
昨今の人手不足や労働者の働き方の多様化に伴い、事業運営のためにスポットワーカーを利用するという状況は珍しくありません。
仕事を依頼したスポットワーカーがその仕事に入る前に別の会社で働いてきたということもあり得ますが、その場合の残業代の処理はどのようになるのでしょうか。
今回は、スポットワーカーと残業代というテーマについて解説をしていきます。
スポットワークとは?

スポットワークは、一つの会社で継続的に働くという通常の雇用関係とは異なり、短時間・単発の就労を内容とする雇用契約を締結するいわゆる単発バイトといわれるものです。
事業場において急な欠員が生じた場合や事業の繁忙期など一時的に人手がほしいというときに迅速に人材を確保できる可能性があるため、使用者にとっては人手不足解消の一手段として考えられます。
スポットワーカーの募集には仲介業者を利用することが一般的ですが、雇用契約は使用者とスポットワーカーとの間で成立します。
スポットワーカーと残業代

使用者とスポットワーカーとの間の法的関係は雇用契約の当事者ということになるため、スポットワークそのものについて残業が発生した場合には当然のことながら残業時間に応じた残業代の支払いが生じることになります。
スポットワーカーは様々な使用者のもとで労働を提供しているため、募集をした仕事を行うまでの間に多くの労働をこなしているという場合がありますが、その場合の残業代の処理はどのように行うことになるのでしょうか?
労働基準法の定めと行政通達
労働基準法は、労働者の副業・兼業の労働時間について、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と定めています。
上記の定めについて、行政通達は以下の見解を示しています。
・「事業場を異にする場合」とは事業主を異にする場合を含む。
・労働時間の通算は、自らの事業場における労働時間と労働者からの申告等により把握した他の使用者の事業場における労働時間とを通算することによって行うこと。労働者からの申告等がなかった場合には労働時間の通算は要せず、また、労働者からの申告等により把握した他の使用者の事業場における労働時間が事実と異なっていた場合でも労働者からの申告等により把握した労働時間によって通算していれば足りること。
直近の裁判例(東京地判令和7年3月27日)

スキマバイトサービス「タイミー」を利用して単発バイトに従事した労働者がそれに先立ち長時間労働をしていたと主張して残業代の支払いを求めた事案です。
結論として裁判所は労働者が主張する長時間労働の存在を認めませんでしたが、傍論として、副業・兼業の労働時間の通算について以下のとおり判断しました。
「労働者が複数の事業主の下で労働に従事し、それらの労働時間数を通算すると労基法32条所定の労働時間を超える場合には、労基法38条1項により、時間的に後に労働契約を締結した事業主はその超えた時間数について割増賃金の支払義務を負うとされているが、当該労働者が他の事業主の下でも労働しており、かつ、同所での労働時間数と通算すると労基法32条所定の労働時間を超えることを当該事業主が知らなかったときには、同事業主の下における労働に関し、当該事業主は、労基法38条1項による割増賃金の支払義務を負わないものというべきところ、本件では、原告がB社において勤務していた間、事業主であるB社が、原告からの申告等により、他の事業主の下における労働時間と通算すると原告の労働時間が労基法32条所定の労働時間を超えることを知っていたとは認められないから、この点からしても、被告が原告に対し労基法38条1項による割増賃金の支払義務を負うものとは認められない」
副業・兼業の労働時間の通算については様々な考えがあるところ、上記の裁判例は、労働時間の通算を認めた上で使用者が労働者が他社において労働していた事実等を認識していた場合に限り、残業代の支払義務を負うとする通算かつ主観説を採用しているように見えます。
その考え方は労働基準法の定めやこれまでの行政通達の内容に親和的と思われますが、あくまで傍論としての判断であるためどこまで先例としての意味合いを持つかについては慎重に検討する必要があります。
労働時間通算に関する労働基準法改正の動向
現状、国会への提出が見送りとなっている労働基準法の改正案では、副業・兼業の労働時間の通算について、他社の労働時間を含めた残業代の計算は行わなくてよいとする非通算の方向性の指摘があり、使用者においてはその動向についても注視する必要があるものと思われます。
まとめ

今回は、スポットワーカーと残業代というテーマについて解説をしてきました。
労働基準法改正の方向性に変更がなければ将来的に少なくとも残業代計算という観点では労働者の他社における労働時間を考慮しなくともよいということになりそうですが、同法の改正が先送りになっている現状においては、上記の裁判例も参考にスポットワーカーの労働時間管理について意識をしておくということが重要となります。
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この記事を書いた弁護士:弁護士 吉田 竜二
労働問題
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所・埼玉弁護士会所属の弁護士。
平成26年の弁護士登録後、労使双方の立場から多数の労働紛争に対応。
協議、団体交渉、労働審判、訴訟のいずれにおいても豊富な実務経験を有し、事案の性質に応じて依頼者に最適・最善の解決方法を提案、その実現に注力する。






