
「このサプリでマイナス10キロ!」「このコーティングは3年持続!」 こうした魅力的なキャッチコピーを掲げる際、セットでついて回るのが「不実証広告規制」です。「嘘を書いているわけではないから大丈夫」という考えは、今の景表法の実務では通用しません。
1 不実証広告規制とは何か?
不実証広告規制とは、消費者庁が「その表示、本当ですか?」と疑いを持った際、事業者に対して**「表示の裏付けとなる合理的根拠」を示す資料の提出を求めることができる制度**です。
最大のポイントは、**「15日以内」**に資料を出せなかった場合、あるいは出した資料に客観的な妥当性がない場合、実際には嘘でなかったとしても「不当表示(優良誤認)」とみなされてしまうという点です。
2 認められない「根拠」の代表例

事業者側が「これが根拠です」と提出しても、以下のような場合は「合理的根拠」として認められません。
社内テストのデータのみ: 第三者機関による客観的な試験ではなく、自社の都合の良い条件下で行われた実験データ。
体験談の羅列: 「個人の感想」をいくら集めても、それは客観的な事実(統計的妥当性)の証明にはなりません。
関連性の薄い論文: 成分の効能についての論文はあっても、その成分が「その商品にどれだけ配合され、どう効果を出すか」が証明されていない場合。
3 景品表示法違反とされたケース

「不実証広告規制」による措置命令は、単なる警告では終わりません。根拠が不十分と判断された場合、対象商品の売上高の3%にあたる「課徴金」の支払いが命じられます。過去には数億円単位の支払いを命じられたケースも存在します。
以下では、問題となったケースをいくつかご紹介します。
(1)空間除菌グッズ:根拠のない「安心感」への代償
「置くだけでウイルス除去」「身につけるだけで周囲を除菌」といった空間除菌製品は、不実証広告規制の対象になりやすいカテゴリーの筆頭です。
事例: 首に下げるタイプの除菌製品や、据え置き型の除菌ジェルなど。
なぜアウトか: 狭い密閉空間での実験データはあるものの、実際に消費者が使用する「風のある屋外」や「人の出入りがあるリビング」での有効性が証明されていないためです。
結果: 2024年には、大手メーカーを含む複数の事業者に対し、合計で数千万円から数億円規模の課徴金納付命令が下された事例があります。
(2)ダイエット食品・サプリメント:魔法のような「痩身効果」
「飲むだけで脂肪燃焼」「食事制限なしでマイナス10kg」といった、過度なダイエット効果を謳う商品も厳しく監視されています。
事例: 葛の花由来イソフラボンを含有するサプリメントなど。
なぜアウトか: 提出された資料が、広告で謳っている「誰でも、楽に、劇的に痩せる」という内容を裏付けるに足りる客観的なデータ(統計的有意性)を欠いていたためです。
結果: 2017年には、サプリメント販売業者16社に対し、総額で3億円を超える課徴金納付命令が一斉に出され、業界に衝撃を与えました。
4 打消し表示があっても免れない「有利誤認表示」

これらの事例の多くでは、隅の方に「※効果には個人差があります」といった打消し表示が記載されていました。しかし、消費者庁は「打消し表示は、強調表示から受ける一般消費者の認識を打ち消すものではない」と一蹴しています。
5 実務担当者が心に刻むべきこと
不実証広告規制の恐ろしい点は、「悪意がなくても、データ不足でアウトになる」点です。
15日以内の提出義務: 調査が始まってからデータを集めても間に合いません。
売上の3%の重み: 利益ではなく「売上」にかかるため、ビジネスの存続に関わる致命傷になりかねません。
また、「他社もやっているから」は、当局には一切通用しません。特に健康、美容、除菌といった「目に見えない効果」を扱う場合は、広告を出す前に専門家のリーガルチェックを受け、客観的なエビデンスを保管しておくことが不可欠です。
6 まとめ ~広告の強さは「根拠の強さ」で決まる~

不実証広告規制の対象になると、措置命令による社名の公表だけでなく、売上の3%という巨額の課徴金が課されるリスクもあります。
「言った者勝ち」の時代は終わりました。魅力的なコピーを思いついたときこそ、一呼吸置いて「この根拠は、役所に説明できるものか?」と自問自答することが、会社とブランドを守る唯一の道なのです。
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