
配偶者が会社経営者である場合、一般的な会社員との離婚に比べて、解決すべきお金の問題や法的トラブルが極めて複雑化する傾向にあります。
「夫は経営者だから裕福なはずなのに『お金がない』と言われている」「会社の資産と個人の資産が混ざっていて、夫の本当の財産が分からない」「自社株や役員報酬はどのように扱えばいいのか」といったお悩みを抱える女性は非常に多く存在します。
知識がないまま夫側の言い分を鵜呑みにしたり、不十分な条件で離婚協議に応じてしまったりすると、本来受け取れるはずだった高額な財産分与や適切な養育費を大幅に損してしまうおそれがあります。
本コラムでは、社長である夫と離婚を検討している妻側の視点に立ち、財産分与の特殊性、養育費算定の注意点、隠されがちな財産の把握方法、弁護士へ相談するメリットについて、弁護士の視点から詳しく解説いたします。
経営者との離婚が複雑・難航しやすい主な理由

会社経営者を配偶者に持つ場合の離婚手続きは、会社員の離婚と異なり、以下のような特有の難しさがあります。
公私の財産(個人資産と法人資産)が混同しやすい
中小企業の社長の場合、会社の資金や設備と、社長個人の資産との境目が曖昧になっているケースが多々見られます。自宅マンションや高級車が会社名義になっていたり、会社の経費でプライベートの支出を賄っていたりすることが珍しくありません。
収入や財産をコントロール・偽装しやすい
サラリーマンであれば源泉徴収票や給与明細を確認すれば収入が一目瞭然ですが、経営者は自身の「役員報酬」を自身や取締役会で決めることができます。離婚交渉を見越して意図的に役員報酬を下げたり、決算書上の数値を調整したりして「収入が少ない」「会社は赤字だ」と主張してくるケースが極めて多いため注意が必要です。
経営者との離婚における「財産分与」のポイントと落とし穴

婚姻中に夫婦で協力して築いた財産を分け合う「財産分与」は、経営者との離婚において最も争点になりやすい項目です。
自社株(非上場株式)の扱い
経営者が自社の株式(非上場株式)を所有している場合、婚姻中に形成・取得された株式であれば、原則として財産分与の対象となります。
- 問題点:株価の「評価(算定)」が非常に難しい
上場株式のように市場価格が存在しないため、自社株の評価額をいくらと見積もるかが大きな論点となります。評価方法には複数の計算手法があり、どの手法を用いるかで評価額が数千万円単位で変わることもあります。
- 分与の方法
株そのものを妻に分与すると、妻が株主となって会社の経営権に干渉することになるため、実務上は「夫が株をそのまま保有し、相当する現金(対価)を妻に支払う」という形式をとることが一般的です。
会社名義の財産(不動産・高級車など)
夫が生活で使っていた自宅や自動車が「法人(会社)名義」になっている場合、原則として法人の所有物であるため、そのままでは財産分与の対象にはなりません。
もっとも、会社の資金が個人の資産と完全に混同されているような場合など、当該財産が実質的に夫婦の財産と認められるような場合では、法人名義の財産であっても「実質的な共有財産」として分与対象に含めるよう交渉・主張することが可能です。
会社に対する「役員貸付金」
社長が自社に対して個人のお金を貸し付けている(決算書の貸借対照表に「役員貸付金」として記載されている)場合、これは夫が会社に対して持っている「債権(資産)」となります。そのため、特有財産である等の例外がない限り、原則として夫婦の共有財産として財産分与の対象になります。
寄与度(分与割合)の修正を主張されるリスク
財産分与の割合は夫と妻とで原則2分の1ずつとなっています。しかし、経営者である夫側から「会社の成功や高額な資産形成は、自分の個人的な経営手腕や特別の努力によるものであり、妻の寄与度は極めて低い」として、妻への分与割合を2割〜3割程度に減額するよう主張してくるケースがあります。これに対して妻側としては、長年家庭を支え、育児や家事を一手に引き受けることで夫が経営に専念できる環境を作ってきた「内助の功」を論理的に主張・立証していく必要があります。
社長との離婚における「養育費・婚姻費用」算定の注意点

子どもがいる場合の養育費や、別居期間中の生活費である「婚姻費用」の算出についても、経営者ならではの罠が存在します。
裁判所の「算定表」がそのまま当てはまらないケース
裁判所が公表している「養育費・婚姻費用算定表」は、給与所得者の場合「年収2,000万円」までしか対応していません。夫の役員報酬が2,000万円を超える高額所得者である場合、算定表をそのまま適用することはできず、個別の事情に応じた高度な資産・収入評価が必要となります。
意図的な役員報酬の引き下げへの対抗
「離婚交渉が始まった途端に、夫が自分の役員報酬を月額100万円から30万円に減額した」というようなトラブルは非常に多く発生します。 裁判手続きでは、直近の意図的な減額をそのまま鵜呑みにはせず、過去数年間の総収入の推移、会社の業績、過去の生活水準、あるいは「潜在的稼働能力」を考慮して、減額前の適切な収入をもとに養育費・婚姻費用を算出させるよう主張することが重要です。
会社経費による私的利益
経営者は、自らの節税対策として、個人の住宅費、車両費、交際費、通信費などを会社の経費として処理していることが多くあります。 一見すると「役員報酬(額面収入)」が低く抑えられていても、実質的には会社から多大な経済的利益を得て生活しているため、こうした「実質的な経済的利益」を夫の実際の収入(利益)に加算して算定するよう求めていく交渉が不可欠となります。
経営者の会社で働いている場合

夫が経営している会社の従業員として勤めている場合も多いかと思います。このような場合離婚するという事実のみによって雇用契約は終了しません。離婚の手続きとは別に退職に関する手続きも進めることが必要です。
また、離婚のみを理由とする解雇は合理的な理由がないとして無効であると考えられるため解雇をされてもその違法性を争うことは理論上可能です。もっとも、離婚後も元夫の経営者の下で働き続けることは難しい場合も非常に多いかと思いますので、離婚の話し合いの際に、雇用契約をどうするのか併せて話し合うことが望ましいです。
隠された財産・収入を正しく調査・把握する方法

社長との離婚を成功させるための最大の課題は、「夫が隠している会社の財務情報や個人財産をいかに正確に把握するか」にあります。
同居中に収集すべき重要資料
別居を開始してしまうと、夫の財産資料や会社の書類を手に入れることは極めて困難になります。同居している段階で、以下の資料を可能な限り確認し、写真撮影やコピーを確保しておくことが決定的に重要です。
- 夫個人の財産資料:預金通帳、確定申告書(控え)、証券会社の取引明細、生命保険証券等
弁護士や裁判所を通じた強制的な開示請求
夫側が資料の開示を拒否したり、隠蔽を図ったりする場合には、個人の力だけで対応することは困難です。弁護士へ依頼することで、以下の公的手続きを活用できます。
- 弁護士会照会(23条照会)
弁護士会を通じて金融機関や証券会社に問い合わせを行い、相手方名義の口座情報や取引履歴を開示させる手続きです(銀行名・支店名の特定が必要となります)。
- 調査嘱託・文書提出命令(調停・裁判手続内)
離婚調停や裁判の過程で、裁判所から金融機関や会社等に対し、口座履歴や財務諸表などの開示を命じてもらう手続きです。
経営者である夫から離婚前に提案されがちな「不利な提案」への対処法
経営者の夫は、ビジネスでの交渉に長けているため、自身に優位な条件で妻に離婚協議書へサインさせようとしてくることが少なくありません。以下のような提案をされた場合は、即答せず必ず弁護士にご相談ください。
- 「会社が倒産しそうだから財産分与はできない」
私生活では贅沢を続けているにもかかわらず、口頭で「赤字だから」「債務超過だから」と主張してくるパターンです。実際の決算書を確認しない限り、鵜呑みにしてはいけません。
- 「節税のために手切れ金(解決金)として一括で渡すから、財産分与や養育費の請求権を放棄してほしい」
提示された提示額が一見高額に見えても、正確に計算した正当な財産分与+将来の養育費の総額と比べると、大幅に低い金額であるケースがほとんどです。
まとめ:経営者との離婚は早期に弁護士へご相談を

社長である配偶者との離婚は、一般的な離婚問題と比べて「自社株の評価」「会社名義資産の切り分け」「高額な所得算定」など、専門的かつ高度な法律・税務・会計の知識が必要不可欠です。
夫からの「お金がない」「会社のものだから分与できない」という言葉をそのまま信じて妥協してしまうと、離婚後の生活において取り返しのつかない大きな不利益を被ることになります。
- 相手と直接交渉するストレスをなくしたい
- 相手が隠している財産や本当の収入を暴きたい
- 自社株や高額な財産から正当な分与額を獲得したい
このような思いをお持ちの方は、別居や相手方への告げる前に、まずは不貞・離婚問題や経営者の離婚問題に精通した当事務所の弁護士までお気軽にご相談ください。あなたのこれまでの貢献に見合う正当な権利を守り、新しい人生への第一歩を力強くサポートいたします。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、専門チームの弁護士は、各担当分野について知識・経験とも豊富で、大きな強みを持っています。まずは、一度お気軽にご相談ください。
この記事を書いた弁護士:弁護士 椎名慧
離婚・不倫慰謝料
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。令和7年登録後、離婚案件を中心に多数の家事事件に対応。依頼者の心情に寄り添った丁寧なヒアリングと、迅速な紛争解決の実務に精通している。夫婦間で激しい感情の対立がある状況において、粘り強い交渉力を発揮し、円満な解決に向けた法的支援に注力。若手ならではの機動力と最新の判例知識を武器に、依頼者の最善の利益確保に邁進している。




