労災での腱板断裂について~後遺障害と損害賠償~弁護士が解説します

本記事は、さいたま市大宮区にある、埼玉県内でトップクラスの弁護士法人グリーンリーフ法律事務所の労災集中チームの弁護士が執筆しています。

仕事中や通勤中に肩を負傷し、「腱板断裂(けんばんだんれつ)」あるいは「腱板損傷」と診断された場合、その後の生活や仕事に多大な影響が及ぶことは避けられません。 肩の関節は日常生活のあらゆる動作に関わる重要な部位であり、重いものを持てなくなるだけでなく、腕を上げること自体が困難になることもあります。治療やリハビリが長期化するケースも多く、手術を行っても痛みが引かなかったり、腕の動く範囲(可動域)が制限されたりといった後遺症に悩む方が少なくありません。

こうした状況において、適切な補償を受け、将来の不安を解消するためには、労災保険の仕組みや会社への損害賠償請求について正しい知識を持つことが不可欠です。 本コラムでは、腱板断裂が労災として認められる基準から、後遺障害等級の認定、そして弁護士に依頼するメリットまで、労災問題に強い弁護士が詳しく解説します。

1.労災において腱板断裂が起こる2つのケース

1.労災において腱板断裂が起こる2つのケース

腱板断裂は、肩の関節を支える4つの筋肉の腱が切れてしまう、あるいは傷ついてしまうケガです。労災の現場においては、大きく分けて2つのパターンで発生します。

(1)突発的な事故によるもの(業務上の負傷)

高所作業中にバランスを崩して転倒し、手や肩を強く地面に打ちつけた際や、重量物が肩に落下してきた際に発生します。また、運送業や製造業の現場で、想定以上の重さがある荷物を無理に持ち上げようとした瞬間、肩に急激な負荷がかかって断裂することもあります。 これらは「いつ、どこで、何をしてケガをしたか」という事故の状況が明確であり、業務遂行性と業務起因性が認められやすいため、比較的スムーズに労災認定が下りる傾向にあります。

(2)長期間にわたる過度な負担によるもの(業務上の疾病)

 毎日重い荷物を肩に担ぐ作業を繰り返していたり、頭より高い位置で腕を使い続ける作業を長年行っていたりする場合です。この場合、突発的な事故ではなく「職業病(疾病)」としての労災申請になります。 しかし、事故による負傷に比べると認定のハードルが高くなるのが実情です。

なぜなら、腱板断裂は加齢による変性(経年劣化)でも起こりうるため、「仕事による負荷が原因なのか、それとも単なる加齢によるものなのか」が労働基準監督署によって厳しく審査されるからです。それでも、業務内容が明らかに肩に過酷な負担を強いるものであったと客観的に証明できれば、労災認定を取れる可能性は十分にあります。

2.腱板断裂で認定される可能性がある「後遺障害」と「等級」

2.腱板断裂で認定される可能性がある「後遺障害」と「等級」

腱板断裂の治療を続けても、「これ以上症状の改善が見込めない状態(症状固定)」になり、痛みが取れなかったり腕が上がらなくなったりした場合、後遺障害等級認定の対象となります。主に以下の3つの観点から等級が判断されます。

(1)関節の機能障害(可動域の制限)

肩がどれくらい動くか(可動域)が基準となります。ケガをしていない健側の肩に比べて、動かせる範囲が半分以下に制限されている場合は「10級11号」、4分の3以下に制限されている場合は「12級6号」に該当する可能性があります。測定は医師が行いますが、計測の精度や診断書の記載内容が等級を大きく左右するため注意が必要です。

(2)神経障害(痛みやしびれ)

可動域に大きな制限がなくても、患部に慢性的な激しい痛みが残っている場合には神経障害として認められることがあります。客観的な医学的所見(MRI画像での明らかな異常など)によって痛みの原因が説明できる場合は「12級13号」、医学的な説明は可能だが画像等の客観的証拠が乏しい場合は「14級9号」となるのが一般的です。

(3)変形障害

腱板が断裂したことで骨が変形したり、著しい癒着が起きたりしている場合も、その程度に応じて等級が判断されます。多くの場合は機能障害や神経障害と併せて評価されることになります。

3.労災保険の限界と、会社に対する「損害賠償請求」

3.労災保険の限界と、会社に対する「損害賠償請求」

後遺障害等級が認定されると、労災保険から等級に応じた障害補償給付(一時金または年金)が支給されます。しかし、労災保険は非常に優れた制度である反面、あくまで「最低限の生活保障」を目的としています。以下のような問題点があります。

(1)労災保険では「慰謝料」は支払われない

労災保険からは、入院や通院を強いられた精神的苦痛に対する「入通院慰謝料」や、後遺障害が残ったことに対する「後遺障害慰謝料」は一切支払われません。 また、将来得られたはずの収入を補償する「逸失利益」についても、労災保険の給付だけでは本来の損害額の全てをカバーできないことがほとんどです。

  • 後遺障害慰謝料
    症状固定後も、体に痛みや機能障害などの後遺障害が残ってしまったことによる、将来にわたる精神的苦痛に対する補償です。後遺障害の等級に応じて、金額の相場が決まっています。

具体的な後遺障害慰謝料の金額は、以下の表のとおりです。

等級後遺障害慰謝料(弁護士基準)
1級2,800万円
2級2,370万円
3級1,990万円
4級1,670万円
5級1,400万円
6級1,180万円
7級1,000万円
8級830万円
9級690万円
10級550万円
11級420万円
12級290万円
13級180万円
14級110万円

(2)会社の「安全配慮義務違反」を問う必要がある

 もし腱板断裂の原因が、会社側の安全対策の不備(安全配慮義務違反)にあるならば、労災保険とは別に、会社に対して民事上の損害賠償請求を行うことができます。 具体的には、「足場が不安定な場所で作業をさせていた」「過度な重量物を一人で持たせていた」「適切な安全教育やマニュアルの整備を行っていなかった」といったケースです。

会社に対しては、主に以下の損害について賠償を求めることができます。

損害項目内容労災保険との関係
傷害慰謝料入通院によって受けた精神的苦痛に対する賠償労災では支払われない
後遺障害慰謝料後遺障害が残ったことによる精神的苦痛に対する賠償労災では支払われない
逸失利益後遺障害により将来得られなくなった収入の補償労災給付で不足する部分を請求
休業損害休業期間中の収入減(労災の8割給付との差額2割+α)労災給付で不足する部分を請求
将来介護費等重い後遺障害で将来必要となる介護費用や住宅改修費労災給付で不足する部分を請求
弁護士費用賠償請求のために要した弁護士費用の一部労災では支払われない

損害賠償請求では、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、逸失利益などを請求できます。労災保険からすでに受け取った給付分は差し引かれますが、それを上回る多額の賠償金を受け取れる可能性があります。特に後遺障害が残った場合、将来にわたる減収分(逸失利益)の請求額は非常に大きくなり、請求額が1000万円を超えることも珍しくありません。

4.弁護士に依頼するメリットと、ご相談時の持ち物

4.弁護士に依頼するメリットと、ご相談時の持ち物

腱板断裂という重大なケガにおいて弁護士に依頼することは、単に賠償金を増やすためだけではありません。

(1)後遺障害等級の獲得サポート

多忙な主治医は労災の認定基準に精通しているとは限りません。弁護士は、過去の認定事例に基づき、診断書に記載すべきポイントをアドバイスしたり、不足している検査を提案したりして、適正な等級獲得をサポートします。万が一、不当に低い等級にされた場合の不服申し立て(審査請求)も対応可能です。

(2)会社や保険会社との交渉窓口を任せられる

ケガで苦しんでいる最中に、責任を否定する会社側と直接やり取りをすることは精神的に非常に大きな負担となります。弁護士がすべての窓口となることで、被害者の方は治療とリハビリに専念することができます。

【弁護士への法律相談時にご持参いただくと良いもの】

初回のご相談をよりスムーズに進めるために、お手元にあれば以下の資料をご持参ください(揃っていなくてもご相談は可能です)。

  • 事故の状況がわかるメモ(いつ、どこで、どのように)
  • 医師の診断書や画像データ(MRIなど)
  • 給与明細書(事故前3ヶ月分程度)
  •  労働基準監督署から届いた書類(もしあれば)

5.よくある質問(FAQ)

5.よくある質問(FAQ)

質問:腱板断裂は老化のせいだと言われましたが、労災になりますか?

回答:加齢による変性が認められる場合でも、仕事中に明らかな事故が発生したり、業務による過度な負荷が加わって断裂を招いたりした場合は、労災として認められる可能性があります。

質問:手術をしても痛みが残っています。後遺障害になりますか?

回答:はい、手術をしても痛みや可動域の制限が残っている場合、後遺障害等級認定の対象となります。症状固定のタイミングを主治医と相談し、適切に申請を行う必要があります。

質問:会社が労災申請を嫌がっています。どうすればいいですか?

回答:労災申請は労働者本人の権利です。会社が事業主証明を拒否するなど協力しなくても、労働者自身で直接労働基準監督署に申請することができます。会社から圧力を受けている場合は、すぐに弁護士にご相談ください。

質問:労災からお金をもらったら、もう会社には請求できないのですか?

回答:労災保険でもらえない「慰謝料」や「逸失利益の不足分」については、会社に過失(安全配慮義務違反など)がある限り、別途請求することが可能です。二重取りはできませんが、不足分を補うための正当な手続きです。

6.まとめ:決して一人で悩まないでください

6.まとめ:決して一人で悩まないでください

腱板断裂は、仕事への復帰や日常生活に大きな影を落とす深刻なケガです。 適正な後遺障害等級の認定を受け、会社に対して正当な損害賠償を求めることは、あなたとご家族の将来の生活を守るために不可欠な手続きです。

「会社に迷惑をかけたくない」「どうせ加齢のせいだと言われる」と遠慮したり諦めたりする必要はありません。まずは、労災問題に精通した弁護士にご相談ください。

労災関連のご質問・ご相談

労災関連のご質問・ご相談

グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。

 また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。労災分野では労災事故と後遺障害に集中特化した弁護士チームが、ご相談から解決まで一貫してサポートいたします。

初回相談無料:まずはお気軽にご状況をお聞かせください。

後遺障害労災申請のサポート:複雑な手続きもお任せいただけます。

全国対応・LINE相談も可能:お住まいの場所を問わずご相談いただけます。

労災事故で心身ともに大きな傷を負い、将来への不安を抱えていらっしゃるなら、決して一人で悩まないでください。お気軽にご相談ください。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 申 景秀
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