フリーランスなどの個人事業主も、下請法の保護の対象になります。保護の対象となる条件、保護の内容(親事業者がしなければならないこと、してはならないこと)について、個人事業主に絞って述べてみました。フリーランス保護新法についてもふれました。

1 下請法の保護

下請法では、下請法の保護の対象となる取引を定め、その取引に当たるときに、親事業者がやらなければならないこと、親事業者がやってはならないことを定め、これに親事業者が反した場合に、公正取引委員会、中小企業庁などが、立入検査、勧告、罰則などを行うことを定めています。
今回は、下請事業者が個人事業主の場合に絞って、個人事業主の観点から下請法の規制を見ていこうと思います。

2 個人事業主が下請法の対象となる場合

個人事業主とは、会社のような法人ではなく、個人として事業を営んでいる方を言います。社員がいても、法人でなければ個人事業主になります。

このような個人事業主が下請法の保護の対象となるためには、仕事を発注する親事業者の資本金が1000万円を超えていることのほかに、
・ 親事業者が個人事業主に、物品の規格・品質・形状・デザイン・ブランドなどを指定して製造を委託する、
・ 親事業者が請け負った修理を、個人事業主に委託する、
・ ソフトウェア、デザインなどの作成を行う親事業者が、個人事業主にその作成を委託する、
・ 運送、ビルメンテナンスなどを請け負った親事業者が、個人事業主にそれらのサービスの提供を委託する、
などの取引形態にあたることが必要です。

3 下請法による保護

以下、デザインの作成を行う親事業者が、個人事業者(フリーランスのデザイナー)にデザインの作成を委託した場合を想定して、見ていくことにします。デザインの全部の委託した場合でも、一部を委託した場合でも、下請法の対象になりますので、個人事業主は下請法によって保護されることになります。

※ ただし、親事業者である企業の資本金が1000万円以下の場合、親事業者が個人の場合は、下請法は適用されませんので、個人事業主は下請法によって保護されないことになります。これが、後述の5で述べるように、フリーランス保護新法が議論されている理由です。

なお、今回は個人事業主を対象としているので、以下、下請事業者のことを個人事業主と呼びますが、個人事業主に限らず、下請法が定める条件に当てはまる場合は、法人も下請事業者として、下請法の保護の対象になるのはもちろんです。
それでは、個人事業主は具体的にどのように守られるのでしょうか。

⑴ 親事業者がやらなければならないこと

① 契約書の作成・交付義務

親事業者は、発注に際して、個人事業主が提出するデザインの内容、納期、個人事業主に支払う代金額、支払日などを記載した契約書を、個人事業主との間で交わさなければなりません。

これは、親事業者が、口頭で約束したにもかかわらず、デザインの内容が発注と違う、納期を過ぎている言って、個人事業主が作成したデザインを受け取らなかったり、約束より低い代金しか支払わなかったり、約束した支払期日になっても代金を払わないということを防ぐためです。

親事業者が、このような不当な主張をした場合、個人事業主は、約束したデザインの内容は何だった、納期はいつだった、代金額はいくらだった、支払日はいつだったということを、(仮に訴訟などになれば)証明しなければなりませんが、口頭の約束では、このような証明は困難です。その点、契約書があれば、これらは明らかですから、個人事業主の権利を守るために、契約書の作成を親事業者に義務付けることは重要なことになります。

② 60日以内の支払期日を定める義務

親事業者は、デザインを受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で、代金の支払期日を定める義務があります。代金の支払期日は、親事業者と個人事業主の間の合意で決められるのですが、受領から60日を超えた期間を定めると下請法違反になります。

個人事業主は、受領日(多くの場合、契約で決められた納期)から60日を超える日を支払日としたい旨の提案を親事業者から受けたときは、下請法をもとにこれを拒否できることになります。

③ 遅延利息の支払い義務

例えば、デザインの納期から40日後を支払日とし、約束どおり、提出日にデザインの納品をしたのに、80日たってから支払いをしたという場合、親事業者は、40日以後60日までは契約書所定の遅延利息(契約で決めていないときは年率3%)、60日後は年率14.6%の遅延利息を支払う必要があります。

④ 書類の作成・保存義務

親事業者は、個人事業主からデザインを受領した日、代金の額に変更があった場合は、減額額と理由、支払った代金の額、支払日、支払い手段などを記載した書面を作成し、2年間保存しなければなりません。
これは、トラブルを防止し、公正取引委員会などの調査の迅速さ・正確さを確保するためです。

⑵ 親事業者がやってはならないこと

これについても、個人事業主(フリーランスのデザイナー)がデザインを作成した場合をもとに述べていきます。

① 受領拒否の禁止

個人事業主がデザインを納期どおり納品した場合に、親事業者は理由なく受領を拒むことはできません。理由もなく受領を拒否されたのでは、個人事業主は代金をもらうことができなくなってしまいます。
ただ、個人事業主が納品したデザインが、親事業者の発注していたものと違っていたというような、個人事業主に責任がある場合は、親事業者は受領を拒否することができます。

② 下請代金の支払い遅延などの禁止

親事業者は、デザインを受領した日から起算して、定められた支払期日までに代金全額を払わなければならず、全額の支払いをしないと下請法違反になります。
ただ、親事業者の発注したデザインと違っていたというような、個人事業主に責任がある場合で、親事業者がやり直しをさせた場合は、やり直しをさせた後のデザインの受領日が支払期日の起算日となります。

③ 下請代金の減額の禁止

親事業者は発注時に決定した代金を、発注後に減額することはできません。ただ、デザインの納入が納期に遅れたというような、個人事業主に責任が認められる事情があり、それによって商品価値が下がったということであれば、相当と認められる減額を行うことができます。

④ 返品の禁止

親事業者は、個人事業主のデザインを受領した後に、理由もないのに返品をすることはできません。
ただ、個人事業主のデザインが注文と違っていた、汚損・毀損があったというような、個人事業主に責任がある場合は、返品が許される場合があります。

⑤ 買いたたきの禁止

親事業者は、下請代金を決定する際に、発注した内容と、同種または類似の給付の内容に対し、通常支払われる対価に比べ、著しく低い額を不当に定めた場合、「買いたたき」として、下請法違反になります。
代金は、親事業者と個人事業主との間で交渉によって決めるのですが、親事業者の力は個人事業主より強いことが多いので、交渉とはいっても一方的なものになりがちです。そこで、このような規定が設けられています。

⑥ 不当な給付内容の変更および不当なやり直しの禁止

親事業者は、個人事業主に責任がないのに、発注の取消あるいは委託内容の変更を行い、または受領後にやり直しをさせるなど、個人事業主の利益を不当に害することはできません。

例えば、デザインの内容が、親事業者が発注した趣旨と異なっていたというのであれば、個人事業主に責任があるのですから、やり直しをさせることもできますが、親事業者が顧客から発注を取り消されたため、個人事業主に対する発注も取り消す、親事業者が顧客から発注の内容を変更されたため、親事業者の個人事業主に対する発注の内容を変更する、あるいはデザインの受領後にやり直しをさせるというのは、個人事業主に責任がないのに関わらず、親事業者の都合で発注の取消し、変更、やり直しをさせるということですから、下請法に反することになります。

⑦ 報復措置の禁止

個人事業主が、公正取引委員会、中小企業庁に、親事業者の下請法違反行為を知らせたことを理由として、親事業者が個人事業主に、今後の取引の停止などの不利益な取り扱いをすることも、下請法に反することになります。

⑧ その他

上記の他に、下請法では、購入・利用強制の禁止(親事業者の指定する製品、サービスを、必要もないのに個人事業主に購入させる)、有償支給原料などの対価の早期決済の禁止(親事業者が個人事業主に、原料などを有償で支給した場合に、この原料を使った製品の代金を個人事業主に支払う前に、原料の代金を個人事業主に支払わせる)、割引困難な手形の交付の禁止(一般の金融機関で割り引くことが困難な手形で下請代金の支払いをする)、不当な経済上の利益の提供要請の禁止(親事業者が、個人事業主に対して、金銭、サービス、その他経済上の利益を不当に提供させる)などの規定があります。

4 下請法に反した場合

⑴ 立入検査、勧告、排除措置命令、罰則

親事業者が下請法に反した場合、公正取引委員会、中小企業庁が、親事業者、個人事業主から、下請取引に関する報告をさせ、あるいは親事業者の事業所などに立ち入り検査を行います。

また、公正取引委員会、中小企業庁は、下請法に違反した親事業者に対して、違反行為の是正や、その他必要な措置を取るべきことを勧告することができます。勧告した場合は、原則として、違反事実の概要、勧告の概要をホームページなどで公表しています。

親事業者が公正取引委員会の勧告に従わない場合は、独占取引法に基づく排除措置命令や課徴金納付命令が出されることもあります。

また、下記の場合には、親事業者の代表者、担当者が罰せられるほか、会社も罰金を貸されることになります。
① 書面(契約書)の交付義務違反
② 書類の作成、保存義務違反
③ 報告徴収に対する報告拒否、虚偽報告
④ 立入検査の拒否、妨害、忌避

⑵ 個人事業主の対応

企業が法令を遵守した活動(コンプライアンス)を行うことは非常に重要です。法令を遵守しない場合、その法令に定めた措置を取られたり、場合によっては罰則を課せられたりしますし、社会的な非難の対象になり、企業活動に大きな支障が生じます。

親事業者が下請法の内容をよく知らないことも多いですから、親事業者の行為が下請法に反している場合は、個人事業主から、下請法の内容を説明し、親事業者がこれに反していることを理解してもらうとよいと思います。

それでも、親事業者が態度を変えようとして場合は、公正取引委員会、中小企業庁に相談窓口がありますので、相談してみるのもよいと思います。

5 フリーランス保護新法

⑴ フリーランスと下請法

フリーランスとは、企業や団体に所属せず、個人で仕事を受けて報酬を得ている働き方を言います。
フリーランスの場合も、もちろん下請法によって保護されるのですが、下請法の場合、資本金1000万円以下の企業は、あるいは個人は、下請法にいう親事業者になりませんから、このような企業あるいは個人から仕事を受けた場合は、下請法によって保護されることはありません。

しかし、資本金1000万円以下の企業、あるいは個人から、フリーランスが仕事を受けることも多いので、このような場合も、フリーランスを保護しようということで制定の検討がされているのがフリーランス新法です。
まだ、法律になっているわけではないのですが、その内容についてふれておきます。政府が公表した内容は下記のとおりで、下請法の規制がもとになっています。

⑵ 検討中のフリーランス保護新法の内容

ア 業務委託の開始、終了に関する義務

① 業務委託の際の書面の交付

■ 事業者が、フリーランスに対して事業委託を行うときは、業務委託の内容、報酬等を記載した書面の交付または電磁的記録の提供(メールなど)をしなければならない。
■ 事業者が、フリーランスと一定期間以上の間、継続的に業務委託を行う場合は、①の記載事項に加え、業務委託に係る契約の期間、契約の終了事由、契約の中途解除の場合の費用などを記載しなければならない。

② 契約の中途解約、不更新の際の事前通告

■ 事業者がフリーランスに対し、継続的な業務委託を行う場合、中途解約または契約期間満了後の更新をしない場合は、30日前までに予告しなければならない。
■ フリーランスからの求めがあったときは、事業者は、契約の終了事由を明らかにしなければならない。

イ 業務委託の募集に関する義務

① 募集の際の表示

募集に関する情報を、正確、最新の内容に保ち、虚偽の表示、誤解を生じさせる表示をしてはならない。

② 条件の明示など

■ 募集に応じた者に条件を明示しなければならない。
■ 明示した条件と異なる内容で業務委託をする場合、その旨の説明をしなければならない。

ウ 報酬の支払いに関する義務

事業者は、フリーランスに対し、役務の提供を受けた日から60日以内に報酬を支払わなければならない。

エ フリーランスと取引を行う事業者の禁止行為

① フリーランスの責に帰すべき理由なく受領を拒否すること。
② フリーランスの責に帰すべき理由なく報酬を減額すること。
③ フリーランスの責に帰すべき理由なく返品をすること。
④ 通常相場に比べて、著しく低い報酬の額を不当に定めること。
⑤ 正当な理由なく、自己の指定する物の購入、役務の利用を強制すること。
⑥ 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。
⑦ フリーランスの責に帰すべき理由がないのに関わらず、給付の内容を変更させ、またはやり直させること。

オ ハラスメント対策、出産・育児・介護との両立

事業者は、ハラスメント行為に対処するため必要な体制の整備などを行わなければならない。
フリーランスと一定期間以上の業務委託を行う場合、出産・育児・介護につき、必要な配慮をしなければならない。

カ 助言、指導、勧告、公表

事業者が、遵守事項に反した場合、助言、指導、勧告、公表、命令を行う。

キ 不利益取扱いの禁止

事業者が、遵守事項に違反した場合、フリーランスは、その事実を行政機関に申告することができ、事業者は、申告したことを理由として、フリーランスに対して不利益な取り扱いをしてはならない。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
代表・弁護士 森田 茂夫
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