こんにちは。弁護士法人グリーンリーフ法律事務所の弁護士 渡邉千晃です。

「物流の2024年問題」がニュース等で取り上げられていたのは記憶に新しいところですが、現在2026年においても、物流業界は新たな法規制とコスト増に直面しています。こうした中、公正取引委員会は、コスト上昇を無視して価格を据え置く荷主企業に対し、実名公表を伴う厳しい監視を行っています。

2026年1月施行の「取適法(取引適正化法)」により、発注側の「協議・説明責任」は法的義務へと格上げされました。「悪気はない」、「例年通り」としても問題となるおそれが高まったこともありますので、荷主企業が守るべき法務防衛ラインを解説したいと思います。。

荷主事業者に課される責任について

運賃上昇、燃料費高騰、そして深刻な人手不足――。「物流2024年問題」から2年が経過した今も、サプライチェーンを支える現場の疲弊は止まりません。

特に2026年1月からは、改正下請法ともいえる「取引適正化法(取適法)」が本格始動し、荷主企業(発注者)に課される責任はさらに重くなりました。

かつての独占禁止法や下請法では、「一方的な代金の引き下げ」が主な摘発対象でした。

しかし、現在の公取委の視点は、より厳しいものへと進化していると考えられます。

それは、「コスト上昇という事実があるのに、協議せずに価格を据え置くこと」自体を、法的な「不当な買いたたき(優越的地位の濫用)」とみなすという姿勢です。したがって、今、荷主企業に求められているのは、単なる「コンプライアンスの遵守」ではなく、積極的な「価格改定の協議」というアクションだと考えられます。

独占禁止法と「価格転嫁拒否」の法的構造

現在、公取委が荷主企業に対して問題としているのは、独占禁止法第2条第9項第5号が定める「優越的地位の濫用」です。

取引上の立場が強い荷主が、物流事業者に対して不当な不利益を強いることは、自由で公正な競争を阻害する行為として禁じられています。

特に、労務費やエネルギーコストの上昇が明らかな局面において、取引先からの値上げ要請を拒んだり、協議自体を避けたりする行為は、独禁法19条(不公正な取引方法の禁止)に抵触し、排除措置命令や課徴金の対象となり得ます。

加えて、2026年施行の「取適法」では、発注者側に対して「価格改定に関する協議の場を設ける義務」と、協議の結果、価格を据え置く場合の「理由の説明責任(書面・電子メール等による回答義務)」が明文化され、荷主側の責任がさらに重たくなりました。

公取委が動く「3つの危険なサイン」

公取委の立入り検査や、2024年以降に急増している「実名公表」を招く典型的な行動は、以下の3つに集約されると思われます。

1. 協議の拒絶・放置

取引先からの値上げ打診に対し、「忙しいから後で」と放置する、あるいは回答を曖昧にして先延ばしにする行為です。

取適法下では、合理的な理由なく協議に応じないこと自体が行政指導の対象となります。

2. 「一律据え置き」の通告

相手方の個別事情を汲み取らず、「弊社の方針により、今期は全社一律で据え置き」と機械的に通告することです。

これは、真摯な協議を行っていない証拠として、公取委が最も厳しく指摘するポイントの一つといえます。

3. コスト根拠の過度な要求

「1円単位まで上昇根拠を出せ」など、過度な事務負担を強いて事実上交渉を頓挫させる行為です。

公取委の指針(2026年版)では、公的統計データ等に基づいた概算での協議を認めており、過度な証拠要求は「交渉を妨害する不当な圧力」とみなされるおそれがあります。

実名公表のダメージ

独禁法違反のペナルティは、単なる金銭(課徴金)に留まりません。現在、公取委は、独禁法上の「問題につながる恐れがある」と判断した企業に対し、注意喚起を行うだけでなく、その企業名を公表するという手法を積極的に活用しています。

2024年から2025年にかけて、日本を代表する大手メーカーや小売業者が実名を公表され、大きなニュースとなりました。実名が公表されれば、「下請けをいじめて自社の利益を守る会社」というレッテルが貼られかねません。

これは、企業にとって株価や採用活動への致命的なダメージとなり、一度失った信頼を回復することは非常に難しいといえます。

まとめ

「安く叩く」ことで得られる目先の利益は、物流網の崩壊や巨額の法的制裁という巨大なリスクと隣り合わせと考えられます。

コンプライアンスを遵守した適正な交渉こそが、公取委の介入を防ぎ、貴社の社会的価値を高める唯一の道ともいえます。今後、企業においては、2026年1月施行の取適法対応から、万が一の調査時の立ち会いの対応までを考える必要があります。

独占禁止法は専門的な法分野だといえますので、お悩みの際には、同法に精通した弁護士に一度ご相談されることをお勧めいたします。

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