遺言書の内容に納得できない!遺言の無効を主張したい方へ

被相続人が亡くなった後、納得できないような内容の遺言書が見つかり、遺言の無効を主張したいと考える方は少なくありません。しかし、遺言の無効を主張するには高いハードルがあります。本稿では、裁判例を交えて、その困難性を弁護士が解説します。

公正証書遺言の無効を主張したい

公正証書遺言の無効を主張したい

被相続人が亡くなり、これから相続人全員で遺産分割協議を始めようとしたところ、相続人の一人から「遺言書がある」として、遺言書(ここでは公正証書遺言とします)が提示されることがあります。

遺言書の中身を確認してびっくり。
そこには、「全ての遺産を●●に相続させる」と書かれてあり、遺言書を提示してきたその相続人が全財産を取得する内容になっているのです。
被相続人は、生前、事あるごとに、「あなたには色々世話になったから、私の財産がいくよう、きちんとしてあるからね」と言っていたのに・・・。

こんな真逆の内容の遺言書には納得できない。
思えば、被相続人はここ数年認知症が進んでいて、要介護認定も受け、施設に入っていました。
遺言書が作成された日付けは、施設に入所した後のものだから、遺言書を作成した当時、被相続人は物事がよく分かっていない状態だったのだ。
きっと、●●(遺言書で全財産を取得することになった相続人)が、うまいこと誘導して、このような遺言書を書かせたに違いない。
遺言の無効を主張したい!

このように、相続発生後、残されていた公正証書遺言の無効を主張したいと考える相続人は多くいらっしゃいます。
そして、遺言無効確認請求訴訟という訴訟類型があることからも明らかなように、公正証書遺言の有効性を争うことは可能です。
しかしながら、実際に、公正証書遺言が無効である旨の判決を勝ち取るには、高いハードルがあります。

公正証書遺言の無効を主張することの難しさ

公正証書遺言の無効を主張することの難しさ

遺言が公正証書になっているからといって、「その効力は絶対に覆らない」というわけではありません。
しかし、それでも、公正証書遺言の無効を主張するハードルが高いというのは、なぜなのでしょうか?

①高い証拠力と信用性

公正証書遺言は、公証役場という公の機関において、公証人という法律の専門家が関与して作成されるため、極めて高い証拠力と信頼性を持っています。

この極めて高い証拠力と信頼性を担保しているのが、公証人による意思確認と証人2名の立ち会いです。

公証人は、公正証書遺言を作成する際、必ず、遺言者(これから遺言書を作成しようとする人)に遺言能力(自分の意思で正しく判断できる能力)があるかどうか、面談を通じて確認しています。

また、公正証書遺言を作成するには、2名以上の証人の立ち会いが必要です。

このように、公証人と証人の計3名が遺言者本人の様子を確認しているという事実が、公正証書遺言の有効性を支える強力な根拠となっているのです。

②立証の困難性

遺言無効確認請求訴訟を提起した場合の、立証責任は原告、すなわち、公正証書遺言が無効であると主張する側にあります。

①のとおり、公正証書遺言には極めて高い証拠力と信用性がありますから、それらを覆すだけの強力な証拠を提出しなければなりません。

「被相続人は、生前、物忘れがひどかった」、「あの頃はすでに認知症になっていた」程度の主張では不十分で、遺言書作成当時にその内容を理解する能力が全くなかったことを、医学的・客観的なデータで証明する必要があるのです。

このようなケースでも「有効」~裁判例の紹介~

このようなケースでも「有効」~裁判例の紹介~

立証のハードルは高いものの、過去には公正証書遺言が無効と判断された裁判例も存在します。
無効と認められやすい要素は、次のとおりです。

項  目無効になりやすい要素
医学的知見医師の診断書、介護記録、認知症検査の点数などから、遺言書の内容を理解する能力がない
作成時の状況公証人の問いかけに対し、単なる肯定(頷き)のみで、自発的な発言がない
遺言の動機受益者(財産をもらう人)が作成を主導し、不自然に偏った内容である
生前の言動以前から一貫していた希望と、公正証書の内容が激しく矛盾している
遺言内容の複雑性医学的知見から導かれる理解力では、到底理解できないほど複雑な内容の遺言である

上記のような要素を客観的な証拠をもって立証し、重度の認知症を患っている状態で作成された場合や、周囲の誘導が露骨な場合は、公正証書遺言の有効性が覆る可能性があります。

しかしながら、現実の立証のハードルは高く、次のようなケースでも公正証書遺言は「有効」だと判断されています。

裁判例① 仙台高裁平成21年6月11日判決

【事案の概要】■遺言者Aは老人性痴呆
       ■平成17年1月7日遺言書作成、平成17年5月死亡
       ■遺言書の内容:全財産を入居していた施設に遺贈する
       (相続人としては妹がいた)

【Aの状態】平成16年8月頃、自分の名前が書けなくなる
      平成17年1月頃、日付や時間を間違えることがあったが、正しく言えることもあった

【遺言作成時の状況】公証人がAの部屋に訪問し、ベッドで横になっているAから内容を聞き取る。Aが文字を書けないと述べたことから、公証人がAの署名を代署し、Aの指示でAの印鑑を押した

【医師の所見】認知症の中核症状が認められず、老人性痴呆との診断

【裁判所の判断】Aは、遺言作成当時、見当識があり、自己表現が見られたこと等から、遺言能力に欠けるところはなく、遺言は「有効」

有効とされたポイント
遺言の内容が「全財産を施設に遺贈する」という非常にシンプルで分かりやすいものであり、「誰に何をあげるか」が単純明快であれば、高度な判断能力までは求められない、と判断したものと考えられます。

裁判例② 東京地裁平成26年4月24日判決

【事案の概要】■遺言者Bには心不全、肝炎からくる意識レベルの低下あり
       ■平成22年6月28日遺言書作成、平成22年9月2日死亡
       ■遺言書の内容:全財産を養子に相続させる
       (他の相続人として実子がいた)

【Bの状態】平成22年5月13日の入院時には意識レベル「3」
      同5月28日の意識レベルは清明
      同6月28日の意識レベルは低下
      おむつを外さないように注意されても理解できない

【遺言作成時の状況】公証人がBの枕元で人定事項及び内容を確認したところ、Bが動作及び口頭で返答し、公証人がBの署名を代署して作成した

【医師の所見】当時、Bが病室内で遺言書の作成を依頼することが自らの判断でできるかどうかという照会に対し、「分からない」との回答

【裁判所の判断】Bの意識レベルは低下したり清明に戻ったりしていたこと、判断能力に欠けるほどの症状があったと認めるに足りる証拠はないこと等から、遺言能力に欠けるところはなく、遺言は「有効」

有効とされたポイント
医師の所見は「分からない」という曖昧なものでしたが、意識レベルが清明に戻ることがあったことと、立証責任を負っている原告の側で「判断能力に欠けるほどの症状があったと認めるに足りる証拠」が出せなかったことが、裁判所の判断の決め手になったと考えられます。

裁判例③ 東京地裁令和6年3月27日判決

【事案の概要】■遺言者Cには脳梗塞の後遺症による認知機能の低下あり
       ■平成24年12月6日遺言書作成、令和元年11月18日死亡
       ■遺言書の内容:不動産・預金を長女及び次女に2分の1ずつ相続させる
       (他の相続人として長男がいた)

【Cの状態】平成24年7月~8月頃の要介護認定調査で、起床時間や食事の時間が理解できない、自宅でトイレから自室に戻って来られない状態であり、自分の意思を伝えられるのは飲食・睡眠・排泄等の基本的要求のみに限られる

【遺言作成時の状況】不明

【医師の所見】認知症の周辺症状やその他の精神・神経症状はなしとの判断

【裁判所の判断】医師の所見に加え、Cは平成25年2月に妻の告別式において約3分間にわたって原稿を見ずに挨拶を述べることができた事実から、Cの遺言能力が喪失したとまでは認められず、遺言は「有効」

有効とされたポイント
認知機能の低下が見られたとしても認知症とまでは診断されていなかったこと、遺言作成後の配偶者の告別式で相応の挨拶ができていたことが重要視されものと考えられます。

遺言の有効・無効の分かれ道

遺言の有効・無効の分かれ道

裁判例を見ると、公正証書遺言の有効・無効は、

■医師の所見を主とする医学的なデータ
■作成時の具体的なやり取り
■(遺言作成時の状況を推認させるものとしての)遺言作成後の本人の状況

が重要であり、かつ、

それらを立証できる客観的な証拠があるか

にかかっていることが分かると思います。

もし、納得のいかない公正証書遺言が見つかった場合、まずは当時の介護記録や医療記録を取り寄せたうえで、「無効を主張し得る客観的な状況であったかどうか」を弁護士に相談して下さい。
上記のとおり、無効を主張・立証するハードルは高いですので、相談の結果、残念ながら「無効を主張することは困難である」という結論に至るかもしれません。
しかし、その場合であっても、遺留分侵害額請求などの次善策を一緒に探っていきましょう。

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 田中 智美

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