賃貸不動産の入居者が家賃を滞納した場合、特に自主管理をされているオーナーがとるべき行動について、ひいては、悪質な入居者を退去させる方法について解説しました。

不動産の賃貸借契約において、多くの場合家賃は「引落し」になっているかと思います。
それにも関わらず、家賃不払い(滞納)があった場合は、賃借人の入金ミスというよりも、払えないなんらかの事情が生じた可能性が高いです。それを放置しておくと、2ヶ月、3ヶ月とずるずる滞納が溜まっていくかもしれません。そうなる前に、家賃不払いがあった場合は、すぐに対応しましょう。

入居者に督促をする方法

⑴ 電話や書面
家賃不払いが確認できた場合、すぐに督促の電話や書面を送ることが重要です。賃借人が忘れているだけならすぐに支払われる可能性があります。
電話で直接話すのは嫌だという場合、書面を送ることが考えられます。こうした書面を書くのが苦手な方も多いでしょう。そこで、以下に書面の例を作成してみました。
1ヶ月程度の滞納(遅れ)ですと、今後の関係も考えて比較的やわらかな文書になります。

参考:督促文書

賃料支払請求書

前略
○○の不動産についてご連絡致します。
毎月○日までに、次月分の賃料○円をお支払いいただく契約でしたが、本日現在、ご入金が確認できませんでした。
お手数ですが、本書面到着後3日以内に、ご入金をいただければ幸いです。
入れ違いの場合はご容赦ください。
よろしくお願い致します。

草々

すこし強めの文書にしたいのであれば、文の最後に、「なお、期限内に入金の確認ができなかったり、今後も遅れが続くようであれば、契約にしたがって、法的措置を執らざるをえない場合がありますので、あらかじめご了承ください」このような文書を付け加えることが考えられます。

⑵ 連帯保証人に連絡をする

連帯保証人がいる場合は、賃借人が賃料を滞納したときに代わりに支払う義務があるので、連絡をして払ってもらうということが考えられます。その場合も、まずは電話・書面が良いでしょう。
連体保証人に文書で請求する場合は、以下のような文書になるかと思います。

賃料支払請求書

○様が契約されている、○不動産の件についてご連絡します。
私は、○不動産の賃貸人(オーナー)ですが、私と○様との賃貸借契約について、貴殿は連帯保証人となっています。
ところで、毎月○日付で○円の賃料を払っていただく約束でしたが、現在、賃料の滞納が続いております。

そこで、大変恐縮ですが、連体保証人として、○様に代わり、下記の滞納賃料の支払いをお願いしたく存じます。

振込口座 ○銀行○支店

金額○円

賃料の滞納が続く場合の対策

契約解除について

催促しても家賃の滞納が続く場合は、「賃貸借契約の解除」を申し出て、退去をしてもらう事を目指しましょう。
退去をしてもらうには、まずは賃貸借契約の解除をする必要があります。賃貸借契約を解除しないことには、どれだけ賃料の未払いがあっても、物件の明渡しを求めることはできないからです。どのように解除をするかというと、法律上は口頭でも良いのですが、証拠を残す・明確にするという意味でも、書面で行いましょう。
ただし、注意点があります。

それは、賃料滞納で賃貸借契約を解除するには、原則として3ヶ月以上の滞納が必要とされています。これは、たとえ契約書で、「1ヶ月でも滞納したら契約を解除する」などと合意していても、適用される原則です。
これは、「信頼関係破壊の法理」と言います。

信頼関係破壊の法理について

継続的な契約である賃貸借契約を解除するためには、賃借人の債務不履行(=賃料滞納)が些細なものではなく、賃貸人との信頼関係を破壊したと言えるほどに重大なものであることが必要という法理です。
裁判では、3か月程度の賃料滞納があり、賃貸人から相当の期間を定めて支払うよう催告しても期限内に支払いがなかった、ということであれば、賃貸人・賃借人間の信頼関係は破壊されたと認定されることが多いので、「原則として3ヶ月」という説明をしました。
もちろん、事情によっては1ヶ月とか2ヶ月でも解除はあり得ます。
例えば、賃料滞納→催告→支払うということを何度も繰り返している場合は、そのうち、1ヶ月の滞納でも解除が認められることもあると考えられます。

契約解除通知の送り方

賃貸借契約を解除をするには、滞納賃料の額を明記し、一定期間(金額にもよりますが、通常5日くらい)内に支払わない場合には契約を解除する旨の内容証明郵便を賃借人に送ります。
内容証明郵便は、以下のような内容になります。

催告書

私はあなたに対し、後記記載の貸室を1ヶ月あたり、家賃9万円、共益費1万円の合計10万円で賃貸していますが、あなたは平成○○年5月分から同年7月分までの家賃・共益費合計30万円(1か月10万円)の支払いを遅滞しています。
よって、本書配達後5日以内に上記30万円全額をお支払いいただくよう催告します。万一、お支払いがない場合は、改めて契約解除の通知をすることなく、あなたとの間の上記貸室賃貸借契約は解除されたものとして扱いますのでご了承下さい。

埼玉県○○市○○町6丁目5番
家屋番号 ○○番
軽量鉄骨造りスレート葺2階建アパート205号室
床面積 ○○平方メートル
平成○○年8月5日
埼玉県○○市○○町6丁目8番12号
○○アパート205号室
乙川 康夫 様

埼玉県○○市○○町3丁目3番6号
甲野 一郎

契約が解除された後のことについて

上記のような内容証明郵便を送っても、滞納賃料が払われない場合は、期間を経過したと同時に、賃貸借契約は解除されます。
しかし、解除されても「退去をしない」という方は一定数います。退去しない方は、「引っ越し代がない」「行く当てがない」「納得できない」など、好き勝手な理由を述べてくるでしょう。
ところが、賃貸人は、無理矢理退去させることはできません。例えば、部屋からひっぱって追い出したり、鍵を買えてしまうという事をすると、「不法行為」として、賃貸人が法律違反となってしまいます。
いわゆる、「自力救済禁止」は禁止されているのです。
退去しない賃借人をどうするかというと、明渡裁判をすることになります。

明渡訴訟の提起について

明渡しの裁判を提起したからといって、相手方(裁判では被告と呼ばれます)となった入居者が、速やかに物件から退去してくれるわけではありません。
居座り続ける入居者を退去させるには、明渡訴訟を提起して、まずは、裁判所から明渡の命令(明渡判決)を出してもらわなければなりません。

明渡訴訟の「管轄裁判所」(裁判をする土地)、原則として、当該物件の所在地を管轄する地方裁判所・簡易裁判所となります。
埼玉県内でも、さいたま市内に存在する物件については、さいたま地方裁判所・さいたま簡裁が管轄となり、越谷市、草加市、春日部市所在の物件については、さいたま地方裁判所越谷支部・越谷簡裁が管轄となります。
東京都23区内所在の物件については、東京地方裁判所・東京簡易裁判所が管轄となります。

強制執行について

判決言渡し後も賃借人が物件を明け渡さない場合は、強制執行という手続をおこない、裁判所の執行官の立会いの下で、建物を賃貸人に明け渡してもらうことになります。
建物明渡しの強制執行をする場合、まずは約1か月の予告期間を設けて任意に明け渡すことを賃借人に促し、この予告期間を過ぎても明け渡さない場合には、強制的に退去させる手続(強制力をもって賃借人を立ち退かせ、建物内の物品も全て運び出す作業)をおこないます。
強制執行についてよくある質問を以下にまとめましたのでご覧ください。

1 賃貸物件の明渡し強制執行とはどのような手続ですか?
https://www.g-fudousan.jp/yachintaino/faq/q18/

2 明け渡しの強制執行の費用はいくらくらいかかりますか?
https://www.g-fudousan.jp/yachintaino/faq/q09/

3 強制執行では室内に残された荷物を処分すると聞きましたが、後になって賃借人から文句を言われることはありませんか?
https://www.g-fudousan.jp/yachintaino/faq/q10/

やってはいけないこと

上にも書きましたが、やってはいけないことの例をいくつか補足説明します。
特に気を付けて頂きたいのは、次のようなことです。

1.無断で入室する
賃料を滞納している場合であっても、無断で入室したような場合には、たとえ賃貸人であっても刑法上の住居侵入罪に問われる可能性があります。

2.鍵の変更
「自力救済禁止」ルールにより、相手方が退去に応じない場合でも、裁判によらずに、自分の力で権利を実現してはいけません。部屋の鍵を変えて賃借人が部屋を使えなくしてしまうことは、この「自力救済」に該当する典型例です。
不法行為として法律違反となった裁判例も多数あるので注意が必要です。

3.荷物や駐車場の自動車を撤去してしまう
これも、「自力救済」の典型例とされています。
賃貸人から見れば無価値の荷物や自動車であったとしても、裁判・強制執行によらずに撤去してしまったような場合、賃借人から、損害賠償請求を受ける可能性があります。また、撤去した人に、窃盗罪や器物損壊罪という犯罪が成立する可能性もあります。

ご相談 ご質問

グリーンリーフ法律事務所は、地元埼玉で30年以上の実績があり、各分野について専門チームを設けています。ご依頼を受けた場合、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。
また、不動産の明渡しについては、豊富な経験があり、事例を紹介していますので、是非ご覧ください。
事例一覧
https://www.g-fudousan.jp/yachintaino/jirei/


■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 申 景秀
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