
「物言う株主(アクティビスト)」の存在感が増す今、株主総会は単なる儀式ではなく、経営の手腕が問われる真剣勝負の場です。本コラムでは、会社法の「説明義務」や「議事整理権」といった法的武器と、市場の心理を掴むマーケティング視点を融合。株主提案や当日の厳しい質疑応答を乗り切り、ピンチを「企業価値をアピールする最大の好機」へと変えるための、実践的な法務・対話戦略を解説します。
1 会社法の条文から読み解く、アクティビスト対応の極意
例年、桜の季節が過ぎ、新緑が眩しくなる頃、多くの日本企業の法務・総務担当者は、一年で最も憂鬱かつ重要な時期を迎えます。
そう、6月の定時株主総会です。
かつては「シャンシャン総会」などと呼ばれ、短時間で平穏に終わることが良しとされた時代もありました。しかし、コーポレートガバナンス改革が進み、「物言う株主(アクティビスト)」の存在感が増した現代において、総会の景色は一変しました。彼らは沈黙しません。緻密な戦略と法的な権利を携え、経営陣に鋭い刃を突きつけてきます。
そこで今回は、会社法の専門家としての「条文の解釈」と、企業の魅力を伝えるマーケティングの専門家としての「対話の戦略」を掛け合わせ、株主提案への対応から当日の議事運営に至るまで、経営陣が持つべき羅針盤を詳しく描いてみたいと思います。
第1幕 株主提案権という「権利」への向き合い方

株主提案
総会の数週間前、戦いの火蓋は「株主提案」という形で切られます。
会社法第303条および第305条は、一定の要件(総株主の議決権の1%以上、または300個以上の議決権を6ヶ月前から保有していること等)を満たす株主に対し、株主総会の議題を提案する権利や、議案の要領を通知する権利を認めています。
これは少数株主の権利を守るための非常に重要な規定ですが、経営陣にとっては、自分たちの経営方針に真っ向から反対する議案が突きつけられることを意味します。
彼らからの提案書が届いたとき、まず法務担当者が行うのは形式要件のチェックですが、近年の法改正で見落とせないのが「提案権の濫用制限」です。
かつては一人の株主が無数に提案を行うことが可能でしたが、令和元年の会社法改正により、一人の株主が提案できる議案の数は原則として「10個まで」に制限されました。これは、嫌がらせ的な提案による総会の形骸化を防ぐための措置です。
しかし、百戦錬磨のアクティビストたちは、この「10個」の枠を最大限に使い、極めて本質的で、かつ他の株主の共感を呼びそうな提案(増配、取締役選任、定款変更など)をピンポイントで投げ込んできます。
ここで法務とマーケティングの融合が求められます。会社法上、取締役会は招集通知において、これらの株主提案に対する「取締役会の意見」を記載することができます。ここを単に「反対」という結論と、定型的な理由だけで埋めてはいけません。
「なぜ、彼らの提案する『短期的な株主還元』よりも、我々の『成長投資による長期的な企業価値向上』の方が、株主全体の利益(コモン・インタレスト)に適うのか」。このロジックを、数字とストーリーで語り尽くすのです。
招集通知は、単なる法的な通知書類ではなく、委任状争奪戦(プロキシファイト)を制するための「最強のプレゼンテーション資料」であると認識を変える必要があります。
第2幕 会社法第314条「説明義務」の攻防

株主総会
そして迎える総会当日。
会場の緊張が最高潮に達するのは、やはり質疑応答の時間です。ここでアクティビストたちは、経営陣の失言や矛盾を引き出すべく、矢継ぎ早に質問を繰り出してきます。
この場面で経営陣の脳裏に常に置いていただきたいのが、会社法第314条が定める「取締役等の説明義務」です。
この条文は、株主から特定の事項について説明を求められた場合、取締役はこれに対し、必要な説明をしなければならないと定めています。
「なんだ、結局すべて答えなければならないのか」と思われるかもしれません。
しかし、法律は経営陣に無限の忍耐を強いているわけではありません。
会社法施行規則第71条では、この説明義務を免れることができる「正当な理由」を具体的に列挙しています。
例えば、「株主が説明を求めた事項が、株主総会の目的である事項に関しないものである場合」や、「説明をすることにより株主の共同の利益を著しく害する場合」、「実質的に同一の事項について繰り返し説明を求める場合」などがこれに該当します。
法的な防衛戦術としては、この「正当な理由」の境界線を明確に見極めることが肝要です。もし、アクティビストが執拗に詳細な取引条件や、未公表の内部情報を聞き出そうとした場合、経営陣は「それは株主全体の利益を害する(競合他社に手の内を明かすことになる)」として、毅然と回答を拒否することができます。
しかし、マーケティングの視点を忘れてはいけません。法的に「拒否できる」からといって、あらゆる質問を門前払いにしてしまえば、会場の空気は凍りつき、「この経営陣は隠し事をしている」「対話の姿勢がない」というネガティブなレッテルを貼られてしまいます。
法的には拒否できる場面であっても、あえて「ご懸念の点は理解しました。具体的な数字は控えさせていただきますが、基本的な考え方は以下の通りです」と、答えられる範囲で誠実に回答する。この「余裕」こそが、他の株主からの信頼を勝ち取る鍵となるのです。
第3幕 議長に与えられた「指揮棒」

質疑応答が白熱し、アクティビストの言動が激昂したり、演説のような長い発言で議事を妨害し始めたりするケースもあります。
ここで登場するのが、会社法第315条に定められた「議長の議事整理権」です。
この条文は、議長に対し、株主総会の秩序を維持し、議事を整理するための強力な権限を与えています。命令に従わない者の発言を禁止したり、最悪の場合は退場を命じたりすることも法的には可能です。
しかし、この伝家の宝刀を抜くタイミングは極めて慎重でなければなりません。
早すぎれば「言論封殺」と批判され、遅すぎれば総会が崩壊します。
私が推奨するのは、法的なプロセスを可視化する「段階的なアプローチ」です。まずは「簡潔な発言をお願いします」と注意を促し、それでも改善されなければ「他の株主様の質問機会を確保するため、あと一問でお願いします」と制限をかけ、最終的に従わない場合にのみ、条文に基づいて発言を打ち切る。
このように、議長が「公平な運営」のために努力したプロセスを積み重ねることは、万が一、後に「総会決議取消訴訟」などを起こされた際にも、裁判所に対して「手続きは適正だった」と主張するための強力な証拠となります。議長席に座る社長は、オーケストラの指揮者のように、会場全体の「調和」を守る義務と権限を持っているのです。
法律を「鎧」に、言葉を「武器」に

株主総会におけるアクティビスト対応は、法的な知識だけでも、また口先だけのパフォーマンスだけでも乗り切ることはできません。
会社法の条文という強固な「鎧」を身にまとい、自らの足元(法的正当性)を固めた上で、相手の心に届く言葉という「武器」を持って対話に臨む。
この両輪が揃って初めて、経営陣は株主総会という劇場で、観衆(株主)からの拍手喝采、すなわち「信任」を得ることができるのです。
「物言う株主」は、確かに手強い相手です。
しかし、彼らの存在は、経営陣が自らのビジョンを研ぎ澄まし、法的なロジックを鍛え上げるための、これ以上ない「良き壁」でもあります。
来るべき総会の日に向けて、回答書の推敲や、想定問答のリハーサルに余念がないことと思います。もし、その準備の中で「法的なリスク」と「伝えるべきメッセージ」のバランスに迷うことがあれば、いつでもご相談ください。法律とマーケティングの両面から、御社の総会成功をサポートさせていただきます。
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次のステップ
本コラムの内容を踏まえ、貴社の次回の株主総会における「想定問答集」の法的精査(リーガル・チェック)および、議長の「議事進行シナリオ」のブラッシュアップについて、具体的なアドバイスを提供することが可能です。まずは現状の準備状況をお聞かせください。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 企業が直面する様々な法律問題については、各分野を専門に担当する弁護士が対応し、契約書の添削も特定の弁護士が行います。企業法務を得意とする法律事務所をお探しの場合、ぜひ、当事務所との顧問契約をご検討ください。
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