この記事では、下請法の対象となる取引の内「情報成果物作成委託」について、「情報成果物」とは何を指すのか、どのような事業を行っている事業者の作成委託が対象となるのかなど、事業者が押さえておくべきポイントを詳しく解説いたします。

下請法の対象となる「情報成果物作成委託」

下請法は、その適用の対象となる範囲を、「取引当事者の資本金の区分」と「取引の内容」の2つの条件によって定めています。
この内、取引の内容としては、「製造委託」「修理委託」「情報成果物作成委託」「役務提供委託」の4つの類型が定められています。
中でも「情報成果物作成委託」「役務提供委託」は平成15年の下請法改正時に追加された類型であり、比較的新しいものではありますが、その具体的な内容は多岐に渡っています。
この記事では、この内の「情報成果物作成委託」について詳しく解説していきます。

「情報成果物作成委託」とは?

下請法は、「情報成果物作成委託」について、下記のように定めています。

下請法2条3項
この法律で「情報成果物作成委託」とは、事業者が業として行う提供若しくは業として請け負う作成の目的たる情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること及び事業者がその使用する情報成果物の作成を業として行う場合にその情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託することをいう。

引用元:e-gov「下請代金支払遅延等防止法」
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=331AC0000000120

以下、順に解説していきます。

「情報成果物」

「情報成果物」とは、下記のものを指すとされています(下請法2条6項)。

① プログラム(電子計算機に対する指令であって、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。)
② 映画、放送番組その他影像又は音声その他の音響により構成されるもの
③ 文字、図形若しくは記号若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合により構成されるもの

①の「プログラム」とは、パソコンや機械、スマートフォン上で使われるソフトやアプリ、システム、制御プログラムといったものが該当すると考えられます。
②については、テレビ番組やテレビCM、アニメ・映画のような映像作品や、ラジオ番組、音楽・BGMなどが該当します。
③は少しイメージがつきにくいですが、設計図や何かデザインされたもの(ポスター、商品や容器のデザイン、雑誌の広告など)、報告書・レポートなどが当たるとされています。

情報成果物は、情報成果物同士を組み合わせて作られることもあります。
例えば、テレビゲームを例として考えてみると、
●情報成果物(全体)
=テレビゲーム
●情報成果物(上記のテレビゲームを構成するもの)
・ゲーム全体を動かすプログラム
・ゲーム中に流れるムービー、映像
・ゲームのBGM、音響
・ゲームのキャラクターのデザイン、画像
・ゲームのシナリオ
という風に、いくつもの情報成果物が寄り合わさって、ひとつのテレビゲームという情報成果物が成り立っていることが分かります。
後述の通り、テレビゲーム全体の作成を委託する場合のみならず、テレビゲーム中の一部であるBGMの作成を委託する場合も、「情報成果物作成委託」に該当し得るということになります。

ちなみに、契約内容によっては、作成した情報成果物の著作権が発注側に帰属するのか、受注側(作成側)に帰属するのかに違いが生じることがありますが、本条文の適用を考える上では、著作権の帰属先は関係ありません。

また、下請法2条6項4号では、技術の進歩に合わせて政令で情報成果物に該当するものを追加できることになっていますが、現時点で追加されたものはありません。

「業として」

「業として」とは、行為が反復継続して行われており、事業者の事業の遂行としてみることができる程度のものであるか否かで判断されます。
平たく言うと、事業者の「仕事」であるかどうかということなので、この部分が問題となることは実際には多くありません(後述の類型③の問題はあり得ます。)。

「情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること」

ここでいう「委託」とは、事業者が、他の事業者に対し、仕様や内容・テーマなどを指定して、情報成果物の作成を依頼することをいいます。情報成果物中の一部分のみの委託でも該当します。
「こういう仕様のソフトウェアが欲しい」と指定してソフトの作成を依頼する場合にはこの「委託」に当たりますが、ソフトウェアメーカーがすでにパッケージ商品として売っている既製品を購入する場合には、原則としてこの「委託」に該当しないことになります(自社用にカスタマイズ・仕様変更させる場合には該当することがあります。)。

「情報成果物作成委託」に当たる3つの類型

上記を踏まえた上で、情報成果物作成委託には、次の3つの類型があります。

① 情報成果物を提供する仕事をしている事業者が、その情報成果物の作成を委託すること

条文中の「事業者が業として行う提供の目的たる情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること」に当たる類型です。

「提供」とは、事業者が顧客に対し、情報成果物を販売したり、使用許諾を行ったりして、顧客に情報成果物を使わせることをいいます。
情報成果物を売る場合(例えばソフトウェアを販売するなど)が典型例ですが、
・商品の付属品として情報成果物を提供する場合
例:家電を売る際に、情報成果物である取扱説明書も一緒に提供する等
・商品に情報成果物が内蔵されている場合
例:家電を売る際に、家電に制御プログラムが内蔵されている等
・商品自体にデザインが現れている場合
例:家電そのもののデザイン等
なども含まれるとされています。

上記のような「提供」を事業者が「業として」=仕事として行っている場合に、その提供しようとしている情報成果物について、他社に作成を依頼するということになると、本類型の「委託」に当たることとなります。

② 情報成果物を作成することを仕事としている事業者が、その情報成果物の作成を委託すること

条文中の「事業者が業として請け負う作成の目的たる情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること」に当たる類型です。

上記①との違いは、事業者が、情報成果物を「提供」することを仕事としているのか、情報成果物を「作成」することを仕事としているのか、という点です。
②の類型は、顧客から依頼を受けて、情報成果物(ソフトウェアなど)を作成することを事業としている事業者が該当します。一方、①の類型は、顧客から依頼がなくとも商品(情報成果物)を作成し、売るなどの「提供」行為をしている事業者が該当します。

また、上記でも説明したように、情報成果物同士を組み合わせてひとつの情報成果物が作られることもあります。
そのため、情報成果物の作成を業として請け負っている事業者が、その作成しようとする情報成果物の一部(例:ソフトウェアの中のプログラムの一部、テレビ番組の中のBGM、テレビゲームの中の映像等)を他の事業者に委託する場合にも、この②の類型に当たることとなります。

③ 自社で使うための情報成果物を自社で仕事として作成している事業者が、その情報成果物の作成を委託すること

条文中の「事業者がその使用する情報成果物の作成を業として行う場合にその情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること」に当たる類型です。

この③の類型は少しややこしいですが、順に見ていきましょう。
まず「(事業者が)その使用する情報成果物」とは、事業者が自社で使うための情報成果物ということです。社内で使うソフトウェアや自社のホームページなどが該当することになります。
次に、「情報成果物の作成を業として行う」とは、自社で使うための情報成果物の作成を「業として」すなわち仕事として行っている、ということです。
ここでいう「業として」(=仕事として)とは、単に事業目的で行うことではなく、反復継続的に、社会通念上事業の遂行と見ることができる程度に、行っているかどうか、ということです。
まだ分かりづらいですが、典型的なのは、社内にシステム部門があって、そこが社内で使うシステム、ソフトウェアを開発している場合などが当たります。単に開発できる人がいるだけで、普段はソフトウェア開発をしていないというのでは、ここでいう「業として」には当たりません。

そういった「業として」作成している情報成果物について、その作成を他社に依頼した場合に、③の「委託」に該当する、ということになります。

「情報成果物作成委託」と「役務提供委託」

ソフトウェアやアプリの開発といった行為を委託する場合には「情報成果物作成委託」に当たり得るということを説明してきました。
一方で、データを入力したり、計算を行ったり、検索を行ったりといった情報処理を委託する場合には、下請法2条4項の「役務提供委託」に当たり得るとされています。
どちらもパソコンに向かって何かを入力する、といったイメージでは共通していますが、それぞれ適用される条文が違うということになります。
違いとしては、ソフトウェア・アプリといった商品が納品されるということに重点を置いているのが「情報成果物作成委託」であり、何か作業をすることに着目しているのが「役務提供委託」であるというところでしょうか。

また、情報成果物の作成を委託する場合に、その情報成果物の作成に必要な役務の提供行為も委託する場合があります。
例えば、テレビ番組の作成の場合には、監督やAD、照明係が番組制作・収録に携わったり、司会者・俳優などが出演したりします。こういった人々が行う、情報成果物作成のための役務の提供については、下請法の対象とはならないことが原則です。

いずれも判断が難しいところですが、契約の実際的な内容に着目して考える必要があります。

まとめ

この記事では、下請法の「情報成果物作成委託」について詳しく解説いたしました。
情報成果物作成委託の対象となる「情報成果物」は、かなり幅広い概念ですので、上記で挙げた例以外のものも広く対象となり得ます。
また、情報成果物作成委託に該当する3つの類型を説明いたしました。どのような事業を行っている事業者の、どのような委託が下請法の対象となるのか、少しややこしいところもあると思います。
下請法の適用がある場合には各種規制が及びますので、ご自身が関わっている取引が「情報成果物作成委託」として下請法の対象となるのか否かについてご不安がある場合には、ぜひ弊所の顧問契約サービスをご検討下さい。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 木村 綾菜
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