造委託」として下請法の対象となるのか否かについてご不安がある場合や、どのような規制が及んでいるのか疑問がある場合には、ぜひ弊所の顧問契約サービスをご検討下さい。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 木村 綾菜
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