【交通事故】歩行者だから過失ゼロとは限らない?歩行者と車の事故における過失割合の真実

「歩行者は常に守られる」「車との事故で歩行者が悪くなることはない」と信じている方は少なくありません。しかし、実際の交通事故の実務では、歩行者側にも一定の過失が認定されるケースが存在します。また逆に、「自分(歩行者)にも非があったのでは」と思い込んで、本来受け取れるはずの賠償金を大幅に減らされてしまっているケースもあります。歩行者と車の事故における過失割合の真実を、具体的なケースとともに埼玉県大宮の弁護士が解説します。

「歩行者絶対優先」は本当か?

「歩行者絶対優先」は本当か?

法律が歩行者に課しているルールとは

道路交通法は、ドライバーに対して歩行者保護の義務を課しています。横断歩道での一時停止義務、歩行者への道路通行の優先など、法律上は歩行者が手厚く保護されています。しかし、「歩行者は何をしても過失がゼロ」というわけではありません。

歩行者もまた、道路を安全に利用するための一定のルールを守る義務があります。たとえば、歩道が設けられている場所では歩道を通行する義務、横断歩道を利用できる場合はその利用を優先する義務、信号機の指示に従う義務などです。これらのルールに違反した場合、歩行者側にも過失が認定されることがあります。

ただし、歩行者は車と比べて身体的に脆弱であるため、同程度の不注意であっても、ドライバーに課せられる注意義務の方が重く評価される傾向にあります。歩行者の過失が認定される場合でも、ドライバーの過失の方が大きくなるのが一般的です。歩行者の属性(子ども・高齢者・障害者など)によっては、さらに手厚い保護が与えられます。

歩行者でも過失が問われる代表的なケース

歩行者の過失が認定されやすい典型的なケースとして、①赤信号を無視して横断した場合、②横断禁止場所で横断した場合、③車道を歩行した場合(歩道がある場所で)、④道路への急な飛び出しがあった場合、⑤夜間に暗い色の服を着て道路上を歩行していた場合などが挙げられます。

これらの行為があった場合、それが過失割合に反映されます。たとえば、歩行者が赤信号を無視して横断中に車と衝突した場合(車は青信号)、歩行者の過失割合は30%程度と認定されることがあります。賠償総額が500万円の場合、この30%分(150万円)は受け取れなくなることを意味します。

「自分は歩行者だから100%受け取れる」と思い込んでいると、正当な権利を行使できない可能性があります。事故の状況をよく整理した上で、弁護士に相談することが重要です。

横断歩道上・付近での事故における過失割合

横断歩道上・付近での事故における過失割合

信号機がある横断歩道での事故(信号色別の判断)

信号機がある横断歩道での事故は、信号の色の組み合わせによって過失割合が大きく異なります。まず最も基本的なケースから整理します。

【歩行者青・車両青の場合】歩行者が青信号で横断中に、車両も青信号で進行して事故が発生した場合、基本的には車両側の過失が100%です(歩行者0:車両100)。車両は横断歩道を渡る歩行者を優先しなければならないからです。ただし、歩行者が突然飛び出した場合や、車両の進行方向に対して横断歩道が斜めにある場合などは修正されることがあります。

【歩行者赤・車両青の場合】歩行者が赤信号を無視して横断した場合、歩行者にも大きな過失が認められます。この場合の基本過失割合は「歩行者30:車両70」となることが多いです。それでも車両に70%の過失が認められるのは、横断歩道付近では歩行者の存在に特に注意する義務があるためです。

【歩行者黄・車両青の場合】歩行者が黄信号(点滅)で横断を開始した場合、歩行者の過失は赤信号の場合より小さく、「歩行者10〜20:車両80〜90」程度になることが多いです。

【双方が赤信号の場合】双方が赤信号を無視していた場合は、歩行者の過失割合が20%程度となる場合があります。

信号機のない横断歩道と「横断歩道の付近」での事故

信号機のない横断歩道では、歩行者の通行が優先されます(道路交通法第38条)。歩行者が横断歩道を渡っている際に車両と衝突した場合、原則として車両側の過失割合は100%です(歩行者0:車両100)。

一方、横断歩道の「付近」で事故が発生した場合は状況が変わります。横断歩道から近い距離内(おおむね5〜10メートル程度)での横断であれば、歩行者の過失はゼロまたは小さく評価されることがあります。しかし、横断歩道から離れた場所での横断では、歩行者の過失が認定される可能性が高まります。

「横断歩道の付近」かどうかの判断は、実際の距離だけでなく、横断歩道の視認性や交通状況なども考慮されます。事故現場の状況を記録した写真や地図が重要な証拠となります。

横断歩道以外の場所での事故と修正要素

横断歩道以外の場所での事故と修正要素

横断禁止場所での横断や急な飛び出し

横断禁止の標識・標示がある場所で横断した場合、歩行者の過失割合は大きくなります。この場合、基本過失割合は「歩行者20〜30:車両70〜80」程度になることが多いです。横断禁止という明確なルールに違反した行為であるため、歩行者の過失が重く評価されます。

「直前横断」とは、車両が接近しているにもかかわらず、直前で突然横断を始める行為をいいます。車両のドライバーが回避しようとしても間に合わないような状況での横断は、歩行者の過失を加重する重要な修正要素となります。「直後横断」とは、車両が通過した直後に横断する行為で、後続車両との衝突リスクがあります。

具体的な修正の内容としては、横断禁止場所での横断(歩行者側の過失+10〜20%)、急な直前・直後横断(歩行者側の過失+5〜10%程度)などが挙げられます。これらの修正要素が重なると、歩行者の過失割合が相応に高くなります。

歩行者を保護する修正要素(児童・高齢者・幼児・身体障害者など)

一方で、歩行者の属性によって、ドライバー側の過失割合が加重され、歩行者保護が厚くなる場合もあります。これは「弱者保護」の観点から、身体的・認知的に脆弱な歩行者に対してドライバーが払うべき注意の程度が、通常の成人歩行者の場合より高く評価されるためです。

「児童」(概ね小学生程度以下の子ども)が当事者である場合、交通知識・判断力が未発達であるとして、車両側の注意義務がより重く評価されます。「高齢者」(65〜70歳以上)も、認知機能・身体能力の低下を考慮して保護が厚くなる傾向があります。「幼児」(就学前の子ども)はさらに手厚く保護されます。

「身体障害者」「視覚障害者(目が不自由な方)」なども保護的に評価されます。白杖を持った方や車椅子利用者の存在をドライバーが認識できる状況にあった場合、ドライバーには特別高い注意義務が課されます。このような歩行者の保護的属性が認められる場合、車両側の過失割合が5〜10%加算されることがあります。

歩行者の属性による修正要素まとめ

幼児(就学前):車両側の過失が大幅加重
児童(小学生程度):車両側の過失加重
高齢者(65〜70歳以上):車両側の過失加重
身体障害者・視覚障害者:車両側の過失加重

夜間の事故と車の重大な過失

夜間の事故と車の重大な過失

夜間事故で歩行者が不利になるケースとその限界

夜間の歩行者事故では、視界が悪くなるため歩行者の発見が遅れやすくなります。これは一見、歩行者に不利な方向に働くように見えます。夜間の暗い場所を歩行していた場合、「発見が困難だった」としてドライバーの責任が軽減されるのではないかと思う方もいるでしょう。

しかし、ドライバーはヘッドライトの照射範囲内で安全に停止できる速度で走行する義務があります(「灯火追従義務」と呼ばれます)。夜間だからといって、ドライバーの責任が大きく軽減されるわけではありません。「夜間は見えなかった」という言い訳は、必ずしも通用しません。

ただし、歩行者が暗い色の服を着用していた場合、道路上(歩道でなく車道)を歩行していた場合、深夜に突然車道に飛び出した場合などは、歩行者側の過失として考慮されることがあります。夜間の外出時には、反射材の着用や明るい色の服の着用など、自分の存在を周囲に知らせる工夫が重要です。

飲酒運転・無免許運転など車側の重大な過失

ドライバーが飲酒運転(酒酔い運転・酒気帯び運転)をしていた場合や、無免許運転をしていた場合は、「重過失」として車両側の過失割合が大幅に加重されます。具体的には、酒酔い運転(アルコール0.25mg/L以上)の場合は車両側の過失に20%が加算され、歩行者の過失が相対的に小さくなります。

また、ドライバーが著しいスピード違反(制限速度を30km/h以上超過)をしていた場合も、重過失として車両側の過失が大幅に加重されます。スマートフォンを操作しながら(ながら運転)の場合は「著しい過失」として10%の加算となります。

このような重大な交通違反が絡む事故では、ドライバーの刑事責任(業務上過失致死傷罪、場合によっては危険運転致死傷罪)も問われる可能性があり、刑事手続きと民事手続きの両方で適切な対応が必要です。弁護士に早期に相談することで、刑事記録(実況見分調書など)を民事の損害賠償請求にも活用することができます。

歩行者の重傷事故・死亡事故における弁護士の役割

歩行者の重傷事故・死亡事故における弁護士の役割

損害賠償額が高額になる理由と弁護士基準の重要性

歩行者が車との事故で重傷を負ったり、死亡したりした場合、その損害賠償額は非常に高額になります。主な損害項目としては、治療費・入院費、入通院慰謝料、休業損害(治療中に働けなかった期間の収入の損失)、後遺障害慰謝料(後遺症が残った場合)、後遺障害逸失利益(後遺症によって将来得られなくなった収入)、死亡慰謝料・死亡逸失利益(死亡事故の場合)などがあります。

保険会社は「任意保険基準」という自社の基準に基づいて賠償金を提示しますが、この基準は弁護士が使う「弁護士基準(裁判基準)」よりも大幅に低い金額になることが多いです。たとえば、後遺障害等級9級の慰謝料について、任意保険基準では約140万円程度の提示がされることがあるのに対し、弁護士基準では690万円と定められており、約5倍の差があります。

弁護士に依頼することで、保険会社の提示額が適正かどうかを専門的に判断し、弁護士基準での賠償金を請求することができます。重傷事故・死亡事故では、弁護士の介入によって数百万円単位で賠償金が増額されるケースは珍しくありません。

後遺障害認定の重要性と適切な申請方法

事故後に後遺症が残った場合、「後遺障害等級」の認定を受けることで、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益を請求できるようになります。後遺障害等級は第1級から第14級まであり、等級によって受け取れる賠償金が大きく異なります。

後遺障害の認定申請には「事前認定」(相手方保険会社が手続きを行う方法)と「被害者請求」(被害者側が直接自賠責保険会社に申請する方法)の2つがあります。被害者請求の方が、必要な医療記録を自分で選択して提出できるため、適切な等級認定を受けやすいとされています。弁護士に依頼することで、有利な等級認定を目指した申請をサポートしてもらえます。

「保険会社に任せておけば大丈夫」という認識は危険です。適切な後遺障害等級の認定を受けるためにも、症状固定(これ以上治療を続けても改善が見込めない状態)のタイミングを見計らいながら、弁護士と相談して申請を進めることをお勧めします。

弁護士費用特約の活用と早期相談のすすめ

歩行者として交通事故に遭われた場合、被害者の側では車の保険に入っていないことが多いですが、同居の家族が加入している自動車保険の弁護士費用特約を利用できる場合があります。また、ご自身が加入している火災保険や医療保険にも弁護士費用特約が付帯されているケースがありますので、確認してみてください。

歩行者として事故に遭われた場合、または家族が歩行者として重傷・死亡事故に遭われた場合は、感情的な負担が大きい中での交渉は非常に困難です。適正な賠償金を受け取るためにも、できるだけ早い段階で弁護士にご相談ください。

弁護士への相談は、示談が成立する前であれば有効です。一度示談書にサインしてしまうと、原則として後から賠償金を増額することができなくなります。「保険会社の担当者に言われるままに示談してしまった」という後悔をしないためにも、署名・押印の前に必ず弁護士に確認を取ることをお勧めします。

■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 遠藤 吏恭

弁護士のプロフィールはこちら
ご相談
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。